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オープニング」(2017/06/10 (土) 19:45:15) の最新版変更点

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*オープニング  199X年──。  来るべき21世紀を前に、恐怖の大王が堕ちてきた。 ◆ 「──」  声にならない声をあげながら、彼らはゆっくりと目を開け、次に上体を起こした。  冷たい床に眠っていたようだが、果たして自分はいつの間に眠ってしまっていたのか──。そう、誰もが考えている。  人が大量に詰められていても涼しさを覚えるほどに広い部屋にいる。周囲は薄暗い。  そして、微かにその床が上下に揺れており、これがおそらく「船の上」であるのは、推察する事が出来た。 (ここは一体……)  しかし、こんな場所に眠るような出来事は、おそらくここにいる誰の記憶にもない。その証拠に、見える範囲にいる者は「彼」と同じように周囲をきょろきょろと見回している。  周囲には、自分と同じように、目を覚ましている人間で溢れていた。百人はいないだろうが、おそらくその半分は超えている。性別はばらばら、年齢もばらばら(小さな少年少女の姿も目に付く)、国籍はばらばら、酷い時は「人間か否か」さえばらばらなようにさえ見える。……ただ、こう薄暗くては全員を見る事は出来なかった。  周囲にはアジア人が多いようだが、そうなると、彼──ジョン・マクレーンは、つまりその中では異端であるようだ。  始めは人身売買の船の中にでもいるのかと思ったが、そうとは思えないのは──マクレーン自身が、サンフランシスコの有名な市警であるからである。刑事をその手の犯罪に巻き込む者はあまりいないだろう。  逆に、そんな職業だからこそ恨みを買う事もあるのだが、これだけ多種多様な人間をマクレーンと同じ扱いで捕えているあたり、今回は特別そう言う訳でもなさそうだった。  ──おそらくは、「いつもと同じく、偶々、事件に巻き込まれた」という事だと考えて間違いない。 (……ったく……どうしちまったんだ、一体……どうしてまたこんなついてない目に遭うんだ……!)  マクレーンは、まず冷静に事態を順序立てて考える事にした。  自分が何故、今突然、「周囲と全く同じタイミングで目覚める事になったのか」からだ──。今自分がいる状況を知るには、自分の記憶を探らねばならない。  そうだ……先ほど、首元に小さな衝撃を感じたのである。それが彼ら全員の目覚まし時計代わりになっていた。  それを確認する為に首に手を触れて……マクレーンは、一言。 「くそ」  先ほどまで自分が眠っていた床よりも遥かに冷たい──金属の輪が首を一周している事がわかった。こんなに厄介な物が装着されているという事は、拉致されてから随分時間が経っている事になる。  周りの人間を見てみると、誰もが同じ物を身に着けていたようだった。  この人数に同じ物を付けたという事は、組織ぐるみと見て間違いないだろう。  そして、マクレーンが気づいたのと同じように、周囲にいる人間たちそれぞれが首のブツに手をかけ始めていた。それを見て、マクレーンは血相を変える。 「おい、お前ら! 死にたくなければそれに触るな!」  マクレーンは、思わず周囲に警告するようにそう叫んだ。  彼の方を見てざわめいて怯える者もいれば、マクレーン同様に落ち着いて事態を考察する者も多数いたようである。  マクレーンには、嫌な予感がしたのだった。わざわざ取り付けられているこの首輪──おそらくは、ただの飾りじゃない。  むやみに外そうとしてはならないだろう、と、マクレーンはすぐに考察する事が出来た。 「──諸君、お目覚めのようだね」  そんな時だった。部屋の四隅に設置されたスピーカーから、突如、加工された不気味な音声が鳴り響いたのは──。  マクレーンは、そこから聞こえる日本語の音声を、どういうわけか、寸分違わず理解する事が出来た。  だが、注目すべきは、その音声がかなり加工され、男女さえ定かではないような物であったという事だろう。相手は身元の手がかりを、「日本語を解する者」である事以外、全く残さないように注意を払いながら、我々に言葉だけを届けようとしているようだった。  この場に来た時から薄々あった嫌な予感が、倍増する。 「なんだ……?」 「私の名は、『ノストラダムス』……とでもしておこう。──こうして諸君を呼びつけたのはほかでもない。これから、ここにいる皆さんには一つゲームをして頂きたいのだ。スティーヴン・キングの小説に出てくるようなデスゲームを……」  マクレーンの予感は的中した。  それでも、まだ誰も騒ぎ立てる事はなかった。世界中で訳されているベストセラー作家とはいえ、キングを知らない者も少なからずいるだろう。  デスゲーム、という言葉の意味をすぐに思い浮かべる事が出来た者と、出来なかった者がおり──前者は、悉く冷静だったし、後者は騒ぐ事ができなかった。  謎の声は続けた。 「ゲーム名は、『バトルロイヤル』」 「バトルロイヤル……?」 「そう。