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*勇者の挑戦 「うわぁぁぁぁぁ!!」 鬱蒼と茂る森林の真っ只中。 勇者ダイは、大粒の涙を流し慟哭した。 怒りに任せ何度も地に叩きつけられた、破裂するんじゃないかというくらいに強く握られた拳からは、うっすらと血がにじみ出ている。 「クロコダイン……クロコダイイィン!!」 クロコダインは、ダイにとってかけがえのない仲間であり友であった。 いつも勇猛果敢に、敵がどれだけ強大であろうとも真っ先に立ち向かい、数多くの血路を開いてくれた。 またその強さのみならず、精神面においても人格者と呼ぶに相応しい漢でもあった。 その豪快ながらも義理堅く優しい性格に、自分も仲間達も何度助けられただろうか。 「うぅ……うぅ……!」 しかし……その大切な友は、もうこの世にいない。 ノストラダムスを名乗る悪に自ら立ち向かい、その命を目の前で散らせたのだから。 どれだけ願おうとも、もう二度と会えない。 それが、ダイはどうしようもなく悲しかった……悲しくて堪らなかった。 ――――ゴトリ。 「……え?」 その時だった。 ダイの傍らにあったデイパック―――彼に支給されたそれの中から、何かが音を立てて零れ落ちたのだ。 地面を叩いた衝撃で、どうやら口が開いてしまったらしい。 彼はゆっくりと視線を物音の元へと向け、何が起きたのかを確認しようとし…… そして、現れたその武器を前にして言葉を失った。 「……これは……クロコダインの……!」 クロコダインが愛用していた、怪力を持つ彼だからこそ扱える巨大戦斧―――真空の斧MARK-II。 それがダイに支給されたのは、まったくの偶然と言える事だった。 しかし……彼には、そうは思えなかった。 「……そう、か……」 かつて死の大地で超魔生物と化したハドラーと戦い、氷山に激突して海中に没した時。 潰されて死亡するかに思われたダイを救ったのは、彼の持つ剣であった。 ハドラーとの激突でその身に大きなキズを負ったにもかかわらず、剣は主を死なせまいとして彼の身を守りぬいたのだ。 確かな確固たる魂が、ダイの剣には宿っていたのである。 そう……これは、あの時と同じだ。 まるで、自身を失い涙するダイを慰め鼓舞するかの様に。 死してなお悲しみに暮れる友を救わんとするかの様に。 ―――泣くな、ダイ。 その斧が……そしてクロコダインが、励まし語りかけてくれるかの様に思えてならなかったのだ。 「……うん。  そうだよな……ありがとう、クロコダイン……!」 涙を拭い、静かに顔を上げた。 そうだ……死ぬと分かっていながらもクロコダインが命を捨てたのは、何の為だ? このふざけたバトルロイヤルを止めるためだ。 だから彼は自ら選んで、ノストラダムスに立ち向かったのだ。 自爆呪文で散っていった師の様に。 同じくその真似をした最高の友の様に。 大魔王へ続く道を死を以って開いた父の様に。 ならばここで悲しみに暮れる事は、彼のためになるのか―――否、断じて違う。 成すべき事はただ一つ。 彼の死の意味を決して無駄にしない為にも、勇者としてこのバトルロイヤルを止める事だ。 「待ってろ、ノストラダムス……!  俺は絶対に、お前を倒してこのバトルロイヤルを止めてやる!」 今も自分達をどこかで見ているかもしれない悪へと、ダイは声を上げて宣戦布告した。 そこにはもう、先程までの悲しみに暮れていた表情はない。 あるのは、毅然とした勇ましい勇者に相応しい顔であった。 しかし。 「ムハハ……面白いことを言うではないか」 いかに木々がざわめく森の中といえど、大きな声を出せばそれを聞き取る者が近くにいても不思議ではない。 ダイの宣言は、皮肉にも思いもよらぬ者を呼び寄せてしまっていた。 「では、それだけの大口が叩ける器かどうか……このベガ様が試してやろうではないか……!!」 人の世を救う勇者―――その対極に位置する存在。 即ち、人の世を乱す者を。 ■□■ 「……お前は……!?」 目の前に現れ不適に笑うその男―――ベガの姿を前にして、ダイは息を呑んだ。 身に纏う真紅の軍服がはち切れんばかりの凄まじい筋肉。 その全身から放たれている、禍々しい圧倒的重圧感。 一切隠す事無く向けられる強大な敵意。 似ているのだ。 この男から視て感じる事のできる全てが。 襲い来るプレッシャーが……他でもない、あの恐るべき大魔王バーンとそっくりだ。 故に、ダイはすぐさま悟ることができた。 このベガという男が、敵であると。 絶対に倒さなければならない……凄まじき巨悪であると。 「ヌゥンッ!!」 そうしてダイが覚悟を固めた、まさにその直後だった。 ベガは凄まじい勢いで地を蹴り、彼に肉薄してきた。 その右腕に禍々しい紫光を纏わせ、加速の勢いに乗せてダイの胴体めがけ拳を真っ直ぐに突き出してきたのだ。 「くっ!?」 命中寸前、ダイは咄嗟に両腕を胴の前で交差させ、更に竜闘気を放出した。 ただのガードではだめだ、出来る限りの防御をしなければまずい。 そうベガの様子から判断し、行動に移したのだ。 そして、その判断は間違いではなかった。 「ぐぅぅっ!?」 竜闘気を纏っているにも関わらず、ダイが腕へと受けた打撃は重く強烈なものであった。 それはベガ自身の豪腕よるだけのものではない。 彼が拳に纏う紫光―――闘気に似た何かが、竜闘気の防御すらも上回る程の威力を与えているのだ。 (暗黒闘気……いや、違う! 似てるけど、もっと重たい……すごく、邪悪な感じがする……!!) それは幾度となく対してきた闇の闘気に近く、しかしどこか違う代物だった。 通常の暗黒闘気とも魔炎気とも、何かが異なる。 簡単に言葉には出来ないが……よりどす黒い、より極悪な印象があったのだ。 初めて戦う未知の強敵だ。 何の考えもなしにただ我武者羅に突っ込んではいけない……体勢を立て直し、仕切りなおさなければ。 そう瞬時に悟ると同時に、ダイはすかさず地を蹴り後ろへと距離をとろうとした。 「甘いわっ!!」 しかし、ベガはそれを許そうとはしなかった。 握り締めていた右拳を開くと同時に、彼はその掌に再び紫光を宿らせる。 それはすぐさまボーリングのボール程度の大きさを持つ球状へと変化し…… 「喰らえぃっ!!」 腕を突き出すと共に、ダイ目掛けて射出された。 収束させたオーラを飛び道具として放つ、ベガの必殺の一つ―――サイコショットだ。 「闘気弾……!  なら、紋章閃で!」 それをダイは、竜闘気を弾丸として放つ紋章閃で迎え撃った。 両者が放つエネルギーは、激しく空中で激突し…… ――――ズガァァン!! 「ぬぅ……!!」 轟音と閃光、そして衝撃を伴い弾けた。 両者共にそれを受け止めると、静かに互いの顔へと視線を向ける。 