【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part3-1


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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part3-1

8 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/15(木) 16:59:44.13 ID:hfDYHd20
    「おっと。こいつは不要だったな」

    ライデンの呟きと共に、
    ガンダムに向けてゆっくりと歩を進める赤いザクはおもむろに立ち止まり、
    手にしていたジャイアント・バズを静かに地面へと降ろした。

    「・・・!?」

    アムロはガンダムを油断無く操縦させていながらも、戸惑いを隠せない。
    あれは多分ガイア大尉達のドムが装備していた大型バズーカと同系の武器だろう。
    なぜそんな強力なモノを自ら放棄するのだろうか。
    ガンダムと赤いザクの相対距離はほぼ500メートル。
    ホバー装備ではないザクが白兵戦を挑むにしても、一気に詰められる距離ではない筈だ。

    ビームライフルを使うべきだろうか。

    一瞬、アムロの意識がガンダムの腰にマウントされているそれに向いた瞬間、

    真紅のザクの背面から爆発光が迸ったかと思えた直後、
    500メートルの距離を一気に≪飛び越えて来た≫そのMSはガンダムの目前に出現した!

    アムロはその瞬間、全身の血液が逆流するほどのスゥェーバックをガンダムに課し、
    赤いザクがいつのまにか手にしていたヒート・ホークを辛うじてかわす事しか出来なかった。
    セイラの消え入りそうな悲鳴がコックピットに響いたが、
    アムロはガンダムの体を捻らせザクの次なる斬撃をかわし続ける事に集中する。

    「!」

    それでもガンダムが一瞬の隙を突きヒート・サーベルを切り上げると
    今度は体の前面に爆発光を生じさせた赤いザクは、恐るべき距離を≪飛び退って≫見せたのである。

    「・・・何だこのMSの動きは・・・!」

    アムロの頬を冷汗がつたう。
    この挙動、先程の戦闘でガンダムを駆ってアムロがやってみせた戦法を
    更に洗練させ、より暴力的に昇華させた完成形の様に感じる。
    その機体は明らかにガンダムより軽量化されており、
    全身に施されたスラスターパワーは恐らくガンダムのそれを上回るだろう。

    「スピードで勝負すれば、負ける・・・!」

    アムロはガンダムの手にしているヒート・サーベルを滑走路の地面に突き立て、
    背中のビーム・サーベルをゆっくりと引き抜いた。

    ダイジョウブか


12 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/15(木) 18:09:54.76 ID:hfDYHd20
    基地司令室の大型モニターで見るガンダムの活躍に、
    ついさっきまで快哉を叫んでいたラル隊の面々だったが、
    ライデンの駆るザクの動き見た途端、それぞれが息を呑む事となった。

    「あのザクはMS-06R-2・・・本来は宇宙用の高機動タイプなのさ」

    次々と倒されるザクの体たらくに業を煮やしていたシーマは、
    ガンダムを圧倒する動きを見せたライデンのザクにすっかり溜飲を下げた様だった。
    自然と口が滑らかになっている。

    「姿勢制御用のAMBACシステムを取り外し、全身に施された強化バーニアや
    スラスターを装備したまま極限まで軽量化されたあの機体・・・
    それをライデンの操縦技術をもって地上で運用するとああなるのさ」

    しかしふとシーマは顔を歪める

    「・・・だが、あの白い奴が、さっきジョニーと同じ様な動きをやったのが気に入らないねえ・・・!」

    そのシーマの様子を見ていたラルは、ハモンと一瞬眼を見交わすと、
    そろそろ頃合かと口を開いた。

    「シーマ殿は何故連邦に寝返ろうというのだ」


37 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/16(金) 19:43:28.73 ID:74xMv6Q0
    「っ・・・・・・!」

    静かなラルの声に思わず振り向いたシーマの瞳には憤怒とも悲しみとも、
    あるいは狂気だとも思えるさまざまな色の炎が揺らめいていた。
    そして、それら全ての色に間違いなく漆黒の≪憎悪≫が染み込んでいる。
    それは――
    まがりなりにも、うら若い女性が一言ではとても言い表す事ができない激情の色なのだろうと
    ラルは理解した。

    「サイド2の8バンチコロニー アイランド・イフィッシュの件は、朧げにですが聞いています。
    心中、お察し致しますわ」

    「・・・黙れ!、黙れ!黙りなァッ!!」

    落ち着いたハモンの言葉にシーマは眼を見開き、血走らせた瞳で激昂する。
    それは今までの彼女からは想像も出来ない程の取り乱しぶりだった。
    その表情に表れているのは、明らかに恐怖。そして悔恨と屈辱と憎悪・・・

    「貴様などに何が判る!・・・アタシは・・・!!」

    何かを言い掛けたシーマだったが、両の目を見開いたまま両の掌で自らの頬を覆い、
    大きく口を開けたまま声を出す事ができなくなった。
    今、彼女の怯えた瞳には、他人には決して窺い知る事のできない・・・
    恐怖で気が狂いそうなほどの一体何が見えていると言うのだろう。
    眼を伏せながら『哀れな』とラルは思う。
    独自のルートで伝え聞いた情報によると、
    シーマの部隊はジオン軍の暗部に関わる相当に過酷で陰惨な任務を主に請け負っている。
    いや、無理やり請け負わされている、と、言うべきか。
    その扱いも決して報われているとはとても言えず、むしろ冷遇に近い状況であるらしい。
    そして、ジオン軍による冷たい仕打ちは彼女の部隊を構成する全ての兵員に及んでいる様なのだ。
    ラルには自身の身に詰まされるものがあった。

    「ふふ・・・ふ・・・そうさ・・・アタシはジオンが憎い!」

    静かだが、微かに狂気を秘めたシーマの笑い声に、ラルはもう一度目を上げた。

    「毎晩迎えに来る亡者に・・・アタシはいつか地獄に引き摺り込まれる・・・・
    それは・・・仕方がない事だろう・・・だが、このままじゃ済まさない・・・!
    アタシ達を舐めくさったザビ家の連中に一泡吹かし、その寝首をかいてやる!
    奴等に地獄への道案内をして貰うのさ!!」

    シーマはその髪を振り乱し、夜叉もかくやといった形相をラル隊に向けて言い放った。
    ラルは大きく息を吐き出と、ゆっくりと噛み締める様にシーマに語りかける。

    「・・・シーマ殿。実は、あの連邦の白いMS『ガンダム』には今・・・
    ザビ家に暗殺されたジオン・ズム・ダイクン公の御息女が乗っておられるのだ」


39 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/16(金) 19:46:53.06 ID:74xMv6Q0
    虚を衝かれた様にシーマの動きが止まる。

    「な、何だって・・・!?」

    「それだけではない。ダイクン公の御子息キャスバル様も健在なのだ!
    若君は今、身分を隠し名を変えて単身ジオン軍に潜入しておられる!
    その名はシーマ殿もご存知だろう、
    ジオンのトップエース『赤い彗星のシャア・アズナブル』なのだ!」

    こいつらは一体何を言っているのだ?この期に及んで自分をペテンに掛けるつもりなのか。
    まるで、よろける様にシーマはコンソールに手を付いていた。
    しかし名にしおうランバ・ラルが児戯にも等しい戯言を垂れ流すとは思えない。
    シーマが態度を決めかねていると、ラルが言を続けた。

    「キャスバル様が何をお考えで憎きジオンの身中におられるのか・・・
    我々は取り敢えず若君と合流して意志を確認し、今後の指針を決めるつもりだ。
    シーマ殿。もしかしたら貴君の目論見・・・
    我々と共におられた方が、より容易すく事が運ぶかも知れませんぞ」

    シーマの目から狂気が消え、次第に彼女が正気を取り戻して行くのが判る。
    狡猾そうな表情も復活して来たようだ。

    「ふふふ・・・作り話にしては面白いと言ってやろう。
    だが、もしアタシがNOと言ったらどうするんだい?その情報と姫君を持って連邦に降るも良し、
    連邦との裏取引をうっちゃって、おおそれながら、とジオンに献上するも良し・・・!」

    「残念ながらそうはなりませんな」

    ラルは事も無げに言い放った。シーマの駆け引きをまるで問題にしていない。

    「シーマ殿はジオンを憎んでおられる。ザビ家の得になる事は決してするまい。
    だからジオンに我らを献上する事は無い」

    シーマは薄笑いを浮かべながらラルの言を聞いている。

    「情報を持って連邦に降り監視付きの一兵卒となるよりも、ザビ家により近い今の立場において、
    ザビ家自体を根こそぎ覆せるかもしれない我々と行動を共にした方が、
    目的を達成できる可能性が高い」

    シーマの笑いが満足そうなものに変わってゆく。

    「そしてアムロ・・・いや、ガンダムのパイロットが必ず
    姫様を守り通しますからな」

    ラルは、さも当然だという風に胸をそびやかして見せた。


73 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/17(土) 20:32:45.89 ID:3tU19cM0
    ガンダムと間合いを取ったザクの中でライデンは、軽く舌打ちをした。
    傍から見えるほど余裕がある戦いという訳でもなかったのだ。

    「今ので仕留められなかったのか・・・やるねえ」

    ライデンの駆るMS-06R-2は本来は宇宙専用機である。
    それを半ば強引に重力下で使い、姿勢制御用のバーニアやスラスターを
    地上戦で最大限に活用させるライデンの戦法は、
    極端なエネルギー消費を招いてしまう為に、ほぼその運用は「奇襲」と「強襲戦法」に限られる。
    どちらにせよ短時間で目的を遂行せねばならない。持久戦は苦手な機体特性となっていた。
    ライデンは初撃でガンダムを行動不能にするつもりだった。
    しかし有効なダメージを何一つ与えられないまま後退せざるを得なかったのだ。
    これは、明らかな計算違いと言えた。

    アムロはヘッドレストからスコープを引っ張り出し、素早く照準を合わせると
    ガンダムの頭部バルカン砲を対峙しているライデンのザクに向けて撃ち放った。

    「むっ!?」

    両肩のバーニアを轟かし、やや大げさにライデンのザクは飛び退りガンダムとの距離を更に取った。
    バルカン砲という非力な攻撃に対しての過剰なまでの、この反応。アムロは自分の考察に確信を持った。

    「やっぱり、奴の装甲は薄いんだ・・・!」

    装甲を可能な限り削り落とし極限まで機体を軽量化した結果、
    地上運用のMS-06R-2にはもう一つの致命的な弱点をも内包していたのである。

    しかし――

    その攻撃によってライデンの目の色が変わった。
    その時のアンタの目はまるで好奇心に満ち溢れた子供の様だったと、
    以前シーマに評された事がある瞳の色だ。

    「面白い!勝負だ!」

    渾名の如く、ライデンのザクは稲妻の様にガンダムに迫る!

    途中で急角度にフェイントを掛けて撒き散らされるバルカン砲を掻い潜ったザクは、
    そのままの勢いでガンダムの脇腹を抉り込むように右手で構えたヒート・ホークを振るった!
    しかしガンダムは左肘の部分で振り下ろされたザクの前腕部を弾き、赤熱刃を跳ね上げると、
    すかさず右手のビーム・サーベルをザクの頭部めがけて突き出す!
    しかしザクは体勢を崩された勢いでガンダムの腰部を蹴り付けると同時に再度肩部バーニアを点火し、飛び下がる。
    アムロは衝撃に耐えながらも離脱するザクに向けてバルカン砲を連射するが、
    またもや急角度に軌道を変えたザクは安全圏まで下がり、ガンダムと対峙する位置を取った。

    血が滾る。

    モニターに映ったガンダムを見てライデンは、笑っている。
    この俺をここまで手こずらせる奴がいたとは。
    油断無くビーム・サーベルを構えるあの敵も、多分そう感じているはずだ。
    お前と俺、どちらが上か決着を付けようじゃないか、今、ここでな・・・!
    殺気を研ぎ澄まし、再度必殺の攻撃を見舞おうとしたライデンは、
    突如通信モニターに現れたシーマにその出鼻を挫かれてしまった。

    「ジョニー!事情が変わったよ!直ちに戦闘は中止だ!!」


87 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/18(日) 19:12:52.51 ID:kfsTPyg0
    「ガンダムのパイロット!お前も刀を納めな!戦闘は終わりだ!!」

    オール回線でガンダムにもシーマからの通信が届く。アムロは思わずセイラと本当だろうかと目を見合わせた。
    しかし敵のザクは今だ戦闘態勢を解除していない。油断はできなかった。

    「何だと!?どういう事だ姐御!!」

    折角の気勢を殺がれたライデンはいらいらしながら怒鳴り返した。
    暖気を繰り返して今まさにアクセルを踏み込もうとしていたエンジンを、
    横合いからいきなり手を伸ばして切ろうというのか。

    「事情が変わったと言ったろう?詳しい事は後で話す。ここに戻っ・・・」

    「ふざけるな!久し振りに出会えた極上の相手なんだぞ!
    要は、このMSとパイロットの雁首を並べて姐御の前に据えれば文句は無いだろう!
    俺の邪魔をするな!そこで大人しく見物してな!」


