シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

人外夢境。あるいは、伝説のアレの夢

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短編:人外夢境。あるいは、伝説のアレの夢

しょう



‐ 諸注意 ‐
 これは全編が香月さんの『伝説のアレ』のネタばれになっていますと言うか、ネタばれそのものですので、こちらを先に読んでしまうと『伝説のアレ』のインパクトが薄れますので、必ず先に『伝説のアレ』をお読みください。

 なお、『アレ』の容姿、能力、名前は確定ではありません。
 ご了承ください。

‐ * ‐ * ‐ * ‐


 いやまあ、良いんだよ、夢の中のことだし。何があったとしても不思議じゃないんだからさ。

 だけど、これはあんまりというか、どう考えたって変だろう。なんで、畳張りの部屋の真ん中で卓袱台挟んでキムチと差し向かいでは話さにゃならんのだ?

「まあ、落ち着きたまえ」

 キムチに諭された……。キムチだぜ、よりにもよってキムチ。言ってしまえば、真っ赤に染まった白菜だ。上の方には、薬念の唐辛子やイカの塩辛が引っかかっている。あの黒くて細いのは多分昆布だ。

 それがズズズッと音を立てて茶を飲んでいる。シュールだ。今まで見たものの中でも、色々な意味で一番シュールだ。

「我の事はキム朕と呼んでくれたまえ。気軽に愛を込めて『キム・チン(は・あ・と)』と呼んでもらえると嬉しい」

「誰が呼ぶかっ。つか、お前一体なんなんだよ」

 自称キム朕はフムとか頷きながら立ち上がった。立ち上がるキムチってどうなんだよとか思うんだが、実際立っているんだからしょうがない。別段手足が生えているわけじゃないんだが、……立っているとしか認識できない。

「我が何かだったな」

 ぽっと頬を染める自称キム朕。いや俺がそう思ったからそう見えたとか言うんじゃなく、それ関係なしで、キムチが頬を染めやがった。それどころか、一番外側の葉っぱに手をかける。止めろ、んなもん見たくねぇっての。が、俺の願いは関係なく、ぺりっとキムチが葉っぱを引っぺがした。

 気分としてはハラリなんだろうが、実際はベチャリだ。畳の上で剥がれた葉っぱが紅いシミを広げる。掃除が大変そうだなと目の前の状況を無視した事を考える。あはは、見たくねぇ。シナ作っているキムチなんて。

「遠慮せずに、食すがよい」

「来るんじゃねぇ」

 俺は、辛いもんが駄目なんだよ。あー、匂いが既に辛い。

 な訳で、卓袱台返す。ついでに卓袱台に蹴りを加えて部屋の端の方へ押しやる。同時に、なんだろう。時代劇の殺陣の時に上がるような湿った鈍い音が連続した。

 ひょっとしてやちまったかと思っていると、ゆっくり倒れる卓袱台の向こう側に逆剣山になったキムチがいた。つまり。

 自称キム朕に大出刃包丁に、鯵割包丁、薄刃包丁、刺身包丁、マグロ包丁、牛刀、筋引、ペティナイフ、パン切り包丁、冷凍切り包丁等々思いつく限りの包丁が突き刺さっていた。まいったなぁ。

 此処の所無駄にレベルアップして、微妙に力の制御が出来ないんだよなぁ……。今も、拒絶した拍子にうっかり干渉して妙なもん作っちまったし……。

 まあ、ほとんど拒絶反応でなくなったから良いけど。それでもこのままじゃ拙いから、何とかしねぇとなぁ。

 じゃなくて、現実逃避している場合じゃねぇっての。いくら夢だから、というよりも夢だからこそ夢で受けたダメージってのは心に直接反映する。下手すりゃあのキムチ、死んでるぞ。

 って。

「なんで、お前ピンピンしてるんだよっ」

「ふはははは、甘いわ。我を細切れにしたければこの十倍持って来い」

 色々間違ってるだろ、お前。

「だが、すこーし痛かった。故に我に対する挑戦と見なす」

 胸を張る真っ赤な白菜。色々頭が痛んだけど? 何とかしてくれこの漬物。

「わが奥義喰らうがいいわっ」

 同時に世界が紅色に染まる。畳の部屋が赤色の荒野に変貌する。その中心は、真っ赤なキムチ、そして荒野に突き出ているのは無数のキムチ。キムチ、キムチ、キムチ。

「この体はもとよりただ一つのキムチ。故に我はキムチで出来ている」

 当たり前だろうが。キムチでないキムチがあったら見てみたいわっ。あ、また包丁が……。

 荒野に生えたキムチが勝手に飛び上がり、自称キム朕目掛けて落ちていく包丁を受け止める。なんちゅう光景だよ……。勘弁してくれ……。

「見たかこれが『無限のキムチ漬け』」

……。

「いくぞ、包丁使い。包丁の貯蔵は十分かっ」

 付き合いきれん。飛んでくる漬物を避けながら、それでもなんかニンニク臭い汁が飛んで来るんだけどっ。とにかく落ちている包丁を拾う。

「来るか、包丁使い!!」

「な、訳あるかっ」

 手にした包丁を荒野目掛けてブン投げる。途中で包丁が掻き消えて、キンと紅が割れた。割れた向こう側に元あった部屋の窓が見える。多分、あそこかが出口になる筈。

「ええい、敵に背を見せるかこの卑怯者ー」

 なんとでも言え、お前みたいな非常識の固まり相手にしてられるほど俺は暇じゃねぇんだよっ。一直線に飛んでくるキムチ本体、いわゆる自称キム朕にパン切包丁を投げつける。で、当たったかどうか確認せずに窓硝子を蹴破って『外』に出た。



 追いかけて来なかったんで、多分包丁は当たったんだろうと思う。止め刺せたかは疑問だけど。

 とりあえず、当分キムチは見たくねぇ。




「という夢を、今度は見たんだ。えへへへ」

「……またかよ。つか、名前あったのかよ。って言うかこいつ誰だよ!! 何でまた他人視点の夢見てんだ、お前は」


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