166 名前:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 00:47:11.00 ID:AgCPeYID0 [10/97]
【45話】suu_o◆QfeyGUP37WSw 様
『ひっぱりっこ』

私の祖父は、私が小学二年に上がる直前に病気で亡くなりました。
突然の変調で入院してしまい、一年近く会わないままの他界でした。

それから半年以上経ったある日。不意に祖父が思い出されて懐かしくなり、お墓が近かったこともあって一人でお寺に行ってみることにしました。
当時両親は忙しく、親しい友達もいなかったので暇だったのだと思います。
しかしお寺には着いたもののお墓の場所が分からず、途中で生えていた草で遊んだりしたため帰りが遅くなってしまいました。

やっとお寺の敷地から道路に出た頃には日が傾き、見渡す限り人ひとりいません。
そんな時、路側帯の白線の上に綺麗なビー玉が落ちているのが見えたのです。
夕陽に照らされてキラキラと光を反射させる様子は、子供心を惹き付けるのには十分でした。
一応左右を見て安全なことを確認し、ビー玉に近づきます。
拾おうと屈んだ時でした。いきなりスカートが引っ張られ、私は数歩前に出ていました。
よろよろと進めば、そこは車道です。あわてて戻ろうとしましたが、スカートにかかる力は強くてびくともしません。
何が起きているのか理解できず、ただただ「車が来たらはねられちゃう! はねられたら死んじゃう!」と怯え、涙ぐみました。

167 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 00:48:20.98 ID:AgCPeYID0 [11/97]
……しかし、いつまで経っても道の奥から車が現れる気配はありません。
(それもそのはず、いま調べてみると曲がり角の先は行き止まりでした)
静寂のなか立ち尽していると、その何かは痺れを切らしたのか再び強い力で引っ張りだし、私はフラフラと道の端まで引きずられていきます。
ついには歩道に乗りあげ、助かったのかと思いきや……目の前には石の階段があり、下方に続いているのです。
(えっ、やだ落ちる!)
そう直感し、脇の柵にしがみつきましたが7歳の筋力で自重が支えられるわけもなく。あっさり手は離れ、坂の下へと転落しました。
しかし抵抗したことで、軌道が石段から横の草むらの上に逸れ、幸運にも肘を擦り剥いたくらいで済みました。
腰を抜かし、呆然としたのも束の間。いきなり右足首を掴まれる感覚に飛び上がりました。
そればかりか足は勝手に宙に浮き、ずるずると私の体を持っていくのです。
その諦めの悪さから執念じみた殺意が伝わり、言葉を失っていると。
今度は、左の手首を掴まれました。
見れば空中からガリガリに細くて骨と皮だけの腕が現れ、食い込むほどの力で手首を握ってきたのです。
冷えた指先と骨の固い感触が生々しく、度重なる異常事態に私はパニックになりました。
正体不明の二つの存在が協力して、自分に危害を加えるとしか考えられなかったからです。
ところが腕は予想とは裏腹に、私をもと来た方向へと引っ張りだしました。
すると足を持つ側も異変に気付いたのでしょう、連れていこうとする力が急に増しました。
両者のあいだで私の体は限界まで伸び切り、膝の関節が捻られ、手首は圧迫痛に悲鳴をあげ……ちぎれてしまうのではないかと不安になるほど痛かったです。
辛くて苦しい引っ張り合いの末、ふと足元の気配が消えました。
勢い余って地面に投げ出された後は無我夢中で、どうやって帰ったかは覚えていません。
でも、家に着くまで腕の存在感は残っていたように思います。

168 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 00:49:17.28 ID:AgCPeYID0 [12/97]
私を助けてくれた手の正体が判明したのは、その十一年後。祖母の葬儀が終わり、遺品を整理していた時です。
沢山の写真のなかに一枚だけ、入院中の祖父の姿を写したものがありました。
闘病生活に痩せ細り、顔も別人のようにやつれていましたが、優しい目は思い出と全く同じ。
そして袖口から伸びた腕は非常に細く骨ばっていたものの、拳はあの日見たように頼もしいものでした。


実はこの話には続きがありまして、今回百物語を投稿するにあたり地形を確認しに歩いてみたのですが……。
当時階段の少し先に用水路があり、子供が二人亡くなっているそうです。
一人目の事故が起きたあと、対策として厚い鉄板を被せたのですが、二人目はそれを外しての溺死と聞きました。
大人でも重くて容易には動かせない板を、小学生がどうやって取ったのかは、分からずじまいだったとか。
なお、周辺には古くから「乳飲み子を亡くして狂い死にした母親の幽霊が、健やかに育っている子供を妬んで悪さをする」という恐怖話がありましたが、用水路が埋められて以降不幸な出来事は起きていないので関連性は不明です。

【了】
最終更新:2016年06月24日 00:11