誰がために我は行く




暗闇が支配する草原を猛スピードで駆け抜ける物体。
ヘッドライトが照らす僅かな範囲を視界に捉えながら、ルシオラはそのスピードを緩めることなく蒸気バイクを走らせ続けている。
背後にはすでに豪鬼の姿は見えず、追って来ているような気配も感じない。
だが、だからといってすぐに警戒を緩める気にはなれなかった。

それほどまでに豪鬼は異質な存在であった。
魔族である自分や、その主であったアシュタロスとも違う。あそこまでむき出しの殺気を平然と放っている相手に会ったのは初めてだ。
魔族には欲求のままに殺しを行い、それをなんとも思わない者は多い。
しかしあの男は、もっと純粋に意識することなく、感情に左右されずに殺気を放っている。
殺し合いを円滑に進めるため、しばらくは乗っている者たちと潰しあいをするつもりはないが、いずれは戦うことになるだろう。


「さすがに、あんなのがごろごろいるってのは勘弁してほしいわね」


初っ端から会ってしまった規格外の参加者のことを考えていると、つい愚痴が漏れてしまう。
強者相手でも死なない自信はあるが、なにしろ未知数な状況だ。
それに自分は絶対に失敗できない。


ヨコシマを―――愛する人を優勝させるという目的があるのだから。






「あれは…………死体?」


しばらくの間蒸気バイクを走らせていると、進行方向に人らしきものが倒れているのが見える。
怪我でもしているのか、あるいは寝ているだけなのかもしれないが、今この状況を考えればすぐに死体だと連想された。
ルシオラ自身もすでに戦闘を経験していて、他の参加者を殺そうともした。
別の場所で誰かが殺されているというのは十分にありえる。

何か情報を得られるだろうかと思い、バイクを減速させ死体とおぼしきものに近づいていく。
近くまでいくと、遠目では曖昧だった輪郭もよく見えてくる。
倒れていた人物は大柄な男のようだった。


(反応がないし息をしてる様子もない、やっぱり死体みたいね)


しかし、ランタンの灯を照らしてみるとふと違和感に気付く。


「こんな大きな傷があるのに周りに血がない?」


おそらく死因であろう。腹部や胸に何かで貫かれたような傷を確認できたが、それほどの傷を負っているにも関わらず血が流れた痕跡がない。
吸血のような能力を持つものにでも殺されたのだろうかと考察しつつ、ランタンの灯を頭部にまで進める。


「え!?……ロボット?」


そこにあったのは皮膚が剥がれむき出しとなった機械の顔。
ロボットが参加者の中ににいるという事実に一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻す。
アシュタロスの部下であった時、直接の上司である土偶羅はロボットであったし、ヨコシマの仲間にも、人間の女性にそっくりなアンドロイドがいた。ありふれていたというほどではな

いにしても、ありえないことではないのだ。

わかったことは2つ。
バトルロイヤルにはロボットも参加していると言うこと。そして、その明らかに戦闘型と思われるロボットを倒しうる存在がいるということ。
先ほど出会った男といい、普通の人間に出会う方が稀なように思えてくる。


「これは……ちょっとやり方を考え直す必要がありそうね」


今まではヨコシマを優勝させることを最優先に、まずは参加者を積極的に減らすよう行動する方針だった。
けれども、想定していたより危険人物や得体の知れないものが多いようだ。
ヨコシマを優勝させるという方針に変わりはないが、ヨコシマが死んでしまっては本末転倒になってしまう。
ノストラダムスの言う、どんな願い事も叶えるという優勝賞品も本当かどうかは怪しい。


「ヨコシマは強い。けれど、絶対なんてないもの……」


そう呟き周囲の様子を確認すると、目の前に転がっている無機物の身体へゆっくりと手を伸ばしていった。






                 ◇






「成功したみたいね」


機能停止の状態から再起動を果たしたT-800の前には、見降ろすようにボブカットの女が立っていた。
先ほど交戦した男はもうこの場にはいないようだ。


「申し訳ないけど、武器は預からせてもらってるわ」


T-800が何かを探す仕草をしたのを見て察したのだろう、女は手に持ったボウガンを掲げて見せる。
ボウガンをデイバッグに仕舞いながらさらに言葉を続けた。


「言葉は理解できる?それともまた眠りたいかしら?」
「……何が目的だ」
「話が早くて助かるわ。単刀直入に言うと、殺し合いに乗っているのなら手を組みましょうってこと」
「私が殺し合いに乗っておらず、そして断ったとしても破壊するということか」
「……そういうことになるわね。早く返答を聞かせてくれない?」


T-800が作られた理由は人類の殲滅および人類軍リーダーの抹殺。
故に、人間と協力するなどありえないことだ。
だがもし任務遂行の役に立つのなら、本来の目的を秘し利用するのも有効な手段だろう。


「殺し合いに乗ってはいる。だがその前に質問がある」


女は無言でその先を促す。


「見たところさほど時間が経っていないようだが、再起動にはまだ時間を要するはずだ。お前が処置をしたのか?」
「ええ、前にメカニックをやっていたことがあるの。
 とは言っても、あなたの身体はわからないことも多かったから成功するかどうかはイチかバチかだったけどね」
「他に質問は?」
「いやない。……わかった、そちらの提案を飲もう」


T-800は女の提案に乗ることにした。
相手に機械についての知識があり、自身の身体に手を加えられたというのなら、提案に乗った方が無難だ。
戦力として役に立つのかは判断できないが、標的であるジョン・コナーを探すには人数が多い方がいいという利点もある。
未だ寝そべっていた身体を起こし、右手を差し出し握手を交わす。


「これで交渉成立ね。私の名前はルシオラ、短い付き合いになるでしょうけどよろしくね。
 あと、他の参加者を殺すうえで注意してほしいんだけど、ヨコシマタダオという参加者は殺さないようにお願い。
 そちらは何か要求はある?」
「T-800だ。
 ジョン・コナーという少年を探している。できれば私の手で確実に殺したいが、発見したならば優先的に殺してもらいたい」
「へぇ―――恨みでもあるのかしら」
「お前が知る必要はない」


一度愛する男を失ってしまった女は二度と同じ過ちを犯さぬために突き進み。
少年を守るためのターミネーターはバトルロイヤルという渦にその存在意義を歪められた。



本来ならば別の形で協力できたであろう二人の異端者が、凶行へ向かうべく手を結んだ。





【C-5 草原/1日目 深夜】
【ルシオラ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2、
[思考]
基本行動方針:ヨコシマを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。
2:ヨコシマを殺す可能性のある危険人物とジョン・コナーを優先して殺す。
3:T-800と組む。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻東京タワーでの死亡直後です。



【T-800@ターミネーター2】
[状態]:腹部・左胸部が大破、顔の皮が無い、プログラムに異常
[装備]:ボウガン、ボウガンの矢×4
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2、ボウガン@ケイゾク
[思考]
基本行動方針:人類、ならびに指導者のジョン・コナーを排除する。
1:ジョン・コナーを殺す。
2:ルシオラと組んで参加者(人類)を殺す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジョンとハイタッチの遊びをした後です。
※ルシオラがT-800を再起動させましたが、チップの抜き差しは行わなかったため目的が人類の殲滅に変わりました。




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最終更新:2017年06月10日 07:42