    モニターの中で激昂しているライデンの目を見てシーマは思わず天を振り仰いだ。

    あージョニーがあのまるでオモチャを取り上げられそうになってるガキみたいな瞳に
    なっちまってるんじゃーしょーがないねぇー・・・
    あーなるともうまともな説得は受け付けないんだよねえ。
    しかし、イヤミな程完璧な男の中にある、
    まーそーいう部分が可愛げがある所なんだけどねとシーマは思う。

    仕方が無い。ここは搦め手で行くか。

    もう一度ライデンに向き直ったシーマは
    既に妖艶な笑みを浮かべていた。


88 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/18(日) 19:14:32.08 ID:kfsTPyg0
    「・・・勝手にするがいいさジョニー。だが、金輪際・・・・」

    「な、何だ」

    シーマが醸し出すおかしな雰囲気に微かにライデンが怯む。しかしここで引く訳にはいかない。
    オール回線の中、基地中に響き渡る声でシーマは明瞭に言い放った。

    「金輪際、アンタには●●●●●してやらないからね!」

    「ブフォッ!?」

    ライデンが盛大に吹き出した。
    オール回線で下ネタか。そうくるか姐御。

    「●●●も●●●も今後はナシだ。それだけじゃ無いよ?アンタの好きな●●●●・・・・」

    「判った!判った!俺の負けだ姐御!それ以上は勘弁してくれ!」

    ヒート・ホークを放り出したザクは、
    文字通り両の手を「お手上げ」して見せた。

    「ふふん。最初からそうしてりゃいいのさね」

    大型モニターの前でふんぞり返るシーマを見て、ラルはちらりとハモンを見やり、
    やはり、最終的な手綱は女性が持つものなのだな・・・と密かに冷汗をかいた。


    意味が判らない。
    敵の女性司令官は一体何を言っていたのだろう。
    しかし、確かに敵の赤いザクから殺気が消えて行く。それはもう、気の毒なほどに。
    ・・・医学用語だったような気もするが、もしそうなら

    「セイラさん」

    「アムロッ!」

    顔を真っ赤に染めたセイラに、
    噛み付きそうな勢いでアムロは叱られ硬直した。

    「お願い。私にそんな事聞かないで。いいわね?」

    最初は懇願だが最後は強制だった。
    その迫力に無言で何度も頷くアムロ。反論は許されないらしい。

    「要救助者を救出後、各員は所定の場所で待機だ!
    ジョニーとガンダムの乗員は基地司令室へ出頭せよ!お前達、グズグズすんじゃないよ!」

    スピーカーからキンキンと響き渡るシーマの声を聞きながら基地中の男達は全員
    各々の胸の中にあった≪女って怖えなあ≫という認識を改めて共有した様だった。


102 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/19(月) 20:31:56.73 ID:Blv02R60
    その後拘束を解かれたラルとハモンがモニターに姿を見せアムロに心配無い旨の通信を入れ、
    第二滑走路の別働隊にもレーザー通信により「こちらで不幸な手違いがあった」
    とシーマが謝罪と共に説明。
    アムロとセイラは無事なので、そちらに退避して来るオルテガ、メイと合流後、
    指示があるまで引き続き待機せよとの通達を与えて事態は一応の収束を見た。
    その際、襲撃を直に受けたオルテガとメイは納得できないと言い張るだろうが、
    そこはダグラス大佐に抑えて貰うしかない。
    必要ならば後ほどラルとシーマが握手している映像付きで
    「スパイ容疑は晴れた」とでも中継してやれば良いだろう。


    ガンダムをザクで誘導しながら基地格納庫に戻ったライデンは、
    いち早くコックピットを抜け出し、興味津々でガンダムのコックピットカバーが開くのを待っていた。
    俺と互角にやりあった奴とは、一体どんなツラをしているのだろうか。
    MSが駄目なら殴り合いで決着を付ける事だってできるからな。姉御もそれなら文句は言うまい。
    そんな物騒な事を色々思い巡らせているうちに、唐突にそれは開いた。

    まず、見目麗しい少女がガンダムから降り立つのを見てライデンは思わず口笛を吹いた。
    続いて年端も行かない少年がガンダムのコックピットに姿を見せると最早、
    ライデンの開いた口が塞がらなくなってしまった。

    「おいちょっと待て、まさか君が、コイツを操縦してた、とか、言わないよな?」

    「はい。僕がこのガンダムのパイロット、アムロ・レイです。あなたがあの赤いザクを操縦されていた方ですね?」

    屈託の無いアムロの言葉に・・・まるで後頭部をハンマーで殴られたかの様な衝撃を受けたライデンは、
    思わず言葉の抑揚無しで「ああそうだ」と答えてしまった。

    『こんな子供にムキになってたのか・・・何なんだ俺って奴は・・・』

    あまりの情けなさに頭を抱えそうになるのを必死で堪えながら、いやしかし、
    このMSの動きは確かに本物だったと思い直す事で、
    ライデンは辛うじて自らのアイデンティティを保つ事に成功した。

    「まるでシャアみたいに凄い動きでした。いえ、それ以上だったかも知れません」

    「・・・君は『赤い彗星』を知っているのか」

    目の前の少年兵が明らかに自分を憧憬の目で見ているのに気が付いたライデンは、
    少しだけ気を取り直す事ができた。

    「何度か戦った事があるんです。でもいつも勝つ事ができなくて・・・」

    ジオンのエース『赤い彗星』と何度も戦って生き残っている事の方が凄いんじゃないだろうかと思ったライデンだったが、
    けたたましくハンガーに鳴り響いたコール音と、それに続くシーマの怒鳴り声によってアムロとの会話は中断された。

    「ジョニー!何をモタモタしてるんだい!早く司令室に戻って来な!とっとと作戦会議を始めるよ!」

    片耳を指で塞いだライデンは、
    苦笑いしながら親指を後ろに突き出した。

    「そういう事だ。話は後にしようぜ。俺はジョニー・ライデン。
    ジオンじゃちっとは名の知れたパイロットなんだぜ?」

    そう言うとライデンは右手を差し出し、アムロとがっちり握手を交わした。


120 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/21(水) 12:04:22.08 ID:cZup7aI0
    「この娘がジオンの忘れ形見だったとは、驚きだな。
    それに『赤い彗星』が正式なジオンの後継者・・・こりゃ公国軍が引っ繰り返るぞ」

    司令室でこれまでの経緯をラルから説明されだライデンは、衝撃を隠せなかった。
    そう言えばこのセイラという娘からは、シーマには皆無な、気品めいた何かを感じる気がする。

    「・・・何、見比べてんだい?」

    まじまじと2人を見ていたライデンは、眉間に縦皺を深く刻んだ怖い笑顔のシーマに突っ込まれ、
    思わず両手を軽く挙げて降参の意を示した。

    「・・・ったく。で?シャアと合流して・・・
    もし奴がジオンに叛意を持っているとしたら、あんた等はどうするつもりなんだい。
    ジオンにクーデターでも吹っ掛ける気かい?」

    さもバカにしたかの様にシーマは鼻で笑う。
    しかしこれは彼女特有の、相手の真意を引き出す為の揺さぶりであるだろう事は、ラルもハモンも承知していた。

    「いや、いきなりそんな無謀なマネはせん。聡明なキャスバル様も何かお考えがあってジオン軍に伏されている筈だ。
    何を為すにしても、まずは態勢を整える必要があるからな。
    ザビ家を甘く見る訳にはいかん。早急に事を運んでは、必ずしくじる。
    失敗は許されん。慎重に慎重を期さねばならんのだ。
    暫くはこちらの真意を悟られぬよう、ジオン軍には面従腹背で当たるつもりだ」

    「ふん。判ってるじゃないか。確かにザビ家は嫌いだが、あたしゃ泥舟に乗るのもイヤなんだ。
    負け戦で落ちぶれて・・・夜盗まがいのならず者に成り下がるってのも御免こうむる」

    この宇宙で孤立無援となり、まるで海賊まがいの行為を繰り返すしかなくなった哀れな姿の自分達が
    やけにリアルに思い浮かんでしまう。
    悪く想像した未来像を振り払う様に、シーマはバサリと長い髪をかき上げた。

    「しかし、ちょうど今おあつらえ向きに、ジオン宇宙軍はチグハグな命令系統のお陰で大混乱の真っ最中なのさ。
    それに付け込んで、色々と動き回れるかも知れないねえ・・・」

    シーマの何気ない言葉にラル隊は顔を見合わせる。

    「シーマ殿。ドズル中将の事は聞いておられるか?」

    「倒れたって話だろ?どうも死んではいないらしいが・・・詳しくは不明だ。アタシも情報を集めている最中なのさ。
    今は取り敢えず全ての宇宙軍をキシリアが取り仕切っている。
    が、そのせいで指揮系統が割れちまっててまともな艦隊機動が取れているのは全体の半分程度だろう。
    はっきり言って今、連邦軍の大規模な宇宙反攻作戦でもあったらジオン宇宙軍はヤバイね。ま、その心配は無いだろうが」

    確かに現在の連邦宇宙軍は貧弱だ。恐らくすぐに行動ができる程の戦力はあるまいとラルも思う。
    しかし連戦の中で見た連邦のMSの実力は侮れない。
    いずれあれらが量産され配備され始めたらミリタリーバランスは一気に崩れるだろう。
    何とかその前に、我らはある程度の地盤を固めておく必要があるのだ。
    急ぐ訳には行かないが、時間もさほど残されてはいない。忸怩たる思いだった。


121 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/21(水) 12:06:55.38 ID:cZup7aI0
    「それよりも、今は目先の事を片付けようぜ?
    俺達は『木馬』を奪い返して連邦に亡命するつもりだった。
    連邦のコリニーっつうオッサンに繋ぎを付けて、首尾良く成功したら厚待遇で受け入れて貰う筈だったんだ」

    「コリニー提督はレビル将軍のライバルでね。
    レビル直属のクセに敵に奪われちまった最高機密の『木馬』を取り戻せば、それだけでレビルの面目を潰せるらしいんだ。
    当然、その後・・・自分とレビルの立場を入れ替えるつもりなんだろうね」

    ライデンの言葉をシーマが補足する。
    どこの世界でも権力闘争。それは連邦もジオンも変わらない様だ。
    アムロはうんざりとした思いを押し隠して大人達の話を聞いていた。

    「連邦が≪オデッサ作戦≫の為に各地から終結を始めてるのは公然の秘密だ。
    実はコリニーの部隊も作戦に参加する為にこの基地の第二滑走路近くのポイントに移動して来ているのさ。
    アタシ達が『木馬』を占拠した後にコリニーに連絡を入れれば、
    すぐに掃討部隊を送り出して第二滑走路に待機している別働隊を後腐れなく撃つ・・・
    そうして『木馬』を手に入れたコリニーはオデッサという危険な戦場に赴くのを自らは回避しジャブローに凱旋・・・と。
    そういう段取りだった」

    滔々と語るシーマの企みにクランプは冷汗を流した。
    自分達の知らないうちに周囲に張り巡らされた沢山の糸で、訳も判らずくびり殺されていた可能性だってあったのだ。
    しかし今、その間隙を巧妙に抜けたラル隊は、無防備の敵に思うさまその刃を向ける事ができる対場にいる。

    「・・・悪いがコリニーには『敵に一杯食わされたマヌケな提督』になって貰おうじゃないか、ええ?」

    邪悪な笑顔を浮かべたシーマの言葉に、誰もが不敵な顔で同意の意を示した。


151 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/22(木) 16:39:07.13 ID:THbz56k0
    一行は基地格納庫に再度移動していた。
    バイコヌール基地にはMS格納庫が2棟あり、今回一行が赴いたのは先程ガンダムを格納した棟とは別の建物だった。
    司令室のある建物から見てちょうど反対側になる。

    ハンガーに並んだ巨大なMS群は壮観なものである。
    今までに現物を見た事の無いタイプのMSもあり、思わずアムロの目が輝く。
    それと同時に、やはりMS研究に関しては連邦と比べると一日の長がある・・・
    とジオンの底知れぬ技術力も感じざるを得なかった。


    「コリニーの部隊の本隊は更に遠い位置にいるが、本人は本隊を部下に任せ、
    勲功を上げる為に別働隊を率いてのこのこと『木馬』を直接受け取りに最前線へ出張って来ている。
    手筈通りに、そいつらを殺る」

    事も無げにサラリと言い放つシーマの言葉に少々ぞくりとしたアムロだったが、
    自分は戦争をしているのだと思い直した。
    シーマはアムロに背を向けた状態で首だけこちらへ向けて両手を開き、格納庫全体を指し示す。

    「アムロ、あんたのガンダムは今回の作戦では使用できない。だから代わりのMSが必要だ。この中から好きなのを選びな」

    アムロはもう一度目の前に屹立した鋼鉄の巨人達を眺めた。
    頭の中では以前クランプに渡されたジオン製MSのデータを捲り、目前の現物と照合している。

    「今回の作戦、ハンパな奴は足手まといだ。メンバーは少数精鋭で行く。
    だから、腕利きMSパイロットが一人でも多く必要なんだ。アンタの腕前、頼りにさせてもらうよ」

    それは、シーマにとっては恐らく最上級に近い評価なのだろう。
    ラルは自ずと口元が緩みそうになるが、面白そうな顔をして自分を見ているライデンを見て咳払いし、
    さりげなく居ずまいを正した。
    笑いをかみ殺したライデンは、アムロに一体のMSを指差した。