ダイは、未知の力を秘めたベガへの警戒心を込めて。 対するベガは、未知の力を見せるダイへの好奇心を込めて。 それぞれが、相反する感情を胸にして向き合っていた。 「ほう……随分、面白い闘気を持っているではないか。  殺意の波動とはまた違うが、実に強固な闘気よ……」 「……そういうお前こそ……その力は一体……!」 額に汗の玉を浮かばせつつ、ダイは先程からの疑問をベガへとぶつけた。 ベガが纏い操るオーラは、竜闘気にさえも匹敵している。 そこまでに強大かつ不気味な力を、ダイは知らなかった。 力の強弱は抜きにして、これならばバーンの放った暗黒闘気の方がまだ形ははっきりしている。 故に……まるで底が知れない。 「ムハハハハ!  よかろう……冥土の土産に教えてやろう!  我が力の名は、サイコパワー……この世の頂点に君臨する力よ!!」 余裕か、あるいは更なる畏怖を持たせるためか。 ベガはその疑問に、笑みを浮かべて答えた。 自身の持つ力の名―――サイコパワーの名を。 「サイコパワー……?」 「いかにも!  我がサイコパワーは、悪意と憎しみこそを糧とする……あらゆる負の感情こそが、このベガ様の源よ!!」 サイコパワー。 その正体は、負の感情を大元とする極めて強大な超能力の一種。 自己はもちろん、その周囲に漂うありとあらゆる負の感情を力へと転化する恐るべき魔の力。 『人の世を乱す者』と呼ばれる巨悪こそが持ちうる、決して世にあってはならない強大な悪の力なのだ。 「ムハハハハ!!  いいぞ、このバトルロイヤルとやら……中々に面白いものだ。  このベガ様の命を握るという行いだけは気に食わぬが、我が力を高めるには最高の場よ!!」 自身に憎悪を向ける相手の感情をサイコパワーとして取り込み、力の増幅を図る。 より強き力を得るために、ベガは今まで数え切れぬ程にそうした相手を作り上げてきた。 時には、ただそれだけの為に一つの集落を完全に滅ぼし尽くした事すらもあった。 そしてこのバトルロイヤルは、まさに負の感情の溜り場といっても過言ではない。 生きて帰るには他者を殺すしかないという、非情の所業。 そこから生じる怒り・悲しみ・憎しみ―――負を伴う感情は、計り知れないものがあった。 それをベガは、嬉々として受け入れた。 この魔人は、邪悪な笑みを浮かべ……会場全体より漂うその感情を吸収し、己が力へと徐々に変えようと今まさに目論んでいるのだ。 ■□■ 「……何だよ、それ……!!」 ベガの力の正体と、その目的。 全てを聞き終えた時……ダイの中に湧き上がったのは、怒りだった。 サイコパワーの性質などは、どうでもいいと思えるくらいに強く激しい怒りであった。 あろう事かこの男は、このバトルロイヤルを悦んでいる。 自らの力を高める格好の場として認識し、他者の事など歯牙にもかけていないではないか。 どうしようもないぐらいに許せない……最悪を通り越した邪悪だ。 「どうした、何がおかしい?  この世は力こそが全て、悪こそが人の持つ本質!  言うなれば絶対の真理ではないか!!  それを磨き高める事の何が悪いというのだ!!」 「違う!!  そんな力が全てなんて……絶対に、間違ってる!!」 ダイは、ベガの言葉の全てを否定した。 力こそが全て、悪こそが人の真理など絶対に間違っている。 アバン、ブラス、バラン。 彼らは自身に正しき力―――『正義』の意味を、心の意味を教えてくれた。 大切な誰かを守り助ける為に力はあるのだ。 平和を齎す為にこそ、力は振るわれるのだ。 その為に……『勇者』の力はあるのだ。 強大な悪を打ち倒し、人々を守る為に勇者は戦うのだ。 「お前なんかに……絶対に負けるもんか!!」 だから……勇者として、この魔人には絶対に負けるわけにはいかない! 「……気に喰わぬ小僧よ。  虫唾が走るわ……!!」 そんなダイに対し、ベガは露骨に嫌悪感を露にした。 彼の主張が気に入らなかっただけではない。 彼が己に向ける敵意が、あまりにも不快だったからだ。 そこには確かに怒りがある……だが、強い怒りでありながらもまるで憎悪がない。 言うなれば、負を伴わぬ正しき怒り……正義の怒り。 ベガが忌み嫌うものの一つだ。 「その身を、砕き散らしてくれるわ!!」 怒声を上げ、ベガは強く地を蹴り宙へと高く跳躍する。 そのまま両の踵を揃え、急降下―――ヘッドプレスで、ダイの脳天を踏み砕かんとする。 「トベルーラ!!」 それを迎え撃つべく、ダイもまた飛翔呪文で宙へと飛んだ。 距離を急激に詰めつつ、その拳に闘気を収束させてゆく。 そして、迫り来るベガの両足目掛け……全力を込め、一撃を叩き込んだ。 足裏に拳は命中し、確かな手ごたえをダイに与えていた……しかし。 「ぬるいわっ!!」 「ッ!?」 逆にベガは、その一撃を利用した。 ダイの拳を蹴りの威力で受け止めるのではなく、ダメージを最大限に流しながらも衝撃をそのままに受け入れた。 彼の拳を踏み台にして、打撃を反動としてより高く飛び上がったのだ。 もしこれを並の格闘家が実践しようとすれば、両足を砕かれていただろう。 サイコパワーのみならず類稀なる格闘技術を持つベガだからこそ、出来る芸当なのだ……! 「ムハァッ!!」 「ベギラマ!!」 ベガはその両手にサイコパワーを纏い、空中よりの手刀―――サマーソルトスカルダイバーを繰り出した。 ならばと、ダイは閃熱呪文―――ベギラマをその手より放つ。 手刀が届くよりも先に、熱線はベガに襲い掛かった。 サイコパワーと閃熱呪文のぶつかり合い。 それは小規模な爆発を起こし、生じた煙が両者の視界を遮った。 「……違うな、闘気ではない。  貴様……その身にまだ、別の力を宿しているというのか」 白煙の向こうにダイを見据え、サイコパワーで空中に浮遊しつつベガは今の一撃を冷静に分析した。 この熱線は、先程の闘気を用いた一撃ともまた違っている。 これが例えば、自身がよく知る『波動』と『殺意の波動』の様な似通った力ならばまだ分かる。 しかし目の前の敵は強力な闘気を既に身に着けておきながら、その上でなお異なる力を喧嘩させる事無く両立させているのだ。 通常では考えにくい事を、この敵は成しえている。 それがベガにとって、強く興味を引いていた。 (……? こいつ……魔法を知らない?) 一方ダイは、そのベガの様子に僅かな違和感を覚えた。 竜闘気の存在に疑問を思う事はまだ分かる。 他ならぬ自分自身が、父バランと出会うまではその詳細を知らなかったぐらいなのだから。 しかし……魔法を知らないというのは、流石に解せない。 戦闘のみならず医療行為にも、日常生活の補助にすらも使う者がいる程の力だ。 そんな魔法を、何故不思議に思っているのか……ダイには、それが分からなかった。 