……これから向かう場所に着いたら、ここにいる者たちで──最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう」  小さな騒ぎが始まったのは、そんな趣旨が明らかになった瞬間だった。まだそこにいる者が現実感を持つまでには至らないらしい。冗談だと一笑する者や、冷静に思考を巡らす者……反応は様々だが、少なくとも、マクレーンは黙りこんだままだった。  今、周囲にいる人間がこれから殺し合いをする敵だとわかったのだ。そう聞いた時点でも、まず周囲を観察しておかなければならない。  やはり、アジア人やヨーロッパ人の小さな女の子供がいる。  マクレーンは自分の娘を思い出す。  そして、少なくとも──ジョン・マクレーンだけは、その時点で方針を決めた。  ──こんな事を言い出す馬鹿をぶちのめす、と。  彼には『ノストラダムス』の言葉の本気度がわかり始めている。マクレーンがここに来る前に携帯していたはずの銃がどういうわけか奪われている事がその理由の一つだ。  相手は、マクレーンが刑事であるのを理解した上で監禁しているらしい。  そして、あらかじめ反抗の為の凶器を奪ったのだ。 「あの~、すみませんちょっと待ってください」 「その声……古畑さん!?」  そして、そんな時、やたらと襟足の長い黒ずくめのアジア人が片手をあげ、嫌に丁寧な口調でその場の騒ぎを止めた。猫背だが独特のオーラを持つ男である。薄暗いせいで顔や手しか見えないのが恐ろしく見えた(まさか、マクレーンも、彼が日本の同職の男だとは思わなかっただろう)。  彼が現れた瞬間、誰かがその男の名前を呼んで駆け寄ったような音がした。その男がこの暗い中で、黒ずくめの男のもとに辿り着けたかは定かではない。 「──何だね。古畑任三郎くん」 「……えー、我々の言葉に返答できたという事は、あなた今、私たちの様子をカメラか何かで観察しているという事ですよね? だとすれば、どうです? んーーー……んっふっふっふっふっ、そんな面倒なやり方で会話をするよりも、我々の前に姿を見せてくださるつもり、ありませんか?」  フルハタ・ニンザブロー。それが彼の名だ。  まだ冗談だと信じ込んでいるのか、それとも、普段からそんな飄々とした口調なのか、彼は間に笑い声のような声を交えながら、そう訊いた。  しかし、会話が成立している点を見ているのはなかなか目の付け所が良い。  マクレーンにはイマイチこの男の正体や性格が掴めないが、古畑の口調は情報を引きだそうとしているようにも見えなくもない。  それから、相手がこちらの名前を把握しているという事も今の会話でわかった。完全に無作為に選んだわけではなく、相手側には「名簿」が存在している。 「残念だが、それは出来ない」 「どうして? やはり~……犯罪、だからですか?」 「……我々の事を知る者がこの中にいる。しかし、参加者の条件や情報は平等でなければならない。我々の正体を知る者がゲーム内に存在してはならず、それゆえ、私も『ノストラダムス』という仮名を使用しているのだ」  我々──つまり、やはり複数犯、あるいは組織ぐるみだという事だ。  果たして、口を滑らせたのか、それとも、そのくらいの情報は見破られる前提なのか。下手をすると、複数と思わせるブラフかもしれない。  ただ、その言葉を切欠に、古畑という男の口調は変わった。まくしたてるように『ノストラダムス』を責めたてる。 「……平等ですか? あんな小さな女の子まで連れてきているのに? ……いや、自慢じゃないですが、私も体力に自信のある方ではありません。しかし、見てください。ここには何人も体格の良い男性がいて、逆にあんな幼い女の子もいる。平等を求めるならどうして子供や私を巻き込むんですか、あなたがた平等という物を少しはき違えてます」 「──古畑くん。あまり調子に乗らない事だ。我々も早々にルールを説明して話を進めなければならない。黙って聞きたまえ」  『ノストラダムス』は、古畑の追及を無視し、少し強い口調で言った。  この返答であっさり引き下がるあたり、古畑という男の様子は奇妙だった。  あのまま情報を引きだすのが普通のやり方だが、両手をひらひらと挙げて歩きだす古畑の様子は、自然と何名かの参加者の目を引いた。 「……君が場を静めてくれた事はひとまず感謝しよう。それでは、ルールを順に説明する」  そして、それと同時に、スピーカーの中から、説明は始まった。  誰もが、声を殺してそれを聞く事になった。今から行う殺し合いゲームとやらが、本物か本物でないのか、見極める為だろう。  まだ本気だと確定したわけではない。だからこそ、これがテレビゲーム大会かドッキリTVである僅かな可能性を信じて、説明を聴き続けようとしているらしい。 「会場に着いたら、諸君の手元にはデイパックが支給される。中には食料や水、ライトや島の地図、筆記用具、いま諸君の周りにいる参加者の名簿、時計が入っている。これらは全員共通だ。しかし、それとは別に参加者によって別々な武器や道具も支給されている……これは、アタリもあれば、武器ですらないハズレもある」 「それから、こちらで今行っているのと同じように、六時間ごとに主催側から音声による放送を行う。死者の名前や残り人数は、その放送で全て説明する。