【三十話】『回線の向こうの人』キツネ様◆8yYI5eodys


110 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/29(土) 23:15:13.21 ID:uO4SmEpe0 [43/54]
【30話】キツネ様◆8yYI5eodys 様
『回線の向こうの人』

ネットが普及して久しい昨今。
遠くに住んでいる友人や家族と瞬く間に遣り取りができて、いやはや便利になったものでございます。
中には知人のみならず、SNSや掲示板で顔も知らない相手と談笑している方も多いのではないでしょうか。

これは職場の先輩が、数年前に某携帯電話用のSNSで経験した出来事にございます。

そのSNSには「サークル」という機能がありまして、特定の趣味や共通点を持つ利用者が会話を楽しめるのだとか。
ある日、先輩は同じ市内に住む人が集まるサークルを見つけました。
参加者も7名と少なく、2、3日前に立ち上げられたばかり。
のんびり会話を楽しみたかった先輩は、すぐさまそのサークルに参加致しました。

「三毛汰」という女性が主催するそのサークル。
なんとなく居心地が良く、
どこどこの店がおススメといった情報や、
大学の友達が長いこと学校サボってて単位がやばい、
果ては、あそこ幽霊出るらしいよ、
出るって言えば、今包丁で手を切って血がドバドバ出てる・・・等々。

7人の面々が思い思いに取りとめの無い話題で盛り上がっていたそうでございます。
中でも先輩は「三毛汰」さんと気が合ったらしく、相談したり冗談を言ったり。
次第にその気さくな人柄に惹かれるようになったとか。

そんな日々が1か月ほど経った頃でしょうか。
主催者の三毛汰さんがOFF会をやろう、と提案。
日取りもすんなりと決まった頃、三毛汰さんオススメの店があるとのことで、夜、その近くのコンビニ前に集合する運びと相成ったのでございます。

111 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/29(土) 23:17:08.79 ID:uO4SmEpe0 [44/54]
コンビニ前で待つこと暫く、先輩を含めサークルの面々6人が集まりました。
年の頃は20歳くらいの大学生から30代までの男女。
各々ハンドルネームを名乗り一頻り盛り上がった頃でございましょうか。
三毛汰さん遅いですね、なんて言っていた矢先に先輩の携帯が鳴ります。
見ると、どれは三毛汰さんからのSNS内メールのお知らせでございました。

「先に店で待ってるよ。○○の角を曲がった先の××ビルの4F、『Blue glass』ね」

先輩は集まった6人にその内容を伝え、談笑しながら路地に入っていきました。
街灯が心許なく足元を照らすような路地。
そんな寂れた路地を歩きながら、店なんてあるの?と思い始めた頃。

「ここ……ですかね?」

メンバーの1人が指差します。
皆、つられたように指差したその先を見ると、そこには1件のビルが佇んでおりました。
入口には、なるほど、薄汚れた『××ビル』の文字。

しかし、そのビルには指定された名前の店は疎か、テナントの1店舗も見当たりません。
それどころか、どの窓も光が漏れることなく真っ暗。
廃ビルとしか言い様の無い様相を呈しておりました。
皆で付近を歩いてみますが、『Blue glss』なんて店などございません。

それでも三毛汰さんに会いたいと常々思っていた先輩は、なんとなく彼女に会えるような気がしたそうで、

「ここ、入ってみませんか?」と提案致しました。

が、見るからに不気味な廃ビル。

112 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/29(土) 23:19:04.02 ID:uO4SmEpe0 [45/54]
年長者の男性から、きっと三毛汰さんに担がれたんだよ、それにこういう所に無断で入るのは良くないよ。
そう、窘められて先輩が徐々に冷静さを取り戻した矢先でございました。


♪♪♪♪~……!!


一斉に、そこに居た全員の携帯が鳴り響いたのでございます。

ビクっ!と身を震わせ、携帯を操作し目に飛び込んできたのは、サークルの解散を伝えるSNSからの通知。
皆、一斉にびくついた顔を見合わせる中。
先ほどの年長者が安心し切ったような顔で、「やっぱり三毛汰さんに担がれてたんだよ」と皆に笑いかけました。
な~んだ、とホッとしたり、悪態をつく面々に気を利かせたのか、年長者の男性が別の店に行こうとしきりに提案。

しかしまあ、三毛汰さんに裏切られたショックや気まずい雰囲気もあってか、その場は解散と相成ったのでございます。

それから1週間ほど経った頃でしょうか。
職場で食事をしていた先輩が何気なく見ていたニュース。
テレビから自分の住んでいる町の名前が聞こえてきました。

珍しいな、なんて思いながら見ていると、映されたのは見覚えのあるビル。
そう、先日サークルの面々が呼び出された、あのビルでございました。

アナウンサーが読み上げる、女性の遺体が見つかった、手首に刃物による傷、死後1か月は経過、1か月ほど前から行方不明になっていた女子大生の△△さんと見て身元の確認を云々。

113 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/29(土) 23:20:04.80 ID:uO4SmEpe0 [46/54]
唖然とする先輩の横で、ふと、同僚が口を開きました。

「あー、あの子、行き付けのガールズバーに居た子だ。
 なんか客の1人からしつこく付き纏われて辞めたって聞いてたんだけど、可哀想になあ……」

不思議そうな顔の先輩に向けて、同僚は続けてこう言ったそうでございます。

「知らない?※※町の『Blue glass』って店なんだけど」


聞き覚えのある店名。確か、三毛汰さんが指定した店の名前。
慌ててSNSのページを開き、あるページを確認しました。

『三毛汰』という女性のアカウント。
そのページがどうしても見つからない。
それどころか、三毛汰さんと遣り取りしたSNS内のメールやコメントすらも見つからない。

サークルに参加したのは1か月前。
その1か月の間、自分は一体、誰と会話をしていたのか?
『三毛汰』さんの顔も名前も知らない為、先輩はこれ以上は確かめる術もございませんでした。

その後、別の街に転勤になった先輩。
久々に会って酒を酌み交わしていた折のこと、先輩はこの話を語ってくれたのでございます。

114 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/29(土) 23:21:30.08 ID:uO4SmEpe0 [47/54]
「きっと、亡くなった子が先輩に見つけて欲しかったんじゃないですか?」

何気なく言った私の一言に、いやいや、と先輩は首を振り、

「ビルに言った時点で俺ら彼女を見つけてないだろ?それなのに目的を達したかのようにサークルを解散した」

「はあ…?」

「俺は逆だと思うんだよね」

と言って手近なメモ帳にサラサラと

『三毛汰』

と書きます。

115 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/29(土) 23:22:54.84 ID:uO4SmEpe0 [48/54]
「つまり俺らに見つけて欲しいんじゃなくて、彼女が俺らの中の誰かを……」

その上にカタカナでルビを付け加えたのを見て、ギョッと致しました。


『 ミ ツ ケ タ 』


どうやら先輩はそのように解釈したようでございます。


今宵お集まりの皆様。
お互いに顔も身元も知らずに百物語を愉しんで居られる訳でございます。
しかし、どうでしょう?
運営や語り部の皆様、雑談スレを盛り上げていらっしゃる名無しさん。
数多くの皆さまが参加しておいでですが、果たして、皆が皆この世に実在する方々なのでございましょうか?

ひょっとすると……この顔の見えない会話の中に、既に幾許かの怪異が潜んでいるのやもしれません。


【完】
最終更新:2015年10月31日 01:11