故に、心の中に奇妙な感覚が生じてしまったのだ。 「ムフフ……ムハハハハッ!!  面白い……実にいいぞ!!  小僧よ、名はなんと言う!!」 「……ダイだ」 しばしの静寂があった後。 ベガは、今まででも一番の笑みを浮かべ声を上げた。 そして名を名乗るよう、ダイへと問いかけた。 ダイもこれを受けて、自らの名を静かに返す。 「ダイ!  分かるぞ……貴様のその肉体、普通ではないな?  この力が何よりもの証拠……生半可な肉体で耐え切れる力ではないはずだ!!」 「ッ!?」 直後、ベガの宣言にダイは驚愕した。 理由は至極簡単……ずばり、言い当てられたからだ。 ダイの肉体は普通の人間のものではない。 彼は、神々の作り上げた究極の生物『竜の騎士』と人間との混血児だ。 実際に、彼が操る竜闘気はもし仮に通常の人間が操ろうと思えば、その力に耐え切れず肉体が崩壊する恐れをも秘めている。 竜の騎士の血統である彼だからこそ、竜闘気は扱えるのだ。 その事実を、そうした事情までは抜きにしてもベガは看破したのである。 そしてそれは……ベガにとって、何よりもの朗報であった。 「ムハハハハッ!!  よもやこの様な形で……このベガが望む肉体を見つけられようとは。  何という行幸よ……!!」 歓喜の叫びを上げ、ベガはダイへと瞬時に接近。 勢いに乗せた強烈な蹴りの打ち下ろしを繰り出し、腕の防御ごとダイの体を地へと落とした。 「くっ……!!」 「受けてみよ……!!」 そして攻撃動作の終了と同時に、ベガは全身よりサイコパワーを発生させた。 今までの中でも最も苛烈で禍々しい紫の光が、その肉体を包み込んでゆく。 続けて、左手を添えた右の腕をダイへと力強く向ける。 その姿を見て、ダイは瞬時に悟った。 今から放たれる一撃こそが、ベガの最も信頼する必殺であると。 「サイコクラッシャァァァァッ!!」 猛烈な勢いで、右腕を先端にしたベガの身がダイへと迫った。 莫大なサイコパワーを身に纏い、自らを弾丸と成し敵を穿つ。 これぞ、ベガの代名詞ともいえる必殺の一撃―――サイコクラッシャーだ……!! 「……!!」 一目で分かる。 このサイコクラッシャーは、威力も勢いも今までの攻撃より上をいっている。 まともに受けて危険なのはもちろん、竜闘気による防御でもどこまで軽減できるか怪しい。 ならば取れる選択肢は、回避しかないか。 「……いや……!!」 否。 ダイがとった選択は、迎撃だった。 サイコクラッシャーは確かに恐るべき破壊力を秘めている技だろうが、同時にひとつの欠点もある。 それはこの技が、完全な肉弾での特攻であるという事だ。 強力なパワーとスピードでの突撃……ならばもし、それに合わせたカウンターを打ち込む事が出来たなら……!! 「……クロコダイン。  力を貸してくれ……!!」 ダイは傍らのデイパックから飛び出している真空の斧の柄を、力強く握り締めた。 ここまでの戦闘においても、この斧を使うと言う選択肢自体は考えていた。 しかし……扱った事のないジャンルの武器であった事は勿論、重量もあり取り回しが難しいこの巨大戦斧を手にして思うように動けるのかという危惧もまたあった。 その為、ダイは敢えてここまで徒手空拳での闘いに徹してきた―――実際、極めて高い格闘スキルを持つベガ相手にはそれで正解であった。 だが、この一撃へのカウンターだけは別だ。 素手では出せない、武器があってこそ可能な必殺の一撃が必要となる。 威力を生み出す必要があるからだ。 故にダイは、この真空の斧を今こそ使うと決めたのだ。 「うおおぉぉぉぉっ!!」 全力で斧を逆手に持ち上げ、竜闘気の力を開放する。 オリハルコンで作られた武器ではない以上、恐らく反動に耐え切れるのはこの一度のみ。 失敗は許されない。 迫り来るベガの姿を真正面に見据え、右手に構えた斧を力強く後方へと引き絞る。 この構えより打ち出されるは、勇者ダイの必殺剣。 師のアバンより受け継いだ、アバン流刀殺法の奥義……!! 「アバン……ストラァァァッシュッ!!」 ■□■ 「……ダイ……やってくれおるわ」 激闘を繰り広げた地から、やや離れたところに位置するその森の中で。 ベガは、自らに支給されていた薬草を複数枚纏めてかじりつつ、その身を静かに休めていた。 サイコクラッシャーに対するアバンストラッシュでのカウンター。 ダイの狙いは間違ってはいない……この上ない正解ともいえる選択だった。 しかし、彼にも二つほど誤算があった。 一つ目は、サイコクラッシャーへのカウンター攻撃が、ベガにとって初めてではないという事だった。 発動中の隙を狙われる事など百も承知。 自身の決め技が持つ弱点など、ベガは当に分かっていたのだ。 故に彼は、ダイがカウンターを狙うと知った瞬間にその軌道を逸らした。 そうする事でタイミングを崩し、カウンターを封じ込めようとしたのである。 これがダイの二つ目の誤算―――サイコクラッシャーが真正面へとただ突っ込むだけの技だと認識してしまった事だ。 実際は、発動中でも多少のレベルならばサイコパワーでの軌道修正が可能なのだ。 だが、これでもなお完全にダイを封じるには至らなかった。 理由は至極簡単……ダイの放ったアバン・ストラッシュが、ベガの想像を超える一撃であったからだ。 結果、両者の必殺は完全に真正面から激突しあう形になった。 その衝撃は凄まじく、どちらともに弾けたエネルギーをまともに受けて吹き飛ばされるという決着に終わったのだ。 「ムハハ……だが、その方が面白みも増すと言うものよ……!」 恐らく、追いかければまだ追いつく距離には互いにいるだろう。 しかしベガは冷静に状況を分析し、追撃をしなかった。 摂取した薬草の効果でそれなりにダメージは回復したが、完全という訳でもない。 ダイの実力は、宿敵たるリュウやローズにも等しい……自身にも匹敵する領域にある。 あれだけの猛者を相手取るならば、それ相応に肉体を整える必要があった。 「ダイ……リュウと同じく、強き肉体と闘気を持った戦士か……!!」 ベガは、この強敵との出会いを喜んでいた。 何故ならば、ダイは己が求め望んでいた理想の肉体と言える存在だからだ。 ベガのサイコパワーはあまりにも強大。 しかしそれ故に、彼はひとつの問題を抱えていた。 その器たる肝心の肉体が、膨大すぎる力に耐え切れなくなり始めているのだ。 このまま時が経ち力を増せば、ベガの肉体は内より崩壊してしまう。 それだけはベガにとって絶対に避けねばならない事態だった……故に彼は、ある対抗策をとった。 魂の移し変え。 ベガはサイコパワーにより今の肉体からより強固なそれへと魂を移植する事で、問題の克服を図ろうとしていたのだ。 