世界の理を壊すモノ




「……………………な、何よこれ? 何で私がこんな首輪を付けられなくちゃいけないのよ!!」

一面に広がる草むらの中、まだ幼さの残る少女が途方に暮れていた。
友枝小学校に通う少女、李苺鈴は先ほど船上で繰り広げられた惨劇を思い出す。
ピエロと鰐が首輪の爆発によって死んだ。
元来、苺鈴は怖いもの知らずと言える性格である。
小狼を追って日本まで来たほどだ。
そして日本においてクロウカードを巡る様々な事件を、小狼らと共に解決してきた。
しかしそんな苺鈴も何者かの死、それも人の死には接した経験は無い。
今でもはっきりと思い出せる。
生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感。
まだ小学生である苺鈴には、あまりにも強い衝撃だった。
未だにそれが癒え無いほどに。
そして、ピエロと鰐の命を奪った首輪が苺鈴の首にも嵌っている。
これが爆発すれば、自分も同じ運命を辿ることになる。
今までの人生において、意識したことも無かった自分の死。
殺し合いに勝ち残らなければ、その運命は不可避なのだ。
それに考えが至った途端、苺鈴を耐え難いほどの恐怖が襲う。

「……………………だ、大体なんなのあの喋るピンク色の鰐は!?
あんなの香港でも日本でも、見たことも聞いたことも無いわよ!
あんな物で誰が騙されるって言うのよ!!」

耐え難いほどの恐怖。
ゆえに苺鈴はその原因を否定する。
自分が見たはずの、ピエロや鰐の”死”を。
そして自分を欺く。迫り来る”死”など偽物だと。
否、その心底においては実は欺き切れてはいない。
苺鈴自身がそれを見て、そして感じ取っていたのだから。
あの生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感を。
それゆえに苺鈴は無理やりにでも、船上での惨劇が紛い物だと自分に言い聞かせていた。

「本物だったわよ。霊力は感じ取れたもの」

不意の声に、苺鈴は飛び跳ねそうな勢いで全身を振るわせる。
恐る恐ると言った様子で声の方を向く苺鈴。

そこに居たのは一人の女だった。
形容しようの無い奇妙な衣装に、頭から虫の触覚のような物を伸ばしている。
他に人影が見えない以上、声を掛けて来たのはその女のはずだ。
しかし女は苺鈴を向いてはいない。
物憂げな視線を、どこか遠くにやっている。

(何こいつ? 自分から話かけといて……)

不可解な容姿と態度の女を、苺鈴は不審感を露にする。
それにも構わず、女は遠くを見つめながら話し続けた。

「……ここからだと、朝焼けが見えるかしら?」
「知らないわよ! 私も来たばっかりなんだから!」

女の素っ頓狂な質問に思わずつっこむ苺鈴。
その様子に女は微かに目を丸くした後、笑みを浮かべた。
しかしその笑みを見た苺鈴は、何故かより不安感を強めた。

「もうすぐ朝焼けの時間がくる……夜と朝の一瞬のすきま。
でも私は昼と夜の一瞬のすきま、夕焼けの方が好き……」
「……さっきから何の話してるのよ?」

話を続ける女は、苺鈴ではなく自分に語り掛けているようだった。
それはまるで何かを、と言うより全てを諦めたような、
諦念を漂わせていた。
それが余計、苺鈴の不安感を煽る。

「自分を重ねているのよね、夕焼けに。私は一度夜を迎えて、死んだはずだった……。
そして生き返ったと思ったら、今度は殺し合い……ヨコシマも一緒に」
「ねえ…………私に何の用なのよ……」

女が何の用かは、薄々勘付いていた。
殺し合い。
その見せしめを本物だと言った。
話によれば知り合いと殺し合いに参加している。
そして諦念に満ちた態度。

苺鈴はその場から、逃げ出そうと走り出す。
女はその背に向けて手をかざした。

「きっと私は長く生きられない運命なのよ。でも命の長さなんて関係無い。
私はヨコシマのために、アシュ様も裏切った。きっと何だって出来る……ヨコシマのためなら」

女の手に霊力が集まり、光を放つ。
そして霊力は霊波・波動と化して発射。
霊波は瞬時に走る苺鈴を捉える。
しかし苺鈴は霊波に当たる直前に、それを両腕で防いでいた。

李家で生まれ育った苺鈴は、武術もそれなりに修めている。
霊波から逃げ切れないと悟った苺鈴は、咄嗟に防御の体勢を取っていた。
問題はそれでも霊波の威力を抑え切れなかったことだ。
身体ごと衝撃で持っていかれる。
苺鈴は為す術無く、地面に倒された。

