【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part7-3


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742 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/08(水) 19:41:59 ID:tthbYtkM0

護衛機が随伴しない単独の輸送機飛行ルートは、基本的に戦闘地域を大きく迂回する事が大前提である。
今回アムロの操縦するファット・アンクル型輸送機も連邦軍と直接対峙する最前線キエフを飛び立った後一旦クルスク方面に進路をとった後大きく折り返し、旧ベラルーシ領との国境にあたるゴメリを目指す、という極めて安全性を重視したものに設定されていた。
直線距離ならものの数十分で到達できる距離が、この場合は二時間ほどの飛行を余儀なくされてしまうが何より乗員と物資の安全には代えられないと言う訳である。
しかし飛行開始から20分程は順調だった天候がにわかに怪しくなり始めた頃から、アムロは自分の周囲に絡み付いて来る不穏な空気を感じ取っていた。
ファット・アンクル型輸送機自体の操縦感覚は極めて良好であるにもかかわらず、胸の奥に次第に湧き上がって来る何とも言えない軽い頭痛混じりの不快感。
隣の副操縦士席に座るセイラも先程から無言を貫いているのも、自分と同様に何か感じるところがあるからなのだろうかと勘繰りそうになったアムロは、両耳に装着している大きめのインカム付きレシーバーを揺らして小さく首を振った。
機長たる自分が、戦闘地域に向かう訳でもない輸送機の操縦ごときで根拠のない弱気は禁物であろう。

『おい、揺らすんじゃねえこのヘタクソが!』

だが、アムロが自分に気合を入れ直そうとしたまさにその時、レシーバーにドスの効いた怒声が響き渡った。
声の主はカーゴルームのモビルタンクに籠って整備を続けているデメジエール・ソンネン少佐である。

「も、申し訳ありませんソンネン少佐!」
『ったく・・・こんぐらいの風に無様に煽られやがって。
タダでさえお前らガキ共のせいでこの機内は小便臭えってのによう』

反射的に謝罪してしまったアムロは、ぶつぶつと悪態をつき続けるソンネンの言葉を黙って聞いていたセイラの瞳がその一瞬、冷たい光を放ったのを見て背筋を凍らせた。

「・・・この程度の揺れで作業できなくなるなんて、少佐も大したことはありませんのね」
『な、何だと手前ェ!?』

思わぬところからの反撃に意表を突かれたソンネンは、不覚にも息を呑まされた。
普段は味方を鼓舞する凛としたセイラの声は、意図的に研ぎ澄まされると肺腑を抉られるがごときの威力を発揮する。


「セ、セイラさん何を言い出すんです!?」

レシーバーのスイッチをオフにしたアムロが慌ててセイラを窘めたが、彼女は瞳の色を柔らかいものにすると涼しい顔でにっこりと笑った。

「あら、私達に対して失礼すぎる物言いでしょう?」

クスクスと悪戯っぽく笑うセイラは小悪魔的な魅力にあふれ、アムロは突発的に吹き付けてきた横殴りの風にまたもや操縦桿を取られそうになってしまった。

「テメエ、そこを動くなよ!?今からそっちへ行くからな!」
「ここへ来られたら操縦の邪魔です。私がそちらへ行きますわ」

言うなり、セイラは自分の耳に掛けていたレシーバーを外すと、髪を掻き上げて座席から立ち上がった。

「えええ!?セセセセイラさん待って!!危ないですよ!行っちゃダメだ!!」
「大丈夫だから心配しないで。それより操縦、しっかりお願いね」
「・・・!」

確かに強風が吹き荒れている今は自動操縦装置に切り替える事は出来ない。
操縦席を離れられない以上、不本意ながらここはセイラに任せるしかないのである。
自分の役割は、この悪天候をできるだけ速やかに突破し、乗員と物資の安全を確保する事しかありえない。
アムロは奥歯を噛み締めると今一度操縦桿を握り直し、前方に湧き上がる黒雲を睨み付けた。


743 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/08(水) 19:43:33 ID:tthbYtkM0