また、これから行く会場で立ち入ってはならない場所──禁止エリアを二時間ごとに定める事になるが、それもここで順番に発表される」 「既に気にしていた者も多いようだが諸君たちの首に巻かれている首輪……その首輪は、無理に外そうとした場合、──あるいは、我々に反抗した場合、それから、禁止エリアに立ち入った場合に、爆発するから気を付けたまえ」  一通りの説明を終えた時に、小さなどよめきが始まった。  今周囲にいる人間たちが敵であるという恐怖よりも──たとえ、隠れていても常に自らを縛る爆弾が装着されているという事実に。  マクレーン自身の予感は的中した。  この首輪は──触れてはならないものだと。そして、これは正真正銘、生身の肉体を使って行う殺し合いであると。  そんな時、『ノストラダムス』の声が叫んだ。 「そう──たとえば、今、誰かの首輪が音を立てているようになったら注意だ」  ──言われて、マクレーンの形相が変わる。焦って、耳を澄ませた。  ピピピピピピピピピピピ……。  小さな電子音が不意に、静まり返ったその場に聞こえ始めた。どこから聞こえるのか──自分の近くではあるが、自分の首元ではなさそうだ。  そんな安堵感を覚える者もいたが、いや、そうではない。誰かの首輪が音を立てているという事は、誰かが死ぬという事だ。マクレーンはそれを許さない。  あの小さなアジア系の子供か、それとも、あの小さなヨーロッパ系の子供か?  電子音は、疎らなどよめきに隠れていく。 「わ、私……!?」  突如、スポットライトが一人のピエロに浴びせられた。それが、どよめきに隠れていた一つの電子音を白日のもとに晒した。  ピエロが首に巻いている金属の輪が、小さな赤色のランプを点滅させていた。そして、音も明らかにそこから発されているのがわかった。  この時、そこにいる参加者たちは、自分のまいている首輪の姿を始めて見る事になったのである。自分ではないと知って、ほっと息をついた者などいない。  誰の目にも、銀色の鉄の塊が凶器に見えた瞬間だった。  あれと同じ物が自分にも巻かれているのだ。 「な、何故私が……!?」 「君がこの殺し合いの見せしめだ。首輪の効果を説明するのに命を使わせてもらう」 「い、いやだ! 他の奴に代わらせてくれ!」 「──悪いが、時間だ」  ピエロが弁解を続けている間に、主催人物の冷徹な言葉が宣告される。  すると、ボンッ! ──と激しい音を立てて、首輪の電子音が終わりを告げた。  そして、そのピエロ──美しい魔闘家鈴木の生涯も。  上体そのものが爆破したかのように、首から上が完全に吹き飛び、下半身が力を喪い倒れた。吹き飛んだ部分は、まるで木片のように小さく周囲の参加者に降り注いだが──それが男の身体だというのは、マクレーンにも一瞬理解できなかった。  首から上は形を残す事もなく、粉々だ。首の下も抉れたので、両腕も体から離れてもげている。黒い焦げ跡が爆発の威力を示していた。 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」  それにより、場内は悲鳴で溢れかえる。女性のものだけではなく、大の男さえもその姿に大きな悲鳴をあげた。初めて人の死を見た者もいただろう。それがこんな残酷な殺しであったとなれば、悲鳴も出よう。  マクレーンでさえも口を噤みながら、強く恐怖したほどだ。長年刑事をやっていても、こんな残酷な殺し方には滅多に出会えるものではない。 「禁止エリアに立ち入った場合も、こうなる運命となる」  あんなものが──全ての参加者の首に。その事実が戦意を削ぐ。  これで、『ノストラダムス』に反抗する者はもう無いかと思われた。  しかし──。 「貴様らの卑劣な行為……このオレが見逃すわけにはいかん! たとえ貴様らがオレの命を握っているとしても、理不尽に人間を殺され、むざむざ従うオレではない!」  そう、まだ、いたのだ。  こんな卑劣な悪事を許せず、どうしても立ち上がってしまうタイプの男が。──「やめろ!」と叫びたいところだが、マクレーンも思わず押し黙ってしまった。  彼の元にも先ほどの鈴木同様、どこからかスポットライトが向けられた。 「!?」  そこにいたのは、ピンク色の顔の二足歩行のワニであった。体は大きく、これから殺し合いをする相手というより、これから人間を襲う相手としか思えない。  映画に出てくるような化け物がそんな声を発しただけでも何人かは驚かざるを得ない。  被り物にしては精巧で、その口や目の動きはハリウッドでもなかなか再現できなさそうなレベルに達している。 「察するに、ここは船の上だ。……だとすれば、別室にはこの船を動かしている貴様らの仲間がいるはず。──どこだ! どこにいる! あのフルハタという男の言った通りだ、オレのたちの前に姿を現せ! さもなければ──こちらから見つけ出すのみ!」  次の瞬間、ワニの怪物は、スピーカーに向けて、手から光を発する。マクレーンは、そんな姿に昔の子供向けテレビ番組のの電子レーザー銃を思い出した。  スピーカーの一つにそれが命中すると、それは小さく爆発し、轟音を鳴らす。光が機械を爆破する姿は、さながら魔法のようであった。 「なっ──」  しかし──それと同時に、怪物の頭部に向けて、真上から一本の太い槍のような矢が降り注ぐ事になった。  