Fへの道


”Honi soit qui mal y pense”

(思い邪なる者に災いあれ)
      〜 イングランド王 エドワード3世の言葉


 * 第 一 章 *

ガーター勲章をご存知だろうか。
またの名をブルーリボンとも呼ばれる、英国の最高勲章である。
騎士団の最高峰、ガーター騎士団の証(*1)でもある。

このガーター勲章、その名の通りガーターを象っている。
靴下を止めるあのガーターベルトだ。

なぜ世界最高の騎士団の証がご婦人の下着なのだろうか。
その由来は古く14世紀に遡る。

時のイングランド王エドワード3世は、宮廷舞踏会でさる伯爵夫人と踊っていた。
この時、何かの拍子で夫人のガーターが外れて床に落ちてしまった。
周囲の人間は忍び笑いをしたが、エドワード3世は何食わぬ顔でその青いガーターを拾い上げ
自分の足につけ、冒頭に掲げた有名な言葉を発したそうだ。

今でもガーター勲章にはこの言葉が刻まれている。
さらに彼は、”ガーターを笑う事なかれ、ガーターは間もなく最高の尊敬を得ることになるだろう”と言葉を続け
その言葉通りに間もなくしてガーター騎士団を設立した、と伝えられている。
こうして青いガーターは英国の最高勲章となった(*2)。

この逸話は美談として語られることが多い。
ユーモアを交えつつ周囲の非礼をたしなめレディの失敗をスマートにかばった、まさに英国紳士の鑑だと。
だが、よく考えてみるとこれは相当におかしな話である。

女性を紳士的にかばったところまではまあ良い。
しかし知り合いの女性が恥をかいたというだけの理由で、騎士団全員に女性用下着の着用を強要するのは如何なものか。
ある日突然ガーターベルトの着用を命令さた騎士たちの心中は察するに余りある。
当の彼女にしてみても一時の恥を数百年の時を越えて語り継がれる羽目になったわけだ。
大体、外れたガーターを何故か自分の足につけるあたりにそこはかとなく倒錯した趣味の薫りがする。

つまり伝統や格式の由来などというものは、ふたを開ければその程度のもの
元をたどれば権力者の我が儘であったり、個人の趣味であったりする訳である。

ガーターが床に落ちたからガーター勲章。
ならば、床に落ちたのがステテコならステテコ勲章だ。

少しの偶然さえあれば下着だって勲章になり得るのだ。


 * 第 二 章 *

さて、前置きがながくなったが、本題に入ろう。
たけきのの下着といえば、フンドシである。

あらかじめ言ってしまうが、たけきののフンドシは藩の歴史や伝統とは一切関係がない。
確かにたけきの藩は東国人の国であり、忍者が居たりもする。
これらの事に絡めてまことしやかに我が国のフンドシの由来を語る文献を、見かける事があるかも知れない。

それらは全て捏造である。
たけきの藩のフンドシ推進派の第一人者を自称する私が保証しよう。

たけきの藩では、水面下で常にフンドシ推進派と反対派の激しい抗争が行われており
フンドシ推進派は表の世界に置いてはマイノリティであるが故に
権利と自由の確保のために時にそういった手段を使わざるを得ないのだ。
嘘も方便という奴である。

つまり武人としての誇りやら、祖先への尊敬、伝統文化の保存などと言う題目に本質は無い。
では、なぜフンドシなのか。

身も蓋もない言い方をすれば、それは単なる趣味である。
どういった巡り合わせか、たけきの藩国にはその手のものを好む人間が複数名、居合わせた(*3)のである。

もう少し格好をつけて言えば、それは既存の価値観に捕われまいとする自由人たちによる挑戦であった。
常識という檻に捕われた現代人に真の自由を取り戻そうとする魂のレジスタンス活動(*4)と呼んでもよい。

だから実はたけきののフンドシがフンドシである必然性は無い。
我が国が西国であればハイレグビキニだったかもしれないし、北国であったら毛糸のパンツであったかも知れない。
森国だったらきっと葉っぱ一枚だったのでは無いだろうか。(*5)

事の発端はなんだったのか。
すでにそれは判然としない。
誰かが一枚のフンドシ画を描いた。
それに応える様に次々とフンドシが描かれ、フンドシブームが巻き起こった。

はじめは単なる一過性の流行かに思われたそれは、推進派の粘り強い布教活動により
徐々にこの国に根付き勢力を拡大して来たのだ。

ここまで読んで、なんだ結局ただの変態趣味じゃないか、と思われた方もいるだろう。

だが、かのガーター勲章を思い出してほしい。
ガーターとフンドシの間にどれほどの違いが在るというのか。

栄光の象徴に起源など大して重要ではない。
大切なのは如何に”それらしい”かである。
”それらしく”在りさえすればフンドシだって立派な国の象徴になり得るのだ。

だからたけきののフンドシ推進派は、如何に格好よくフンドシを履きこなすかに余念がない。
如何にフンドシをアピールするかを常に考え日々研鑽を重ねている。
そして着実に支持層を増やしつつある(*6)。
いつかその手に栄光を掴むことを目指して。


 * 終 章 *

以上がたけきの藩国に置けるフンドシの実態である。

たけきののフンドシは単なる懐古主義とは一線を画する
進歩的で発展的な思想に基づいて居る事がおわかりいただけただろうか。

だが、風紀委員会をはじめとした頑迷な保守派による抵抗活動は激しく
表の世界では我々は未だマイノリティである。
残念ながらこれは事実であると言わざるを得ない。

イングランドの故事から学ぶに、現状の打破に必要なのは”少しの偶然”である。
これについて、私は一つの計画を持っている。

まず舞踏会に参加する。
そしてダンスの途中、さりげなくフンドシを床に落すのだ。

きっと彼の女王はにっこりと笑ってそれを拾い上げ
エドワード3世にも劣らない素敵な名言を発するに違いない。

概念図(*7)

名言は刺繍となって布に刻まれ、フンドシはただの下着から勲章へと変わるだろう。

そしてフンドシ騎士団の結成だ。

騎士は全員フンドシを着用。
ああ栄光のフンドシ騎士団!

      • だが残念な事に、この計画を実行に移す勇者は未だ私の前に現れない。

Fin.

脚注
 *1:例えば明治以降の歴代日本天皇もこの騎士団の騎士に叙せられている
 *2:因みにガーター勲章は世界初の勲章でもある。
 *3:変態ばかりが集まった・・・訳ではなく、偶然(?)ネタ好きの人間が多かったということ
 *4:同種の活動としてソックスハントがあげられる
 *5:要するに笑えてちょっと恥ずかしい格好であればなんでもよい
 *6:隠れシンパも入れれば藩国の3分の1に迫る勢いである
 *7:画像はあくまでもイメージ図です。実際の人物、団体とは一切関係ありません。
蛇足:本文には事実を意図的に曲解した部分が多く含まれています。ネタとしてお楽しみください。

文と絵:モモ

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最終更新:2008年04月30日 01:03