「変ね……霊力が弱まってるの?」

しかし苺鈴を倒した霊波の威力に、女は納得がいっていない。
女はその気になれば人間一人など容易に殺すことができる。
女は魔族。その中でも超上級魔族たるアシュタロスが、来るべき神族・魔族との決戦のために
直属の部下として作り上げた三姉妹の一人。
蛍の化身、ルシオラ。

「まあ、直接殺すのが確実よね」

ルシオラは苺鈴を殺すべく歩を進める。
苺鈴が立ち上がった時には、既に目前にルシオラが居た。

苺鈴をその腕で殺せる距離。

「……いや…………助けて小狼!」

怯える苺鈴は、思わず想い人に助けを求めた。
苺鈴が日本まで来たのは、小狼の助けになるためだった。
しかし現実に、自分に危険が迫った時には、
心底にある小狼を頼りにする気持ちが、図らずも表に出てしまう。
それほど今の苺鈴は恐怖に震えている。

そしてルシオラもまた、かつて無い悪寒に襲われた。

魔族の、蛍の化身としての直感が告げていた。
何か途轍もなく恐ろしい物が、近付いていると。
強力な魔族である自分が恐れるほどの物が?
苺鈴を前に、不可解な想いに囚われて惑うルシオラ。

そのルシオラの腹から拳が生えた。

拳がルシオラを背中から腹に貫いたのだ。
苺鈴に当たる寸前、鼻先で止まる拳。
血と肉片が苺鈴に飛び散る。
その光景が、苺鈴に思い知らせる。

あの船上での惨劇はやはり本物だったと。
殺し合いの脅威は自分に迫っていると。
そして、途轍もなく恐ろしい物が目前に存在すると。

ルシオラを貫いた腕は、正に筋骨隆々にして赤く凶々しいオーラを纏っている。
腕はそのまま持ち上がり、ルシオラの上半身を縦に引き裂いた。
一片の慈悲も無い殺意。
それを纏った男が、ルシオラを引き裂く。
男はルシオラの死体を無造作に投げ捨てる。
目前で呆気無く行われた殺人。
何よりそれを容易く行った男が怖かった。

鍛え抜いたと言うのすら生温い、強大で高密度の筋肉。

そこから溢れ出る狂猛で凶々しいオーラ。

その形相は正しく”鬼”その物。

「我、拳を極めし者!! 妖とて敵に非ず!」

拳を極めし者。
自らをそう呼んで憚らぬ者は、ストリートファイターの世界においてもただ一人。
拳の修行の果てに、殺意の波動を身に付けた、
この豪鬼のみである。

豪鬼は苺鈴を無造作に見下ろす。
苺鈴は射竦められたがごとくに、動けない。

「死合いの気構えも無き童、我が拳に値せず」

吐き捨てるように言い放つ豪鬼。
突き放すような言葉に、苺鈴は一瞬自分が見逃されるのではないかと期待する。
しかしすぐにそれは思い違いだと悟る。
先刻よりむしろ強まっているからだ。
豪鬼の叩き付ける、どころではない大気を震わすほどの”殺意”が。

「殺意の波動が高まる我が前に立つ、己が不明を恨めい!!」

苺鈴は武術を習っていると言っても、自分にとっては無きにも等しい力量であることを、
豪鬼は一目で見破っている。
まるで敵に値しない存在だと。
それでも、いかなる由縁とは言えここは殺し合い、即ち死合いの場。
一度死合いに立てば、それに対する意思や力の有無に関わらず、容赦するほど豪鬼は甘くない。
そして今の豪鬼には、ここが死合いの場であることすら関係無い。
それほど、今の豪鬼は殺意の波動が強まっていた。
今の豪鬼は、悪鬼羅刹も同然の存在と化していた。

「ぬうん!!」

全く前触れも無い状態から、豪鬼が飛ぶ。
同時にその脚で、回し蹴りを放った。
丸太と紛うがごとき豪脚が、その速度で空を鎌鼬のごとく切り裂く。
その名に違わぬ旋風脚。

旋風脚は空を裂く際に発生した衝撃波のみでも、苺鈴を切り刻んだ。
肉が裂け、鮮血が飛ぶ。

苺鈴の耳を鋭い痛みが襲う。
手を伸ばすとそこにあるはずの耳朶が――無い。

(私の耳が、無くなってる!!)