巨大輸送機ファット・アンクルの内部は大まかに言えばコックピット、機関部、カーゴスペースの3ブロックに分かれている。
コックピットブロックは巨大なカーゴスペースの真上に位置している関係上、これらの行き来には内壁に沿って取り付けられたタラップを利用する他はない。
セイラは機内に続くコックピット後部ハッチを出ると姿勢を思い切りかがめた状態で鉄骨むき出しの機内スペースをくぐり抜け、鉄梯子と呼ぶべき高さ20メートル近くもある簡素な舷梯を慎重に降りてゆく。
もちろん命綱など無い為に危険は極まりない。飛行中は尚更に、である。
この通路の利用し難さを鑑みるに、この機の設計者は内部の兵員の行き来を想定していなかったのかしらとセイラはちらりと訝しむ。
しかし、必要最小限のシンプルな構造を追及して開発されたファット・アンクル型輸送機は生産性とコストに優れ、ジオン地球侵攻軍に多大な貢献をして来たのもまた事実であった。
閑話休題。
それにしても途中何度か小さな揺れはあったものの、先程までの様な危なっかしさは感じなくなっている。
外の天候は悪化している筈なのに操縦の安定感が増している処を見ると、どうやらアムロがヘリコプターの操縦においてある種のコツを掴んだに違いなかった。

危なげなく船底に降り立ったセイラが固定されたコンテナの間をすり抜けヒルドルブに近づくと、まるでそれを待ち構えていたかの様なタイミングでヒルドルブの車体下部からハンマーを手にしたソンネンが這い出して来た。

「よお姉ちゃん、本当にやって来るたあ、いい度胸してるじゃねえか」

まさかハンマーでいきなり殴りつけて来ることはなかろうと思いながらも警戒を緩めずにいたセイラの予想に反して、ソンネンの顔は意外なほど不機嫌なものではなかった。

「当然でしょう、私は約束は守ります」
「ヘッ、気の強え姉ちゃんだ」

きつい眼差しを向けて来るセイラに、ソンネンは短く刈り込んだ髪を撫で上げ苦笑いで答える。
バタバタと機体に雨粒が当たる音がエンジン音に混じって聞こえる事で、ファット・アンクルが遂に嵐雲に突入したのだと判る。
ふとセイラは肌寒さを頬に感じた。気圧の変化に伴ってカーゴスペース内の温度が下がり始めたのであろう。

「さて、折角だから姉ちゃんにもヒルドルブの調整を手伝ってもらうとするか。
その小奇麗な顔がちっとばかし油まみれになる事は覚悟してもらうぜ」

ニヤニヤと笑いながらソンネンはヒルドルブの前に屈み込み、キャタピラ回りのコネクターをハンマーで叩きはじめた。
恐らくこれは音の響きによって異常を感知する技法なのだろう。

「判りました。まずは何を?」
「そうだな、ラックへ行って91番のミッションオイルを持って来い、それと」
『くしょん』
「?」

微かに聞こえたくしゃみに似た異音。
しかも何だか聞き覚えがある声。セイラはヒルドルブの脇に固定されている補給物資のコンテナに急いで目を奔らせた。まさか。

「おい、聞いてんのか」
「は、はい」

いらいらと振り返ったソンネンは、狼狽えた顔でしきりとあたりを見回しているセイラを見て吐き捨てる様な舌打ちをすると、再びヒルドルブのパーツにハンマーを当てた。

「ったく、女って奴あイザとなると使い物にならねえんだからよ・・・いいか、一度しか言わねえぞ、持って来るのはミッションオイル91番、それと」
『くしょんくしょんっ・・・!』

今回の異音はソンネンにもはっきり聞こえ、彼はやれやれと口に出しながら立ち上がった。

「おい何だ姉ちゃん、カゼでもヒキやがったのか?意外とか弱いじゃねえか」
「い、今のは私ではありません」
「何言ってる、ここには俺とお前の2人しか」

『くしゅっ』

「!」「!」


744 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/08(水) 19:44:16 ID:tthbYtkM0

瞬間、呆けているソンネンを残し、セイラは一つの小型コンテナの前に素早く移動するや怖い顔でぴたりと耳を付けた。
衣料用コンテナである。正面にハッチが付いている為、積み重ねて固定する事ができ、このまま据え置きで使用できる構造になっている。
そのハッチの締りが、良く見ると、甘い。

