211 名前:逝く雄 ◆wu7WOib83U @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 02:16:59.78 ID:PUKTKYfW0
57話
【泥】

40をとうに過ぎた従兄弟に聞いた話

従兄弟は水に入るのを嫌がった、ただし泳ぎは達者だった
プールは平気なのだそうだ、彼が嫌うのはスネから下くらいの浅い水、そして中が見えない濁った水や波立った水、要するに川の浅瀬や海の波打ち際に足を付けるのを異様に嫌がっていた
さすがにいいおっさんとなった今では大騒ぎすることはないだろうが、子供の頃の水遊びを嫌がる様は今でも親戚中の語り草だ

去年法事で顔を合わせて飲んでた時のこと、話の流れがたまたまそっちの方に向かった

「俺は水が怖かったわけじゃない、現に今でも泳ぎは得意だしな」
「俺が本当に嫌なのは泥だ…」

小学生の頃だそうだ
近所の悪童達とともに裸足のまま田んぼで泥遊びをした彼は田んぼの真ん中で足が抜けなくなったのだそうだ
それ自体は良くある話で、笑ったり笑われたりで済むはずだったが、その時は違った

「泥の中に何かいたんだよ」

脛までもぐった足を、何かがつかんだり突ついたりなで回したりしていたのだそうだ
それこそ半狂乱になった彼を弄ぶかのように泥の中の手のようなものはぬらぬらぬらぬら足指の間や土踏まずを撫で回し、足首を掴み、引きづったという


それ以来泥には一切、本当にただの一度も足を踏み入れておらず
あらたまって話すのは今回が初めてだという

「どうして今まで…」という問いには何故か言葉を濁して語ろうとはしなかった

最終更新:2016年06月24日 00:16