その矢は、彼が気づくよりも早く、彼の頭部に突き刺さり、ぐちゃり、と腐った果実を潰すような音を鳴らす。  それより少し遅れて、その怪物の最期の断末魔がその場に響き渡った。 「ぐわああああーーーーーッ!!」 「クロコダイーーーン!!」  ワニの怪物──その名もクロコダインの身体は、一瞬で串刺しになり、それと同時におそらく彼の生涯は終わった。そんな彼に、知り合いらしき少年たちが二名駆け寄る。  それが一瞬参加者たちの目に映ると同時に、クロコダインを照らしていたスポットライトは消える。しかし、そこに勇猛な怪物の死体があるのは変わらない。  亡骸に寄っていったらしい、少年たちの涙声が痛ましく響く。  ……少なくとも、主催側の用意は、この首輪だけではないという事だ。  ここで反逆すれば、知る限りの残酷な殺し方を示す結果になるらしい。  あれが本物の化け物であるかはわからないが、そこに駆け寄った少年の仲間を想う声が偽物であるとはマクレーンにも思えなかった。  どういう事だかはわからないが、あんな怪物がいたとして……それさえも拘束できるのがこの主催者なのだ──。  残念ながら……純粋な力では敵わないと見た。それでもマクレーンは主催側への反抗心を緩めはしないだろう。 「これでわかっていただけたかな?」  クロコダインが破壊した物とは別のスピーカーから、再び『ノストラダムス』の声が聞こえた。まだ三つのスピーカーが残っており、それでも充分にこの部屋には音声が通る。  二人も殺しておきながら、スピーカーから聞こえる声色には一切の変化がない。そして、その声は無情にルールを説明し続けた。 「残りは六十七名だ。このゲームの勝者には、商品としてどんな願いでも一つだけ叶えてやろう。不老不死、巨万の富、死者蘇生……あらゆる用意もある。信じない者もいるかもしれないが、その証拠を持つ者とは、生きてさえいればいずれ証人に会えるだろう」  付け足すようにそう言ったスピーカーの音声だが、大部分の参加者は賞品よりも、自分の命を優先する。たとえ、本当に不老不死を得られるとしてもこんな事に巻き込まれるのは御免という者が多いだろう。 「……ちょっと待てよ。一つだけ教えてくれ」 「なんだね、金田一一くん」 「どうして俺たちを選んで、こんな事をするんだ? 人間をこんなに集めて手の込んだ用意までして殺し合いなんてさせたって、意味がないじゃないか!」  正義感の籠った怒りの瞳でそう言う一人の高校生ほどの少年。  誰にとっても気がかりな質問であったが、誰も問う事がなかった質問だ。  だが、彼の場合は恐怖よりも真実の追及が勝っているのかもしれない。金田一なる少年は、臆する事なくその質問を『ノストラダムス』に向けた。  スピーカーの音は少し待った後で、答えた。 「……その質問に答える事は出来ない。しかし、道楽に意味など求めない方が良いだろう」  納得できる答えではなかったが、それ以上の追及は無意味という事だ。  唯一聞こえた、「道楽」という部分に、少年は強い怒りを抱いたようだ。 「……わかったよ、あんたがそう言うなら、最初に宣言しておく……。──『ノストラダムス』、お前の正体は俺が絶対暴いてやる! ジッチャンの名にかけて!」  彼が『ノストラダムス』への反抗の意思を告げた次の瞬間である。  ふと、マクレーンは体がふらつくような感覚に苛まれた。そして、強烈な眠気がマクレーンを襲い始め、見れば、周囲の参加者が次々と膝をついて、眠りかけようとしている。  主催側がここで全てのやり取りを終え、全員の意識を一度途切れさせようとしているのだ。 「……参加者諸君に、最後に一つだけアドバイスだ。勝ち残るには、力や武器だけではない。知恵も必要となる。今この状況になっても、そこの金田一くんや古畑くんのように、自分の置かれている状況を冷静に判断する切れ者がいる……上手に利用する事だ」  ──薄れゆく意識の中で、『ノストラダムス』の有難くもないアドバイスだけが聞こえた。  これ以上、反抗する者はいない。……いや、最初から、反抗した者を殺して強さを示す事を目的に、挑発していたのかもしれない。  気づけば、マクレーンは揺れる床に顔をくっつけていた。  最後の意識が、彼に告げる。 「さて……到着だ。君たちが次に目覚める時……殺し合いは既に始まっている……諸君らの健闘を祈る……」  マクレーンたち、その場にいた者たちの意識は、次の瞬間、途切れた。  次に目覚める時──彼らは、バトルロイヤルをする事になる。 &color(red){【美しい魔闘家鈴木@幽☆遊☆白書 死亡】} &color(red){【クロコダイン@DRAGON QUEST-ダイの大冒険- 死亡】} 【主催人物】:不明(怪人名:『ノストラダムス』) ※主催者の音声は加工されており、口調も実際の主催者とはかけ離れている(作られている)可能性が高いです。 ※おそらく複数人。ただし、ブラフである可能性もあり。 *時系列順で読む Next:[[勇者の挑戦]] *投下順で読む Next:[[勇者の挑戦]] |COLOR(BLUE):GAME START|[[ジョン・マクレーン]]|Next:[[]]| |~|[[古畑任三郎]]|Next:[[]]| |~|[[金田一一]]|Next:[[ふたりは平行線]]|