「返事をなさい」
『・・・』

セイラの声は低いが、頭を鉄製のコンテナに付けているので骨伝導で中には明瞭に聞こえている筈である。
しかしコンテナの中から応答はない。

「声で判ったわ。あなたなのでしょうハマーン」
『・・・』

やはり返事はない。

「あくまでもシラを切るつもりならいいわ」
『・・・』

内部で彼女が身を竦める気配と息遣いがはっきりと感じ取れるが、逆に息を殺して返事をしない作戦に出たのだと判るとセイラはコンテナから身を離した。
コンテナの中で一瞬安堵した人影だったが、続くセイラの言葉に我が耳を疑った。

「この正体不明なコンテナは投棄します。覚悟は良くって?」
『!?』

がたたっとコンテナが震えた。内部の人間の動揺が見て取れて、こう言っては何だが非常に判りやすい。

「補給物におかしな物は混ぜられないもの。悪く思わないでね」
『・・・!・・・?』

小刻みに鉄製のコンテナが震え出した気がするが、流石にこれは気のせいだろう。
数秒の沈黙の後。

「さよならハマーン」
『待って!!待ってぇ!!』

本当にコンテナの前を去りかけていたセイラは、コンテナの隙間から響く切羽詰まった懇願の声に、やけにゆっくり振り返った。






「ハマーンですって!?ど、どういう事ですか!?」

ようやく雨雲を突破し、操縦席のシートで深く一息ついたアムロは、カーゴルームから届いた予想外の報告に飛び上った。


745 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/08(水) 19:44:54 ID:tthbYtkM0

『どうもこうも無いわアムロ。これは完全に密航よ』
「み、密っ航っっ!?」
『ちょっと待って。本人に替わるから』
「えっえっ?」
『・・・うっ・・・ひぐっ・・・・・・アムロぉ・・・・・・』

レシーバーの中から聞こえてきた声は確かにハマーンである。ぐしゅぐしゅに泣いている。

「ハマーンなのか!?君は何だってこんな事を!!どうしてこんな!!」
『・・・うぅ・・・きもちわるぃ・・・・・』
「え、何?具合が悪いのかい?」

先程までの怒りはどこへやら、アムロの顔が青ざめる。

『・・・』
「ハマーン!セ、セイラさん!一体どうなってるんです!?」
『どうやらお芝居ではなくて本当に調子が悪そうなの』

かつてWBに乗るまでは医者の卵として医療に従事していた彼女の眼をごまかす事は出来ない。
カーゴルームの片隅に操縦席との通信用に設えられたコンソール。そこから武骨に突き出したマイクに、セイラは更に口を寄せた。

「おかしな体勢のままずっと揺られていたみたいだから・・・それとも、さっきさかんにクシャミをしていたから風邪をひいたのかも知れないわ。
どっちにしろ、彼女を叱るのは後回しね」

言いながらセイラは彼らに背を向け憮然とした表情でがりがりと頭をかいているソンネンを横目で見た。
いかなソンネンでも病気の子供には勝てない様だ。そもそも扱い方が判らないのだろう。
実はセイラ自身も先程からずっと軽い頭痛をおぼえていたのだが、ぐったりしたハマーンを支えているこの状況でそれを言う訳にはいかない。

「帰ったらミハルやハモンにうんと叱ってもらいましょう」
『そ、それじゃあ急いで【青い木馬】に引き返します!』
「馬鹿野郎何言ってやがる!」

ここでソンネンがセイラの後ろからマイクに近づき会話に割り込んだ。

「時間がねえんだ!このまま目的地まで飛べ!!」
『で、でも!』
「でもじゃねえ!お前達小便臭えガキ共の処へ更に小便臭いガキが一匹増えただけだ!どうって事ァねえだろう!」
『ハマーンは病気なんですよ!?』
「自業自得だろうが!輸送機たあ言え戦場に向かう機に自分で乗り込んだんだ、例えどうなろうが文句はあるめえ!!」
『そんな!』
「大丈夫だアムロ!」
『! ハマーン!?』

セイラに抱きかかえられていたハマーンが堪らず大声を出したのである。

「・・・私は大丈夫だ、め、迷惑をかけて・・・ぐすっ・・・ごめん・・・・・・」

両掌でごしごしとこすった為に彼女の眼は真っ赤になったが、涙を拭い取ったハマーンの瞳には少しだけ普段の強気な輝きが戻った。
幸いにも熱は無さそうだしこれなら、と、セイラは小さく頷いてマイクに向かった。