    「こいつなんかどうだ?MS-08TXイフリート。殆んど純正の地球製MSで、グフとドムの良い所取りな機体だ。
    ホバーこそ付いちゃいないが、足場の悪い岩場や山岳地帯ならこちらの方が、使える。今回の作戦向きだ」

    ライデンの言葉に振り仰ぐと、そこには鋭いスパイクを両肩と肘に生やした重厚なMSの姿があった。
    無駄な部分を削ぎ落とした雰囲気が良い感じだ。
    素直に強そうだと感じるその佇まいは、恐らく戦場でも敵のメンタルに影響を及ぼすだろうと思えた。

    「ダブルオーバックシェル42mm散弾を撃ち出すショットガンを筆頭に武装は強力なものが揃ってる。
    ちょいと取り扱いにクセはあるが、MS-07Hを乗りこなしたっていうお前ならすぐ慣れるだろう。
    ここにはこいつが2機配備されてる。だが一台は姐御専用カスタマイズ機だ。
    もし今回の作戦で、お前が乗らなきゃコイツには俺が乗るぜ?」

    しかしアムロは格納庫の一番奥に、
    半分シートを掛けられた状態で横たわっているMSを指差した。

    「もし宜しければ、アレを見せて貰えませんか?
    僕の考えが正しければ、自分と今回の作戦にはアレが一番向いているんじゃないかと思うんです」


152 :1 ◆FjeYwjbNh6 [sage]:2009/01/22(木) 16:39:40.27 ID:THbz56k0
    アムロの言葉にライデンとシーマはぎょっとする。
    目立たない様に、あえてあんな感じに置いてあったのだが・・・

    「あー・・・アレか。あれは実は預かり物なんだよねえ・・・」

    「そう、別の部隊の別の御仁に拝領される筈だったMSが、何故か、
    ウチの部隊で止まっちまってるっ・・・つーかな?はははは」

    何となくシーマとライデンの歯切れが悪い。
    恐らく価値のあるMSの横流し、あるいは書類を改竄しての横領なのだろうとラルは想像した。
    連邦に降る時の手土産という線もある。いずれにせよ、その必要はもう無くなった訳だが。

    「戦闘技術だけじゃなく、御目も高いって訳かい。喰えないボウヤだねぇ・・・
    判ったよ。好きなのを選べと言ったのはアタシだしね。
    あんたはアレを使いな。アレ用の武器も一揃えある。使い方をマニュアルで良く確認しておくんだ、いいね」

    「了解ですシーマ中佐!有り難く使わせて頂きます!」

    邪気の無いアムロの敬礼にふんと鼻を鳴らしたシーマは、
    一同に目を転じた。そのシーマの様子に態度ほど気を悪くしていないな、とライデンは笑う。
    何だかんだで優れた男が好みなのだ、姐御は。

    「予定通り30分後に出撃だ!総員、抜かるんじゃないよ!」

    シーマの激に軽い敬礼で返した一同は、各々の持ち場に散って行く。
    アムロは横たわっているMSに一気に走り寄ると、中途半端に掛けられていたシートを一気に取り外した。


193 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/23(金) 17:42:34.00 ID:1ljIoD60
    カップから啜るコーヒーは鼻腔からも馥郁たる香りを存分に楽しむ事が出来、最上の美味さを得る事ができる。
    連邦軍陸戦艇ミニ・トレーの艦長室でお気に入りのブルーマウンテンを味わいながら、
    これが宇宙と地上の違いだとコリニー提督はつくづく思う。
    宇宙用の無粋なチューブに詰められたコーヒーなど単なる泥水にすぎない。
    そんな物は、口を付ける価値すらない。そんな物を喜んで飲んでいる奴は、低脳だ。

    しかしまるでそれは、スペースノイドの程度の低さを端的に表している様ではないか。

    自分の何気ない思い付きにコリニーはくつくつと笑う。
    実際は、連邦軍の兵士達も宇宙に上がればコーヒー・チューブのお世話になる筈なのだが、
    自らの考えに陶酔する彼には現在それ以外の風景は見えていない。

    完璧だ。全ては思い通りに事が運んでいる。

    浮き立つ気持ちを抑えることが難しい。顔面がどうしても緩んでしまう。
    リスクを犯しつつ早い時期からジオン軍のシーマ中佐と通謀していた甲斐があったという物だ。
    今回、そのシーマという小魚がWBという大物をまんまと釣り上げて見せたのだ。
    「してやったり」のこちらとしては、多少顔面が緩むのも仕方が無かろう。

    しかし全ては無能のレビルのお陰だった。
    連邦の最重要機密を軍部で管理せず、殆んどシロウト同然のクルーに任せたきり放りっぱなしだったとは・・・
    常識的に考えて正気の沙汰とは思えない愚行だ。今回の事態はなるべくしてなった結果だとも言える。
    実際、今回の一件で現在の連邦内でのレビルの立ち位置は微妙なものになっている。
    ここで、有能な自分が「WBを奪還」して見せ、レビルの無能ぶりを連邦議会に駄目押しできれば・・・!

    「艦長、秘匿回線コード7より通信が入りました、艦長の指示通りそちらへお回しします」

    「・・・うむ。ご苦労」

    盛り上がるコリニーの妄想を振り払ったのは、
    スピーカーから発せられた、艦橋にいるオペレーターからの冷静な声だった。


194 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/23(金) 17:43:46.49 ID:1ljIoD60
    「シーマ・ガラハウ中佐だ。調子はどうだいコリニー提督」

    「余計な挨拶はいい。そちらの準備は整ったのだな?
    ならば、こちらから直ちにMS部隊を出撃させて第二滑走路の補給部隊を殲滅させるぞ。まずは長距離砲撃を・・・」

    「待ちな。こいつは計算違いだったんだが、あの部隊には『黒い三連星』がいる。
    あんたも知っていると思うが、ジオンのエース部隊で一個師団にも匹敵すると言われる猛者どもだ。
    そいつらが出て来たら、MS同士の実戦経験の無いあんたらの部隊はヤバイんじゃないのかい?」

    コリニーは思わず言葉に詰まった。話が違う。
    補給部隊などノーリスクで一方的に殲滅できると踏んでいたのだ。
    『黒い三連星』と言えば、確かレビルを捕虜にした奴等の筈だ。
    勲功を絞る為に最小限の攻撃部隊しか同行させていないのが悔やまれる。
    事ここに至っての大逆転負けなど笑い話にもならないではないか。

    「そこでだ。あんたの手助けをしてやろうじゃないか。
    現在、あたしを含めて4機のMSがそちらに向かってる。あたし等が合流したら攻撃開始だ。
    砲撃と同時に『三連星』が出て来るだろうが、奴等の相手はあたしらに任せとけばいい。
    あんたらは心おきなく補給部隊を殲滅させてからバイコヌール基地へ向かいな。
    そこにある『木馬』と『栄光』はあんたのもんだ」

    「おお・・・そうか、うむ。後程その功には厚く報いるぞ」

    必死で威厳を取り繕うとするコリニーは、
    『三連星』がシーマと相打ちにでもなってくれれば更に都合が良い。と、考えながら心の中でほくそ笑んでいた。

    しかし、顔の見えない音声だけの通信の向こう側で・・・
    シーマもまた、邪悪な笑みを浮かべていたのである。


209 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/24(土) 20:11:43.64 ID:0QVkidA0
    「・・・何だかぞっとしない光景だね」

    コリニー部隊の前衛で哨戒任務に就いていたフランシス・バックマイヤー中尉の陸戦型ガンダムは薄闇の中、
    朽ちた倒木を踏み分けて近付いて来る4機のジオン製MSに、こちらの位置を知らせる為の大型ハンドライトを振りながら呟いた。

    「ジオンの亡命者と共同戦線・・・上からは、ああ言われたがどうも嫌な予感がする。
    いいか、奴等から片時も目を離すんじゃないぞ」

    後方に位置していたギャリー・ロジャース大尉の陸戦型ガンダムが接触回線でバックマイヤーに小さく囁く。
    MS操縦にはそれ程慣れている訳ではないが、見るからに手練れの4機に戦場の勘、という奴がしきりと反応する。
    恐らくこういう不可思議な感覚の有無は、踏んだ場数が物を言うのだ。
    現場経験の殆んど皆無なコリニー提督などには無縁のものだろうと、ロジャースは溜息を吐くしかなかった。
    こちらの戦力は量産型ガンタンク2小隊の6機と自分とバックマイヤーをそれぞれ隊長にした2小隊、陸戦型ガンダム2機と
    陸戦型ジム4機の計12機。
    後はコリニーが座乗するMS運搬用を兼ねたミニ・トレー1艇しかない。
    数だけは揃えたが、ガンタンクに接近戦は不可能だ。
    こいつらが万が一牙を剥いたなら、俺達は果たして提督を守り切れるだろうか・・・


    その時ロジャースには一瞬、先頭のMSの一つ目が笑った様に見えた。


    全身がぞわりと総毛立つ。


    これは理屈ではない。しかし、戦場では「虫の知らせ」とも呼べるこの勘に救われて来たのだ。それも一度や二度の事ではない。
    ロジャースは確信を持った。
    こいつ等は【敵】で、俺達を害するつもりなのだ―――と。

    「待て!そこで止まれ!止まるんだ!」

    ロジャースは迷わなかった。バックマイヤー機を押し退けて
    手持ちの100ミリマシンガンを4機のジオン製MSに振り向けたのだ。
    コリニーから通達された秘匿回線にあらかじめ通信機の周波数を合わせてあったので、その指示は相手MSに伝わっている筈だ。
    思ったとおり、4機のMSは一斉に動きを止める。


210 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/24(土) 20:12:21.95 ID:0QVkidA0
    『・・・その銃口は何のつもりだ。上官から命令を受けていないのか?
    それとも命令に逆らうつもりなのか!?厳罰ものだぞ貴様!姓名と階級を名乗れ!!』

    雑音混じりに【敵MS】から通信が入る。女の声だ。
    確かに独断でのこの行為は普通に考えりゃ極刑だろうなとロジャースも思う。
    しかし、建前は後回しだ。自分の命が掛かっているとなれば話は別なのだ。
    だが、上官がいきなり【友軍】の筈のMSに銃を向けた状況を目の当たりにしたバックマイヤーは、
    ただ訳が判らずおろおろとするしかなかった。

    「ど、どうしたんですロジャース大尉!?一体 何を・・・」

    「バックマイヤー!責任は全て俺が取る。現在ここに駐屯している全てのMSを集めろ!
    こいつらを≪囲む≫様に布陣させるんだ!早く連絡しろ!」

    ロジャースは焦っていた。目前にいる、両肩をオーカーに染め上げた紫色のMSの纏う殺気が・・・一気に増した気がしたのだ。

    『どうやら、能天気な奴等ばかりじゃないらしい。連邦にも少しは鋭いのがいるって事かい。
    ははは仕方ないねぇ・・・偽装はここまでだ』


    何だと?今奴は何と言ったのだ


    バックマイヤーがその言葉の意味を理解しようとする前に、
    紫色のMSの後方にいたMSが右腕をこちらに軽く振り上げるのが見えた。

    直後、強烈な電撃がバックマイヤーの陸戦型ガンダムを襲う!