*オープニング  199X年──。  来るべき21世紀を前に、恐怖の大王が堕ちてきた。 ◆ 「──」  声にならない声をあげながら、彼らはゆっくりと目を開け、次に上体を起こした。  冷たい床に眠っていたようだが、果たして自分はいつの間に眠ってしまっていたのか──。そう、誰もが考えている。  人が大量に詰められていても涼しさを覚えるほどに広い部屋にいる。周囲は薄暗い。  そして、微かにその床が上下に揺れており、これがおそらく「船の上」であるのは、推察する事が出来た。 (ここは一体……)  しかし、こんな場所に眠るような出来事は、おそらくここにいる誰の記憶にもない。その証拠に、見える範囲にいる者は「彼」と同じように周囲をきょろきょろと見回している。  周囲には、自分と同じように、目を覚ましている人間で溢れていた。百人はいないだろうが、おそらくその半分は超えている。性別はばらばら、年齢もばらばら(小さな少年少女の姿も目に付く)、国籍はばらばら、酷い時は「人間か否か」さえばらばらなようにさえ見える。……ただ、こう薄暗くては全員を見る事は出来なかった。  周囲にはアジア人が多いようだが、そうなると、彼──ジョン・マクレーンは、つまりその中では異端であるようだ。  始めは人身売買の船の中にでもいるのかと思ったが、そうとは思えないのは──マクレーン自身が、サンフランシスコの有名な市警であるからである。刑事をその手の犯罪に巻き込む者はあまりいないだろう。  逆に、そんな職業だからこそ恨みを買う事もあるのだが、これだけ多種多様な人間をマクレーンと同じ扱いで捕えているあたり、今回は特別そう言う訳でもなさそうだった。  ──おそらくは、「いつもと同じく、偶々、事件に巻き込まれた」という事だと考えて間違いない。 (……ったく……どうしちまったんだ、一体……どうしてまたこんなついてない目に遭うんだ……!)  マクレーンは、まず冷静に事態を順序立てて考える事にした。  自分が何故、今突然、「周囲と全く同じタイミングで目覚める事になったのか」からだ──。今自分がいる状況を知るには、自分の記憶を探らねばならない。  そうだ……先ほど、首元に小さな衝撃を感じたのである。それが彼ら全員の目覚まし時計代わりになっていた。  それを確認する為に首に手を触れて……マクレーンは、一言。 「くそ」  先ほどまで自分が眠っていた床よりも遥かに冷たい──金属の輪が首を一周している事がわかった。こんなに厄介な物が装着されているという事は、拉致されてから随分時間が経っている事になる。  周りの人間を見てみると、誰もが同じ物を身に着けていたようだった。  この人数に同じ物を付けたという事は、組織ぐるみと見て間違いないだろう。  そして、マクレーンが気づいたのと同じように、周囲にいる人間たちそれぞれが首のブツに手をかけ始めていた。それを見て、マクレーンは血相を変える。 「おい、お前ら! 死にたくなければそれに触るな!」  マクレーンは、思わず周囲に警告するようにそう叫んだ。  彼の方を見てざわめいて怯える者もいれば、マクレーン同様に落ち着いて事態を考察する者も多数いたようである。  マクレーンには、嫌な予感がしたのだった。わざわざ取り付けられているこの首輪──おそらくは、ただの飾りじゃない。  むやみに外そうとしてはならないだろう、と、マクレーンはすぐに考察する事が出来た。 「──諸君、お目覚めのようだね」  そんな時だった。部屋の四隅に設置されたスピーカーから、突如、加工された不気味な音声が鳴り響いたのは──。  マクレーンは、そこから聞こえる日本語の音声を、どういうわけか、寸分違わず理解する事が出来た。  だが、注目すべきは、その音声がかなり加工され、男女さえ定かではないような物であったという事だろう。相手は身元の手がかりを、「日本語を解する者」である事以外、全く残さないように注意を払いながら、我々に言葉だけを届けようとしているようだった。  この場に来た時から薄々あった嫌な予感が、倍増する。 「なんだ……?」 「私の名は、『ノストラダムス』……とでもしておこう。──こうして諸君を呼びつけたのはほかでもない。これから、ここにいる皆さんには一つゲームをして頂きたいのだ。スティーヴン・キングの小説に出てくるようなデスゲームを……」  マクレーンの予感は的中した。  それでも、まだ誰も騒ぎ立てる事はなかった。世界中で訳されているベストセラー作家とはいえ、キングを知らない者も少なからずいるだろう。  デスゲーム、という言葉の意味をすぐに思い浮かべる事が出来た者と、出来なかった者がおり──前者は、悉く冷静だったし、後者は騒ぐ事ができなかった。  謎の声は続けた。 「ゲーム名は、『バトルロイヤル』」 「バトルロイヤル……?」 「そう。……これから向かう場所に着いたら、ここにいる者たちで──最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう」  小さな騒ぎが始まったのは、そんな趣旨が明らかになった瞬間だった。まだそこにいる者が現実感を持つまでには至らないらしい。