273 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 04:10:17.35 ID:AgCPeYID0 [57/97]
【79話】Big ◆iq3nGde8rU 様
『遊郭』

前の話で、最後尾の男に働きかけてきたものは何だったのでしょう。
キツネやタヌキなど山の獣がちょっかいを仕掛けてきたのでしょうか。
そうかもしれませんし、本当に、男の死んだ女房が姿を見せたのかもしれません。
そうです。このような濃霧のときには、この世とあの世の道がつながるということも、
けしてないとは言えないでしょう。
さて、前の話ではリーダーがしっかりした山の男だったので、
無事に戻ることができたのですが、そういうケースばかりではありません。
リーダーには歳はあまり関係がなく、仲間に信頼のあるものがなるのです。
せまい集落で生まれ育ったものどうし、気性は子どもの頃から知っているわけですから。
ただし毎回そううまくいくとも限りません。
そのリーダーねらわれてしまうこともあるのです。

やはり霧の中で、4人がそろそろとムカデ歩きをしておりますと、
まったく視界がない中ながら、どうも道が違うような気がしてきました。
そこで2番めの男がリーダーに、「これはどうも道がおかしくねえか」と聞くと、
「これでええんじゃ」という答え。まあ、一本道のはずですから気のせいかと思ったものの、
やはりおかしい感がある。そのうちに下ってるはずの道が登り始め、
これは絶対におかしいと後ろの3人は確信しました。
「〇〇さあ、これで本当にええんか」とリーダーに呼びかけると、
「ええんじゃよ。もうすぐ着くし、着いたらまずはゆっくり風呂につかろう」
これを聞いて仰天「風呂って何のことだ? 温泉は山の向こうだろうが」
そう言うと、「うんにゃ温泉でねえ。△△閣だって」 「△△閣!?」
皆が絶句したのも無理はありません。

274 自分:わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @転載は禁止[] 投稿日:2015/08/30(日) 04:11:55.54 ID:AgCPeYID0 [58/97]
それは大正時代、そのあたりが木材の集積地だった頃にできた遊郭の名前ですが、
なくなってからもう数十年がたっていたのですから。
リーダーにしても子ども時分の話で、△△閣に入ったことがあるとは思えませんでした。
「おめえ、こら、気をしっかり持て。△△閣など、そんなものはもうどこにもねえ」
一行は止まって、リーダーを無理矢理に交代させ、
いっそうぴったりとくっつくようにして山を下ったのです。
後になってから、途中までリーダーを務めていた男に、
「おめえ、何であんなことを言った?」と聞いてみましたら、
発言そのものは覚えてましたが、そこからは自分でもわけがわからない様子で、
「△△閣はなあ、確かに子ども時分に何度か前を通ったことはあるがなあ。
 夜でもたくさん明かりがついて、きれいだったなあ」こんな述懐をしました。

(終)
最終更新:2016年06月24日 00:26