    激しい衝撃に度肝を抜かれたバックマイヤーは、モニターが次々とブラックアウトする中、
    それでも必死で意識を保ちつつ機体を操作しようとするが、
    全く反応しない愛機にたじろぐ。あまりの電荷によって機能が一時的に麻痺してしまった様なのだ。
    最後に残ったサブモニターに、先程の電撃を与えたであろう右手のワイヤー状のモノを収納し、
    左手に装備された見るからに凶暴そうな多銃身砲をこちらに向けて構える空色のMSが見えた。

    そしてそれが、彼のMSにおける最後の外部受信映像となったのである。


211 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/24(土) 20:14:07.79 ID:0QVkidA0
    激しく打ち出され撒き散らされるガトリング砲弾に、
    無防備な陸戦型ガンダムの上半身が、みるみる『削り取られて』行きそのまま横倒しとなった。

    高速で回転する銃身の重さを肌で感じながらアムロは、自ら選んだ武器の凶悪さに唖然とせざるを得なかった。

    ガトリング・シールド

    この巨大な銃身が、あの時シートから覗いていたのだ。
    クランプに渡された資料によってMSのスペックは既に頭に入っていた。
    MS-07B-3グフカスタム。
    生産数が少なく希少な機体だ。通常のグフよりもウエイトが軽く、素早い機動が可能で足腰が強くジャンプ力も高い。
    武器は3連ガトリング砲との選択だったが、迷わずこちらを取り付けた。
    ジオンとオサラバするつもりだったから、何とかという大佐に届ける前にごにょごにょと、あの後シーマ中佐は言っていた。
    形式だけとはいえジオンに残留する事になったから、いずれは届けなきゃいけないかねえ、とも。

    そのシーマはアムロが後方から敵のMSに仕掛けた瞬間、
    ヒート・サーベルの抜き打ちで目前のロジャース機の頭部を切り飛ばしていた。
    バックマイヤーを瞬殺したアムロの早業に隙を衝かれたロジャースは、マシンガンの引き金を引く事も出来なかった。
    崩れ落ちた陸戦型ガンダムの胸部に止めとばかりに炎熱刃を叩き込みながら、
    強力なチューンを施したMS-08TXイフリートのコックピットで憂鬱そうにシーマは呟いた。

    「やれやれ・・・本当はもっと敵に近付いてから大暴れするつもりだったんだけどねえ」

    「悔やんでも仕方があるまいシーマ殿。多少ワシらの手間が増えただけだ。結果は変わらんよ」

    ラルがMS-07Bグフから声を掛ける。こちらのグフはアムロの物とは違い純正品だ。
    しかしラルが操縦する事で叩き出すその高い戦闘力は、カスタムタイプにもひけは取るまい。

    「今の騒ぎで後方の敵も動き出すだろう。散開して各個撃破と行くか?
    俺達ならやれるぜ。誰がオッサンの首を取るか勝負だ」

    シーマと同じタイプのMS-08TXイフリートに乗ったライデンが軽口を叩く。
    冗談抜きでこのメンバー、一個師団に匹敵するだろうと思える。いや、多分それ以上の働きが期待できるだろう。
    浮き立つライデンをしかしシーマが抑えた。

    「いや、相手に隙を見せるんじゃないよ。二人一組で行動だ。
    アムロはラル大尉と行きな。絶対に突出すんじゃないよ?肝に銘じておきな!」

    「了解です!」

    「うむ。ワシらはこのまま進み、やって来る敵を迎え撃つとしよう。
    シーマ殿達は、迂回して敵の本陣を突いてくれ。ワシらも終わり次第駆け付ける!」

    ライデンとシーマのイフリートは素早くその場を離脱して行く。
    アムロはラルのグフと共に進みながら、
    何事かと集まって来る、敵MSに搭乗したパイロットの鼓動が次第に近づいて来るのを感じていた。


235 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/26(月) 01:47:04.71 ID:BEXkP3M0
    「緊急事態!こちらギャリー・ロジャース大尉だ!
    俺達は嵌められた!ジオンのMSは【敵】だ!見つけ次第撃破せよ!繰り返す・・・!」

    やって来た4機の陸戦型ジムをラルとアムロが射程距離に捉える寸前、
    大きく右胸を切り裂かれ無残に破壊された陸戦型ガンダムのコックピットから這い出したロジャースは、
    何とか作動した通信装置を使い、ヘルメット内のマイクを介して接近して来る部下のジム隊に
    エマージェンシーコールを送る事に成功していた。

    ロジャースの通信を受け、慌てて一斉に臨戦態勢を執ろうとするジム隊を確認したラルは、
    グフの機体を左側方向に展開させながら、最前面のジムに向け赤熱したヒート・ロッドを振るった。
    MS-07Bに装備されているヒート・ロッドはカスタムタイプのそれとは違い、純粋にそれ自体を武器として使用できる。
    発光したヒート・ロッドは灼熱の鞭と化し、マシンガンを構えたジムの右腕を肘の付け根から勢い良く溶断して見せた。

    一方アムロはラルが動いた瞬間、逆方向の右側に機体を移動させ、
    左手のガトリング砲を轟然と撃ち散らしながら大振りのヒート・サーベルを抜き放つ。
    最右翼に位置していた不幸なジムはガトリング砲で蜂の巣にされ、
    ジェネレーターに電光が奔った瞬間、爆発四散するのだった。
    しかし高速でグフカスタムを退避させながらも、アムロは痛恨の思いでいた。
    ガトリング砲の威力は確かに高いが集弾能力が低い為、ややもするとMSのジェネレーターを傷付けてしまう。
    小規模とはいえ核爆発で地上を汚染したくは無い。
    アムロはモニター越しにB-3グフが手にしたヒート・サーベルをちらりと見やり、また敵MSに視線を戻した。
    一機の陸戦型ジムがこちらに向けてマシンガンを乱射しているが、照準が甘く、命中する気配は微塵も無い。
    念の為にアムロはシールドで機体前面をガードしながら右手を敵に向けて伸ばし、ヒート・サーベルを水平に構えたまま
    ラルのグフとは形状の異なるワイヤー状のヒート・ロッドを発射した。

    マシンガンを持った陸戦型ジムの右手にワイヤーが絡んだ瞬間にロッド先端のフックを開き、
    敵を完全に拘束したB-3グフは、今度は電撃を放つ事はせず、
    左手でロッドを掴むとそのまま力を込め、ジムを思い切り引き寄せる。

    圧倒的なパワー差によって踏み止まる事ができなかったジムは、
    バランスを崩されつつB-3グフの前に一気に手繰り寄せられ、
    カウンター気味に突き出されたヒート・サーベルによって――呆気なく串刺しにされてしまった。

    敵の動きが完全に止まった――事を確認したアムロがジムに絡み付いていたワイヤー先端のフックを閉じると、
    シュルシュルとワイヤーはB-3グフの右手首に収納され、支えを失ったジムは音も無く地面に崩れ落ちた。

    「見事だなアムロ!こちらも済んだ。シーマ殿を追うぞ!」

    ラルからの通信にアムロは頷く。
    そのラルが駆るグフの足元には2機のジムが折り重なるように倒れている。
    アムロとラルの操縦する2機のグフは都合、1分も掛けずに倍の機数のMSを撃破してしまったのだ。

    それはまるで悪夢の光景だった。
    一部始終を暗視装置付きの双眼鏡で見ていたロジャースは唇を噛んだ。
    同様に、ロジャースによって半壊したMSから助け出されたバックマイヤーも、味方の惨状に愕然としている。
    『連邦は・・・もしかしたらジオンに勝てないかも知れん・・・』
    流石に口にはしなかったが、苦い敗北感が胸中に広がってゆく。
    それは、無言のバックマイヤーも同意なのかも知れなかった。


262 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/27(火) 18:29:04.64 ID:gn1740c0

    既に眼下は火の海になっていた。

    目の前に布陣していた量産型ガンタンク部隊が、嵐の様に乱入して来た2機のMSによって次々と破壊されてゆく。
    オペレーターの悲鳴に近い報告でミニ・トレーのブリッジに赴いたコリニーは、
    艦橋の窓からその様子を半ば茫然と見下ろしていた。

    「アルファ、ブラボー、両小隊長機、反応ありません!恐らく敵に撃破されたものだと思われます!」

    「あのシーマが裏切ったと言うのか・・・何故だ・・・・!」

    オペレーターの報告にコリニーの視界がぐにゃりと歪んだ。
    馬鹿な。そんな事はありえない筈なのだ。

    齢を重ねるごとにコリニーは己の審物眼に自信を持っていた。

    ライバルを陰謀で蹴落とし、政敵を金の力で封じ込め、実戦ではなく権謀術数で今の地位まで上り詰めたコリニーには
    薄っぺらいペテンや御機嫌取り等は一切通用しない。
    いくら隠そうとしていても、言葉を交わせば交わす程、どんな人間でもその内面を見透かされていってしまうのだ。

    数々の裏取引の中で見、そして感じた、あの女のジオンに対する根深い恨みと憎しみ――
    まるで自らの肉を焼き骨を焦がしてしまうのではないかと思える程のザビ家に対する憎悪と憤り――
    それらは全て嘘偽りの無い本物の感情だった。
    そしてそれはコリニーの様な人物に対しての取引材料としては何よりも信用の置ける担保であったのだ。

    冷遇されて使い捨てにされようとしている現在の自分の立場を逆転し、恨み骨髄の相手に報復の大打撃を加える――

    シーマは賢しく、決して愚かな女では無い。
    その彼女が絶好の機会を反故にする意味がコリニーにはどうしても見出せないのだった。

    「繰り返す!我が部隊は敵の攻撃を受けている!至急応援を請う!繰り返す・・・」

    通信兵が必死の呼び掛けを本隊に向けて送っているが、無駄だ、とコリニーは心の中で呟いた。
    ミノフスキー粒子は戦闘濃度で既に散布が完了している。
    最後の1ピースを除いて全ての準備は抜かりなく終了していたのだ。

    6機のガンタンクを苦も無く全滅させたMSは、両肩をオーカーに染め上げた紫色の一体が、
    バーニアを使用したジャンプで軽やかにコリニーのいるブリッジ横の舷体まで駆け上がった。
    既にバズーカランチャーをブリッジのコリニーに向け終えている。

    シーマはイフリート操縦席のモニターで大写しになったコリニーの口が

    『な ぜ だ・・・』

    と動くのをはっきりと確認してからランチャーのトリガーを引き絞った。


    「済まないねえ・・・このシーマ、故あれば裏切るのさ・・・!」


    その言葉はミニ・トレーの爆発音に溶け混じり、戦場を流れる一陣の風となっていったのである。


281 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/29(木) 16:12:05.06 ID:/VRsoTo0

    「コリニー提督が横死されただと・・・!?訳が判らん!一体何があったと言うのだ!?」

    破壊されたミニ・トレーの残骸から何とか使えそうなエレカとワッパ引っ張り出し、
    怪我人と生存者を抱え二日がかりで本隊に辿り着いたロジャースとバックマイヤー。
    その二人のあまりにもズサンな報告に対してジャミトフ大佐は怒り狂った。
    いくら質問を重ねても、2人の言は一向に要領を得ない。
    あまりにも提督の行動は不自然に過ぎた。
    何故ジオンからの亡命者ごときと合流する為だけで提督自ら赴く必要があったのかが判然としない。
    しかし実際コリニーは猜疑心が強く、あの後WBと合流する手筈になっている事を2人には教えていなかったし、
    敵指揮官の名前すら知らせていなかったのだ。
    その結果、一兵士の事後報告が不明瞭になるのは致し方の無い事であったのだが・・・

    本来はコリニーが率いていた筈の部隊の留守居役を命じられていたジャミトフもまた、
    コリニーから今回の作戦に関して殆んど何も聞かされてはいなかった。
    最重要任務であるはずのオデッサに向けての進軍を一時的に止めてまで
    小部隊を率いて別行動を執ると強硬に主張するコリニーに対して、
    ジャミトフは反対するどころかそれを諫める進言すらできなかったのだ。
    それ程コリニーの連邦内での権力は絶大な物があったのである。
    訳も判らず自分が戻るまで部隊を駐屯しておく様に指示されたジャミトフは、そこに何某かの陰謀の影を感じつつも、
    己の保身と秘めた野望を成就させる為にと敢えて心中の泥濘を飲み込んでいたのだ。

    しかしこれで・・・終結が完了すればオデッサ作戦に参加する部隊のほぼ3割に達する筈だったコリニー大隊は
    オデッサへの進軍を諦め引き返さざるを得ない状況に陥った。
    各部隊ごとに元いた駐屯地に分散帰還し、新たな命令があるまで待機する事になるだろう。
    あくまでもオデッサに侵攻するのだとしたら、そこから再度出撃し、再びこの様な大隊を編成する必要がある。
    基本的に大部隊の指揮官は将官以上でなければならず、コリニーに代わる人材の派遣は、
    この期に及んでもジャブローでもひと揉めふた揉めあるだろうと思われた。
    殆んど独裁政権のジオンとは違い、この様な非常事態に際して「指揮官をすげ替えて作戦続行」
    ・・・できるほど地球連邦軍はフレキシブルな組織では無いのだった。


282 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/29(木) 16:12:28.93 ID:/VRsoTo0
    寄らば大樹の陰――ジャミトフは己の目算が狂った事を歯噛みした。
    しかし狡猾な彼は、自分のあずかり知らぬ所で自分の運命が決められかねないこの状況を打破する公算を、
    素早く頭の中で構築してゆく。

    そう言えば、最近、軍の機密の流出がやけに激しい。それは現場にいるジャミトフが肌で感じる異常事態である、
    軍の中にスパイがいる事はほぼ確実なのだが諜報部が躍起になってもその尻尾すら掴む事ができないでいる。
    だがそれは即ち、スパイの連邦内における地位の高さが原因だったとすれば、全て辻褄が合うではないか――

    一瞬後、ジャミトフの瞳に高揚を押し隠す異常な光が宿り、その口元が歪んだ。
    真実かどうかはこの際問題ではない。多少強引でも建前さえ整っておれば後は何とでもなる。
    それが政治の世界というものだ。

    「・・・この二人と分隊の生き残りを全員逮捕しろ!罪状は『スパイ容疑』だ!」

    「な、何ですって!?」

    「そんな馬鹿な!!」

    ロジャースとバックマイヤーは驚いて抗弁しようとするが、両脇を衛兵に抑えられ、瞬く間に拘束されてしまった。
    二人は信じられない面持ちでジャミトフを見ている。
    訳の判らない作戦に追従させられ、命からがら戻ってみればこの扱いか。

    「心配するな、一時的な拘束だ。こうでもせんと当事者以外の不審を招き、軍の規律が乱れるのだ。
    貴様らの言い分は尋問室で聞く。それとも軍事法廷の方が良いかな?」

