アナログ所さん また別の話



Lyrical☆インディーくん






登場人物


インディー
 灰色の髪を持つ、実年齢16歳の少女。外見的には小学生でも通じるが、実は大学教授。灰色の長い髪を持つ。

辻ひとみ
 インディーとは『サンダーバード』というコンビを組んで芸能活動をしている20歳の大学生。童顔で、実年齢よりも低く見られる。

ギャルソナー
 その食欲と胃袋の許容量は底なしの、フードファイトの女王。口癖「ぴこんぴこん♪」のほか、怒りなどの烈しい感情を抱くと警告音を発するようになった。

長谷川瑠&狗飯伴美
 万丈高校の1年生で、それぞれに片思いの恋人がいる。ソナーとは下校途中に買い食いする仲である。

マキシマム・ザ・(犬上家)インパルス
 商店街に出没する無法者アウトロー5人組。見るからに不良な奴らばかりだが、その中に1人だけおかしなマスクをかぶった男がいる。

参考資料
 バレット作アナログ所さん the Chronicle of Musketeers




Lyrical☆Indie





「えー、皆さん。今日は重大な発表があるので、聞いてください」
 大学の前期最後の授業の時、所印大学の教室にて、インディーは生徒たちを前に言った。
「僕は、この大学を辞めます!」

 その瞬間、教室は崩壊したという(どうしてだ)。

 10月のある日。
 夏から秋に移り変わろうとしているその時、そろそろ町中の木々は、緑からオレンジへと染まっていった。豊富な種類の果物がおいしくなり、風は真夏に比べるとやや涼しくなっていった。
 そんな最中さなか、所タウン・万丈ばんじょう高校に、1人の転校生が来るのだそうだ。小高い丘の上に位置し、雑木林と茶畑に囲まれた、都会の中にある田舎校、それが万丈高校だ。校舎はLの字の建物、そしてそれとつながっている体育館というつくりになっている。
「みなさーん、おはようございまーすっ!」
 1年A組の教室の扉を開いたのは、ロングスカート、ワイシャツ、そして少し緩めたネクタイの姿の、辻ひとみ。芸能活動としてではなく、大学の授業の一環として、教育実習にやってきているのである。
「はい、席に座って、机の上は空っぽにしてね。そんじゃあ出欠確認を取るけど、ええと…… その、なんて言いますか」
 順調に朝のホームルームを切り出せたかと思ったら、ひとみは急に言葉をよどませた。そして、開けっ放しのドアの向こうをチラッと見て、更にうつむく。
「その、転校生、でいいのかな……? を、紹介したいと思います。えーと、ではどうぞ〜……」
 ひとみが言うと、転校生(でいいのかな? と言われた人)は、教室に入ってきた。紺色のブレザーと同色のスカートをまとい、長い灰色の髪は緑色のバンダナで結ってある。背丈や体格は小さく、中学生でも通りそうなほど。元気いっぱいの表情を輝かせている少女こそ、この日から万丈高校に通う転校生。
「テレビでの活躍で、たぶんみんな知っていると思うけど、改めて紹介します。今日から皆さんのお友達になる、インディーくんでぇーっす!」
 最後のほう、ひとみは半ばヤケッパチだった。
「皆さん、はじめまして。サンダーバードのインディーです! 今日からこの高校に通わせてもらうことになりました。よろしくお願いします!」
「わあああああああああああっ!」
 インディーが挨拶すると突然、クラス中が沸き起こった。これでもかというくらい、大歓声と口笛とクラッカー音が、さらには歓迎のギターソロ(演奏者誰?)まで鳴り響いた。
「……ねぇ、本気なの、インディーくん? この学校に『生徒として』通うなんて」
「モチのロンだよ! だって、僕は16歳だよ? 普通の16歳のみんなと同じ目線で、いろんなものを見ていきたいんだ。きっと、教授や芸人をやってちゃ味わえないこともあると思うから、こういうのもいいかなって」
「インディーくんがそれでいいならいいけど…… 大学、インディーくんがいなくなったことでデモが起こってるよ?」
「デモぉ? 生徒のみんなかな……? もー、しっかり勉強しなきゃ、授業料払ってるお母さんたちが泣くよ〜」
「……ううん、あたしたち生徒はちゃんと現実受け止めてる。デモを起こしているのは、むしろ先生たちのほう。むさい職員室に咲いていた桜の花が散ったんだってさ」
「何、それ?」