冗談だと一笑する者や、冷静に思考を巡らす者……反応は様々だが、少なくとも、マクレーンは黙りこんだままだった。  今、周囲にいる人間がこれから殺し合いをする敵だとわかったのだ。そう聞いた時点でも、まず周囲を観察しておかなければならない。  やはり、アジア人やヨーロッパ人の小さな女の子供がいる。  マクレーンは自分の娘を思い出す。  そして、少なくとも──ジョン・マクレーンだけは、その時点で方針を決めた。  ──こんな事を言い出す馬鹿をぶちのめす、と。  彼には『ノストラダムス』の言葉の本気度がわかり始めている。マクレーンがここに来る前に携帯していたはずの銃がどういうわけか奪われている事がその理由の一つだ。  相手は、マクレーンが刑事であるのを理解した上で監禁しているらしい。  そして、あらかじめ反抗の為の凶器を奪ったのだ。 「あの~、すみませんちょっと待ってください」 「その声……古畑さん!?」  そして、そんな時、やたらと襟足の長い黒ずくめのアジア人が片手をあげ、嫌に丁寧な口調でその場の騒ぎを止めた。猫背だが独特のオーラを持つ男である。薄暗いせいで顔や手しか見えないのが恐ろしく見えた(まさか、マクレーンも、彼が日本の同職の男だとは思わなかっただろう)。  彼が現れた瞬間、誰かがその男の名前を呼んで駆け寄ったような音がした。その男がこの暗い中で、黒ずくめの男のもとに辿り着けたかは定かではない。 「──何だね。古畑任三郎くん」 「……えー、我々の言葉に返答できたという事は、あなた今、私たちの様子をカメラか何かで観察しているという事ですよね? だとすれば、どうです? んーーー……んっふっふっふっふっ、そんな面倒なやり方で会話をするよりも、我々の前に姿を見せてくださるつもり、ありませんか?」  フルハタ・ニンザブロー。それが彼の名だ。  まだ冗談だと信じ込んでいるのか、それとも、普段からそんな飄々とした口調なのか、彼は間に笑い声のような声を交えながら、そう訊いた。  しかし、会話が成立している点を見ているのはなかなか目の付け所が良い。  マクレーンにはイマイチこの男の正体や性格が掴めないが、古畑の口調は情報を引きだそうとしているようにも見えなくもない。  それから、相手がこちらの名前を把握しているという事も今の会話でわかった。完全に無作為に選んだわけではなく、相手側には「名簿」が存在している。 「残念だが、それは出来ない」 「どうして? やはり~……犯罪、だからですか?」 「……我々の事を知る者がこの中にいる。しかし、参加者の条件や情報は平等でなければならない。我々の正体を知る者がゲーム内に存在してはならず、それゆえ、私も『ノストラダムス』という仮名を使用しているのだ」  我々──つまり、やはり複数犯、あるいは組織ぐるみだという事だ。  果たして、口を滑らせたのか、それとも、そのくらいの情報は見破られる前提なのか。下手をすると、複数と思わせるブラフかもしれない。  ただ、その言葉を切欠に、古畑という男の口調は変わった。まくしたてるように『ノストラダムス』を責めたてる。 「……平等ですか? あんな小さな女の子まで連れてきているのに? ……いや、自慢じゃないですが、私も体力に自信のある方ではありません。しかし、見てください。ここには何人も体格の良い男性がいて、逆にあんな幼い女の子もいる。平等を求めるならどうして子供や私を巻き込むんですか、あなたがた平等という物を少しはき違えてます」 「──古畑くん。あまり調子に乗らない事だ。我々も早々にルールを説明して話を進めなければならない。黙って聞きたまえ」  『ノストラダムス』は、古畑の追及を無視し、少し強い口調で言った。  この返答であっさり引き下がるあたり、古畑という男の様子は奇妙だった。  あのまま情報を引きだすのが普通のやり方だが、両手をひらひらと挙げて歩きだす古畑の様子は、自然と何名かの参加者の目を引いた。 「……君が場を静めてくれた事はひとまず感謝しよう。それでは、ルールを順に説明する」  そして、それと同時に、スピーカーの中から、説明は始まった。  誰もが、声を殺してそれを聞く事になった。今から行う殺し合いゲームとやらが、本物か本物でないのか、見極める為だろう。  まだ本気だと確定したわけではない。だからこそ、これがテレビゲーム大会かドッキリTVである僅かな可能性を信じて、説明を聴き続けようとしているらしい。 「会場に着いたら、諸君の手元にはデイパックが支給される。中には食料や水、ライトや島の地図、筆記用具、いま諸君の周りにいる参加者の名簿、時計が入っている。これらは全員共通だ。しかし、それとは別に参加者によって別々な武器や道具も支給されている……これは、アタリもあれば、武器ですらないハズレもある」 「それから、こちらで今行っているのと同じように、六時間ごとに主催側から音声による放送を行う。死者の名前や残り人数は、その放送で全て説明する。また、これから行く会場で立ち入ってはならない場所──禁止エリアを二時間ごとに定める事になるが、それもここで順番に発表される」 「既に気にしていた者も多いようだが諸君たちの首に巻かれている首輪……その首輪は、無理に外そうとした場合、──あるいは、我々に反抗した場合、それから、禁止エリアに立ち入った場合に、爆発するから気を付けたまえ」  一通りの説明を終えた時に、小さなどよめきが始まった。  