    「・・・!」

    抵抗は無駄だと悟った二人が大人しく連行されて行くのを見ながらジャミトフは、
    自らの保身に繋がる最低限の土産が確保出来た事に安堵した。
    あの二人にはコリニーがジオンのスパイだった事を何としてでも立証させる。
    もし証拠が不十分ならば調書には「多少の改竄」も致し方の無い事だ。
    その上で自分達は無実を主張するだろうから、その時は監察を名目に恩着せがましく部下に取り立ててやり、
    部隊の一つも預けてやれば、身を粉にして働くだろう。
    それもまた人身掌握術として有効な手段だ。

    ニヤリと笑ったジャミトフは、しかしそれと同時に・・・
    この確実に「オデッサ作戦のXデーは延期せざるを得ない事態」の到来に暗澹たる気持ちにもなっていたのだった。


299 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/31(土) 20:17:38.85 ID:N3GuM6A0
    ロジャース達が本隊に辿り着く2日前――
    コリニー分隊の殲滅に成功したラル、シーマ、ライデン、アムロの一行は
    バイコヌール基地第二滑走路に無事帰還していた。
    喜びのあまりB-3グフから降り立ったアムロに飛び付いたメイだったが、
    シーマがこの基地の司令官だと聞いた途端、表情を険しいものに一転させシーマをびしりと指差して言い放った。

    「あれが不幸な手違いですって!?冗談じゃないわ!私達、本当に死んじゃうかと思ったんだから!!
    ダグラス大佐!騙されちゃダメですよ!?この人、絶対悪党です!敵です!」

    「・・・まあ、悪党の部分は否定しないがね」

    メイの言葉に、にやにや笑いながら呟いたライデンを一睨みしてから
    シーマは諭す様な口調でメイに話しかけた。

    「手違いというか、作戦だね。連邦をハメようってんだ、敵を騙すには・・・って言うだろう?
    あんたらのお陰で連邦軍の有力な将官を潰す事ができた。礼を言うよ」

    「そんな理屈・・・!」

    しかし――
    まだ噛み付こうとするメイを、ダグラスが横合いから無言で制した。
    ラルにそれとなく目で『抑えてくれ』と懇願されたのだ。

    「大佐!?」

    「そこまでだメイ。ここは軍隊なのだ。
    この世界には不条理がまかり通る事態が数多くある。だが我々軍人はそれを受け入れるしか無い。悔しいがな」

    ぐぬぬと唇を噛み締めてダグラスの言葉を聞いていたメイの目から・・・みるみる涙が溢れ出しその頬を伝う。
    彼女が搾り出した「私・・・軍人じゃないもん・・・」というかすれた声は、嗚咽に混じって聞き取れなかった。
    その様子を見ていたオルテガはオロオロと両のポケットを探るが、ハンカチ等という気の利いた物がそこにある筈も無い。

    「感謝するダグラス大佐。しかし本日付で貴君等の隊は我が基地の所属となった。
    アサクラ大佐の代行とはいえ基地指令であるアタシの命令には従って頂くが異存はあるまいな?」

    「無論だ」

    通称「外人部隊」と称され、殆んど使い捨て同然の扱いを受けているダグラスにとって、
    階級の上下にそれほどこだわりは無い。
    逆にそこで変に意固地になる事で現地の将兵との連携が阻害される事の方が余程問題なのだった。
    それは今までにいくつか直面した苦い経験が物語っている。

    「結構だ。それではバイコヌール基地指令シーマ・ガラハウが命令する。ここにいる全部隊を第1滑走路に移動させよ!
    連邦軍の逆襲という万が一の事態に備え、速やかにこの第二滑走路を放棄して戦力を集中させるのだ!急げよ!」


300 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/31(土) 20:18:32.41 ID:N3GuM6A0

    シーマの言葉に敬礼を返し、各員が所定の位置に散ってゆく中で、マッシュがガイアに囁いた。

    「これは俺の勘なんだがな。・・・俺達だけ蚊帳の外なんじゃないのか?」

    「うむ。それは俺も感じていた。
    どうもここの連中は全員がグルで、上から命じられた作戦を遂行する事以外に何か目的がある様な気がしてならん」

    後ろからのっそりとやって来たオルテガがその話に加わった。

    「俺達が撃たれた弾は間違いなく実弾だったぞ。当たり所が悪ければ死んでいた。
    あの襲撃がフェイクだったとしたら、普通そこまではやらんだろう」

    歩きながらガイアは顎に手をあて考え込む。

    「・・・つまり、俺達を襲撃した時点ではあのシーマという女、本気だったと言う訳だ。
    本気で俺達を殺り、その上で何かをやろうとしていた。しかしそれが何らかの理由で突然心変わりした。
    恐らくはそちらの方が提示されたメリットがデカかったんだろう。そしてもう片方の口を封じた・・・」

    「やろうとしてた何かって、なんだ」

    ごくりと唾を飲み込んでオルテガがガイアに聞き返す。

    「状況を考え合わせると、木馬を奪って連邦に亡命・・・これしかないだろうな
    木馬と俺達の部隊を引き離した理由はそれだ」

    「な!?」「む・・・」

    ガイアの言葉に驚きを隠せない2人。
    ガイアは続ける。

    「しかし九分九厘成功していた筈のそのプランを何故あの女が投げ出したのかが判らん。
    余程の何かがあるのだろうが・・・
    とりあえずは、様子見だな。だが寝首は掻かれ無い様にしなければならんぞ」

    注意深く3人はガウ攻撃空母に乗り込んでその姿が見えなくなった。
    ガイアのその予測はほぼ正鵠を射ていた。
    独立遊撃隊として戦場を渡り歩く百戦錬磨の「黒い三連星」のリーダーの見識は伊達ではなかったのである。
    しかし自分達のその後姿を、シーマとラルがじっと見つめていた事を三人は知らなかった。


301 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/01/31(土) 20:18:55.21 ID:N3GuM6A0

    「どうするつもりだい。あいつらだけなんだろう?ジオンの忘れ形見の事を知らないのは?」

    「ガイア大尉達はワシやダグラス大佐の様なダイクン派では無いのでな・・・
    もし我らの真の目的を知ったらそれに賛同してくれるかどうか判らん。だから真実は伏せてあるのだ。今のところな」

    「・・・ケッ!面倒臭いねえ!何ならアタシが後腐れの無い様に・・・」

    「待て、シーマ殿。早まってはならん」

    ラルは老獪な顔をシーマに向けて向き直った。
    シーマの背中が思わずピンと伸び、それに気付いた彼女は面白くもなさそうに舌打ちした。
    どうも貫禄という奴は、若輩者には分が悪い。

    「ワシはあの三人を是非とも仲間に引き入れたいのだ。時を待とうではないか。
    必ず彼らをモノにできるチャンスは来る筈だ。それまでは軽挙妄動を慎んで貰いたいのだ。厳にな」

    「やれやれ・・・あいつらがアタシら部隊の獅子身中の虫にならなきゃ良いけどねえ」

    うそぶいたシーマだったが、もし三人に微塵でもそんな素振りが見えたら・・・
    間髪入れずにに手を打とうと考えていた。
    念入りに画策していた連邦に亡命するプランは後一歩の所で消滅してしまった。もう後戻りは出来ない。
    邪魔者は容赦なく排除する。自分の野望は誰にも邪魔させる訳にはいかないのだ。


319 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/02(月) 22:59:20.15 ID:mdjhNHc0
    ダグラス、そしてガイア達の補給部隊と共に基地本部付きの第一滑走路に戻ったアムロは、
    ラルに3日間、基地内での個室謹慎を命じられていた。
    例え結果はどうであれ、ハモンを通じてラルから指示された命令を無視し、セイラを危険に晒した罪は免れない。
    ラル直々にそう説明されたアムロは、異議を申し立てることなく粛々としてそれに従った。ラルの裁定に文句などある筈もなかった。
    もともと命令違反は承知の上での行動であり、何よりセイラが無事でラル隊の犠牲も誰一人出さずに済んだ。
    その上新たな仲間も獲得する事ができたのだ。自分1人の謹慎程度では引き合わない成果だったと言えるだろう。

    「まあ、なんだ・・・ゆっくり休め。大尉も別に怒ってる訳じゃないんだ。他の奴にシメシがつかないってだけでな」

    これからの3日間、アムロの謹慎場所となる個室の前でコズンは言い難そうに後ろ頭を掻いた。
    しかしアムロがラルに謹慎を告げられた時、セイラを始めラル隊一同が猛然とそれに意義を唱えた。
    その中でラルに最も食い下がってくれたのがこのコズンだったのだ。アムロは感謝の眼を向けていた。その気持ちだけで充分だと。

    「判ってますよ。独房じゃなくこんな立派な個室で寝起きさせて貰えるんです。感謝しなくちゃ」

    「大体がお前はオーバーワークなんだ、取り敢えずシャワーを浴びて何にも考えず寝ちまえ。
    メシは後で届けといてやるから眼が覚めたら好きに食えばいい」

    アムロは感謝の言葉を述べたがコズンは済まなそうな表情を変えずに頷くとドアを閉めた。
    1人になったアムロが改めて部屋の中を見回すと、確かにそこは地上施設特有の広さがあり、
    ベッドもバスルームも立派なものだった。
    着替えも、ひと目で新品と判る物が一組ベッドの上に用意されている。
    今アムロが着ているジオンの制服はラル隊の予備をハモンに見繕って貰ったものだったのだが、
    アムロのサイズに合う物が無く、少々古びてだぶついた物を着ているしか無かったのだ。
    見てくれなどはどうでもいいが、MSを操縦する時に袖がレバーに引っ掛かり気味になるのが改善されるのなら有難いと思えた。

    一息ついたアムロは手早くシャワーを浴び、さっそく糊の効いたカーキ色の制服に袖を通しベルトを締めてみる。
    あつらえた様にぴったりだ。スラックスの丈も丁度良く、新しいブーツも足のサイズに合った物であった。
    一回り体が軽くなった気がしてアムロは鏡に自分の体を映してみた。

    ふと違和感に気付く。

    制服の胸に縁取りされている紋様が派手になり、無地だった襟にも階級章らしき物が付いているのだ。
    これは何かの手違いだと慌てたアムロだったが、その時部屋のドアがノックされたので
    戸惑いを隠せないその姿のまま来訪者を出迎える羽目となってしまった。


334 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/04(水) 01:09:01.33 ID:ov94SYE0

    ドアを開けるとそこには見知らぬ青年が仏頂面で立っていた。
    片手には食事の乗ったトレーを持っている。

    「バーナード・ワイズマン伍長だ。入るぞ」

    アムロが何かを答える前にバーナードは、入り口に立っていたアムロを押しのけるようにしてずかずかと部屋の中に入った。
    手近なテーブルの上に乱暴にトレーを置く。食器がガチャリと音を立てるがバーナードは一切気にせずアムロを振り返った。

    「命令だから仕方なく持って来てやったんだ。感謝しろ」

    「あ・・・はい。ありがとうございます」

    謹慎中の自分は基地のお荷物に過ぎない筈だ。
    青年の言っている事は正しいと思えたアムロは素直に例を述べた。

    「お前が連邦から亡命して来たっていう整備兵か。
    ・・・なるほど。MSを手土産にしたお陰で、今はジオンの准尉殿って訳か。いい身分だな」

    バーナードはアムロの真新しい軍服の襟を見て嘲る様に哂った。
    いやそれは多分間違いなんですとアムロは言いたかったが、バーナードは更に興奮気味に言葉を続け、
    アムロに口を差し挟む暇を与えない。

    「始めに言っておくぞ。俺はお前みたいに実力も無いくせにイカサマで成り上がった様な奴が一番嫌いなんだ!
    俺は伍長だがお前には絶対に敬語なんて使わないからな!懲罰なら甘んじて受けてやる!
    それが現場の兵士の誇りだ!パイロット見習いになったらしいが、悔しかったら実力で俺の操縦技術を抜いてみろ!
    俺がお前を一人前だと認めたら、敬礼でも何でもやってやる!」

    バーナードのあまりの剣幕にアムロはたじたじとなった。
    確かに自分はまだまだ未熟だ。多くの尊敬できる大人達との出会いの中で、
    それはWBにいた時よりも数段実感として感じる様になっていた。彼の言っている事は間違っていないのだ。
    それと同時に彼とは何処かで既に会った事があるような気がしてならなかったが、
    はっきりとは思い出せずに歯痒かったアムロは、思い切って話題を振ってみる事にした。


335 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/04(水) 01:11:05.35 ID:ov94SYE0

    「僕に敬語や敬礼なんて必要ないですよ。バーナードさんはMSパイロットなんですか?」

    「ん?・・・あ、ああ。前回の作戦でもJ型に乗ってあの「黒い三連星」と共同作戦を展開したんだぜ?
    まあ、俺以外の奴等は全部やられちまったけどな・・・だが俺は生き残った!悪運も実力のうちさ!」

    アムロは衝撃を受けた。彼は「ガンダムもどき」と戦った時の戦闘で、味方のザクに乗っていたと言ったのだ。
    それでは、アムロが必死で戦場から引き摺って離脱させたザク。
    あの故障したコックピットハッチから必死で手を振っていたのは・・・

