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凍えた偽花に温もりを第二話

包丁を持つ手が軽やかに動く、もう右腕は完治したみたいだ。
お弁当を手早く作って学校に向かう準備をする。
私がドナヒューさんのところにお世話になってから1週間がたった。

「怪我をしたままでは辛いだろう、治るまでここに居るといい」

と言うドナヒューさん言葉に甘えている。
玄関に立て掛けてある杖を手に取り外に出る。
右足は、まだ少し痛む。

この藩国に来て驚いたことが2つある。
1つはここの人たちの人の良さである。
玄関から10メートルも歩かないうちに近所の人に

「アンクルドナヒューとこの譲ちゃんじゃないか、杖ついてその荷物は大変だろ。持ってやるよ、それでどこまで行くんだい?」

出かける度にこの調子である。
この国の人たちは何でこんなに人が良いんだろう?
と、理由を考えるが

「困っている人を助けるのに理由が要りますか?」

たぶんドナヒューさんのこの言葉が答えなんだな、と思った。

分校の手前で近所の人にお礼を言って別れた。
雪に覆われたグラウンドを横切って小さな校舎の前まで歩く。
校舎の中から出てきた子供たちに囲まれる。

「フィサリスさん、こんにちはー」
「お弁当持ちますよ~」
「ドナヒューおじさーん!フィサリスさん来たよー」

子供たちの声に囲まれながら教室に向かう。

「お弁当、中身なに?」
「ヨンタ饅と野菜炒めと昨日の煮物と、あと浅漬けだよ」

お弁当を持ってくれた子に答えを返す。

この国に来て驚いたことの2つ目がヨンタ饅である。
ヨンタ饅には、店で売られているものと家庭で作られているもの、との2種類がある。
毎朝、各家庭で作られるものには家庭ごとに味付けや工夫が違うのが特徴である。
各家庭で受け継がれる調理法と地域毎の素材の選択などの要素が複雑に組み合わされ、それが家庭の味になるのだ。
『自分の家のヨンタ饅に飽きたら、三軒先の家のヨンタ饅を食べろ』という諺まであるくらいだ。
本当に道1本挟むだけで味がまったく違う、などと言うことがざらにある。
これほどまでにヴァリエーションに富んだ料理があるとは!
この事実を知ったとき、私はただただ驚くだけだった。

「こらこら、まだ授業時間中だぞ。」

教室に入るとドナヒューさんが苦笑いをして待っていた。

「ごめんなさい、邪魔しちゃいましたね」

私が謝るとドナヒューさんは、別にいいよと言って教壇に戻った。
今やっているのはこの国のことについてらしい。

「さて、最後にこの授業でわからないことがあった人」
はい、と最上級生らしき男の子が手を上げた。
「この、この国の諺の『親切はよんたの回りもの』ってどういう意味ですか?」
「それはね、誰かに助けられたり、親切にされて恩を返したいなら他の人を助けてあげなさい。と言う意味だよ」
「なぜ助けてくれた人じゃなくて他の人なんですか?」
「助けた人がまた他の人を助けて、その人が他の人を助ける。
そうやって親切が続いていったら、もし自分の恩人が困っている時に自分がいなくても誰かが助けてくれるかもしれないだろう」

もちろん目の前で恩人が困ってたら助けてあげればいいのだ、とドナヒューさんは言って授業を終わりにした。
『親切はよんたの回りもの』、なぜかこの言葉が私の耳から離れなかった。


(文責 フィサリス)