 その日から、インディーの女子高生生活が始まった。
 クラスメイトと一緒にゲームセンターに行ったり、喫茶店で特大パフェを食べたり、シール写真を撮ったり、遊園地に遊びに行ったり…… 少しついていきづらかったけれど、好きな異性の話題でも盛り上がった。「男は顔よ」「中身も大事じゃん」「金持ちがいい」「気遣いができる人でしょ」と、いろいろと案が出る中、インディーは「楽しい人」と答えていた。
 一方、ひとみのほうはそろそろ教育実習の期限が切れ、大学に戻らなければならない。そしてとうとう、高校生の授業を受け持つ最後の日がやってきた。
「……えーっと、皆さん、料理のレポートは提出しましたか? そうしましたら、家庭科の授業を終わります。このまま終わりのホームルームに移っちゃいましょうか。机の上は空っぽにして、プリントを回してください」
 用意されているプリントをひとみは配り、そしてそのプリントの内容を読み上げる。そのほか、来週からの行事の確認をし、ホームルームを終えた。
「以上で、ホームルームを終わります。あたしは今日で実習を終え、大学に戻りますが、皆さんは今までどおり、しっかり勉強してしっかり遊んで、充実した高校生活を送ってくださいね。今までありがとうございました。それでは、また会いましょうね」
 ひとみが最後のホームルームを終えると、生徒たちはだーっと駆けより、ひとみにサインを求めた。ちゃんとその手には、色紙とサインペンが握られていた。インディー以外の全生徒30人前後が押し寄せるその様子は、雪崩としか言いようがなかった。
「わっ、分かったから順番! 順番にねっ!?」
 そしてひとみは、完全にタレントの顔に戻っていた……