その為に彼が目をつけていたのが、サイコパワーに近しい性質である『殺意の波動』をその身に秘めた格闘家―――リュウだった。 彼の肉体を手にする事が出来たならば、完全無欠の状態として君臨が可能となる。 そう考え、彼が完全な殺意の波動に目覚めるようベガは幾度となく暗躍を続けていた。 しかし。 今ここに、そのリュウにも匹敵する……或いはそれ以上のポテンシャルを秘めた肉体の持ち主が現れた。 これまで数多の格闘家をその目にしてきたが、ダイは群を抜いている。 殺意の波動にも比類しうる強大な闘気に、それに耐えうるあの肉体。 しかも彼はまだ子ども……あれでなおも発展途上にあるのだ。 では、もしその肉体を手に出来たならばどうか? サイコパワーの器として……これ程の存在はあるまい。 「ムハハハハッ!!  ダイよ……貴様は果たして、いつまでその純粋さを保っていられる?  未曾有の憎悪が渦巻くであろうこの地で、貴様は果たしてどこまでその正義を貫ける?  その身に絶望が降りた時……その時こそ、貴様は我が最高の肉体として完成するだろう!!」 このバトルロイヤルは、間もなく負の感情がより濃く漂い始める事になるだろう。 果たしてそれにさらされた時、ダイは希望を捨てずにいられるのか。 人の醜い面を見せ付けられた時に、純粋に正義を貫く事が出来るだろうか。 その身が絶望と失意に屈した時こそ……ダイは、ベガの理想の肉体に成りえるであろう。 【A-3/1日目/深夜】 【ベガ@ストリートファイターシリーズ】 [状態]:疲労(軽度)、肉体へのダメージ(小) [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、薬草(残り二枚)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-、不明支給品0~2個 [思考] 基本:バトルロイヤルを勝ち上がり、またその過程で自らのサイコパワーを高める。 0:今は少し体を休め、肉体の回復を待つ。 1:ダイ及びリュウの肉体を新たな魂の器としたい。 2:他の参加者には一切容赦しない。 [備考] ※参戦時期はZERO3からになります。  ファイナルベガ状態ではないですが、今後サイコパワーが高まれば変化する可能性もありえます。 ※自身の近辺に漂う負の感情を取り込むことでサイコパワーの増幅を図っています。  その範囲と増幅のレベルについては以降の書き手さんにお任せします。  また、あまりに力が強大になりすぎると肉体が崩壊する恐れもあります。 ※ダイをリュウと同等かそれ以上の代替ボディとして認めています。 【薬草@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】 名前の通り、肉体に負ったダメージを回復させるための薬草。 回復呪文に比べればその回復量はそこまで高いとはいえないが、それでも呪文を使えない者にとっては貴重な回復手段といえる。 ちなみに、金属生命体の様に生身の肉体を持たない者には効果がない。 ■□■ 「……なんて奴だ……」 奥義同士のぶつかり合いの末、ダイもまた吹き飛ばされた先で身を隠し体力の回復を図っていた。 あのベガは、決して野放しにしてはいけない存在だ。 このバトルロイヤルに、間違いなく悲劇を巻き起こすだろう。 しかし……今すぐに追撃を仕掛けることは出来ない。 肉体のダメージが少なからずあり、そして完全に扱える武器がない。 「……悔しいけど、今は……」 ベガは強大だ。 こんな不完全な状態で挑んでも勝ち目が薄い事を、ダイも理解していた。 大魔王バーンに剣を砕かれ、敗北した時の様に…… 必ず勝利しなければならない相手だからこそ、体勢を整えなおす必要がある。 「けど……絶対に負けるもんか。  絶対に……あいつの様な奴は……!!」 だからこそ。 必ず、次に会った時はベガを倒す。 そう心に決め、ダイはその勇気を奮い立たせた。 ベガの予測とは裏腹に。 人の世を乱すものという圧倒的邪悪を前にしても、彼の魂に宿る純粋な正義は微塵も揺らいではいなかったのだった。 「……ありがとう、クロコダイン。  俺……やるよ。  絶対に、このバトルロイヤルを止めてみせるから」 刃と核が砕け散り無骨な柄のみとなった真空の斧を、ダイは静かに地面に突き刺した。 予想通り、斧はアバン・ストラッシュの反動に耐え切れず粉々になってしまった。 しかし……この斧のおかげで、クロコダインのおかげで自分はこうして生きているのだ。 亡き友の為にも。 墓標代わりとなったその斧の柄に、ダイは強く誓った。 このバトルロイヤルをとめる。 それが……勇者の使命なのだ。 【A-2/1日目/深夜】 【ダイ@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】 [状態]:疲労(中度)、肉体へのダメージ(小) [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2個 [思考] 基本:絶対にこのバトルロイヤルを止めてみせる。 0:体力が回復次第、探索を開始する。 1:ベガの様な奴は絶対に許せない。 2:バトルロイヤルを止めるために仲間を探す。 3:自分の力に耐えれる武器を手に入れたい [備考] ※参戦時期は25巻、クロコダインとヒュンケルの救出後からミナカトール発動前のタイミングになります。 ※A-2の森の中に、真空の斧MARK-IIの柄がクロコダインの墓標代わりとして立てられています。  斧の刃と核は完全に砕け散っており、修復不可能です。 ※ベガのサイコパワーについて知りました。  また、ベガが魔法を知らないことについて違和感を覚えています。 【真空の斧MARK-II@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】 クロコダインが愛用していた真空の斧を、パプリカの発明家バダックが改良して作り上げた武器。 核となる魔宝玉にはバギ系の魔力が宿っており、「唸れ、真空の斧」の掛け声と共にその呪文効果を発揮することが出来る。 高い攻撃力を持つが同時にサイズと重量も相当なものであり、事実上巨体と怪力を持つクロコダインのみが扱える専用武器といってもいい。 *時系列順で読む Back:[[オープニング]] Next:[[乾いた風を素肌に受けながら]] *投下順で読む Back:[[オープニング]] Next:[[乾いた風を素肌に受けながら]] |COLOR(BLUE):GAME START|[[ベガ]]|Next:[[]]| |~|[[ダイ]]|Next:[[]]|