豪鬼の旋風脚それで収まらない。更に容赦無く攻め立てた。
旋風脚が直接胴体に打ち込まれる。
肉を潰し、骨を歪ませる。
直接打ち込まれたルシオラは、木っ端のごとく吹き飛んだ。

豪鬼の旋風脚は、背後に居る――死んだはずのルシオラに打ち込まれていた。

苺鈴には何が何だか分からなかった。
ただ一つ確かなのは、異常な危機が自分に迫っていることだ。
そして耳に残る痛みと、何より喪失感が苺鈴を打ちのめす。
苺鈴は狂乱したがごとく叫び声を上げて、その場から走り出した。

豪鬼に背後から奇襲をかけようとして、旋風脚に迎撃され倒されていたルシオラは、
呻き声を上げながら立ち上がる。
豪鬼の旋風脚は常人ならその一撃で死んでいる威力だが、ルシオラは人間ですらない魔族。
一撃で勝負が決まるほど脆弱ではない。

「くぅ……よく幻覚を見抜いたわね」
「殺意の波動を前に、幻惑など児戯も同然!!」

蛍の化身たるルシオラは、幻覚を操る能力を有していた。
最初、豪鬼の拳で貫かれたルシオラは幻覚。
更に自分自身は周囲の風景に隠れて、豪鬼の背後から襲い掛かった。

ルシオラの誤算は、豪鬼が殺意の波動を制御し得るほどの達人であったことだ。
いかに精巧な幻覚でも、手応えで虚仮か否かを見抜くことができる。
そして殺意の波動を自らの物とする豪鬼は、殺意・敵意を感じ取る能力に誰よりも長けていた。
豪鬼はルシオラの幻覚を見抜いた上で、その殺意・敵意を察知して迎撃したのだ。

「……あんたの所為で一人逃がしたじゃない」

ルシオラは逃げ去る苺鈴を見送り、豪鬼に向く。
豪鬼の戦力はおそらく上級魔族に匹敵、あるいは凌駕している。
ルシオラにとっては、隙を見せられない相手だった。

「うぬと相対して、益々殺意の波動が強まっている」

対する豪鬼は、何故かルシオラではなく自分の拳を見ている。
その身体からは相変わらず、魔族のルシオラですら凶々しいと感じるオーラを放っていた。

「うぬはただの妖ではない。世の摂理から外れた者か」

豪鬼の指摘にルシオラは驚きを隠せない。
まさか会ったばかりの人間に、自分の出自を言い当てられるとは思わなかったからだ。
しかしその驚きの表情は、すぐに憂いを帯びた笑みに変わった。

「……あんたの言う通りよ。私はアシュ様の計画のために作られた。
その計画が成功すれば、神・魔族のバランスは大きく崩れる。
私は世界のバランスを崩すために生み出された存在と言えるわ……」

ルシオラはアシュタロスの真意、死を望んでいたと言う事実は知らない。
それでもアシュタロスのクーデター計画の大枠程度は把握している。
従って世界のバランスを崩すために生み出された存在と言うのは、概ね間違っては居ない。
しかしそれはあくまで出自についての話だ。

「でも今は私が私の意義を決められる。ホレた男のためなら、ためらったりしない!」

ルシオラの両手をかざし、そこに光が集まる。
それがエネルギー、霊力であると見抜くのは豪鬼にはあまりに容易かった。
しかしそのルシオラの姿が一つでは無い。
同じ構えのルシオラが何体も出現。
そして霊波を一斉に発射した。
それでも豪鬼に動揺は無い。

「我に虚仮は通じぬ!!」

豪鬼は瞬時に手に殺意の波動を集め、迎撃のための構えを取る。
霊波を幾つ撃たれようと本物のルシオラは一人なら、本物の霊波も一つ。
他の霊波は幻影なのだから構う必要は無い。