 帰り道、近くの駅まではインディー、ひとみ、ギャルソナー、そして新しくできた友達の長谷川瑠はせがわ りゅう狗飯伴美いぬい ともみの5人は一緒だった。それぞれ、好みのハンバーガーとジュースを片手に、学校近くから駅に一直線に伸びる商店街の中にあるベンチで、和んでいた。私服姿のひとみも、違和感なく女子高生の中にまぎれている。
「でさー、瑠ってば隣のクラスの省吾くんにバレンタインチョコを渡しそこねて、自分で食べちゃったんだってさ」
「あっ、あの時はしょうがなかったのよ、熱にうなされてて…… って、そんなことをインディーくんにひけらかすなーっ!」
「何よ、いつかはばれる恋じゃない」
「そういう伴美こそ、腐れ縁の新一くんにラブレター渡したって話じゃない。人の恋ばかり笑ってないで、自分のことをちゃんとしなさい! ついでに言うと、作者のバレットさん、あんたもうじうじしてないで、本屋の女の子を捕まえなさい!」
「腐れ縁言うな、瑠! それに作者さんにまで話題を振るなぁっ!」
 インディーに恋愛話を持ち込んだかと思えば、互いの現状についてもめあっている。インディーとひとみは冷や汗を流して聞いていたが、ソナーは興味を示さず、むしろコーヒーのおかわりと次のハンバーガーの注文に、何度もファストフード店を往復していた。
「ぴこんぴこん♪ インディーくん、辻先生、次のハンバーガー会に行くけど、何か買ってくる?」
「僕はいいよ、まだメロンソーダ残ってる」「あたしもいいよ、おなかいっぱい。って言うか、もう先生じゃないし、最初から正規の教員じゃないし」
「そっか。じゃあ、行ってくるね〜♪」
 ソナーはカバンだけを残し、またハンバーガーを買いに行った模様。
「というわけで、インディーくんに辻先生!」
 瑠と伴美が、身を乗り出して2人に詰め寄る。
「は、はいっ!?」「って、だから先生じゃないって……」
「早く恋人作らないと、他の女に持っていかれるわよ!」「ついでにバレットさんの煮え切らない想い(恋ですらない)も応援してあげなさい!」
「えーっと……」「あたしはもうすでに雅紀さんがいるのよね」
 そう、ひとみには、人気アイドル5人組『ハリケーン』の1人、雅紀・アイバーソンという立派な彼氏がいたりする。雅紀は、ハリケーンの中でもダントツにさわやかなルックスを持つが、その内側はとてつもない天然じみたテンションと、子どものようなあどけない笑顔の持ち主だったりする。見た目ほどクールではないが、その愛嬌のよさがひとみにはたまらないのだとか?
 そんな淡い桃色一色に染まった空気(インディーは染まりきれていない)の中、その空気を黒で塗りつぶそうとするやからがいた。
「よう、ネェちゃんたち」
 低くごつい声で話しかけてくるのは、不良5人組。インディーは知らないが、この商店街では有名な、『マキシマム・ザ・インパルス』と呼ばれる無法者アウトローだ。金髪にピアスの男を頭に、黒リーゼント、スキンヘッド、×マークマスク、そしてなぜか怪獣『ゼッ○ン(ひょっとしたら『おラ○ュラ様』かもしれない)』のマスク(しかも手作り)をかぶっている男が、インディーたち4人を取り囲んでいる。
「楽しそうに話してるじゃねーの。南だったら、俺たちがお望みの恋人にでもなってやろうか? そしたら、楽しいところに連れて行ってあげるよ。パフェでもゲーセンでも、夜のホ○ルにでもなぁ」
「ちょっと待ってください、誰が彼氏募集中だって言っていますか? むしろ募集中なのはたまちゃんの彼女です。それと、さっきから伏せ字が多いですよ? 放送禁止用語ですか!?」
 インディーが言う。別に伏せ字が多いのはそうではないのだが、まあ雰囲気である。
「お、威勢がいい子がいると思ったら、『サンダーバード』のインディーくんに、その隣は辻ちゃんじゃねー? もしかして、近くの高校の体験入学? 大学教授なら、高校の勉強なんて幼稚園の絵本同然だよな?」
「だったらあなたたちには、本当の絵本が必要みたいですね」
 ひるむひとみ、瑠、伴美。ベンチに座りながら徐々に縮こまってゆく。だが、インディーは威勢よく男たち5人相手に反論する。しかも半ば腰が浮いている。
「もーそんな話はどうでもいいからよー、俺たちについてこいや。そしたら、今の彼氏の何十倍も楽しい時間が待ってるぜ?」
「つーかむしろ連れてく! おいら、もう我慢できねーわ!」
「ヴフフ、ヴフフ……(仮面の男)」
 男たちが、インディーたちの腕をつかむ。他の3人も捕まってしまい、とうとう悲鳴まで上げてしまう。
「キャー、助けてよぉっ!」「この乱暴者、誰か追い払ってったら!」
 瑠と伴美はジタバタ足掻くが、そうしたところで大して男たちを殴れていない。ひとみのほうも完全に涙目だ。
「インディーくん、助けて!」
「くっ…… あんまり暴力なんて振るいたくないんだけど、この際……」
 その時、インディーたちを取り囲んでいる男たちの向こうから、1人の声が聞こえた。
「ぴこんぴこん♪ おーい、戻ったよー! ……って、あんたたち、マキシマム・ザ・犬上家(インパルスのつもり)! そこで何やってるのよ、ビーッビーッ警告 みんなを離しなさーい!」
 そこにいたのは、何とハンバーガーのおかわりから戻ってきたソナー。左手にハンバーガーを5〜6個片手に抱え、右手におかわりしたばかりのコーヒーが握られていた。
「おっ、もう1人いたと思ったら、朝番組のギャルソナーじゃね!?」
「すぐ立ち去らないと、警察呼ぶよ! って言うかこの商店街にいること自体が迷惑! いや環境汚染! 地球温暖化の原因! さっさとどっかに、行っちゃいなさ――――――」
 ソナーの台詞が完成しないうちに、何とソナーは落ち葉を1枚革靴で踏み、そのまま滑って盛大にこけたのだった。
「きゃあああ!?」
 両手から放たれる、コーヒーとハンバーガー。それが綺麗な放物線を空に描き、一斉に不良5人組たちを襲う。そして、インディーの腕をつかんでいた男(リーゼント)にコーヒーが降り注ぎ、男はその熱に悶絶した。
「ぎゃああああああ! 熱い、熱い、あっづぅぅぅぅぅぅいッ!」
「しめたっ!」
 インディーはフリーになった腕をパキンと一度鳴らし、そして右手を空に掲げた。

