337 自分:わらび餅 ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 05:48:17.96 ID:AgCPeYID0 [94/97]
『馬好きの祖父』
これは私の祖父が亡くなって二年程経った頃の話です。
東京へ働きに出てきてた私の元に、両親と妹、そして祖父が死んでから一人で暮らしていた祖母が観光へきたのだ。
それもかなり急なことだった。
何故かというと、よくないことというのは続くもので、祖母に癌が見つかったのだ。
そのため元気なうちに私の顔を見るのも兼ねて観光へ来たというものだった。
二泊三日ほど観光をしていたのだが、その最中にひとつだけ不思議なことが起きた。
あれは確か千葉をレンタカーで走っていたときのことだ。
夕方になってきたこともあり、しきりに窓の外を眺めていた祖母も「暗くてよく見えへんようなってきたね」なんてことを言っていた。
そこでひとつ目を引いたモノがあったようで、横に座っていた私にあれは何だろうと聞いてきた。
私は祖母と同じように窓の外に目をやったのだが、なにやら白い壁が見えるだけで一体何の建物かよくわからなかった。
かなりの大きさのようで、一見するとドームか競技場のようであった。
「なんだろ、ちょっと調べるわ」
と言って私はスマホを取り出し位置検索を始めた。
338 自分:わらび餅 ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 05:49:17.41 ID:AgCPeYID0 [95/97]
祖母は常に持ち歩いている祖父の写真を取り出し、「あれは何やろねぇ」なんて言ったりしていた。
イマイチGPSが反応しないイライラしていると、祖母が「あ、なんか書いてる」と窓の外を指差した。
私はその声で再び窓の外に目を向けた。
そこにはこの建物が『競馬場』であることを示していた。
「競馬場? 競馬場やて、おじいちゃん……お馬さん好きやったもんね」
と、写真を窓の外に向けて祖母が喜んでいた。
父親も私たちのその話を運転しながら聞いていたようで、
「そうやな、親父は競馬好きやったからなぁ……きっと競馬場が近くにあるからおふくろに見せろってせがんだんやろうな」
そういって笑っていた。
祖母も「不思議なこともあるもんやねぇ」と懐かしそうに笑っていた。
祖母はその後、半年ほどで亡くなった。
観光を終えて実家へ戻った後は、手術後の経過がよくなくあっさりと逝ってしまったのだ。
普段は鞄の中にしっかりと仕舞い込んである祖父の写真をたまたま取り出した、それだけですが何か不思議なものを感じる出来事でした。
了
最終更新:2016年06月24日 00:34