シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

とある蛙の観察記録

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kiryugaya

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とある蛙の観察記録 作者:しょう

六月某日(晴)
 六道区の住宅地付近の水路で、蛙の卵隗らしきものを見つける。産卵時期としてはやや遅いようにも思われるが、元々この辺りには六道沼へ流れ込む地下水流が数多く存在し、開発され整備された現在でも、地下水流が整備された水路に合流している事が確認されている。その影響で他の場所よりも数度水温が低い事を鑑みれば、あり得ない事ではないだろう。

 卵隗は直径二十センチ程で、まだ弾力があり手で容易く掬い上げる事ができた。この事から、昨夜もしくは今朝早くに産卵されたものと思われる。しかし、記憶にある霧生ヶ谷底抜き蛙の卵隗と若干際があるように思われる為、念のために採取し持ち帰る事とする。


六月吉日(曇)
 持ち帰った卵が孵化した。全長五ミリメートル程度のおたまじゃくしが群れを成している。さっと目算した所百八匹いるようである。現在の所、卵嚢を餌としているようだが、この分では二日と持たないだろう。大きめの水槽に移し餌を与える事とする。


六月末日(晴)
 おたまじゃくしの成長が著しい。すでに全長二センチを超えた個体が現れ始めている。食欲旺盛で、朝晩二回削り節を餌として与えている。また、通常削り節が水底に沈んでから群がるのだが、稀に体を反転させ水面に浮かんだ削り節を捕食する個体がいる。

 興味深い現象である。


七月初日(晴)
 相変わらず食欲旺盛だ。最早削り節では追いつかないので、煮干を与えている。中でもモロ煮干が好物のようで、与えると、まるでモロモロ玉のように固まりものの十分程度で骨だけにしてしまう。水槽が手狭になったようなので半分に分ける事を検討する。

 あと、奇妙な事に気づいた。水槽を見る角度によっておたまじゃくしの数が異なるように思われる。無論最早正確に数を確認する事など叶わないので、気のせいという事のありえるのだが。


七月中日(雨)
 一匹になっていた。あれだけいたおたまじゃくしがたった一匹だ。まさか『ボルフォックス』のように群体を形成したのかと、刺激を与えてみたが、分裂する気配もなく平然と泳いでいる。

 不可思議な事もあるものだと思った所で、二週間ほど全く世話をしていなかった事を思い出す。なるほど、共食いしたか。あの食欲ならば実にありえる話である。今後このような事がないように小さな水槽に移し、自室に持ち込む事とした。


七月祝日(晴)
 後肢が生え出す。徐々に尾のアポトーシスも進んでいる進んでいる模様。相変わらず食欲旺盛、全長約五センチで十センチのもろ煮干を平らげる。摂取したカロリーに見合うだけの運動はしているようで、忙しなく水槽の中を泳いでいる。気のせいか生えかけの後肢をバタつかせている様に見える。


七月休日(曇)
 前肢も生え揃い、尾も大分短くなり、蛙としての特徴的な形状を備え始めている。しかし、気になるのは後肢である。有体に言えば、通常の底抜き蛙の後肢よりも長く太いのである。まるで二周りは大きな蛙のソレをくっ付けた様にちぐはぐだ。何らかの突然変異か、あるいは奇形か、どちらにしても完全に変態を終えるまではなんとも言えない。

 ひとまず水を減らした水槽の中に、水面に出る程度の石を置いた。

 そろそろケージに移すことを考えた方がいいだろうか?


七月終日(雨)
 結論から示す。あの蛙は、霧生ヶ谷底抜き蛙ではなかった。更に言えば、あくまで状況証拠からの推測であり、サンプルが失われてしまった今、同定は不可能な為断定は避けるが、六道瞬歩蛙であった可能性が極めて高い。

 今朝起床すると、水槽にヒビが入っており、全身を拉げさせた蛙が腹を上にして浮かんでいた。実際には、何処が腹なのか頭のか判断もつかない酷い有様であったが。

 骨も砕けており、主な死亡原因は衝突の衝撃による内臓の破裂ではないかと思われる。どうやら、水槽の中に置いた石の上からほぼ水平に跳ねたらしい。なまじ危険生物用に用意した強化硝子水槽を使用したのが裏目に出たようだ。貴重なサンプルを失ってしまった。また来年卵隗を採取したいと思う。

 以上。

 追記。
 念のため、六道瞬歩蛙の説明を付しておく事とする。

六道瞬歩蛙
 霧生ヶ谷市でも六道区にのみ生息する六道六蛙の一種。昭和初期までは頻繁に目撃されたが、近年の開発による生息数の激減により目にすることは非常に稀である。霧生ヶ谷底抜き蛙の亜種とも言われる。強靭な後肢により人の目に留まらぬほどの速度で水平移動する。その速度は音速を超えるとも言われ、それゆえに瞬歩‐仙人が使うとされる高速移動仙術‐の名を冠されている。
 なお、六道六蛙には、六道剃刀蛙、同三羽蛙、同風凧蛙、同車輪蛙、同黄金蛙が存在する。
 詳しくは核項目を参照の事。
仙人出版刊『霧生ヶ谷固有生物』

「これはなんだ?」

「ん? なになに。うわぁ懐かしいわね。小学校の一年だったか二年だったかの時に出そうと思った自由研究じゃない。何処にあったの?」

「書斎だ。書斎にある本はどれでも読んでよいと言っておったろう」

「そーいやそうだったわね。しかし、懐かしいわ。あんなところにあったのね、結局出さなかったら、失くしたんだと思ってたわ」

「では何を提出したのだ」

「モロモロの解剖実験映像。こっちの方が面白かったのよねぇー」

「……そうか」

 詰まるところ、とある夏の夜の一幕。

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