「エンブレム・ディセントッ!」

 エンブレム・ディセント。それは、インディーが異世界の銃士ユーギ・トリスメギストスの力を呼び寄せるための呪文。一瞬、強烈な光がインディーを包み、インディーの身を包んでいたものはたちまち変化した。長いマフラーに上半身を覆うケープ、紺のロングパンツに毛皮のローブ。そして手には、ナイフサイズになった短剣バージョンの『アルカンシェル』。インディーがセーレと戦った時に活躍した、インディーにしか扱えない聖なる武器。
「なっ……!? てんめ、変身ヒーローでもあったのか!?」
「うふっ♡ 全国のよい子と特撮ファン、そのほか平和と正義の味方、変身(美)少女ここに降臨♪ ……うりゃあっ!」
 インディーが剣先をリーゼントに向ける。すると、剣先から虹色の光が飛び出し、それが衝撃波となってリーゼントを襲う。そしてそのまま彼は、10メートル先の噴水まで吹っ飛ばされ、見事その中にホールインワン。
「ひとみ、みんなを連れて逃げて!」
「……うんっ! 瑠ちゃん、伴美ちゃん、ソナーちゃん! 駅まで走るよ!」
 ひとみは瑠と伴美の腕を取り、走り出した。しりもちをついていたソナーも、せっかく買ったハンバーガー(コーヒーは惜しかった)を全て拾って走り出した。
「逃がすかよ!」
「だったら追わせない!」
 不良たちがひとみたちを追おうとする。だが、インディーは不良たちを驚くべきジャンプ力で飛び越え、道を阻んだ。
「さっきのリーゼントみたいになりたくないのなら、もう2度と商店街で暴れない、ひとみたちに手を出さないって、この剣『アルカンシェル』に誓いなさい。断ったら、どうなるか分かりますか?」
「いっ、いやだね。それに、断ってどうなるかなんて知ったことかよ」
 リーダーの金髪が言う。相変わらず怪獣の仮面の男は不気味に笑うだけだった。というよりは特撮のオーディションを受けに行ったほうがいいような気がする。
「全員、『少年少女文庫』さんのためにいろんな奉仕をしてもらいます」
「何だそれ!?」×3 「ヴェ?」×仮面の男
 金髪のリーダーは額に青筋を浮かばせ、そして3人の男に命令を下した。
「あのクソガキとっ捕まえろ! そしたら、放送禁止用語いくら並べてもキリがないような目にあわせてやる!」
「なっ!?」
 途端、インディーは顔を赤らめ、そしてアルカンシェルのグリップを更に強く握り締めた。だが、金髪が望んでいるのはそれよりももっと恥ずかしいことだった。
「たとえば、赤いヘルメットかぶって『ずっきゅ〜ん♡』とか言ったり、あの有名なイラストレーター『こつ○ー』さんとこの女の子みたいにモ○ルスーツかぶったり、まさに『ハ○テ』のごとく執事服ならぬメイド服を着て働いたり、キャプテン『J・ス○ロウ』のように伝説的な海賊みたいに日夜悪党と戦ったり、木造校舎に蘇った悪霊を眠らせたり、ウル○○マンエ○スに変身して異次○人の使者と戦ったり、あとはそうそう、40年間も日本の海を我が物顔で泳いでいる『ゴ○ラ』を超低温ミサイルやオキシジェンデス○ロイヤーでわんさか爆撃したり、まさにオレが夢に描く伝説の数々をこの目に焼き付けさせてもらうのだーっ! 素晴らしいだろ、な? な? だーっはっはっは!」
 ……イカレてる。
 インディーは、そして商店街を歩くものたちは、素直にそう思った。
「そんなことを夢見る暇があるのでしたら」
 インディーはその怒り(と廉恥心)の全てを、アルカンシェルに託し、そして1つの魔法を炸裂させた。

「その夢を叶えるための努力をしなさぁぁぁぁああいっ! ほとばしれ、ママラガンッ!

 インディーが解き放った雷撃魔法。それが商店街に炸裂した時、不良グループ『マキシマム・ザ・犬上家インパルス』は消滅した。
 だが、その代わりに新たなる商店街の脅威が現れたという。それはまた、別の話。

 数年が過ぎ……

 場所は戻って、所印大学、インディーの研究室。
 灰色の髪はそのままに、すっかり大人になったインディーは、壁に飾られている1つの額を見た。そこに飾られていたのは、万丈高校の卒業証書と、女子高生友達と一緒に遊んでいる瞬間を写した数々の写真。その中には、ソナー、瑠、伴美と4人で歴史建造物を背景に写っている写真や、商店街で大立ち回りをした時のインディーを写した写真もある。
「あの頃は、本当に楽しかったなー……」


 インディーの思い出。それは、年相応の時代を、友達と過ごした時間。


 インディーとギャルソナーの名言。
「ぴこんぴこん♪ じゃあ、わたしはインディーくんに『で○こ』のコスチュームを着てもらいたいなー♡」
「ってそれ、東○電力とデ・○・キャ○ットのどっちですか!?」











 後日談。

 あの商店街のひと騒動から数日後、万丈高校に5人の転校生がやってきたという。その全員が女子で、しかも全員が無愛想な顔をしている。
 1人はパンチパーマ、1人はオールバックをひと括り、1人は×マークマスク、1人はストレートの金髪、そして残りの1人が、怪獣『キングコ○グ(アメリカ版)』のマスク(やっぱり手作り)姿。これだけ風変わり、いや、個性的(?)な転校生は、日本全国、いや世界中のどこを探してもそうそういるものではないだろう。
 まあ、勉強も学校生活も1からやり直すという、彼女たちの意気込みが、その面構つらがまえからうかがい…… 知れるだろうか?



 おしまい♪