「・・・聞こえたアムロ?私も今から引き返すのは良くないと思うの」
『・・・・・・判りました、ではハマーンをここへ連れて来て下さい』
「そうね、せめてちゃんとしたシートで休ませましょう」

カーゴスペースはうすら寒く、待機兵士用の折り畳み式簡易シートしかない。
体調の悪い者をここに長時間置いておく事は望ましくないだろう。ましてやハマーンは12歳の少女である。

「ったく、そのガキの面倒は姉ちゃん、お前が見ろよ!コッチに手間掛けさせんじゃねえぞ」
「判りました、この娘は私が責任を持ってフォローします。ハマーン行きましょう、歩けるわね?」
「うん・・・」

セイラの手から離れてハマーンは床に立った。
思った程のふらつきはない、すぐに手を差し出せる体勢でいたセイラはほっと溜息をついた。
少なくとも彼女にはこれからあの操縦席までの長いタラップを自力で登って貰わねばならないのだ。

「頑張りなさいハマーン、子供扱いされるのは嫌なのでしょう?」
「むっ!」

セイラの言葉に奮起したハマーンは目の前の壁に高く長くそびえ立つタラップに取り付いた。
そのまま足を掛けるとぐいと身体を引き上げ、するすると鉄梯子を登りはじめる。
下からその様子を伺っていたセイラもやがてタラップに慎重に足を掛け、静かにハマーンの後を追って登り出し、登るペースを少し上げてハマーンの真下にポジションを取った。


759 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/18(土) 12:44:04 ID:jkrMv0nM0

「具合はどうだい、ハマーン」
「・・・」

操縦席のアムロは後部座席に目をやったが、座席を少しだけ後ろに倒し
武骨な軍用ブランケットに包まって目を閉じているハマーンからの返事はない。

「眠ったみたいね」

言いながらセイラはハマーンの額に掌を当てた。
幸いにも熱はない。
熱はないが、眼の下まで引き上げられたブランケットから覗く、固く閉じられた両の瞼にかかる形の良い眉はきつく寄り、ハマーンが喫している不快感を如実に物語っている。
セイラはふと、ハマーンの瞑った瞼の端に小さな涙の粒が膨れ上がっているのに気が付いた。

(・・・ごめんアムロ、こんなはずじゃなかったんだ・・・)

それはハマーン・カーンの偽らざる心の声であっただろう。
零れ落ちた涙がブランケットに小さな染みを拵えたのを見たセイラは何も言わず、ハマーンの額に掛かる前髪を優しく整えた。

「なるべく急ぐから、もう少しだけ我慢しててくれよ」

アムロはそう口にすると、キャノピー越しに星空を睨み付けた。
雨雲を追い抜いた為に視界は極めて良好である。

「どうだ?」
「ソンネン少佐」

いつの間に現れたのか、ソンネンがアムロの横の副操縦席に滑り込んだ。

「すみません、すぐに作業に戻ります」
「あーもういい。ヒルドルブの整備は完璧に終わらせたからな、この役立たずが」

慌てて後ろからセイラが掛けた言葉を、ソンネンは相も変らぬ調子で邪険に払い除けた。
セイラは唇を噛んで俯く。
ハマーンの介抱をしている間は何も文句を言ってこなかった彼に少しだけ感謝していたのだが、やはりそんなに甘い相手ではなかった様だ。

「予定通りいけば、あと少しで・・・うん?」
「どうした」

ミノフスキー粒子のせいで不鮮明なレーダーを凝視したアムロに、ソンネンはレシーバーを装着しながら首をかしげた。


760 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/18(土) 12:45:06 ID:jkrMv0nM0

「友軍反応です。おかしいですね、こんな処で」
「確かにな」

ジオンの支配地域とはいえ、敵軍にほど近いこんな場所に単独で展開している部隊の報告は受けていない。

「貸せ、コード1309876A2987応答せよ」

ソンネンは、この地域で使われているジオン軍専用オープン回線の一つを開いた。
ミノフスキー粒子によるノイズが酷いが、それでも確かに聞こえている筈の通信に対して相手からの返答はない。