    「・・・何だよ。俺の顔になんか付いてるってのか?」

    「い、いえ・・・」

    アムロは思わず目を伏せる。ラルには自惚れるなと言われたが、もう少し早く戦場に到着できていたら、
    味方の犠牲はもっと減らせていたかも知れないのだ。そう、目の前のバーナードの仲間を少しでも救えたかも知れない。
    そう思うと悔恨は、拭えない。

    「・・・おい、どうしたんだ。疲れてんのか?何か調子狂うなあ。
    もっと高い所からガンガン言い返して来る嫌な奴かと思ってたのに」

    「バーナードさんは、戦いの後、今までどうしてたんです?」

    「仕方ねえなあ、バーニィで良いよ。俺の事はそう呼べ。皆からもそう呼ばれてた。
    戦闘のダメージのせいで実はついさっきまで・・・ガウのベッドで三日三晩オネンネしてた。
    だからその間の事は何も知らん。目覚めたら横に三連星はいるわ、ここはバイコヌール基地だわで驚いたぜ。
    寝ている間の精密検査で身体に異常は無しと診断された俺は、
    そのまま補充兵としてランバ・ラル中佐の部隊に編入されるそうだ」

    なるほど。それではバーニィはシーマの亡命未遂事件の事を知らないのだ。それは好都合だとアムロは思った。
    それどころかアムロがガンダムのパイロットである事も、
    試験機のグフであの戦場に出ていた事も何故かラルからは聞かされていない様だ。
    ハモンが提案したとおり表向きアムロは「MSを持って亡命した整備兵」にしか過ぎない事になっているのだった。
    ラルやハモンはあくまでもラル隊以外の第三者には真実を隠し通すつもりなのだろう。
    三連星をはじめダグラス隊、シーマ、ライデン達は
    アムロのMS操縦の腕前を見ているので正直どこまで誤魔化されているか
    疑わしいが、体裁と理屈さえ整えてあれば、例えそれが屁理屈であったとしても、
    そうだと言い張る事でそれが事実と化して行く。

    「あのな、俺だって暇じゃない身だ。本当はお前みたいな子供、相手にしてられないんだぞ?だがな・・・」

    「・・・」

    「・・・判らない事は俺に訊け。仕方ないからお前の面倒は俺が見てやる」

    「は?」

    思わぬバーニィの申し出にアムロは眼をぱちくりした。


336 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/04(水) 01:11:57.80 ID:ov94SYE0

    「お前は今まで連邦にいたからジオンの事を何も知らないだろ。
    判らない事をいちいちラル隊の皆さんに訊いてまわる様な迷惑を掛けるなって事だ。
    MSの操縦だってどうせ一から始めるんだろ?俺が色々教えてやるから早いとこイッパシの戦力になれよ」

    「わ、判りました。アムロ・レイです。宜しくお願いしますバーニィさん」

    「俺はエース一歩手前の男だ。俺に出会えてラッキーだぜアムロ・・・!」


    頭を下げるアムロの肩に、少し胸をそびやかしたバーニィが手を置いた。


    紅潮させた顔でアムロの部屋から出て来たバーニィは、部屋の前で待ち構えていたクランプとコズンに気が付いた。
    二人とも何故かニヤニヤした笑いを口元に張り付かせている。

    「どうだった、中の奴は」

    「15歳だそうです。まだヒョロついた子供じゃないですか。
    俺に認められたかったらレベルを上げて見せろって、ハッタリも少々かましてビシッと言ってやりましたよ!」

    クランプの問いに答えたバーニィに対してコズンがヒュウ!と口笛を吹いた。
    驚いたバーニィが眼を向けると、コズンは知らん顔であさっての方を向いている。何なんだ。

    「お前にアムロを任せる。これはラル中佐の方針なんだ。
    頼りにしているぜバーニィ、あのルーキーに色々教えてやってくれ」

    「はい。正直自分もまだまだ未熟な新米兵士ですが、全力を尽くしてご期待に副えるように努力します!」

    二人にきっちりと敬礼をしたバーニィは、失礼しますと言い残して立ち去った。
    後姿を見送った2人は少しだけ感心した様に話し始めた。

    「こりゃ大当たりかも知れないな、ラル中佐の作戦は」

    「バーニィの評定レポートを読んでラル隊に引っ張って来たのは中佐ですからね。将来性を見出したんでしょう。
    あの様子だと、奴を戦場で助けた事をアムロは言わなかったらしいですな」

    「これで三連星にも新兵教育の一環だとその件に緘口令を敷いた事が無駄ではなくなった訳だ。
    さて・・・問題はここからだ。こちらの目論見どおりにルーキー達はお互いを鍛えあって著しい伸びを見せるかな?」

    「ラル隊も新しい血が入り、世代交代の時期って訳ですか?
    俺はまだ現役を続行する腹づもりなんですがね。若い奴らにゃ負けませんぜ」

    「安心しろ。俺もだ」

    くくく、と可笑しげに含み笑いを交えた二人は、肩を並べて基地内に設けられたバーに向かって歩き出した。
    この基地にはシーマ指令の個人的な好みで上等な酒が大量に運び込まれていると聞いている。
    後ほどラルやシーマ、ライデン等も合流する予定になっており、
    今日は久々に楽しく酔おうと誰もが心に決めている様だった。


355 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/04(水) 19:40:18.86 ID:jpqoMF20
    バーニィは慌しく動き始めた。基地内を走り回り、資料集めに奔走している。
    それが何の資料なのか判然としないが、真剣な顔の彼を誰も揶揄する事などしなかった。

    その様子を通路の端からラルとハモンが眺めている。

    戦時下のため高校卒業と同時に徴兵されたバーニィは、訓練部隊での錬成の際に適性を認められ、
    MS地上侵攻部隊に派遣されたのである。

    バーニィは決して学業は優秀といえる兵士ではなかった。
    だが彼はいつも、実戦さながらの模擬戦闘訓練時にこそ本領を発揮するのだった。
    地道で堅実な手段で粘り強く事に当たり、何がしかの戦功を上げるのが常だったのである。
    それが例え表立って評価されづらい物であっても彼は進んでその役を引き受け、仲間からの信頼も厚かった。


    普段は目立たないが、努力する事を厭わず、やる時はやる漢――


    ラルは評定レポートからバーニィの資質をそう読み取った。
    そして、まだまだ未知数の部分は多いが、との注釈付きながら、彼の可能性を高く評価していたのである。

    「天才肌のアムロと努力堅実型のバーニィ。その二人のルーキーを組ませたらさて、どうなるかな。
    楽しみじゃないか、ハモン」

    「アムロの才能を目の当たりにした時、バーニィがどうするか、でしょうね。
    ふて腐れて全てを投げ出す様な事にならなきゃいいのですけど・・・」

    もしそうなったなら、バーニィのみならず、それはアムロの心にも傷を残す事にもなりかねない。
    ハモンは言外にそう言っているのだ。
    ラルはそれに対してややおどけた様な表情で答えた。

    「こういうのは、子育てに似ていると思わんか。あんな子供が欲しかったのだろう?」

    「ふふ、そうね。取り敢えず見守りましょうか、あなた」

    仲睦まじく通路から姿を消した2人だったが、それに全く気が付いていないバーニィは、
    足りない資料を揃える為にまたハンガーに向かって走り出していた。


391 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/06(金) 20:20:53.86 ID:6V/zc2o0

    鉱山基地オデッサへ向かう連邦軍をいつでも迎撃できる様に、
    バイコヌール基地の第一格納庫ではシーマ部隊のMSが常に稼動状態でスタンバイされている。
    資料を抱えて格納庫に赴いたバーニィは、昼夜交代制で黙々と整備と調整に当たるメカマン達が、
    それでも不平不満を決して漏らそうとしていない事に驚いていた。
    サイド3から2つの部隊を経由して地上に降りた彼は、
    部隊の意識を末端まで統一させる事が如何に難しい事かを知っていたのだ。

    部隊司令が余程優秀な人間なのだろうかと考えをめぐらせるバーニィだったが、
    目の前をスルリと横切った年端もいかない少女にびっくりして思考は寸断されてしまった。

    「お、おい!何やってんだお前!ここは子供の遊び場じゃないぞ!」

    思わず少女の肩を後ろから強く掴んでしまったバーニィだったが、
    少女に振り向きざまにその手を払われ、遠心力を加味した平手打ちを右の頬っぺたに思いっきり食らわされた。
    パチーンと異様に乾いた音が格納庫に響き渡る。その、あまりにも見事な音にメンテ中の整備兵が何人か振り返った程だ。

    「あいたーっ!?」

    驚愕の表情でバサバサと抱えていた資料を落っことしつつ右頬に手を当てるバーニィ。
    倒れる事こそ堪えたが、かなりかっこ悪い。
    いきなり引っ叩かれるとは思ってもいなかった。完全な不意打ちだった。
    少女はバーニィに掴まれた方の肩に手をやり、怒りの表情でもう片方の手を腰に当てている。

    「いきなり何するのよ!痛いじゃないの!」

    「こっちのセリフだ!お前はなんだ!?幾つだ!?ここは危ないから早く出てけっつってんぐっ・・・!!」

    懲りずに少女の腕を掴もうとしたバーニィだったが、今度は鋭いパンチをミゾオチに食らった。一瞬呼吸が停止する。
    だが今回も膝がつきそうになるのを堪えるバーニィ。これが現場の兵隊の誇りだ。涙目なのは秘密だ。

    「私はメイ・カーウィン!! 14歳よ。これでもMS特務遊撃隊の整備主任なんだぞ!」

    「え・・・うそ・・・うわっ!?」

    呆けた顔で呟くバーニィだったが、後ろからのしのしとやって来た巨大な影に襟首を掴まれ、
    そのまま高々と宙に吊り上げられてしまった。

    「メイの言ってる事は、本当だ」

    「オルテガ中尉!?」

    バーニィは驚くが、メイの居る所にオルテガあり。それは最近の部隊内では不文律となって来ている現象だった。
    黒い三連星はラル隊と補給部隊の直属護衛が任務だった筈なのだが、
    オルテガに限って言えば、殆んど現状はメイのボディガードと化している。
    大熊の様な用心棒はニタリと笑いつつバーニィに顔を寄せた。

    「良かったな若造。メイのパンチを食らっていなけりゃ俺が貴様をシメていた所だぜ。
    まず、3日はメシが喰えなくなってただろうな」

    「・・・自分は・・・悪運だけは・・・強いみたいですから・・・」

    窒息寸前、息も絶え絶えに答えたバーニィの襟をオルテガは無造作に離した。
    今度こそ尻餅をついたバーニィは、そのままゲホゲホと咳き込んだ。


392 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/06(金) 20:23:22.22 ID:6V/zc2o0

    「で?あんたこそ何の用?MS整備の邪魔だけはしないで貰いたんだけど?」

    仁王立ちになったメイが腕組みをしてバーニィを見下ろす。
    当初バーニィが想定していた2人の立場が完全に逆転している。

    「・・・ラル隊に配属されたバーナード・ワイズマン伍長だ。
    MSの資料を集めている。OS系の。連邦のMSのと照らし合わせて比較対比表を作りたいんだ。
    それと、駆動システムのアクチュエーター関連のレスポンス対比もしたい。資料があったら貸して貰えないだろうか?」

    尻を払いながら立ち上がるバーニィにメイが怪訝な目を向ける。

    「それって結構、機密事項入ってるわよ?目的は何?」

    「連邦から亡命して来た新米兵士がいる。奴を一刻も早く一人前のMSパイロットにする為に必要なんだ」


    メイとオルテガの目が丸くなる。


    「新米兵士って・・・もしかしてアムロの事を言ってるの?」

    「知ってるのか。そう、アムロ・レイだ。准尉の階級章を付けてたが、実力の無い奴を俺は認めん。
    奴は俺がこれから徹底的に鍛えてやるつもりだ」

    「実力の無い奴って、あなたねえ・・・!」

    呆れながらもバーニィに突っ込みを入れようとしたメイは、バーニィの背後にいるオルテガが、
    慌てて人指し指を口に当てるのを見て言葉を飲み込んだ。
    『そうか、そう言えばラル中佐に口止めされてたんだっけ』と思い出したメイだったが、
    アムロのMS戦闘データに惚れ込んだ身としては≪アムロに実力が無い≫と言われて面白い筈は無かった。
    バーニィはこちらの様子に気付かず、言葉を続ける。

    「しかし何事も基本は大事だ。訓練の前に基礎をしっかりと固める。
    それにはまず連邦とジオンのMSの違いを明確にして、奴のやり易い環境を作ってやらないとな。
    その上でないと鍛える事なんてできないだろ?段階を踏んで着実にステップアップして行けば、
    今まで見えなかった物が見えて来るもんだ。
    ちょっと慣れて来ると省いちゃう奴が多いが、『取り敢えずやれてるから良い』って感覚は一番危険なんだ。
    こいつはどんなベテランでも当て嵌まる事だと思うぜ」

    メイもオルテガも驚いて目を見交わした。この頼りなさそうな青年、見かけによらず意外と考えているではないか。
    メイは何よりも、この青年がアムロの事をちゃんと考慮して育成計画を立てている点に好感を持った。

    「いいわ。資料は渡します。付いて来て」

    「ありがたい。恩に着るよ。俺自身もどんどんレベルアップして・・・アムロに抜かれない様に努力するつもりなんだ。
    これからも、俺達に協力してくれると助かるんだけどな」