今周囲にいる人間たちが敵であるという恐怖よりも──たとえ、隠れていても常に自らを縛る爆弾が装着されているという事実に。  マクレーン自身の予感は的中した。  この首輪は──触れてはならないものだと。そして、これは正真正銘、生身の肉体を使って行う殺し合いであると。  そんな時、『ノストラダムス』の声が叫んだ。 「そう──たとえば、今、誰かの首輪が音を立てているようになったら注意だ」  ──言われて、マクレーンの形相が変わる。焦って、耳を澄ませた。  ピピピピピピピピピピピ……。  小さな電子音が不意に、静まり返ったその場に聞こえ始めた。どこから聞こえるのか──自分の近くではあるが、自分の首元ではなさそうだ。  そんな安堵感を覚える者もいたが、いや、そうではない。誰かの首輪が音を立てているという事は、誰かが死ぬという事だ。マクレーンはそれを許さない。  あの小さなアジア系の子供か、それとも、あの小さなヨーロッパ系の子供か?  電子音は、疎らなどよめきに隠れていく。 「わ、私……!?」  突如、スポットライトが一人のピエロに浴びせられた。それが、どよめきに隠れていた一つの電子音を白日のもとに晒した。  ピエロが首に巻いている金属の輪が、小さな赤色のランプを点滅させていた。そして、音も明らかにそこから発されているのがわかった。  この時、そこにいる参加者たちは、自分のまいている首輪の姿を始めて見る事になったのである。自分ではないと知って、ほっと息をついた者などいない。  誰の目にも、銀色の鉄の塊が凶器に見えた瞬間だった。  あれと同じ物が自分にも巻かれているのだ。 「な、何故私が……!?」 「君がこの殺し合いの見せしめだ。首輪の効果を説明するのに命を使わせてもらう」 「い、いやだ! 他の奴に代わらせてくれ!」 「──悪いが、時間だ」  ピエロが弁解を続けている間に、主催人物の冷徹な言葉が宣告される。  すると、ボンッ! ──と激しい音を立てて、首輪の電子音が終わりを告げた。  そして、そのピエロ──美しい魔闘家鈴木の生涯も。  上体そのものが爆破したかのように、首から上が完全に吹き飛び、下半身が力を喪い倒れた。吹き飛んだ部分は、まるで木片のように小さく周囲の参加者に降り注いだが──それが男の身体だというのは、マクレーンにも一瞬理解できなかった。  首から上は形を残す事もなく、粉々だ。首の下も抉れたので、両腕も体から離れてもげている。黒い焦げ跡が爆発の威力を示していた。 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」  それにより、場内は悲鳴で溢れかえる。女性のものだけではなく、大の男さえもその姿に大きな悲鳴をあげた。初めて人の死を見た者もいただろう。それがこんな残酷な殺しであったとなれば、悲鳴も出よう。  マクレーンでさえも口を噤みながら、強く恐怖したほどだ。長年刑事をやっていても、こんな残酷な殺し方には滅多に出会えるものではない。 「禁止エリアに立ち入った場合も、こうなる運命となる」  あんなものが──全ての参加者の首に。その事実が戦意を削ぐ。  これで、『ノストラダムス』に反抗する者はもう無いかと思われた。  しかし──。 「貴様らの卑劣な行為……このオレが見逃すわけにはいかん! たとえ貴様らがオレの命を握っているとしても、理不尽に人間を殺され、むざむざ従うオレではない!」  そう、まだ、いたのだ。  こんな卑劣な悪事を許せず、どうしても立ち上がってしまうタイプの男が。──「やめろ!」と叫びたいところだが、マクレーンも思わず押し黙ってしまった。  彼の元にも先ほどの鈴木同様、どこからかスポットライトが向けられた。 「!?」  そこにいたのは、ピンク色の顔の二足歩行のワニであった。体は大きく、これから殺し合いをする相手というより、これから人間を襲う相手としか思えない。  映画に出てくるような化け物がそんな声を発しただけでも何人かは驚かざるを得ない。  被り物にしては精巧で、その口や目の動きはハリウッドでもなかなか再現できなさそうなレベルに達している。 「察するに、ここは船の上だ。……だとすれば、別室にはこの船を動かしている貴様らの仲間がいるはず。──どこだ! どこにいる! あのフルハタという男の言った通りだ、オレのたちの前に姿を現せ! さもなければ──こちらから見つけ出すのみ!」  次の瞬間、ワニの怪物は、スピーカーに向けて、手から光を発する。マクレーンは、そんな姿に昔の子供向けテレビ番組のの電子レーザー銃を思い出した。  スピーカーの一つにそれが命中すると、それは小さく爆発し、轟音を鳴らす。光が機械を爆破する姿は、さながら魔法のようであった。 「なっ──」  しかし──それと同時に、怪物の頭部に向けて、真上から一本の太い槍のような矢が降り注ぐ事になった。  その矢は、彼が気づくよりも早く、彼の頭部に突き刺さり、ぐちゃり、と腐った果実を潰すような音を鳴らす。  それより少し遅れて、その怪物の最期の断末魔がその場に響き渡った。 