「見えました、ザクです」
「随分やられていやがるみたいだな」

高度を落とし、各種センサーを振り向けたファット・アンクルの電子眼は、月明かりにくっきりと浮かび上がるMS-06F【ザク】の姿を鮮明に捉えていた。
デジタル補正が掛かったその映像からは、スパイクアーマーの破損や塗装の剥げ具合までがはっきりと確認できる。
と、ようやくこちらに気付いたのか、地上を歩いていた件のザクが大事そうに抱え持っていたバズーカをこちらに向けて振って見せた。

「!!」

瞬間、アムロの体が電流を打たれたかの如く硬直した。
セイラが眉を顰め、まどろみの中にいたハマーンが跳ね起きたのも、まさにその時であった。

「うおッ!?」

咄嗟に急上昇を掛けたファット・アンクルの中で4人の乗務員達は強烈なGに晒され、ソンネンは声を絞り出した。





「チッ・・・」

ザクのコックピットに座る眼帯を掛けた男は、無警戒に近づいて来た獲物が突然方向を転換した事に小さく舌打ちした。

「(気付かれたか?・・・いや、そうではないか)」

頭上を飛ぶジオンの大型輸送機は、方向転換の後も高度が安定せず、何だかふらふらと頼りの無い飛行軌道を描き続けている。
どう見ても、ベテラン兵の操縦ではない。

『ば、馬鹿野郎ォ!なんて操縦をしやがる!!』
『す、すみません!風に煽られました!!』
『ヘタクソが!だからお前は小便臭えってんだよ!!』

オープン回線に入れっぱなしの通信で、輸送機内部の事情が筒抜けである。
叱られている兵士の声が妙に若い。
しかし眼帯の男は一方的に罵声を浴びせている兵士に向けて、くくくと薄く笑った。
判っちゃいない。未熟なパイロットのお蔭で命拾いをした事に、お前は感謝をするべきだ。
あのままの軌道とスピードでのたのたとこちら目掛けて降下して来ていたら、バズーカの砲口は間違いなく―――

―――間違いなく輸送機のド真ん中をぶち抜いていただろう―――

眼帯の男は薄笑いを張りつかせたまま妙に度胸の据わった仕草で回線を開いた。


761 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/02/18(土) 12:46:01 ID:jkrMv0nM0

「助かったぜ!HLVが流されて敵陣のど真ん中に降りちまった。敵ん中命からがら逃げて来たんだ!」
『災難だったな、お前の他に生存者はいないのか』
「俺以外はみんなやられちまったよ、クソッタレが!!」

心配そうに聞いて来た相手に返答しながらも、眼帯の男は抜け目なく輸送機撃墜のチャンスを窺う。
不意打ちならばこそ、失敗は許されない。狙うならば貨物室よりもエンジンだ。
しかし輸送機は風に押され、ザクを中心にして右へ右へと、まるで少しづつ死角へと回り込む様な軌道を描きながら滞空している為、掲げ持っているバズーカの砲口をそちらに向け照準を瞬時に合わせる事は困難であった。
これがもしベテランパイロットの操縦であったならば、この程度の風などびくともせずに安定したホバリングを見せていただろう。
もちろんその場合は、すかさずバズーカの餌食にできた筈である。
偶然とはいえ何が幸いするか判らねえなと眼帯の男は苦笑した。

『乗せてやりたいのはヤマヤマだがな、この輸送機に隙間はねえし俺達も急いでる。
いいか、ここから30キロほど東南東へ行った所に大規模な物資集積所がある。そこまで自力でたどり着いてくれ』
「ほう、大規模な集積所、ねえ・・・」

意外な情報に眼帯の男は隻眼を光らせ、目の前の獲物に向けたトリガースイッチから指を離した。
海老で鯛を釣る、ではないが、より大きな戦果を得る為に―――ここは大人しくしておくのが賢明そうだと思い直したのである。

『行けそうか』
「何とかやってみる。気にせず行ってくれ」
『悪く思うなよ』

そう言い残すと輸送機は東南東に向けて飛び去った。恐らく大規模集積基地とやらに向かうのだろう。
輸送機が完全に見えなくなったのを確認すると、眼帯の男はコンソールに備え付けられたジオン純正品ではない通信機のスイッチを入れた。