*勇者の挑戦 「うわぁぁぁぁぁ!!」 鬱蒼と茂る森林の真っ只中。 勇者ダイは、大粒の涙を流し慟哭した。 怒りに任せ何度も地に叩きつけられた、破裂するんじゃないかというくらいに強く握られた拳からは、うっすらと血がにじみ出ている。 「クロコダイン……クロコダイイィン!!」 クロコダインは、ダイにとってかけがえのない仲間であり友であった。 いつも勇猛果敢に、敵がどれだけ強大であろうとも真っ先に立ち向かい、数多くの血路を開いてくれた。 またその強さのみならず、精神面においても人格者と呼ぶに相応しい漢でもあった。 その豪快ながらも義理堅く優しい性格に、自分も仲間達も何度助けられただろうか。 「うぅ……うぅ……!」 しかし……その大切な友は、もうこの世にいない。 ノストラダムスを名乗る悪に自ら立ち向かい、その命を目の前で散らせたのだから。 どれだけ願おうとも、もう二度と会えない。 それが、ダイはどうしようもなく悲しかった……悲しくて堪らなかった。 ――――ゴトリ。 「……え?」 その時だった。 ダイの傍らにあったデイパック―――彼に支給されたそれの中から、何かが音を立てて零れ落ちたのだ。 地面を叩いた衝撃で、どうやら口が開いてしまったらしい。 彼はゆっくりと視線を物音の元へと向け、何が起きたのかを確認しようとし…… そして、現れたその武器を前にして言葉を失った。 「……これは……クロコダインの……!」 クロコダインが愛用していた、怪力を持つ彼だからこそ扱える巨大戦斧―――帰ってきた真空の斧MARK-II。 それがダイに支給されたのは、まったくの偶然と言える事だった。 しかし……彼には、そうは思えなかった。 「……そう、か……」 かつて死の大地で超魔生物と化したハドラーと戦い、氷山に激突して海中に没した時。 潰されて死亡するかに思われたダイを救ったのは、彼の持つ剣であった。 ハドラーとの激突でその身に大きなキズを負ったにもかかわらず、剣は主を死なせまいとして彼の身を守りぬいたのだ。 確かな確固たる魂が、ダイの剣には宿っていたのである。 そう……これは、あの時と同じだ。 まるで、自身を失い涙するダイを慰め鼓舞するかの様に。 死してなお悲しみに暮れる友を救わんとするかの様に。 ―――泣くな、ダイ。 その斧が……そしてクロコダインが、励まし語りかけてくれるかの様に思えてならなかったのだ。 「……うん。  そうだよな……ありがとう、クロコダイン……!」 涙を拭い、静かに顔を上げた。 そうだ……死ぬと分かっていながらもクロコダインが命を捨てたのは、何の為だ? このふざけたバトルロイヤルを止めるためだ。 だから彼は自ら選んで、ノストラダムスに立ち向かったのだ。 自爆呪文で散っていった師の様に。 同じくその真似をした最高の友の様に。 大魔王へ続く道を死を以って開いた父の様に。 ならばここで悲しみに暮れる事は、彼のためになるのか―――否、断じて違う。 成すべき事はただ一つ。 彼の死の意味を決して無駄にしない為にも、勇者としてこのバトルロイヤルを止める事だ。 「待ってろ、ノストラダムス……!  俺は絶対に、お前を倒してこのバトルロイヤルを止めてやる!」 今も自分達をどこかで見ているかもしれない悪へと、ダイは声を上げて宣戦布告した。 そこにはもう、先程までの悲しみに暮れていた表情はない。 あるのは、毅然とした勇ましい勇者に相応しい顔であった。 しかし。 「ムハハ……面白いことを言うではないか」 いかに木々がざわめく森の中といえど、大きな声を出せばそれを聞き取る者が近くにいても不思議ではない。 ダイの宣言は、皮肉にも思いもよらぬ者を呼び寄せてしまっていた。 「では、それだけの大口が叩ける器かどうか……このベガ様が試してやろうではないか……!!」 人の世を救う勇者―――その対極に位置する存在。 即ち、人の世を乱す者を。 ■□■ 「……お前は……!?」 目の前に現れ不適に笑うその男―――ベガの姿を前にして、ダイは息を呑んだ。 身に纏う真紅の軍服がはち切れんばかりの凄まじい筋肉。 その全身から放たれている、禍々しい圧倒的重圧感。 一切隠す事無く向けられる強大な敵意。 似ているのだ。 この男から視て感じる事のできる全てが。 襲い来るプレッシャーが……他でもない、あの恐るべき大魔王バーンとそっくりだ。 故に、ダイはすぐさま悟ることができた。 このベガという男が、敵であると。 絶対に倒さなければならない……凄まじき巨悪であると。 「ヌゥンッ!!」 そうしてダイが覚悟を固めた、まさにその直後だった。 ベガは凄まじい勢いで地を蹴り、彼に肉薄してきた。 その右腕に禍々しい紫光を纏わせ、加速の勢いに乗せてダイの胴体めがけ拳を真っ直ぐに突き出してきたのだ。 「くっ!?」 命中寸前、ダイは咄嗟に両腕を胴の前で交差させ、更に竜闘気を放出した。 ただのガードではだめだ、出来る限りの防御をしなければまずい。 そうベガの様子から判断し、行動に移したのだ。 そして、その判断は間違いではなかった。 「ぐぅぅっ!?」 竜闘気を纏っているにも関わらず、ダイが腕へと受けた打撃は重く強烈なものであった。 それはベガ自身の豪腕よるだけのものではない。 彼が拳に纏う紫光―――闘気に似た何かが、竜闘気の防御すらも上回る程の威力を与えているのだ。 (暗黒闘気……いや、違う! 似てるけど、もっと重たい……すごく、邪悪な感じがする……!!) それは幾度となく対してきた闇の闘気に近く、しかしどこか違う代物だった。 通常の暗黒闘気とも魔炎気とも、何かが異なる。 簡単に言葉には出来ないが……よりどす黒い、より極悪な印象があったのだ。 初めて戦う未知の強敵だ。 何の考えもなしにただ我武者羅に突っ込んではいけない……体勢を立て直し、仕切りなおさなければ。 そう瞬時に悟ると同時に、ダイはすかさず地を蹴り後ろへと距離をとろうとした。 「甘いわっ!!」 しかし、ベガはそれを許そうとはしなかった。 握り締めていた右拳を開くと同時に、彼はその掌に再び紫光を宿らせる。 それはすぐさまボーリングのボール程度の大きさを持つ球状へと変化し…… 「喰らえぃっ!!」 腕を突き出すと共に、ダイ目掛けて射出された。 収束させたオーラを飛び道具として放つ、ベガの必殺の一つ―――サイコショットだ。 「闘気弾……!  なら、紋章閃で!」 それをダイは、竜闘気を弾丸として放つ紋章閃で迎え撃った。 両者が放つエネルギーは、激しく空中で激突し…… ――――ズガァァン!! 「ぬぅ……!!」 轟音と閃光、そして衝撃を伴い弾けた。 両者共にそれを受け止めると、静かに互いの顔へと視線を向ける。 ダイは、未知の力を秘めたベガへの警戒心を込めて。 対するベガは、未知の力を見せるダイへの好奇心を込めて。 