シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

不吉な黒猫

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■不吉な黒猫 written by 夜城琉架

 ちゅんちゅんちゅん。小鳥達の囀る音色に誘われ、気持ちのいい、朝のこと。亜紗香はゆっくりと目を開けた。とたんにぴぴぴっと鳴る電子音。これにはあまりいい気持ちがしない。目覚まし時計など、亜紗香にはいらないのだ。それなのに亜紗香の母親は勝手にセットしていく。

「ふー……」

 亜紗香はため息を吐いた。気が抜けている。そう感じていた。自分でも、恐らく誰にでも今日の亜紗香の様子はおかしい、と言えるだろう。その原因は昨夜の出来事。まるで夢見心地で見ていたような、忘れてしまいそうになる、夢のような現実。

 


*********

 


「亜紗香」

「……」

 自分の名前が呼ばれた。だがそれが誰の声だったのか思い出せない。

「おい!亜紗香!!」

「きゃ…!!」

 男の声が、亜紗香の座っているソファの横、というよりもその下、から聞こえた。亜紗香は悲鳴をあげ、その様子を見つめた。右手を口にあて、信じられない、と言った様子だ。だがしかし、このままでいられるわけもなく。男・・・いや、黒猫はソファへと、ひらりと上った。

「あなた……誰?」

 ソファへひらりと軽く上った黒猫。人の言語を理解し喋る事のできる黒猫。そんなことが起こるのだろうか?いや、わからない。この霧生ヶ谷市には尋常ではない、普通じゃない事が起こることもあるのだ。

「覚えてないのか?」

「……」

 そう言われてみれば、どこかで聞いた事のあるような……ないような……。亜紗香は必死で記憶を探るが、一向に一文字すら出てこなかった。
そんな睨み合いが30分程続いた。息が詰まる。亜紗香は肩までの黒髪を櫛で梳きながら考えていた。確かに聞き覚えのある声。でもそれは……

「どうした? まだ思い出せぬのか?」

 まさか……ありえない……

「大輔……君? 大ちゃん……よね?」

「ようやく思い出したか」

 黒猫はふうっとため息を吐いた。
そうだ。幼馴染で、よく一緒に遊んでた。中学にあがるまでは。

 でも、ありえない
だって、だって彼は……

「一ヶ月前、"俺"は死んだ」

そう……既に死んでいたからだ。

「不幸な・・・事故、だったわね……」

 酔払い運転をしていた父親を、偶然通りかかった大輔が見つけ、止めてやろうとでも思ったのか、いきなり目の前に立ちふさがった。しかし酔っ払っていた大輔の父親は、ブレーキとアクセルを踏み間違え、実の子供を轢き殺してしまったのだった。
 大輔の家族は元々不仲だった。父親は酒びたり、母親は大輔が七歳の時に亡くなり、後妻を迎えたが、その人は若い為、家事などは一切使用人に任せっきりだった。そのせいで大輔は両親に対する恨みがあったのだろう。だがそれを、自分の身をもって教えるとは・・・。

「事故で死に掛けた時に、何かが現れたんだ」

「え?」

 急に静かに話し出した大輔に、亜紗香はどきりとした。大輔は無口な少年、いや、今は青年ではあるが。とにかく亜紗香の中には無口な少年である時の記憶しかないのだ。

「あれは・・・妖怪だったのかもしれない。けれど、その人は、俺に力をくれた。黒猫に変身する力をくれたんだ」

「でも……大ちゃんは死んでるんじゃ……」

 亜紗香は頭がついていけないことにはらはらしていた。全然ついていけない。死んだはずの人間が生きている。そして黒猫に変身する術を持っている。そんなことはありえないのではないか?

「恐らく、怨霊だろう。怨霊が俺に人間の体を与え、他の妖怪が変身の術を教えてくれた」

 大輔はゆっくりそう言った。そして亜紗香の瞳をじっと見詰めた。それは暖かな眼差しだった。

「生き返った、ということ?」

 まだついていけてはいないが、なんとか理解しようとする。

「よくはわからないな」

 そんな亜紗香の苦悩をどうでもいいというように大輔は毛づくろいを始めた。

「でも生きてる……」

「しかし俺の体は既に火葬されてるんだ」

「ええ!?」

「だから黒猫に変身してお前のとこまできたんだよ」

 ぷいっと向こうを向いてしまった大輔に、亜紗香は何を言えばいいのか解らなくなってしまった。そうだ。考えてみれば何故、亜紗香のところへ来たのだろう?しかし亜紗香がその言葉を切り出すことはできなかった。

 


*********

 


「亜紗香? 起きた?」

 ドア越しに母親の声がする。

「起きてるわ」

「早くご飯食べなさい」

 そう言って母親は階段を下りていった。亜紗香は仕方なく準備をし、黒猫を飼う、ということを言わなくてはならなくなってしまったのだった。

「お母さん達に何も言わないでよ? 黒猫の演技ちゃんとできるんでしょうね?」

「大丈夫だよ」

 はらはらして緊張しているのは亜紗香で、のほほんとしているのは大輔。対照的な二人の様子に、その後ろでクスリ、と微笑んだ者が一人。いたことに誰も気づきはしなかった。

 

 

To be continue?

 

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