    「まかしといてよ!」

    ポジティブな男は嫌いではない。
    メイは書類を拾い集めて立ち上がったバーニィに、にっこり笑って親指を立てて見せた。


403 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/09(月) 03:13:37.35 ID:L1VK1fY0

    バイコヌール基地の地下にあるラウンジを兼ねたバーに大きな歓声と笑い声が響く。
    結構な広さがあるそこには、シーマの趣味に合った上等で強い酒が数多く運び込まれ、
    ちょっとした酒場を凌ぐ佇まいだった。
    シーマとラルの許しを得た兵士達は当直の者を除き、殆どがここに集まり共に酒を酌み交わしている。
    今宵は無礼講なのだ。
    酒の席での小競り合いもいくつか起こっている風ではあるが、概ね良好に親睦を深めているようだ。
    やはり酒の力は偉大なのだろう。
    そんな中、クランプとマッシュ、ガイアとコズンはそれぞれチームを組み、酒の飲み比べをした挙句、
    どちらが勝者なのかも判然としないまま全員が伸びてしまっていた。


    「せわしないですな。もう行かれるのか」

    氷の残ったグラスを置いて立ち上がったダグラスにラルが声を掛けた。

    「ここを離れる前に貴君らと杯を合わせられた事にこそ意義があったのだ。
    なあに、我が部隊の本隊を引き連れてすぐに戻る。それまで暫しのお別れというだけの話だ」

    ラルがWBを鹵獲した為、急遽上層部の指示により補給部隊として徴用されたダグラスのMS特務遊撃隊は、
    大量の補給物資を自前の輸送機に積み込む代わりに
    手近な基地に部隊の戦闘要員を置き去りにして来ざるを得なかったのである。
    しかし今やラル隊は充実した設備と規模を誇るバイコヌール基地にたどり着く事が出来たのだ。
    暫定的な補給部隊の役割は終わったと言えた。

    「補給物資と共にメイ・カーウィンをラル隊に預けて行く。歳のわりにしっかりした娘ではあるが、
    我が隊が戻るまで宜しく面倒を見てやってくれ」

    「わかりました。ですが御心配には及びませんぞ。優秀なメカニックはどこの隊でも大事に扱われるものですからな」

    「アタシも部下には全員に釘を刺してある。ラル隊とダグラス隊のお嬢ちゃん達にチョッカイ掛けた奴は殺す、とね。
    ま、男共に関しては知った事じゃないが!」

    強く透明な蒸留酒の入ったグラスを掲げながらシーマはケラケラと笑った。
    さりげなくシーマの体をいつでも支えられる位置で控えめに杯を傾けているライデンは、
    上機嫌な彼女を見てちょっとした感慨に耽っていた。

    シーマはいつも何かから必死で逃げる様に酒を飲むのが常だったのだ。

    まるで意識と理性をカケラでも残しておくのが恐ろしいとでもいう様な痛飲を繰り返していた。
    あまりの荒れ様にライデン手ずから酒瓶を取り上げた事すらある。
    そんな時シーマは、まるで子供の様に彼の腕の中で怒り、泣き、甘え、そして眠るのだった。

    その彼女が今は本当に楽しそうに酒を飲んでいる。

    その事が堪らなく嬉しい。
    思わずラルに感謝の眼を向けてしまう。その視線に気付いたハモンが、ラルの隣の席でさりげなく視線の会釈を返した。

    「ワシの部隊の男共はツワモノ揃いですから多少の荒事は望む所でしょう。
    雨降って地固まるの諺もある。少しぐらいの揉め事は、お互いを知る為に必要不可欠ではないですかな」

    ラルのその言葉は、まるで先程巻き起こったバーニィとメイの騒動を踏まえた様な物言いだった。
    もちろんそれはラルのあずかり知らぬ事ではあったのだが。


404 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/09(月) 03:14:46.66 ID:L1VK1fY0

    「予定通り行けば5日程で戻って来れるとは思うが事態は流動的だ。その間に上からどんな命令が下るか判らんからな。
    お互い場所は離れていても臨機応変に行動しよう。くれぐれも・・・姫様を頼んだぞ」

    「了解です。アルテイシア様はこの命に代えましても。
    それと、我が隊からゼイガンとマイルをザクと共に派遣しそちらの護衛に就かせます。
    2人とも優秀なパイロットです。何かの時には御役に立てるでしょう」

    「助かる。それでは暫くの間、2人を借りて行くぞ」


    夜がまだ明け切る前にダグラスを乗せた3機の輸送機は飛び立って行った。
    彼らがここに戻る時、戦力は更に増強される事になるだろう。
    滑走路に出て輸送機を見送っていたラル達一行は、しかし基地司令室から駆け付けた伝令兵の報告に表情を曇らせた。

    「何?オデッサからウラガン中尉がここに向かっているだと?」

    「・・・おいでなすったな。マ・クベの命令書の付属品が」

    シーマの言葉にライデンが苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
    夜半から吹き始めたバイコヌールの風は一段と強まり、午後には嵐になりそうな雲行きになって来ていた。


435 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/11(水) 19:56:40.68 ID:YID5I/A0

    アムロの部屋からバーニィが退出し、クランプとコズンが並んで部屋の前から立ち去ったのを
    反対側の通路から見ていたセイラは、そおっとアムロの部屋に近寄り、周囲を窺いながらそのドアを控え目にノックした。
    本来、謹慎中の兵士に面会するには許可が必要なのだ。だが今回セイラはその正式な手順を踏んではいない。
    状況的には完全に「密会」であり、事が露見した場合、人によっては「逢引き」と取るだろう事は理解している。
    胸の鼓動が高まり顔が熱くなっているのが判る。

    しかしいくら待っても中からの返事は無い。セイラは困った。激しくドアを叩く訳には行かないのだ。
    こんな所を誰かに見られたら・・・と思わず開閉スイッチを押してしまう。

    果たして、ロックされていなかったドアは簡単に開いた。

    素早く部屋の中に滑り込んだセイラは胸に手を当て、閉まるドアを背にして小さく息を吐き出した。
    まだ心臓がドキドキいっている。こんなのは子供の頃に兄と2人、罪の無いいたずらを両親に仕掛けた時以来の感覚だ。

    部屋を見渡すとアムロは、倒れ込むようにベッドに突っ伏した状態で、そのまま静かに寝息を立てていた。

    何故だか判らないが一気に体の力が抜ける。
    ・・・理不尽な怒りも、ちょっとだけ、湧いて来る。

    それと同時にまだあどけなさの残るアムロの寝顔を見ていると、妙な可笑しさをも覚えてしまう。
    セイラはそろそろとアムロに近付き、頬っぺたを人差し指で軽くつつきながら声を出さずにクスクス笑った。
    良く見るとアムロは真新しいジオン軍の制服を着ている。そう言えばアムロは極力目立たせない存在とするため仕官にせず
    「准尉」に任官するとラルに聞いていたのだった。
    そして今やセイラの着ている制服も新しい物になっていた。
    アムロと一緒にジオンに亡命した直後から、セイラはジオン軍に協力する民間人である「軍属」として、
    ハモンの服を借りて着る様になっていた。
    ハモンもそうだが軍属である人間には階級が無い。当然セイラもそうなる事にラルは少々渋ったが、
    セイラもアムロ以上に目立ってはいけない身の上である以上、それは仕方の無い措置であった。
    そしてここバイコヌール基地には、軍人だけではなく軍属用の新品の制服も豊富にストックが揃えられていたのである。


436 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/11(水) 19:57:15.60 ID:YID5I/A0
    アムロと一緒にあのコックピットにいた時、そしてアムロが戦い、見事自分を守り抜き、こちらに笑顔を向けた時・・・
    セイラは確かに自らの体の芯が熱く蕩けて行くのを感じた。
    それは、この少年を受け容れたいという欲望(!)の現れだったのだろうか。
    それともあれは、あの特殊な状況が引き起こした一時的な気の迷いだったのか。

    今まで誰にも、最愛だった兄にも感じた事は無かった感覚にセイラは戸惑っていた。
    自分はどこか狂ってしまったのかも知れないと思うと、いてもたってもいられなかったから、後先考えないでここに来た。
    この自分のおかしな感覚を明確にさせる事ができるなら、例えどんな事になっても、構わないとすら思っていた。
    女性としてある種の覚悟を決めてから、セイラはこの部屋のドアをノックしたのだ。

    しかし、もしかして自分を狂わせたかも知れない張本人は、無防備に体を投げ出して寝息を立てている。
    拍子は抜けたが、愛しさは募る。それは新鮮な感覚だった。
    セイラはアムロのブーツを脱がせてやってからベッドの脇にきちんと揃えて置き、
    床に膝を付いてアムロの顔を覗き込んだ後、もう一度クスリと笑ってから立ち上がった。
    正直な自分の気持ちに確信が持てた気がする。何よりアムロの顔が見られたのだ。今日はこれで充分だと思えた。


    軽いまどろみの中、人の気配を感じた気がしてアムロは薄く目を開き顔を起こした。


    しかしそこには誰もおらず、常夜灯が黄色い光を灯しているだけだった。
    室内灯をいつ切り替えたっけと夢うつつにボンヤリ考えるアムロは、ふと残り香のような甘い体臭を感じ取った。
    ごく自然にセイラの笑顔を思い浮かべたアムロは『いい夢が見られそうだ』と再び目をつぶり、
    幸せそうな顔で・・・またすぐに寝息をたて始めた。


438 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/11(水) 20:10:33.36 ID:YID5I/A0

    「地球方面軍司令代理マ・クベ大佐よりの命令を伝える」

    オデッサから到着するなり基地司令室に通されたウラガンは、
    出迎えたラルとシーマを前にして、まず尊大にそう切り出した。
    バイコヌール基地司令シーマへの挨拶も、WBを鹵獲したラルに対して労いの言葉ひとつ無い。
    ウラガンとは、つまりはそういう男だった。

    「聞き捨てならないね。いつからマ・クベ大佐は地球方面軍司令の代理をやる様になったんだい!」

    「口を慎まれよシーマ中佐。全てはキシリア様のご配慮だ。
    ガルマ様亡き後、地上を統括する責任者がどうしても必要だったのだ。
    その任にあたられるのはマ・クベ大佐をおいておるまい。
    以後、私の発言はマ・クベ大佐からのそれだとお考え頂きたい。宜しいですかな」

    チッ!と吐き捨てる様に横を向き不快感を露わにするシーマに対して
    ラルはあくまでも冷静にウラガンの言葉を促した。
    恐らくドズルが倒れた今、キシリアは己の権勢を欲しいままにして軍部を動かしているのだろう。


    「連邦が世界各地から部隊を集結させ早晩わがオデッサ基地を攻略する大作戦を企んでいる事は周知の通りだ。
    我が軍も現在それを迎え撃つ為に、戦力をオデッサに集中させている」

    ウラガンは一度言葉を切り、一同を見渡した。

    「だが、ここへ来て・・・
    この基地を大きく迂回するルートで進軍していた筈のジーン・コリニー提督率いる大部隊が
    謎の転進を行ったという情報が入ったのだ。
    どうやら・・・コリニー提督が、進軍中に死亡したらしい。
    それが病死か事故死か、はたまたその他の理由かは、不明だがな」

    ウラガンは、言葉を区切りながらその場にいる人間の表情を観察している。
    当然の如く、ラルとシーマは表情を動かさない。マ・クベはジオン軍の情報部を掌握している男だ。
    どこまでの情報を握っているか判らないのだ、迂闊な発言は墓穴を掘る事に繋がる。
    ましてやこちらは探られたくないハラは一つや二つでは無いのだ。

    「これにより連邦軍は予定していたオデッサ攻撃に参加する部隊数を揃える事ができず、
    オデッサ攻撃のXデーが先延ばしにされる模様だ。
    その為に連邦の各部隊は、補給路確保の為に進軍速度を緩め、あるいは現在の駐屯地に足止めを食っている状態だ。
    これは我が情報部が独自に入手した精度の高い情報である」

    噂ではジオンは連邦の高官にスパイを送り込んでいるとも聞く。
    嘘か真かは判らないが、マ・クベがこれ程自信満々に言うからにはその情報は間違いないだろうとラルは思った。

    「貴様らが鹵獲した木馬と連邦のMSは当初、すぐにサイド3に送られる筈だった。じっくりと連邦の技術を解析し、
    わが軍の技術力を底上げする予定だったのだ。だが、先に話したとおり状況が変わった。
    巧遅よりも拙速を良しとする状況にな」

    「・・・まだるっこしいねえ!結局マ・クベは何だってんだい!」

    シーマが上官を呼び捨てにして声を荒げる。だがこれは多分に演技が入っている。
    ウラガンの意識を散漫にし、シーマやラル達の都合の悪い事から遠ざけさせる為だ。
    そしてウラガンは顔を真っ赤にしてまんまとその手に乗ってきた。

    「貴様!それ以上大佐を愚弄すると上官侮辱罪を適用するぞ! 」

    ニヤリと笑ったシーマが額面だけの謝辞を述べると、ウラガンは気を取り直した様に言葉を続けた。


439 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/11(水) 20:11:04.51 ID:YID5I/A0