それぞれが、相反する感情を胸にして向き合っていた。 「ほう……随分、面白い闘気を持っているではないか。  殺意の波動とはまた違うが、実に強固な闘気よ……」 「……そういうお前こそ……その力は一体……!」 額に汗の玉を浮かばせつつ、ダイは先程からの疑問をベガへとぶつけた。 ベガが纏い操るオーラは、竜闘気にさえも匹敵している。 そこまでに強大かつ不気味な力を、ダイは知らなかった。 力の強弱は抜きにして、これならばバーンの放った暗黒闘気の方がまだ形ははっきりしている。 故に……まるで底が知れない。 「ムハハハハ!  よかろう……冥土の土産に教えてやろう!  我が力の名は、サイコパワー……この世の頂点に君臨する力よ!!」 余裕か、あるいは更なる畏怖を持たせるためか。 ベガはその疑問に、笑みを浮かべて答えた。 自身の持つ力の名―――サイコパワーの名を。 「サイコパワー……?」 「いかにも!  我がサイコパワーは、悪意と憎しみこそを糧とする……あらゆる負の感情こそが、このベガ様の源よ!!」 サイコパワー。 その正体は、負の感情を大元とする極めて強大な超能力の一種。 自己はもちろん、その周囲に漂うありとあらゆる負の感情を力へと転化する恐るべき魔の力。 『人の世を乱す者』と呼ばれる巨悪こそが持ちうる、決して世にあってはならない強大な悪の力なのだ。 「ムハハハハ!!  いいぞ、このバトルロイヤルとやら……中々に面白いものだ。  このベガ様の命を握るという行いだけは気に食わぬが、我が力を高めるには最高の場よ!!」 自身に憎悪を向ける相手の感情をサイコパワーとして取り込み、力の増幅を図る。 より強き力を得るために、ベガは今まで数え切れぬ程にそうした相手を作り上げてきた。 時には、ただそれだけの為に一つの集落を完全に滅ぼし尽くした事すらもあった。 そしてこのバトルロイヤルは、まさに負の感情の溜り場といっても過言ではない。 生きて帰るには他者を殺すしかないという、非情の所業。 そこから生じる怒り・悲しみ・憎しみ―――負を伴う感情は、計り知れないものがあった。 それをベガは、嬉々として受け入れた。 この魔人は、邪悪な笑みを浮かべ……会場全体より漂うその感情を吸収し、己が力へと徐々に変えようと今まさに目論んでいるのだ。 ■□■ 「……何だよ、それ……!!」 ベガの力の正体と、その目的。 全てを聞き終えた時……ダイの中に湧き上がったのは、怒りだった。 サイコパワーの性質などは、どうでもいいと思えるくらいに強く激しい怒りであった。 あろう事かこの男は、このバトルロイヤルを悦んでいる。 自らの力を高める格好の場として認識し、他者の事など歯牙にもかけていないではないか。 どうしようもないぐらいに許せない……最悪を通り越した邪悪だ。 「どうした、何がおかしい?  この世は力こそが全て、悪こそが人の持つ本質!  言うなれば絶対の真理ではないか!!  それを磨き高める事の何が悪いというのだ!!」 「違う!!  そんな力が全てなんて……絶対に、間違ってる!!」 ダイは、ベガの言葉の全てを否定した。 力こそが全て、悪こそが人の真理など絶対に間違っている。 アバン、ブラス、バラン。 彼らは自身に正しき力―――『正義』の意味を、心の意味を教えてくれた。 大切な誰かを守り助ける為に力はあるのだ。 平和を齎す為にこそ、力は振るわれるのだ。 その為に……『勇者』の力はあるのだ。 強大な悪を打ち倒し、人々を守る為に勇者は戦うのだ。 「お前なんかに……絶対に負けるもんか!!」 だから……勇者として、この魔人には絶対に負けるわけにはいかない! 「……気に喰わぬ小僧よ。  虫唾が走るわ……!!」 そんなダイに対し、ベガは露骨に嫌悪感を露にした。 彼の主張が気に入らなかっただけではない。 彼が己に向ける敵意が、あまりにも不快だったからだ。 そこには確かに怒りがある……だが、強い怒りでありながらもまるで憎悪がない。 言うなれば、負を伴わぬ正しき怒り……正義の怒り。 ベガが忌み嫌うものの一つだ。 「その身を、砕き散らしてくれるわ!!」 怒声を上げ、ベガは強く地を蹴り宙へと高く跳躍する。 そのまま両の踵を揃え、急降下―――ヘッドプレスで、ダイの脳天を踏み砕かんとする。 「トベルーラ!!」 それを迎え撃つべく、ダイもまた飛翔呪文で宙へと飛んだ。 距離を急激に詰めつつ、その拳に闘気を収束させてゆく。 そして、迫り来るベガの両足目掛け……全力を込め、一撃を叩き込んだ。 足裏に拳は命中し、確かな手ごたえをダイに与えていた……しかし。 「ぬるいわっ!!」 「ッ!?」 逆にベガは、その一撃を利用した。 ダイの拳を蹴りの威力で受け止めるのではなく、ダメージを最大限に流しながらも衝撃をそのままに受け入れた。 彼の拳を踏み台にして、打撃を反動としてより高く飛び上がったのだ。 もしこれを並の格闘家が実践しようとすれば、両足を砕かれていただろう。 サイコパワーのみならず類稀なる格闘技術を持つベガだからこそ、出来る芸当なのだ……! 「ムハァッ!!」 「ベギラマ!!」 ベガはその両手にサイコパワーを纏い、空中よりの手刀―――サマーソルトスカルダイバーを繰り出した。 ならばと、ダイは閃熱呪文―――ベギラマをその手より放つ。 手刀が届くよりも先に、熱線はベガに襲い掛かった。 サイコパワーと閃熱呪文のぶつかり合い。 それは小規模な爆発を起こし、生じた煙が両者の視界を遮った。 「……違うな、闘気ではない。  貴様……その身にまだ、別の力を宿しているというのか」 白煙の向こうにダイを見据え、サイコパワーで空中に浮遊しつつベガは今の一撃を冷静に分析した。 この熱線は、先程の闘気を用いた一撃ともまた違っている。 これが例えば、自身がよく知る『波動』と『殺意の波動』の様な似通った力ならばまだ分かる。 しかし目の前の敵は強力な闘気を既に身に着けておきながら、その上でなお異なる力を喧嘩させる事無く両立させているのだ。 通常では考えにくい事を、この敵は成しえている。 それがベガにとって、強く興味を引いていた。 (……? こいつ……魔法を知らない?) 一方ダイは、そのベガの様子に僅かな違和感を覚えた。 竜闘気の存在に疑問を思う事はまだ分かる。 他ならぬ自分自身が、父バランと出会うまではその詳細を知らなかったぐらいなのだから。 しかし……魔法を知らないというのは、流石に解せない。 戦闘のみならず医療行為にも、日常生活の補助にすらも使う者がいる程の力だ。 そんな魔法を、何故不思議に思っているのか……ダイには、それが分からなかった。 故に、心の中に奇妙な感覚が生じてしまったのだ。 「ムフフ……ムハハハハッ!!  面白い……実にいいぞ!!  小僧よ、名はなんと言う!!」 