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270 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 04:06:40.87 ID:AgCPeYID0 [55/97] 【78話】Big ◆iq3nGde8rU 様 『反魂』 このような濃霧の中では、何かがくるとも言われます。 何か・・・とは、前の話のようにキツネやタヌキなのかもしれませんし、 あるいは人や獣どころか、この世のものではないかもしれません。 やはり猟をしていた5人組が、山中で濃霧に遭遇し、 前の者の腰をつかんで、そろそろとムカデ歩きをしていたときのことです。 最後尾の男が、「おやあ、何か来た」と声を出しました。 こういう場合、前に立つリーダーは、「何も来ねえ、気をしっかり持て」 と声をかけます。仮に他の登山者が後ろにいるのだとしても、 何もしてやることはできませんし。お話したように、 来たのがこの世のものとはかぎらないからです。 「うんだな」最後の男はつぶやきましたが、またしばらくして、 「何か来た、何か来た」と叫びました。「何かが俺の腰に取りついとる!」と。 リーダーが「何も来てねえ」とまた言い、残りの者も「んだ。何も来てねえぞ」 と復唱します。最後尾の男は黙りましたが、またしばらくして、 「来たぞ、来てるぞ。女の手だあ。こらあ俺の女房の手だろう」 これを聞いて皆はぞっと背筋が寒くなりました。 男の女房は去年の冬に肺炎で死んだのを知っていたからです。 それもちょうど今頃の時期に。「〇〇さぁ」最後尾の男はリーダーの名前を呼びました。 271 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 04:07:24.61 ID:AgCPeYID0 [56/97] 「俺、ここに残ってもいいかあ。女房が来てるようだども」 「ダメだあ!」リーダーが叫び、残りの者も復唱します。 「おめえの女房はもう鬼籍に入っとるだろうに。そら、おおかたメス狐だろうて」 リーダーはそう言うと4人目の男の名を呼び、 「□□が離れねえようにおめえ、手首を引いてやれ」こう指示したのです。 しばらく進むとまた、最後尾の男の声が聞こえて、 「今よう、俺の女房が隣について歩いておる」こんな内容です。 リーダーは「この霧じゃあ見えるわけがなかろう。そら、この世のもんではねえから」 そしてひときわ声を張り上げて、「オン アビラウンケンソワカ」と唱えました。 そのあたりの山はいわゆる霊山でもあり、修験者の姿を見かけることも多く、 猟師連中も真言(マントラ)を知っていたのです。一行はそのまま、 「阿 毘 羅 吽 欠 蘇 婆 訶」と地水火風空の真言を唱和しながら、 ムカデ姿のまま、ゆっくりとゆっくりと山を下ったのです。 もしもはたから見ることができれば、さぞや異様な光景だったことでしょう。 ともかく、そうしているうちに霧は晴れ、一人の脱落者も出さず戻ることができたそうです。 (終)

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