「フェデリコ・ツァリアーノだ、聞こえるか」
『感度良好』

レーザー通信は指向性が高く、敵陣においても傍受される恐れが殆ど無い。
フェデリコはここに辿り着くまでの道のりで要所要所にレーザー通信用の中継アンテナを設置して来ていた。

「どうやらビンゴを引いた。場所はここから東南東30キロの地点だ」
『やるじゃないか、伊達に片目じゃないって訳だ』
「抜かせ」


隻眼のパイロットは珍しく、相当の腕が無ければ強制的にMSから降ろされる。
それはジオンも連邦も変わらない。
相手はある意味褒めたのであるが、ツァリアーノは鼻を鳴らしてぶっきらぼうに通信を切った。



821 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:18:37 ID:Il41vxck0


漆黒の闇の中、月明かりを背にした鉄の巨人は小高い丘の陰から身を乗り出すと、爛々と光るその単眼を音もなく左右に奔らせる。
フェデリコ・ツァリアーノ中佐は眼前のモニターに映し出された映像に口元をゆがめた。
荒涼とした礫砂漠の只中、広範囲に渡ってうず高く積み上げられたコンテナや林立する車両用幕屋の一群、そして中央にひときわ大きくそびえ立つHLV。
サーマルセンサーに映像を切り替えると、その周囲だけにはポツポツと明かりが灯り、熱源が集中している様子がはっきり判る。
間違いない。

「情報通りに大規模集積所発見と・・・」

本来は廃棄解体される筈のHLVも、降下した場所によっては物資搬出後もそのまま残され、このように駐屯地を繋ぐ野戦補給基地の簡易宿泊所として活用される場合がある。
大気圏を突破する性能を備えているHLVは頑丈で断熱処理が完璧に施されており、そこいらの仮設テントより余程居住性が高かった為である。
物資の乏しいジオン軍が廃物利用、いや、廃棄物の有効活用をしていると言えば多少の聞こえは良くなるだろうか。

「ふん、驚いたな、あの輸送機もいやがるぜ」

モノアイのズームを上げると、大きな天幕の脇に、先程何の疑いもなくご丁寧にこの場所を教えてくれた輸送機が、馬鹿正直に駐機しているのが見えた。
あの無防備ぶりからすると、こちらの素性を微塵も疑ってはいないのだろう。

「お目出度えなあおい。ジオンはバカの集まりか?」

言いながらフェデリコはザクバズーカを構えている。
元は連邦軍の戦車乗りだった彼だが、ザクを操る一連の動作は、今やジオンの熟練パイロットにもひけを取らない。

「まあお互いにこれが仕事だ、恨むなよ」

躊躇無く吐き出された砲弾は一直線に、まずは無防備なファット・アンクル型輸送機を木っ端微塵に吹き飛ばした。
紅蓮の照り返しがフェデリコのザクを赤く染め上げる。

ジオンのザクがジオンの陣地を襲撃するという、傍から見れば異常な光景。
開戦当初から、MS開発に出遅れた連邦軍が窮余の策として採っていたのがこの
『鹵獲したMSを使い、ジオン兵に偽装して敵陣深く潜入し破壊活動を遂行する』という戦法であった。
ちなみにこの作戦を行う部隊は、他のそれと比べ損耗率が極めて高い。
にもかかわらず、卑劣な作戦内容から仲間内の評価は決して良いものではないという、まさに貧乏籤の役割である。
しかし片目を負傷しこの部隊に配属されてからというもの、ある種の人間的な感情をそぎ落としながら生き抜いて来ざるを得なかったフェデリコは、すでにこの任務に何の葛藤も抱かぬメンタリティを構築していたのである。
だから連邦軍のMS開発が軌道に乗った今、上層部から厄介者扱いをされ始めているという現状も、彼にとって最早どうでも良い事でしかなかった。
恐らくオデッサのどさくさに紛れて連邦軍の汚点たる自分達を首尾良く使い潰してしまいたい、というのが奴らの本音だろう。そう考えれば、総攻撃直前のこの段階で単独でジオンに送り込まれる合点がゆく。
だからどうした、と彼は更にバズーカの引き金を引き絞る。
この砲弾に込められた狂気の炎こそが、今の自分には何よりも相応しい送り火なのだ。