「……ダイだ」 しばしの静寂があった後。 ベガは、今まででも一番の笑みを浮かべ声を上げた。 そして名を名乗るよう、ダイへと問いかけた。 ダイもこれを受けて、自らの名を静かに返す。 「ダイ!  分かるぞ……貴様のその肉体、普通ではないな?  この力が何よりもの証拠……生半可な肉体で耐え切れる力ではないはずだ!!」 「ッ!?」 直後、ベガの宣言にダイは驚愕した。 理由は至極簡単……ずばり、言い当てられたからだ。 ダイの肉体は普通の人間のものではない。 彼は、神々の作り上げた究極の生物『竜の騎士』と人間との混血児だ。 実際に、彼が操る竜闘気はもし仮に通常の人間が操ろうと思えば、その力に耐え切れず肉体が崩壊する恐れをも秘めている。 竜の騎士の血統である彼だからこそ、竜闘気は扱えるのだ。 その事実を、そうした事情までは抜きにしてもベガは看破したのである。 そしてそれは……ベガにとって、何よりもの朗報であった。 「ムハハハハッ!!  よもやこの様な形で……このベガが望む肉体を見つけられようとは。  何という行幸よ……!!」 歓喜の叫びを上げ、ベガはダイへと瞬時に接近。 勢いに乗せた強烈な蹴りの打ち下ろしを繰り出し、腕の防御ごとダイの体を地へと落とした。 「くっ……!!」 「受けてみよ……!!」 そして攻撃動作の終了と同時に、ベガは全身よりサイコパワーを発生させた。 今までの中でも最も苛烈で禍々しい紫の光が、その肉体を包み込んでゆく。 続けて、左手を添えた右の腕をダイへと力強く向ける。 その姿を見て、ダイは瞬時に悟った。 今から放たれる一撃こそが、ベガの最も信頼する必殺であると。 「サイコクラッシャァァァァッ!!」 猛烈な勢いで、右腕を先端にしたベガの身がダイへと迫った。 莫大なサイコパワーを身に纏い、自らを弾丸と成し敵を穿つ。 これぞ、ベガの代名詞ともいえる必殺の一撃―――サイコクラッシャーだ……!! 「……!!」 一目で分かる。 このサイコクラッシャーは、威力も勢いも今までの攻撃より上をいっている。 まともに受けて危険なのはもちろん、竜闘気による防御でもどこまで軽減できるか怪しい。 ならば取れる選択肢は、回避しかないか。 「……いや……!!」 否。 ダイがとった選択は、迎撃だった。 サイコクラッシャーは確かに恐るべき破壊力を秘めている技だろうが、同時にひとつの欠点もある。 それはこの技が、完全な肉弾での特攻であるという事だ。 強力なパワーとスピードでの突撃……ならばもし、それに合わせたカウンターを打ち込む事が出来たなら……!! 「……クロコダイン。  力を貸してくれ……!!」 ダイは傍らのデイパックから飛び出している真空の斧の柄を、力強く握り締めた。 ここまでの戦闘においても、この斧を使うと言う選択肢自体は考えていた。 しかし……扱った事のないジャンルの武器であった事は勿論、重量もあり取り回しが難しいこの巨大戦斧を手にして思うように動けるのかという危惧もまたあった。 その為、ダイは敢えてここまで徒手空拳での闘いに徹してきた―――実際、極めて高い格闘スキルを持つベガ相手にはそれで正解であった。 だが、この一撃へのカウンターだけは別だ。 素手では出せない、武器があってこそ可能な必殺の一撃が必要となる。 威力を生み出す必要があるからだ。 故にダイは、この真空の斧を今こそ使うと決めたのだ。 「うおおぉぉぉぉっ!!」 全力で斧を逆手に持ち上げ、竜闘気の力を開放する。 オリハルコンで作られた武器ではない以上、恐らく反動に耐え切れるのはこの一度のみ。 失敗は許されない。 迫り来るベガの姿を真正面に見据え、右手に構えた斧を力強く後方へと引き絞る。 この構えより打ち出されるは、勇者ダイの必殺剣。 師のアバンより受け継いだ、アバン流刀殺法の奥義……!! 「アバン……ストラァァァッシュッ!!」 ■□■ 「……ダイ……やってくれおるわ」 激闘を繰り広げた地から、やや離れたところに位置するその森の中で。 ベガは、自らに支給されていた薬草を複数枚纏めてかじりつつ、その身を静かに休めていた。 サイコクラッシャーに対するアバンストラッシュでのカウンター。 ダイの狙いは間違ってはいない……この上ない正解ともいえる選択だった。 しかし、彼にも二つほど誤算があった。 一つ目は、サイコクラッシャーへのカウンター攻撃が、ベガにとって初めてではないという事だった。 発動中の隙を狙われる事など百も承知。 自身の決め技が持つ弱点など、ベガは当に分かっていたのだ。 故に彼は、ダイがカウンターを狙うと知った瞬間にその軌道を逸らした。 そうする事でタイミングを崩し、カウンターを封じ込めようとしたのである。 これがダイの二つ目の誤算―――サイコクラッシャーが真正面へとただ突っ込むだけの技だと認識してしまった事だ。 実際は、発動中でも多少のレベルならばサイコパワーでの軌道修正が可能なのだ。 だが、これでもなお完全にダイを封じるには至らなかった。 理由は至極簡単……ダイの放ったアバン・ストラッシュが、ベガの想像を超える一撃であったからだ。 結果、両者の必殺は完全に真正面から激突しあう形になった。 その衝撃は凄まじく、どちらともに弾けたエネルギーをまともに受けて吹き飛ばされるという決着に終わったのだ。 「ムハハ……だが、その方が面白みも増すと言うものよ……!」 恐らく、追いかければまだ追いつく距離には互いにいるだろう。 しかしベガは冷静に状況を分析し、追撃をしなかった。 摂取した薬草の効果でそれなりにダメージは回復したが、完全という訳でもない。 ダイの実力は、宿敵たるリュウやローズにも等しい……自身にも匹敵する領域にある。 あれだけの猛者を相手取るならば、それ相応に肉体を整える必要があった。 「ダイ……リュウと同じく、強き肉体と闘気を持った戦士か……!!」 ベガは、この強敵との出会いを喜んでいた。 何故ならば、ダイは己が求め望んでいた理想の肉体と言える存在だからだ。 ベガのサイコパワーはあまりにも強大。 しかしそれ故に、彼はひとつの問題を抱えていた。 その器たる肝心の肉体が、膨大すぎる力に耐え切れなくなり始めているのだ。 このまま時が経ち力を増せば、ベガの肉体は内より崩壊してしまう。 それだけはベガにとって絶対に避けねばならない事態だった……故に彼は、ある対抗策をとった。 魂の移し変え。 ベガはサイコパワーにより今の肉体からより強固なそれへと魂を移植する事で、問題の克服を図ろうとしていたのだ。 その為に彼が目をつけていたのが、サイコパワーに近しい性質である『殺意の波動』をその身に秘めた格闘家―――リュウだった。 彼の肉体を手にする事が出来たならば、完全無欠の状態として君臨が可能となる。 