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231 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 03:07:47.17 ID:AgCPeYID0 [35/97]
【64話】キツネ ◆8yYI5eodys
『ナナツカ様』

(1/4)
昔、親戚の爺さんの家にひと夏の間預けられた時の話。

親戚の爺さん、というのは私の大叔父に当たる人だと後に知りました。
大叔父が住んでいたのは山に囲まれた農村。
山一つ越えると駅や新興住宅地の造成が進んでいましたが、叔父の住むのは寂れた農地。
家が十数件そこらあるか無いかのド田舎でした。

その農村には7人ほどの子供たちがいて、最初はおっかなビックリではありましたがすぐに馴染むことができました。
中でも小学6年の1番年上のお姉ちゃんは面倒見が良く、
よそ者の私と妹に色んな山遊びや川遊びを教えてくれたものです。

その日はちょうど8月の終わりに差し掛かった頃。
ちょうど今日のように朝晩が涼しく感じる時期でございました。

いつものように田んぼ沿いの沢でカニ捕りや水遊びに興じていた時でした。
1人の地元の子が、橋げたに何か引っかかっているのに気付きました。
拾い上げてみると、それは布のようなもの。
小さな子供用の服でございました。

232 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 03:09:17.18 ID:AgCPeYID0 [36/97]
(2/4)
その服を投げたりしていると、いつの間にでしょうか。
1番年上のお姉ちゃんが集落のお年寄りを連れてきて、その服を指差していました。
しばらくすると集落の大人たちが集まって参ります。

そして口々に、
「流れてきてしまったか」「今年もナナツカ様が気に入らんかった」
「今年は何年目ね?」「…7年目だ」
「どう思う?」「来るやろうな」
そんな事を言っていたのを記憶しています。

私たち子供はすぐに川から上がり、すぐに家に帰るよう言われました。

後に知った話をまとめると、
集落の傍の山には『ナナツカ様』という7基の石の塚が並んでいて、
その塚に毎年、夏の初めに子供用の服を1着お供えする風習があるのだそうで。
『ナナツカ様』が気に入らないと、その服が山から集落の沢へ流れて来る。
その年は7年続けて沢に流れてきた、ということらしいのです。

そしてその日の夕刻。
私たち兄妹は大叔父に連れられて集落の公民館へ。
そこには集落の子供全員、それどころか集落の大人たちも集まっておりました。
大人たちは公民館の庭で火を焚き、子供たちは公民館の中へ追い遣られます。
「朝まで出ちゃいかんぞ」
普段優しい大叔父が怖い声で言ったのが印象的でした。

子供たちはと言うと、強張った顔の大人たちとは対照的でした。
普段は夕方には別れる友達と夜も遊べる―――
そう思ったのか、大人が公民館の外にいるのをいいことに、テンションMAXではしゃいでおりました。

233 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 03:11:05.08 ID:AgCPeYID0 [37/97]
(3/4)
夕飯を終える頃には幾分か落ち着いたのか、小さい子たちを中心に眠そうな目。
そんな子たちを年長者のお姉ちゃんと一緒に布団へ運んでいると、
妹がガラス戸の方を見るなり、ギャーっと火のついたように泣き始めました。
瞬く間に鳴き声が小さい子たちに伝染。
そんな子たちを宥めて寝かし付けるうちに、私も眠ってしまっておりました。

翌朝。

公民館の中に年長者のお姉ちゃんが居ません。
周囲を見回すと、ほかの子は静かに眠っておりましたが、お姉ちゃんだけが見当たらない。
外に出ると、大人たちが沢の橋の方に集まっているのが見えました。
慌てて駆けて行くと、すぐに気付いた大人に頭を抱きすくめられ、
「見ちゃいかん!」
と怒鳴られました。

聞こえたのはすすり泣く声。
雰囲気は重く、蝉の声と沢の水音がやけに大きく聞こえたと記憶しております。

そしてポツポツと、
「流されてきたのは○○ん家の長女か」
「服は着ちょらん」
「うわっ!皮まで持っていかれとる」

確か、そんな事を言っておりました。

その後すぐに私は公民館へ連れて行かれました。
沢で亡くなっていたのはやっぱり年長者のお姉ちゃんで、翌々日にはお葬式に参加。
最後のお別れにと、お棺を覗こうとした子が親にビンタされて吹っ飛んだのを見て、
―――ああ、あのお姉ちゃん大変な目に遭ったんだな、と怖さと寂しさで泣いたのを覚えております。

234 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 03:12:59.69 ID:AgCPeYID0 [38/97]
(4/4)
後に妹から聞いたのですが、あの公民館での晩のこと。
妹はガラス戸の向こうに見たのだそうでございます。
ガラス戸の向こうには子供が数人、あの年長者のお姉ちゃんを指差していたとか。
その子供たちは一様に真っ赤な目でニイっと笑っていたそうです。

また別の子は、夜中に目を覚ました時。
たくさんの真っ赤な目をした子供達にお姉ちゃんが囲まれ、
じたばたもがきながら引きずられていくのを見てしまったそうでございます。
その後、親戚の集まりで大叔父に会った時に聞いた話なのですが、
酔った大叔父が言うには、昔、戦時中に1度だけ子供の服が流されてきたことがあるそうです。
その時は学童疎開してきた子供の1人が、同じように身ぐるみを剥がれて沢を流れてきたのだそうで。

それから大叔父と疎遠になり十数年。
集落からはどんどん人がいなくなり、とうとう大叔父だけになったと聞いていました。
先日、久々に実家へ大叔父から電話がかかってきて、こう言っていたそうです。

「今年も流れてきた。7年目だ、今後は盆も一切、夏には誰もあそこに近づくな」

そのまま大叔父はすぐに高齢者施設に入所し、集落からは誰もいなってしまったのです。
そうです、ナナツカ様に服を納める人は、誰も。

今年は例の七年目。
ナナツカ様は集落に下りて来るのでしょうか。
それとも誰も居ないのに気付いて、山向こうの住宅地に下りるのでしょうか?
夏も終わりに差し掛かりました。
山沿いの住宅地にお住いの皆様。
どうぞ窓の外には目を向けない方がよろしいかと。

真っ赤な目をした子供達が、笑いながらあなたを指差しているのかもしれませんから。

【完】