それぞれの道




バトルロイヤルが始まってすぐにムースが感じたのは、殺し合いを開いた主催者への怒りであった。
そして支給品や地図、名簿の確認を行っていく過程で、怒りは焦りと不安へ変わっていく。
眼鏡を没収されなかったのは不幸中の幸いであった。彼は視力が低く、眼鏡をかけていないと銅像と人間の区別もできないほど、対象の判別ができない状態になってしまう。
名簿にはムースの知人の名前が複数人記されており、その中には彼の想い人であるシャンプーの名前もあった。
それは即ち、シャンプーが殺し合いのゲームに参加させられ、命の危険にさらされていると言う事に他ならない。
もし眼鏡まで没収されていたのなら、名簿を読むことができずにシャンプーが参加していることに気付くことができなかった。
この状況に気付くことができただけでも、本当に不幸中の幸いだったといえる。


「ここにおればいいが……」


差し当たっての目的地と定めた風林館高校へと到着したムースは、違和感を感じつつもその馴染みのある建物を見上げ呟いた。
この場所へ来た目的は、知り合いと合流しシャンプーを捜索する助力を得ることである。
強制的に殺し合いをさせられている以上は、初対面の人間は信用できないため、知り合いが立ち寄るであろう彼らの母校の名と形をしたこの場所へ赴いたのだ。
乱馬、あかね、良牙の3名のことは好きではないが、このような催しに乗るような人間ではない。むしろ抗うのが容易に想像できる。
ただし、シャンプーはどうだろうか?
ムースにとっては心底口惜しい事実であるが、彼女は乱馬に好意を抱いている。熱情的で直情的な彼女ならば乱馬のために殺し合いに乗るのではないか?
ムースは想い人が殺し合いに乗り、その結果死んでしまうことが恐ろしくて堪らない。
そんなことを考えながら校内へ入っていくと、奇妙な光景を目にした。


「これは……寝ておる……のか?」


中学生か高校生か、つまりはムースと同い年か年下ということになるが、その程度に見える少年が校舎に背を預け座った状態で熟睡していた。
一瞬、既に殺された参加者の骸かとも思ったが、寝息によって上下する肩を見て寝ているのだと理解した。
余程疲れて眠っているのか、近付いたムースを意にも介さず気持ちよさそうに眠りこけている。


「なんとも。豪気と言うべきか、滅多におらん馬鹿なのか迷うところじゃのう」


殺し合いの舞台において、まさか始まって早々に寝ている参加者がいるとは予想していなかったムースは困惑する。
しばらく少年を見下ろしながら逡巡していたが、張り詰めた神経が背後から人の気配を察知すると、少年へ向けて手を伸ばした。








「人の気配がしたから来てみれば……なんだコイツは」


先ほどのムースと同じ場所に立ち、同じような反応をしているこの男の名はドモン・カッシュ。
ネオジャパン代表のガンダムファイターであり、世界の調停者『シャッフル同盟』の一員キング・オブ・ハートの紋章を受け継いだ青年である。
鋭い目つきにボサボサの黒髪には赤いハチマキをし、右頬に十字の古傷を付けたその姿はどこか近寄りがたい雰囲気を漂わせている。


「おい!こんなところで寝ていると危険だぞ起きろ!」


ドモンは眠っている少年に声をかけながら、軽くゆすって起こそうと試みるも、一向に起きる気配がない。
悠長に起こしている場合ではないと、今度は頬を叩いてでも起こそうと手を振り上げた。
すると、


「――――なんだとッ!!}


攻撃する相手に反撃してカウンターをいれるかのように、頬を叩こうとしたドモンへ向かって風を切るように少年が拳を繰り出してきたのだ。
腹部へ放たれた拳をドモンは咄嗟に左腕でガードしてみせるも、彼を警戒させるには十分な威力を持っていた。


「眠ったふりをして攻撃を仕掛けてくるとは卑怯な!!
 そのつもりならば相手になってやる!!さあ、かかってくるがいい!!!」


少年に敵意があると思ったドモンはすぐさま構えをとり、戦闘態勢に入り相手に出方を窺う。
しかし、もう寝たふりをする必要のなくなったはずの少年は未だ起きる気配がない。
ドモンがどういうことだと再び困惑していると、