    「貴様達にはオデッサ攻略の為に各地から集結中の連邦軍の部隊を、各個撃破して貰う。
    連邦軍が大部隊を形成してしまう前に叩くのだ。
    つまり、貴様らは連邦のオデッサ攻略作戦を実行不能にするのが任務だ!」

    「何だってえ!?」

    シーマが呆れた声を上げる。ラルもむうと唸ったまま黙り込んだ。
    『無理だ』と2人は思った。なにしろ連邦軍の物量には凄まじい物があるのだ。
    それが例え集結前の部隊であっても、である。
    そして言わずもがなな事ではあるが、連戦を重ねるうちにどんな屈強なMS部隊でも
    いつかは必ず力尽きる時が来るだろう。
    まさに捨石である。

    「心配するな。命令を受けたのは何も貴様らの部隊だけではない。
    例えばゲラート・シュマイザー少佐の隊には、もう既に命令は下っている。その他の隊にも順次命令は届く予定だ」

    「ゲラート・・・闇夜のフェンリル隊か!」

    ラルが更に唸り声を上げる。彼もまた、ラルとは深い絆で結ばれた漢だったのだ・・・!
    シーマはこの人選を聞いてマ・クベの目論見を看破した。
    いくらジオンの部隊が各個撃破を行おうと、
    連邦軍はその物量を頼みにいずれ必ずオデッサ基地攻略作戦を発動するだろう。
    要はそれまでにいくらかでも連邦軍の数を減らせれば御の字だという事だ。
    そしてこの特攻に近い無謀な作戦に投入されるのは旧ダイクン派と呼ばれるザビ家と反目した過去のある者や、
    ザビ家に不要だと判断された者、あるいは何らかの理由でザビ家に疎んじられた者・・・
    今回はそれにプラスしてザビ家の威光をカサに着るマ・クベの裁量も含まれているだろう。
    つまり、マ・クベの気に入らない者・・・

    それら「ザビ家にとって目障りな存在」を、作戦の名の下にまとめて使い潰すつもりなのだ。
    当然、連戦に次ぐ連戦を要求される事になるだろう。隊が全滅するまで、である。
    その結果、連邦軍は弱体化し、ザビ家に歯向かうものを一掃出来る。まさに一石二鳥といえた。
    シーマはこの悪辣なやり口にぎりりと歯を噛み鳴らした。だが表立って反抗する訳にはいかない。
    彼女は深く、静かに何かを考え始めていた。


    「ラル中佐にはキシリア様直々に連邦の新型戦艦である木馬を拝領するとの通達があった。光栄に思えよ?
    マ・クベ大佐からも・・・木馬を駆り、戦場で敵にジオンの優秀さを存分に見せ付けるが良い、とのお達しである」

    戦場で目立つWBに乗るという事は連邦軍の憎悪を一身に浴びる事であり、格好の標的となる事に他ならず、
    他のどんな部隊よりも撃墜される確立が高い事を意味している。
    ウラガンの言葉にラルは拝礼して見せたが、ハラワタは煮えくり返る様だった。

    「そして木馬に搭載されているMSだが・・・報告にあった2機のうち、
    携行型のビーム兵器と共に1機はオデッサに持ち帰れとの通達を受けている。そのMSはどこだ?
    格納庫へ案内せよ。オデッサに持ち帰るMSは私が選ぶ」

    WBに搭載されていたMSは、修理が済んでいないガンタンクを除き、
    ガンダムとガンキャノンは既に基地格納庫に運び込まれていた。

    「・・・こっちだ」

    シーマが先導して案内する。ウラガンは尊大な態度でそれに続いた。


473 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/14(土) 00:27:47.78 ID:X9M93i20
     バイコヌール基地第一格納庫にウラガンを案内した一行が辿り着いた時、
    そこでは忙しく動き回る作業員に混じりメイ、バーニィ、オルテガの3人が集めた資料を抱えて
    近くの待機スペースへ移動しようとしている所だった。
     ラルとシーマの姿を確認した3人は、急いで資料を抱えたまま窮屈な敬礼をして見せる。
    それに対してラルとシーマは軽く返礼を返すがウラガンは3人を無視してその前を通り過ぎ、
    整備ラックに並べられたMSに近付いた。

    「ほう。これが連邦のMSか。直に目にするのは初めてだな」

     ウラガンは眼前に屹立する白と赤のMSを見上げて独り語ちた。
    彼はシーマから手渡されていたスペック表に目を落とす。

    「白い方はRX-78ガンダム。赤い方はRX-77ガンキャノン・・・
    なるほど。白兵戦用と中距離戦用に特化している訳か。
    ジェネレーター出力はどちらも同じ、装甲素材も同じ・・・」

    そう言いながらウラガンは、敬礼を解いたままこちらの動向を窺っているメイに視線を向け、
    突然甘ったるい声を出して話し掛け始めた。

    「君の事は聞いているよメイ・カーウィン。
    カーウィン家の令嬢でありながらその歳でジオニックの技術員でもあるそうだね?
    大したものだ・・・子供みたいな可愛い顔をしていても、もう立派な大人なんだな。
    その軍服の中も大人なのかな?
    その身体を今すぐオジサン達にも見せて欲しいぐらいだなあ」

    ウラガンの下卑た笑い声が響く。その場にいた彼の3人の部下達の笑い声もそれに追従する。
     メイはその舐めるような男達の視線と、嫌らしい猫なで声に生理的な嫌悪と逃げ出したい程の恐怖を感じ、
    自らの体を掻き抱いた姿勢のまま言葉を出す事ができなくなってしまった。
     後ろで見ていたシーマが堪りかねた様に拳を握り締めて前に出ようとするが、
    司令室の前から一行に付いて来ていたライデンが抑えた。
    これは奴等の手なのだ。ここでトラブルを起こせば奴等の思う壺だとその眼は言っている。
    シーマはライデンの手を振り払いはしたものの、何とかウラガンに掴み掛かる事をせずに済んだ。
    しかしその目は殺気を孕んでいる。
     ウラガンは息が吹きかかるほどメイに顔を寄せ、囁く様に言葉を続ける。

    「・・・そんな大人の君にちょっとだけ、訪ねたい事があるんだよ。いいかなぁ?」

    交渉事や駆け引きは相手に呑まれた方が負ける。
    ロクに頭が回らない状態ではこちらの手の内を容易に晒してしまい、
    相手の言いなりの条件で交渉が成立してしまうからだ。これは年若い娘をパニックに陥らせ、
    真実の情報を引き出そうとする汚い大人の卑劣な作戦だ。そんな事は判っている筈なのだが・・・
     14歳の少女は我知らず体が震え出すのを抑えることができない。いやだ。怖い・・・
    またあのザクに乗り込んだ時と同じ失敗を繰り返すのかと思うと、涙をこぼさないようにするのが精一杯だった。

    しかし次の瞬間、メイの視界からウラガンの姿が半分ほど見えなくなる。

    横にいたオルテガがほんの少しだけ、体をメイの前ににじり出す様にしたのだ。
    『いざとなったら俺がついている』・・・無言だがオルテガはそう言ったのである。
    メイは思わずウラガンの姿を遮ったオルテガの大きな背中を見上げ、感謝の視線を送るのだった。
    オルテガは一切メイを振り向かなかったが、メイはその行動で冷静さを取り戻し、
    目の前の男から受ける嫌悪からの恐怖を振り払う事ができた。

    「・・・はい。尋ねたい事とは・・・何でしょうか・・・」

    しかし、メイはわざと掠れた声を出し、語尾を震えさせていた。
     ウラガンはメイの様子に満足そうにニタリと笑い、
    オルテガはどこ吹く風とばかりに格納庫の天井を見上げている。
    今のメイは動転している少女を「演じて」いる。
    パニックを起こしかけていたメイの明晰な頭脳が再び回転を始めたのだった。


475 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/14(土) 00:40:42.74 ID:X9M93i20
    「簡単な質問だ。この2機のMSのうち、より優れているMS・・・
    つまり、分解して解析をした場合、ジオンの技術力をより向上させると思われるMSはどちらだと思うね?」

    ウラガンのその問いにメイは間髪入れずに即答した。

    「RX-77ガンキャノンだと思います」

    メイの返答にウラガンは少々意外そうな顔をした。
    彼は当然の如くRX-78ガンダムをオデッサに持ち帰るつもりだったのだ。

    「・・・おかしいではないか。何故形式番号が若い方が出来が悪いのだ」

    「出来が悪いわけじゃありません。まず・・・
    RX-77は、2門の240ミリキャノン砲と手持ちのビームライフルにより、
    RX-78に比べ桁違いに強力な火力を有しています」

    ウラガンはもう一度ガンキャノンを見上げた。
    確かに両肩のキャノン砲は隣のガンダムには無い力強さを醸し出している。

    「しかし連邦の白いMSと言えばあのシャアを唸らせた完成度の高さだと聞いているぞ。
    我が軍のMSが多く撃破されたのもこっちだ。どう考えても優れているのはこちらの白い方ではないのか」

    「それは、一言でいってしまえばザクを一撃で破壊するほどの強大な威力を誇る
    ビーム・ライフルを使いこなすパイロットの腕の差です。
    このRX-77にもビーム・ライフルが装備されており、
    その射程距離、威力、精度は共にRX-78のそれを凌駕します。
    RX-78の正規パイロットは既に死亡していますが・・・
    もしこちらにそのパイロットが固定して搭乗していたなら、恐らく戦果は逆転していた事でしょう」

    ウラガンは慌てて資料をめくる。ビーム・ライフルの性能は確かにRX-77の方が高い様だ。
    確かにメイはウソを吐いてはいないのだ。

    「装甲もRX-77の方が厚く、シールドを必要としません。
    これはアウトレンジで敵を撃破する事を目的としたこのMSの特性でもありますが、
    必要なら開いている片手に手持ち式のシールドを装備する事も可能です。
    その場合はパイロットのサバイバビリティも更に向上する事でしょう」

    「待て。機動性はどうなのだ。この赤い方はいかにも鈍重だ。
    それにスペックを見ても白兵戦用の武器が装備されていないでは無いか」

    「機動性に富んだMSを作り出す技術は連邦よりもジオンの方が優れています。
    例えばこのMS-08TXイフリート」

    メイはガレージの後方に2機並んでいるMSを指し示して見せた。

    「これなどはこのRX-78に匹敵する機動性を誇ります。地上での俊敏さではむしろ上かも・・・
    我がジオンは機動力を今さら連邦のMSから学ぶ必要は無いんです。
     我が軍に足りない技術は何と言ってもビーム兵器のノウハウです。
    これは残念ながら連邦軍に一日の長があります。
    それをモノにするにはより優れたサンプルの解析が望ましいでしょう?
     例えRX-77用のビーム・ライフルを装備しても
    恐らくRX-78ではそのポテンシャルを完全に発揮できないでしょう。
    RX-78より優れたビーム兵器を装備し、それを運用できるように設計されているのは
    このRX-77だけだからです。
    こちらを分解して徹底的に解析する事で確実にジオンの技術力は向上する事でしょう。
    例えば、なかなか開発が進んでいない次期主力MSのビーム・ライフルなどには
    恐らく良い影響を与えるのではないでしょうか」

    メイは一旦言葉を切り、ウラガンを見た。ジオニック社の社員であるメイの元には
    MSに関するさまざまな極秘情報が集まっている。
    思い当たる事があったのだろう、ウラガンは顎に手を当て、何かを考え込んでいる。


476 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/02/14(土) 00:41:26.93 ID:X9M93i20

    「そして白兵戦用の武器はRX-78に装備されているビーム・サーベルよりも、
    現時点での技術力ではエネルギーを無駄に消費しないヒート・ホーク系の武器の方が
    むしろ優れていると言えます。
     現状ザクのヒート・ホークで連邦の戦艦はもとより
    RX-78の特殊装甲ルナ・チタニウム合金を切り裂く事すら可能なんですよ?
    MSの白兵戦でそれ以上の威力の手持ち武器が必要だとは思えません。
     相手がもしビーム・サーベルで切り付けて来たとしても、
    ヒート・ホーク系の武器は刃の表面に発生する力場が、ビーム・サーベルを
    形作るフィールドと反発する為に、ビーム・サーベルをヒート・ホークで弾いたり受け止めたりする事が可能なのです。
    これは、双方の武器にアドバンテージが存在しない事を意味します。
     ビーム・サーベルの利点と言えば・・・コンパクトな収納が可能だという点ぐらいでしょう」

    ウラガンがううむと小さく唸っているのを目にして、メイはもう一息だと判断した。
    アムロの愛機をこんな男に持って行かれてたまるものか。

    「駆動系はジオンがMSに採用している流体パルスでは無くフィールドモーターと言われる方式ですが、
    これはRX-77もRX-78も同じです。総合的に見て・・・」

    「判った!皆まで言うな!・・・この赤い奴を輸送機に積み込め!急げよ!」

    ウラガンは煩そうにメイの言葉を遮り、手近な部下に命令を下した。
    メイは胸に手を当て小さく息を吐き出しながら目をつぶり、
    頑張ったよと言ったらアムロは褒めてくれるかしらと微かに微笑んだ。
ツールボックス

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