「ぐわああああーーーーーッ!!」 「クロコダイーーーン!!」  ワニの怪物──その名もクロコダインの身体は、一瞬で串刺しになり、それと同時におそらく彼の生涯は終わった。そんな彼に、知り合いらしき少年たちが二名駆け寄る。  それが一瞬参加者たちの目に映ると同時に、クロコダインを照らしていたスポットライトは消える。しかし、そこに勇猛な怪物の死体があるのは変わらない。  亡骸に寄っていったらしい、少年たちの涙声が痛ましく響く。  ……少なくとも、主催側の用意は、この首輪だけではないという事だ。  ここで反逆すれば、知る限りの残酷な殺し方を示す結果になるらしい。  あれが本物の化け物であるかはわからないが、そこに駆け寄った少年の仲間を想う声が偽物であるとはマクレーンにも思えなかった。  どういう事だかはわからないが、あんな怪物がいたとして……それさえも拘束できるのがこの主催者なのだ──。  残念ながら……純粋な力では敵わないと見た。それでもマクレーンは主催側への反抗心を緩めはしないだろう。 「これでわかっていただけたかな?」  クロコダインが破壊した物とは別のスピーカーから、再び『ノストラダムス』の声が聞こえた。まだ三つのスピーカーが残っており、それでも充分にこの部屋には音声が通る。  二人も殺しておきながら、スピーカーから聞こえる声色には一切の変化がない。そして、その声は無情にルールを説明し続けた。 「残りは六十七名だ。このゲームの勝者には、商品としてどんな願いでも一つだけ叶えてやろう。不老不死、巨万の富、死者蘇生……あらゆる用意もある。信じない者もいるかもしれないが、その証拠を持つ者とは、生きてさえいればいずれ証人に会えるだろう」  付け足すようにそう言ったスピーカーの音声だが、大部分の参加者は賞品よりも、自分の命を優先する。たとえ、本当に不老不死を得られるとしてもこんな事に巻き込まれるのは御免という者が多いだろう。 「……ちょっと待てよ。一つだけ教えてくれ」 「なんだね、金田一一くん」 「どうして俺たちを選んで、こんな事をするんだ? 人間をこんなに集めて手の込んだ用意までして殺し合いなんてさせたって、意味がないじゃないか!」  正義感の籠った怒りの瞳でそう言う一人の高校生ほどの少年。  誰にとっても気がかりな質問であったが、誰も問う事がなかった質問だ。  だが、彼の場合は恐怖よりも真実の追及が勝っているのかもしれない。金田一なる少年は、臆する事なくその質問を『ノストラダムス』に向けた。  スピーカーの音は少し待った後で、答えた。 「……その質問に答える事は出来ない。しかし、道楽に意味など求めない方が良いだろう」  納得できる答えではなかったが、それ以上の追及は無意味という事だ。  唯一聞こえた、「道楽」という部分に、少年は強い怒りを抱いたようだ。 「……わかったよ、あんたがそう言うなら、最初に宣言しておく……。──『ノストラダムス』、お前の正体は俺が絶対暴いてやる! ジッチャンの名にかけて!」  彼が『ノストラダムス』への反抗の意思を告げた次の瞬間である。  ふと、マクレーンは体がふらつくような感覚に苛まれた。そして、強烈な眠気がマクレーンを襲い始め、見れば、周囲の参加者が次々と膝をついて、眠りかけようとしている。  主催側がここで全てのやり取りを終え、全員の意識を一度途切れさせようとしているのだ。 「……参加者諸君に、最後に一つだけアドバイスだ。勝ち残るには、力や武器だけではない。知恵も必要となる。今この状況になっても、そこの金田一くんや古畑くんのように、自分の置かれている状況を冷静に判断する切れ者がいる……上手に利用する事だ」  ──薄れゆく意識の中で、『ノストラダムス』の有難くもないアドバイスだけが聞こえた。  これ以上、反抗する者はいない。……いや、最初から、反抗した者を殺して強さを示す事を目的に、挑発していたのかもしれない。  気づけば、マクレーンは揺れる床に顔をくっつけていた。  最後の意識が、彼に告げる。 「さて……到着だ。君たちが次に目覚める時……殺し合いは既に始まっている……諸君らの健闘を祈る……」  マクレーンたち、その場にいた者たちの意識は、次の瞬間、途切れた。  次に目覚める時──彼らは、バトルロイヤルをする事になる。 &color(red){【美しい魔闘家鈴木@幽☆遊☆白書 死亡】} &color(red){【クロコダイン@DRAGON QUEST-ダイの大冒険- 死亡】} 【主催人物】:不明(怪人名:『ノストラダムス』) ※主催者の音声は加工されており、口調も実際の主催者とはかけ離れている(作られている)可能性が高いです。 ※おそらく複数人。ただし、ブラフである可能性もあり。 *時系列順で読む Next:[[勇者の挑戦]] *投下順で読む Next:[[勇者の挑戦]] |COLOR(BLUE):GAME START|[[ジョン・マクレーン]]|Next:[[]]| |~|[[古畑任三郎]]|Next:[[爪を立てた少女]]| |~|[[金田一一]]|Next:[[ふたりは平行線]]|

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