「それは彼が本当に寝ているからですよ」


急に背後から声をかけられた。
それは女性のような柔らかさと凛々しさを併せ持ったような、中性的な声。


「はじめまして、オレの名前は蔵馬。
 名簿には南野秀一とありますが、蔵馬と呼んでください」
「……コードネームみたいなものか?」
「ちょっと違いますが、そのような認識でも構いません。
事情を説明すると長くなるので割愛させてください。貴方の名前を伺ってもいいですか?」
「ドモン・カッシュだ」


振り向いた先にいたのは、声からの想像通りの中性的な人物であった。赤く美しい長髪に女性と見紛う整った顔立ち、『オレ』という一人称を聞かなければ女性と勘違いしてしまってい

たであろう。
蔵馬と名乗ったその少年は、丁寧な口調でドモンに目の前の少年が寝ていることを説明した。
ということは、彼らは顔見知りと言う事になる。名前の説明にも引っかかったが、そちらは後回しにしてさらなる説明を求めることにした。


「寝ているとはどういうことだ?コイツは俺に攻撃を仕掛けてきたぞ」
「寝ているというのは本当ですよ。体力を回復させるため睡眠をとっているのでしょう。
 反撃してきたのは……まあ彼の本能で、というしかありませんね」
「要するに、こいつはこのゲームに乗るような奴ではないと言いたいのか?」
「……ええ。そして、オレもノストラダムスの思惑通りに殺し合いをするつもりはありませんよ。
 もちろん、仕掛けてくる相手に手加減するつもりもありませんけどね」


説明になっているのか疑問な説明をしながら、蔵馬は少年の元へ向かい彼の傍にしゃがみ、顔を覗き込む。
ドモンは、横を通り抜けていく蔵馬の美麗な横顔に見惚れてしまいそうになりつつも、二人の様子を注意深く見つめていた。
手加減するつもりはないと口にした時のほんの僅かだけ、蔵馬の雰囲気が冷徹なものへの変わった。
ドモンはそれを感じ取ると、蔵馬が見た目通りの男ではないと察する。


「おい、幽助。いくら君でもこんな所で呑気に寝ていたら危険だぞ」
「……グゥ…………ムニャムニャ……」
「だめだ……しばらく起きそうにないな」
「そういえば、その幽助というやつのデイパックが見当たらんが」


蔵馬も幽助を起こそうと試みてみるが、ドモンの時と同様に効果がないということが判明したところで、ドモンがある事実に気付く。
彼らバトルロイヤルの参加者全員に配られているはずのデイパックが、幽助の傍にないのである。
殺し合いのゲームにおいて命を繋ぐために必要不可欠な、地図や食料などが入っており、いくら実力者であったとしてもそれらなくしては死亡率は跳ね上がることだろう。
ドモンと蔵馬は二人して周囲を探してみるも、見つけることはできない。


「どこかに隠しているのか?」
「いえ、そこに気を使うのならばこんな無防備なところで寝ていないと思います。
 オレ達よりも先に、この場所にいた何者かが持ち去ったと考えるのが自然かと」
「ならば取り返すのは難しそうだな。
 何しろ手がかりがまるでない。犯人がどちらの方向へ逃げ去ったのかすらも分からん」
「ちょうどこういう時に便利な物が、俺の支給品にあるんです」


そう言って蔵馬がデイパックから取り出したのは、木製の箱に突き刺してある、指をさしたポーズの人形であった。


「見鬼くんという名前の道具なのですが、首輪を探知してその方向を指さすらしいです。
 オレが見鬼くんを使って幽助のデイパックを盗んだ参加者を探すので、もしよろしければミスターカッシュ――――」
「ドモンでいい」
「ではドモンと―――ドモンは目が覚めるまで幽助についてやっていてくれませんか?」
「…………すまないが、俺の知り合いも参加させられていてな。あいつらを放ってここに留まるわけにはいかないんだ。
 それにこいつと一緒にいるのはお前の方がいいんじゃないのか?」
「それが、この見鬼くんは妖気や霊気を使って動く仕組みのようで……」


妖気や霊気というドモンの常識の範疇から外れた言葉が出てきたが、今は問いただすのを後回しにする。
とにかく、限られた者にしか扱えないということらしい。
しばし考え込んだドモンだったが、蔵馬に一つの提案をした。


「蔵馬、お前はそいつを使ってデイパックを探してくれ。俺は幽助を背負って移動する。
 そして、俺の知り合いに会ったら手助けをしてやってほしい」
「わかりました。では、軽く情報交換をして、待ち合わせの場所と時間を決めておきましょう」


