希望の道しるべ




「くそッ!なんなんだこれ!!」


功夫は大声で毒づきながら手近にある人形を蹴り飛ばした。
おそらく、バトルロイヤルが開始されてからずっと暴れていたのだろう。博物館に飾られていた展示物の大半は、その価値を知るものが目を背けたくなるほどに無残な状態となっていた


それでも怒りが収まらないのか、持っていたデイパックまでをも床に叩きつける。

思い返せば、今日はずっと想定外のことばかり起こっている。
上手く観覧車に爆弾を設置できたまでは良かった。しかし、自転車のカギを落としたことがきっかけで、警備員に見つかってしまったのがケチのつきはじめ。
それから爆弾を仕掛けた自分が警察に呼ばれてしまうわ、そこにいた鬱陶しい刑事がしつこく自分を疑ってくるわでイライラが募るばかりの一日である。
本来なら、今頃はあの邪魔な観覧車を作ったやつらから3000万円を手に入れていい気分に浸っているはずだったのだ。
それがどうしたことか。殺し合いをしろと言われ、得体の知れない島に放り出される始末。


「……あいつのせいだ」


名簿には、あの古畑とかいう刑事が載っていた。
古畑の他に自分の知り合いが載っていないことから、あいつに関わったせいで巻き込まれた可能性が高い。
どうせ犯罪者の恨みでも買っているのだろう。
自らの古畑への印象を根拠に、功夫はそう結論付ける。


古畑のせいにすることによって、少しばかり心の平穏は得られたものの、自分が危険な催しに参加させられているという状況は変わらない。
優勝を目指すかという考えも浮かんできたが、1人や2人を隙を付いて殺せることはあっても、大人数での殺し合いを格闘技の経験もない自分が無事に勝ち抜けるとは思えない。
せっかく警察がいることが分かっているのだから、刑事である古畑に保護を求めるのが賢明であろう。
観覧車への爆弾設置の犯人だと疑われている身ではあるが、この非常事態だ。
大事の前の小事ということで自分に構っている暇はないはず。

古畑はどこにいるだろうかと、ふと見上げた窓の先に一際目立つ輝きが目に入った。












李紅蘭はその紫色の髪の隙間から瞳を覗かせ、目の前にそびえ立つ灯台を見上げた。
灯台へ来たのにそれほど深い意味はない。
大神たちと合流しようにもどこにいるのかわからないので、とりあえず自分がいる周辺を高い場所から見てみるかという程度であった。


「入るのなら早くしよう。殺しに乗ったやつが僕らと同じようにここへ来るかもしれない」
「せやな、目立つ場所やからさっさと済ませてしまおか」


隣に立つ白衣姿の男――――林功夫の提案に賛同する。
功夫とは数分前に出会った。
こんな状況だから仕方のないことではあるが、会った当初の功夫は紅蘭をひどく警戒していた。
自分が殺し合いに乗っておらず、ノストラダムスを打倒するよう動くつもりだと必死に訴え、どうにか信用されこうして同行しているというわけである。

また、ここまでの道中で簡単な自己紹介なども済ませている。
功夫によると、古畑という知り合いの警察官の名前も参加者名簿に載っていたらしい。
紅蘭も大神たち帝国華撃団の面々が殺し合いに乗ることはないと伝え、彼らとの合流を目指すことで一致した。


「なあ、林はん」
「……なに?」
「林はんて電子工学の専門家言うてたやろ。これ、どう思う?」


灯台の内部にある上部へ続く階段を登っている途中、前を歩く功夫に紅蘭は自身の首に嵌められている首輪を指さして言う。
『どう思う?』とは『解除できると思うか?』という意味なのだろう。
後ろへ振り返ったまま功夫がどう答えたものか返事に窮していると、返事を待たず紅蘭は続けた。


「いや、ウチもそこそこ機械には自信あるんやけどな。
 専門家なら林はんの意見もちょっと聞いときたいって思っただけなんや」
「下手に触って爆発したら元も子もない。サンプルを手に入れるまでなんとも言えないな」


気楽に気楽に―――と軽く質問しただけだと強調する紅蘭。
だがそう促されたことでかえって不快に思ったのか、功夫は声のトーンを落として応える。


「せやなぁ。でも誰かを殺して首輪を取るってわけにもいかへんやろし、死体見つけてそこから回収するしか方法あらへんかな」
「あんたはどうなんだよ。見たところ、外す自信があるみたいだけど」
「さっき林はんも言うたように、まだわからんよ」

紅蘭は功夫の指摘を静かに否定する。
しかし、
「ただな、システムや道具がどれだけ優れていても、使うてる人が完璧なんちゅうことはありえへん。
 絶対に綻びや付け入る隙があるはず。ウチはそう思ってるだけや」
「だから、林はんも諦めんと生き残るために一緒に頑張ろうや」