霊波に次々と襲われても、豪鬼はまるで意に介さない。
豪鬼の身体を霊波が通り抜けても反応を示さない。
そして豪鬼はルシオラの狙いに気付いた。

「ぬん!!」

両手を合わせ、腰に溜める豪鬼。
そこに気が、殺意の波動が集中・凝縮される。
大気をも震わすエネルギーの凝縮は、さながらブラックホール。
そして居並ぶルシオラへ向けて発射された。
古より気の奥義を、殺意の波動により更に高めたそれは正に必殺技。
豪波動拳。
凝縮されたエネルギーは、居並ぶルシオラの下に着弾。
解放されたエネルギーは、居並ぶルシオラを全て巻き込み消滅させた。

全てのルシオラは光の粒子へと還っていく。
ルシオラは全て幻影だった。
ルシオラの幻影が消え去った地の、更に向こう。
そこに単車に跨った人影が一つ。
それは全速力で豪鬼から逃げるルシオラの姿だった。



「全く……危うく殺し合いに乗ってる者同士で潰し合うところじゃない……」

ランダム支給品の一つ蒸気バイクを駆って、ルシオラは豪鬼から逃げ去る。
口調は軽いが今のルシオラに余裕は無い。
アクセルは全開で、それでも背後への警戒の念は緩まない。
もし再び豪鬼に捉まったら、ルシオラとて無事では済まないだろう。
人間であるはずの豪鬼から、それほどの危険性を感じ取っていた。
何よりルシオラは殺し合いに乗っているであろう者と、潰し合う訳にはいかない。
ルシオラの目的は殺し合いの優勝なのだから。
自分ではなく横島忠夫の。

ルシオラが創造主のアシュタロスを裏切ったのも、
姉妹やアシュタロスと戦ったのも、
そして東京タワーで死んでいったのも、
全て横島忠夫のためだった。

人類の味方に付いたのも横島に迷惑を掛けないためだ。
ルシオラの行動原理は、今や全て横島に向けられている。

『私がやってきたことは全部おまえのためなのに……!!
おまえがやられちゃったら、意味ないじゃない!!』

東京タワーで死の直前に言ったこの言葉が、ルシオラの嘘偽りの無い本心。
そしてそれは今も変わらない。

だからそれが殺し合いならば、最も早く確実な手段で横島を救うために最善の方法を取る。
何を犠牲にしようと迷いは無い。

(そうよ、ホレた男のためなら……私はためらったりしない!)

ただ一つの目的のために、ルシオラの戦いが再び始まった。

【C-5 草原/1日目 深夜】
【ルシオラ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2、
[思考]
基本行動方針:ヨコシマを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻東京タワーでの死亡直後です。

【支給品説明】
蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
李紅蘭が製作した蒸気機関を動力とする単車。
太正時代の乗り物としては高性能。
もしかしたら爆発するかもしれない。




(……殺意の波動の高まりが収まらぬ。やはりあの妖一人が所以ではない)

ルシオラの姿が見えなくなり、豪鬼は再び自分の身体の調子を確認する。
やはりルシオラと離れても殺意の波動の活性化は収まらない。
そう、豪鬼はこの殺し合いの始まり。
あの船の上から、殺意の波動がかつて無いほど活性化していた。

本来、殺意の波動は制御が非常に困難な物である。
多くの武道家がそれに飲み込まれていった。
飲み込まれれば、ただ闘争と殺戮を求める”鬼”となる。
豪鬼ほどの修練の結果として、やっと制御を可能とする物。
あるいは拳の歴史において、豪鬼ほど殺意の波動を制御し得た者は居ないだろう。

このまま殺意の波動が活性化し続ければ、その豪鬼ですら制御し得ぬ域に達するやもしれない。
そうなれば豪鬼自身がどうなるかは想像も付かないことだった。

(元より修羅道は承知の上! 我に退く道無し!!)

理由もわからない活性化に、それでも豪鬼に恐れは無い。
危険は元より承知の上で、殺意の波動を選んだのは豪鬼自身。
それが更なる高みに行かんとしているのだ。
豪鬼に躊躇する理由は無い。

より強きを求め、殺意の波動を身に付けた豪鬼は、
更なる強きを求め、バトルロイヤルと言う死合に臨む。

【D-5 草原/1日目 深夜】
【豪鬼@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3、
[思考]
基本行動方針:死合を勝ち抜く。
1:殺意の波動が求めるまま死合う。
2:殺意の波動が高まるに任せる。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺意の波動がかつて無いほど活性化しています。




(小狼、小狼、小狼、小狼小狼小狼!!!)