そう考え、彼が完全な殺意の波動に目覚めるようベガは幾度となく暗躍を続けていた。 しかし。 今ここに、そのリュウにも匹敵する……或いはそれ以上のポテンシャルを秘めた肉体の持ち主が現れた。 これまで数多の格闘家をその目にしてきたが、ダイは群を抜いている。 殺意の波動にも比類しうる強大な闘気に、それに耐えうるあの肉体。 しかも彼はまだ子ども……あれでなおも発展途上にあるのだ。 では、もしその肉体を手に出来たならばどうか? サイコパワーの器として……これ程の存在はあるまい。 「ムハハハハッ!!  ダイよ……貴様は果たして、いつまでその純粋さを保っていられる?  未曾有の憎悪が渦巻くであろうこの地で、貴様は果たしてどこまでその正義を貫ける?  その身に絶望が降りた時……その時こそ、貴様は我が最高の肉体として完成するだろう!!」 このバトルロイヤルは、間もなく負の感情がより濃く漂い始める事になるだろう。 果たしてそれにさらされた時、ダイは希望を捨てずにいられるのか。 人の醜い面を見せ付けられた時に、純粋に正義を貫く事が出来るだろうか。 その身が絶望と失意に屈した時こそ……ダイは、ベガの理想の肉体に成りえるであろう。 【A-3/1日目/深夜】 【ベガ@ストリートファイターシリーズ】 [状態]:疲労(軽度)、肉体へのダメージ(小) [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、薬草(残り二枚)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-、不明支給品0~2個 [思考] 基本:バトルロイヤルを勝ち上がり、またその過程で自らのサイコパワーを高める。 0:今は少し体を休め、肉体の回復を待つ。 1:ダイ及びリュウの肉体を新たな魂の器としたい。 2:他の参加者には一切容赦しない。 [備考] ※参戦時期はZERO3からになります。  ファイナルベガ状態ではないですが、今後サイコパワーが高まれば変化する可能性もありえます。 ※自身の近辺に漂う負の感情を取り込むことでサイコパワーの増幅を図っています。  その範囲と増幅のレベルについては以降の書き手さんにお任せします。  また、あまりに力が強大になりすぎると肉体が崩壊する恐れもあります。 ※ダイをリュウと同等かそれ以上の代替ボディとして認めています。 【薬草@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】 名前の通り、肉体に負ったダメージを回復させるための薬草。 回復呪文に比べればその回復量はそこまで高いとはいえないが、それでも呪文を使えない者にとっては貴重な回復手段といえる。 ちなみに、金属生命体の様に生身の肉体を持たない者には効果がない。 ■□■ 「……なんて奴だ……」 奥義同士のぶつかり合いの末、ダイもまた吹き飛ばされた先で身を隠し体力の回復を図っていた。 あのベガは、決して野放しにしてはいけない存在だ。 このバトルロイヤルに、間違いなく悲劇を巻き起こすだろう。 しかし……今すぐに追撃を仕掛けることは出来ない。 肉体のダメージが少なからずあり、そして完全に扱える武器がない。 「……悔しいけど、今は……」 ベガは強大だ。 こんな不完全な状態で挑んでも勝ち目が薄い事を、ダイも理解していた。 大魔王バーンに剣を砕かれ、敗北した時の様に…… 必ず勝利しなければならない相手だからこそ、体勢を整えなおす必要がある。 「けど……絶対に負けるもんか。  絶対に……あいつの様な奴は……!!」 だからこそ。 必ず、次に会った時はベガを倒す。 そう心に決め、ダイはその勇気を奮い立たせた。 ベガの予測とは裏腹に。 人の世を乱すものという圧倒的邪悪を前にしても、彼の魂に宿る純粋な正義は微塵も揺らいではいなかったのだった。 「……ありがとう、クロコダイン。  俺……やるよ。  絶対に、このバトルロイヤルを止めてみせるから」 刃と核が砕け散り無骨な柄のみとなった真空の斧を、ダイは静かに地面に突き刺した。 予想通り、斧はアバン・ストラッシュの反動に耐え切れず粉々になってしまった。 しかし……この斧のおかげで、クロコダインのおかげで自分はこうして生きているのだ。 亡き友の為にも。 墓標代わりとなったその斧の柄に、ダイは強く誓った。 このバトルロイヤルをとめる。 それが……勇者の使命なのだ。 【A-2/1日目/深夜】 【ダイ@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】 [状態]:疲労(中度)、肉体へのダメージ(小) [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2個 [思考] 基本:絶対にこのバトルロイヤルを止めてみせる。 0:体力が回復次第、探索を開始する。 1:ベガの様な奴は絶対に許せない。 2:バトルロイヤルを止めるために仲間を探す。 3:自分の力に耐えれる武器を手に入れたい [備考] ※参戦時期は25巻、クロコダインとヒュンケルの救出後からミナカトール発動前のタイミングになります。 ※A-2の森の中に、真空の斧MARK-IIの柄がクロコダインの墓標代わりとして立てられています。  斧の刃と核は完全に砕け散っており、修復不可能です。 ※ベガのサイコパワーについて知りました。  また、ベガが魔法を知らないことについて違和感を覚えています。 【帰ってきた真空の斧MARK-II@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】 クロコダインが愛用していた真空の斧を、パプリカの発明家バダックが改良して作り上げた武器。 核となる魔宝玉にはバギ系の魔力が宿っており、「唸れ、真空の斧」の掛け声と共にその呪文効果を発揮することが出来る。 高い攻撃力を持つが同時にサイズと重量も相当なものであり、事実上巨体と怪力を持つクロコダインのみが扱える専用武器といってもいい。 余談だが、名前があまりにも長すぎるためか作中で正式名称を呼ばれたことは最初の一回しかない。 *時系列順で読む Back:[[オープニング]] Next:[[乾いた風を素肌に受けながら]] *投下順で読む Back:[[オープニング]] Next:[[乾いた風を素肌に受けながら]] |COLOR(BLUE):GAME START|[[ベガ]]|Next:[[]]| |~|[[ダイ]]|Next:[[]]|

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