立ち止まっている功夫の位置まで歩み寄りながらそう告げると、ニコリと笑いかけた。
それで納得できたのか、あるいは到底共感できることではなかったのか。
功夫は道中口を開くことはなく、紅蘭もまた無理に話しかけようとはせず、しばらくは二人の階段を上る靴音だけが響いていた。





黙々と階段を登るっていると、踊場が設置してある部屋へ辿り着く。
二人して入口から顔を覗かせ別の参加者がいないかどうか中の様子を確認してみる。


「誰もおらへんみたいやな」
「…………」


紅蘭がふっと息を吐き緊張を緩めたのと同時に、近くにいる功夫も同じようにほっとした様子が伺えた。
だが奇妙なことに、部屋の中央には台座のようなものがあり、そこに電子レンジ程の大きさの箱が置いてあるのに気付く。
まるでお伽話で主人公が伝説の塔を踏破して、宝のある場所に辿り着いたかのようである。


「なんや、これ見よがしに取ってください言われてるみたいで怪しいな」
「……でもこのまま何もせず帰ったら、わざわざここまで来た意味がないでしょ」
「そりゃそうやろけど―――――って、ちょっ待ちいや!」


紅蘭はその様相を怪しむが、功夫は部屋に入り足早に台座まで進んでいく。

「もし生き残るために役に立つものがあったのなら、他の参加者に横取りされる前に手に入れないと」
「だから、そう思わせて焦らせること自体が罠かもしれん言うてるんやて!」


警戒する紅蘭は声を荒げ制止を試みる。
その声を意にも介さず、歩みのペースを落とすことなく功夫は台座の前まで到着し、四角い箱に手をかけた。
箱は木製で、ところどころ金具の意匠が施されており、どこか味わい深さを感じさせる。
意外なことにカギはかかっていないようで、フタの部分を持ち上げるようにするとゆっくりと開いていく。
完全に開いた状態になると、考え込んでいるのか功夫の動きが止まる。


「林はん、どうないしたんや。大丈夫なんか?」


何も反応を示さない功夫を不思議に思い、ゆっくりと近づきながら紅蘭が訝しげに尋ねる。
その言葉にハッとしたようにビクリと肩が動くのが見え、とりあえずの無事は確認することができた。
すると振り返りざまに、無言で一枚の紙を差し出してきた。
紅蘭は手を伸ばて受け取り、何事かと広げてみる。


「……導きの光により道標が現れるであろう?」
「そう……入ってたのはその紙だけ。なんのことかサッパリだ」
「これがノストラダムスの言うてたことなんやろか」
「言ってたこと?」
「ほら、おさげの男の子と黒ずくめのおっちゃんと話した後に…………
 あ!?そういやあのおっちゃん古畑て呼ばれとったな!林はんの知り合いてあのおっちゃんかい!」


紅蘭が今更な驚きに直面している横で、功夫はその時のノストラダムスの言葉を想い返す。

『最後に一つだけアドバイスだ。勝ち残るには、力や武器だけではない。知恵も必要となる。』

たしかにそう言っていた。
そうなるとこれは、知恵を絞って解いてみろということなのであろう。
こんな推理小説みたいなことまでせねばならぬのかと、功夫が頭を抱えたい気分になっていると―――


「ちょっと待っといてや」


一人で騒いでいた紅蘭だが、ツッコミがこないとわかると灯台の最上部へと続く梯子を登り始める。
紅蘭はチャイナドレスを着ているため、慌てて目を反らす功夫。
急に梯子を登り始めた紅蘭の行動の意図を図りかねていた功夫だったが、行こうとしている目的地に思い至るとすぐにその意図を理解する。


「導きの光というのは灯台のライトのことか!?」
「せやせや。そしてたぶん、道標が現れるということはこうしてっと。
 ほらな、これで正解や」


灯台の頂上部分に着いた紅蘭は、デイパックから地図を取り出すとそれを灯台のライトへ掲げ、一度確認すると功夫にも見るようにと渡してきた。
それによって現れた変化は微細なものであったが、明らかな変化であった。
地図上のいくつかの箇所に、星の形をした印が浮き出ていたのである。
数分の間、印の出た地図をしげしげと眺めていたが、降りてきた紅蘭へ向けて目線を上げ口を開く。


「これでとりあえずの目標ができたってことかな」
「そこへ行ったところで、いい事があるのかわらへんけどな」
「……いや、有利になる何かがあるはずだ」
「まぁ……元気が出てきたようで何よりや。
 ウチは上のライト調べときたいやけど、しばらく待っといてもらってええやろか?」
「……ああ、わかった」
「じゃあ、すんまへんけどここで待っといてや」