基本方針が決まると、二人はすぐさまデイパックから地図と名簿、そして筆記用具を取り出し情報交換を始めた。


「まずはドモン、貴方の探し人を聞いておきましょう」
「レイン・ミカムラ、アレンビー・ビアズリーの二人だ。
 そしてもう一つ言っておくことがある。東方不敗には手を出すな」
「それは危険だから?それとも何か因縁があって自分が手を下したい相手ということですか?」
「…………両方だ」
「わかりました。こちらも伝えておきますが、戸愚呂兄弟には関わらないようにおススメします。
 少なくとも、幽助が目を覚ますまでは」

蔵馬の重苦しい物言いに、ドモンは深く肯いた。


「次に待ち合わせ場所ですが。互いに成果がなくても、二回目の放送頃にD-4地点のプレミアマカロニで落ち合いましょう。
 それまでにD-4が禁止区域となっていた場合には、E-3の駅に変更ということで如何でしょう?」
「よし、それでいこう」



蔵馬は見鬼くんが指し示す方角である西へ向かって駆けていく。
彼はドモンに伝えようか迷った結果、確証が持てずに伝えられなかったことがあった。
それは、幻海という名前が名簿に載っていることについて。蔵馬の認識では、彼女は戸愚呂弟によって殺されたはずであった。
幽助のように何らかの事情で生き返っていたのかもしれないが、どうもそう単純な話ではない予感がしたのだ。


(幽助の荷物やドモンの知り合いも大事だが、もう一つ確かめなければいけない事があるみたいだな…………)








ドモンと蔵馬が今後どうするか話し合っている頃、風林館高校から程なく離れた場所を移動していた。
その手には、先ほど風林館高校で寝ていた参加者のデイパックを持って――――


(すまぬッ!シャンプーのためにオラには多くの武器が必要なんじゃ)


暗器使いのムースが本来の力を発揮するためには、手持ちの武器を没収された状態をどうにかしなければならない。
ムースに与えられた支給品のなかにも戦闘に役立ちそうな物があったものの、暗器として用いる類の物ではなかった。
支給品が必要ではあったが、デイパックごと持っていくつもりではなかった。
人が来たため咄嗟にとった行動だったとはいえ、彼に死ねと言っているのと同じようなことをしてしまったことには、罪悪感が拭えない。


「駄目じゃ!駄目じゃ!駄目じゃ!!
 支給品を持っていくだけでも十分。よく知りもせん他人に同情しておってはシャンプーを救えんぞムースッ!!!」


ムースは自らの基準で許容範囲とした罪を抱きつつ、愛する女のために、その道をひた走る。




【F-5 風林館高校周辺/1日目 深夜】


【ムース@らんま1/2】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式(2人分)、ランダム支給品4~6(浦飯幽助の分は未確認)、
[思考]
基本行動方針:シャンプーを連れて脱出する。
1:シャンプーと合流する。
2:乱馬たちと合流する。
3:知り合い以外は信用しない。
4:可能ならば他の参加者から支給品を奪取する。


【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2~3
[思考]
基本行動方針:打倒ノストラダムス。
1:浦飯幽助を連れてレイン、アレンビーを探す。
2:第二回放送頃にD-4プレミアマカロニまたはE-3の駅で蔵馬と合流する。
3:東方不敗は自分が倒す。
4:戸愚呂兄弟を警戒。
[備考]
※参戦時期は東方不敗死亡前です。
※蔵馬と知り合いについて情報交換をしました。


【浦飯幽助@幽☆遊☆白書】
[状態]:疲労(極大)、熟睡
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本行動方針:????
[備考]
※参戦時期は霊光波動拳を継承して寝ている最中です。


【南野秀一(蔵馬)@幽☆遊☆白書】
[状態]:健康
[装備]:見鬼くん@GS美神 極楽大作戦!!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考]
基本行動方針:バトルロイヤルを壊す。
1:幽助のデイパックを奪った犯人を追う。
2:ドモンの知り合いに会ったら保護する。
3:東方不敗と戸愚呂兄弟を警戒。
4:幻海の存在を確かめる。
[備考]
※参戦時期は戸愚呂チームとの対戦当日です。
※ドモンと知り合いについて情報交換をしました。



【支給品説明】

【見鬼くん@GS美神 極楽大作戦!!】
 南野秀一(蔵馬)に支給。
 作中では妖気を探知する道具として使われていたが、首輪探知機として改造されている。
 半径50メートル以上で一番近い首輪に反応し、指先を向けることでその方向を知らせる。
 少量の妖気や霊気を消費することで使用することができる。




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最終更新:2017年06月10日 07:59