ルシオラと豪鬼から逃げ出した苺鈴は、二人の姿が見えなくなっても一心不乱に走り続けていた。
ただただ怖かった。
ルシオラと豪鬼だけでは無い。
船上での惨劇も。
首輪も。
自分が耳を失った事実も。
殺し合いが始まってからの何もかもが怖かった。
現実に起こった何もかもが現実だと信じたくなかった。

目を瞑り自分の心中の声だけを聞き、現実の全てを拒絶して走るは苺鈴は、
ここが何処だかも分かっていない。

(早く助けて小狼!!)

苺鈴はまだ名簿も見ていない。
李小狼が参加していることも、知らないはずである。
それでも小狼に助けを求める苺鈴。
今の苺鈴には他に縋る物が無かった。

しかし目を瞑ったまま、まともに走り続けられはしない。
苺鈴は石に躓いて転倒する。

「いったぁ…………ここどこよ?」

気付くと苺鈴は岩場にまで来ていた。
自分の置かれた環境を知りたくて、辺りを見回す。

そして彼女は求めていた再会を果たす。

始めはそれが何なのかは、分からなかった。
岩場にポツンと、置かれた球体状のそれは、
上部に髪が生え、
眼も、
口も、
鼻も、
耳も在る。
それは人間の頭部だった。

「…………嘘よ。嘘……だってそんなはず無いもの…………」

苺鈴は恐る恐るその頭に近付く。
それを確かめたくは無い。
しかし確かめずにはいられない。
なぜならそれは苺鈴の想い人、李小狼の生首だった。

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

頭の中に鳴り響く言葉が、口をついて出てこない。
今や苺鈴は完全に狂乱状態だった。
いつか結婚すると思っていた。
結婚を諦めた後も、好きという気持ちの抑えられない。
誰よりも大切な人。
それが生首になっているのだ。

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ

これも殺し合いの故なのか?
自分もいずれ同じ運命を辿るのか?
狂乱を収める答えなど無い。
はずだった。
しかし苺鈴は答えを出す。

「…………あは……あはは…………あはははははははは!!」

苺鈴は笑い声を上げる。
それは激しいのに虚ろな、心底からなのに乾いた、
異様な笑い。
まるで人間が壊れたかのような笑いだった。

「あはははははははは! なんだ、やっぱり全部嘘だったんじゃない……馬鹿みたい」

それは現実の全てを嘘だと言う答え。
根拠も理屈も全てを拒絶して、
それゆえに現実の全てを拒絶する答え。
しかしそれだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段。
苺鈴を狂乱から救う手段だった。
しかしあるいは、より深く狂ったとも言えた。

いずれにしろ苺鈴は、この現実を否定しなければならない。

「バトルロイヤルをやって勝てば良いんでしょ? そうすればこの訳の分かんない嘘も、全部終わるのよね」

主催者は勝てば死者も蘇生させると言っていた。
それはつまり小狼が実は生きていると判明すると、苺鈴は解釈した。
だって本当は小狼は生きているのだから。
現実だと思っていた全てが嘘なのだから。

苺鈴は、ただただ小狼は生きていると言う答えに都合の良い解釈をする。
それだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段なのだから。
そして、最早殺し合いを拒む理由も無かった。
誰を何人殺そうと、全ては嘘なのだから。

「あはは……ほら、小狼も一緒に行こ!」

苺鈴は小狼の生首を持ち上げて、本人にそうするように話し掛ける。
全てが嘘なら、それは偽物のはずだが、
今の苺鈴にはもうどんな根拠も理屈も関係無い。
それは偽物だろうとやっと出会えた小狼であり、
苺鈴の寂しさを紛らわせる物であり、
それでも本当は小狼は生きているのだ。

小狼の生首をデイパックに仕舞い、苺鈴は歩き出す。
もう目を瞑ることも、恐れることも無い。
ただ殺し合いを勝ち進むことだけ考えれば良いのだ。

そう決意する苺鈴は、壊れたかのような笑身を浮かべていた。

【C-4 岩場/1日目 深夜】
【李苺鈴@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、左耳欠損、精神崩壊
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3、小狼の生首
[思考]
基本行動方針:殺し合いを優勝する。
1:殺し合いを勝ち進む方法を考える。
[備考]
※参戦時期は第60話終了後です。
※支給品はまだ確認していません。
※バトルロイヤルは現実ではないと思っています。




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李苺鈴 Next:[[]]

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最終更新:2017年06月10日 19:30