そう功夫に断り再び梯子を登っていく。
登っている最中、紅蘭は内心少し安心していた。
出会ってから同行していてずっと、功夫には自暴自棄にもなりそうな不安定さを感じていた。
さっきの一件によって生きて帰る希望が見えたのか、地図から顔を上げた時の功夫の表情は、気力が湧いてきているように見えた。
どんな絶望的な状況でも、諦めてはいけない。
紅蘭が華撃団の仲間と一緒に戦ってきて学べたことだ。
きっと、隊長である大神はもちろん、さくらやアイリスだってノストラダムスを倒すために―――
そして強引に殺し合いをさせられている参加者たちを助けようと、諦めず懸命に頑張っているに違いない。
絶望する力なき民衆へ希望を与えるのも、自分たち帝国華撃団の仕事であり使命なのだ。

再び回転するライトの前まで到着し、構造を調べるべく作業に取り掛かる。とはいっても必要な道具類もないので、簡単な確認作業となってしまう。
その結果、ライトに何か変わった仕掛けが発見できたなどということはなかった。
地図にも特殊なインク等が使われている形跡はなく、首輪解除の一助になるかと思い調べてみたものの、どのような仕組みで印が浮き出てきたのかは謎のまま。
数分頭を悩ませ、諦めて戻ろうかと思った時ふと思い浮かぶ。

『霊子甲冑のように、霊力あるいはそれに類するものを利用しているのではないか』


「林はん!!ちょっと気になることが……ありゃ?」


功夫にも意見を聞くべく、箱のあった部屋まで勢いよく下りた紅蘭を待っていたのは無人の空間。
ここで待っているはずの同行者はおらず、なぜか部屋の隅に彼の白衣が放り捨ててある。


「なんや、待ちくたびれて先に出てしもたんか。
 しゃあないな……。上着忘れていったみたいやしウチも急いで降りるか」


そう呟きながら白衣を拾い上げる紅蘭の顔が、呆れ顔から驚愕の色へと染まる。












時限装置付き爆弾。
メッセージの書かれた紙と一緒に、灯台内で発見した箱に入っていたものである。
紙はすぐさま紅蘭へ見せたものの、独り占めするため隙を見てこっそりと自らのデイパックへ入れることに成功した。
灯台の頂上部から中に入る姿は確認できたが、灯台の外へは出てきておらず、タイミング的に爆発の直撃を受けたものと見れる。


「ごめんな。最初は殺すつもりなんてなかったんだけど、生き残るための手段はできるだけ持っておきたいからさ」


「殺すつもりはなかった」その言葉に偽りはない。
正確には「危険を冒してまで殺し合いをするつもりはない」であるが、その根本的な考えが変わったわけでもない。
ではなぜ紅蘭を殺したのか。
やはりきっかけは、灯台内での新たな支給品の取得と地図の仕掛けの発見。
他の参加者よりも有利な情報はそれを知る人物が少ないだけ重要度が増し、邪魔者を簡単に始末できる道具も手に入れることができた。
この場所には生存者は彼一人で、目撃者もいない。


(諦めないで頑張ろう……か。おかげでちょっとは生き残る希望ってやつが見えてきたよ)


功夫へ希望をもたらした灯台は脆くも崩れ去り、そのきっかけを与えた女を飲み込んだ。
それを引き起こした張本人は、もはや一瞥もせずにその場を後にした。




【D-7 灯台付近/1日目 深夜】
※爆発により灯台が崩れました。


【林功夫@古畑任三郎】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2~3、時限装置付き爆弾×4
[思考]
基本行動方針:生き残って元の生活へ戻る。
1:古畑と合流する。
2:地図に出た印のある場所へ行ってみる。
3:首輪解除の方法を探す。
4:生き残るために邪魔と判断した参加者はばれないように殺す。
5:紅蘭の知り合い(大神、さくら、アイリス)は信用できそう。
[備考]

※紅蘭の知り合いの情報を得ました。
※印の出た地図は持参しておらず、印の位置を記憶しています。
※地図に出た印のうちの一つはEー4です。


【李紅蘭@サクラ大戦シリーズ】
[状態]:???
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2~3
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを倒す。
1:知り合い(大神、さくら、アイリス)と合流する。
2:首輪解除の方法を探す。
[備考]
※功夫から古畑が刑事であるという情報を得ました。
※紅蘭がどうなったのかは後続の書き手さんにお任せします。



【支給品説明】

【時限装置付き爆弾@現実】
灯台内部にて取得。
時限装置が付いている爆弾。
デジタル式の時計が使用されており、時間は1分から1時間まで自由に設定できるようになっている。




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最終更新:2017年06月10日 07:45