822 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:19:43 ID:Il41vxck0

「うっ!?」

射線をズラしHLVに狙いを定めたその時、ちらりとモニターの端で何かが動いたのを、フェデリコは見逃さなかった。
反射的に彼は自らのザクのバーニアを焚き、急角度のサイドステップを掛ける。

「おをぉッッ!!」

間一髪、空気の壁を切り裂いてザクの横、今の今までザクが存在していた空間を巨大なAPFDS (装弾筒型翼安定徹甲弾)が唸りを上げて通過していったのである。
その弾速は優にマッハを超える為、強烈な衝撃波がザクの機体を打ちのめし、コックピットのフェデリコを激しく痺れさせた。
しかし彼は瞬きもせずに暗視モニターを凝視し続け、一瞬だけ見えたマズルフラッシュからすぐに砲弾の主の位置を割り出す事に成功していたのである。



「チッ!外れやがったか!」

デメジエール・ソンネン少佐は小さく舌打ちすると、集積所のやや左前側方に設えられた掩体から顔を出しているヒルドルブの30サンチ砲から装填済みのAPFDSを轟音と共に再度発射した。
が、あくまでもこれは当たれば儲けもの的な威嚇射撃に過ぎない。

「まあいい、砲身が温まってからが本番だぜ!」

そうせせら笑いを浮かべながらギアをマックスに入れ、ヒルドルブを一気に掩体の陰から飛び出させる。
キャタピラを轟かせ、急加速で角度のキツイ盛り土スロープを駆け上ったヒルドルブは、カタパルトから撃ち出されたかの如く10メートル程もジャンプする事となった。
文字通り宙に飛び出したのである。

「馬鹿め!自ら姿を現すとはな!!」

フェデリコは冷静に、突如姿を現した巨大な戦闘車両の予想落下地点めがけてザクバズーカを発射した。
距離は約700メートル、巨大な戦車はゆっくりとした放物線を描きながら地表に自由落下している。
重力の底たるこの地上ではどんな機体であれ必ず、着地の衝撃で一瞬動きが鈍る。このタイミングならば、当たる。
そう確信した瞬間、巨大戦闘車両は着地する筈だった地面の中にすっぽりと消え、今度はその上をフェデリコの放った砲弾が空しく通り過ぎて行ったのだった。

「糞ッ!塹壕か!?」

フェデリコの体からどっと冷たい汗が噴き出した。
あらかじめ、こちらの正体を見破り襲撃を予想し、手ぐすねを引いて待ち構えていたとしか思えない用意周到さである。
敵は完全に、迎撃準備を整えていたのだ。

『逃がさねえぞこのペテン野郎』
「!」

フェデリコのレシーバーにオール回線コード1309876A2987で飛び込んで来たのは、確かにあの輸送機から聞こえた声である。
ザクは体勢をできるだけ低く構えると移動を開始した。
奇襲が失敗し、こちらの姿が露呈してしまった以上、同じ場所に留まる事は死を意味する。

「いつ、俺の正体に気付いた?」

周囲に何か適当な遮蔽物は無いかと探しながら、何気にフェデリコは敵に呼びかけた。
これは狡猾な心理的駆け引きであると同時に、純粋な疑問でもある。

『へへへ・・・貴様のジオン訛りは、取って付けたみてえにアクセントがわざとらし過ぎらあ、それにな』

連続して3発の発射音をザクの外部スピーカーが拾った、と、ほぼ同時にフェデリコの真上から降りそそぐ様に落下してきた砲弾がザクの頭上で炸裂し、膨大な炎にザクを巻き込んだのである!!

曲射焼夷榴弾!!

主砲を上に向けて放つ榴弾砲である。これならば敵の位置さえ判れば敵前に身を晒す事無く物陰から攻撃できる。
MS相手では必殺の効果は望め無いが、牽制や足止めとしてならば十分であろう。

『一次、二次降下時ならいざ知らず、今は、このオデッサに宇宙から送り込まれて来るザクの全部がJ型になってんだ!』

出番の無いままに格納庫の隅に追いやられていたソンネンは、HLVによって次々と搬入されて来るザクの全てがJ型である事を目の当たりにしていたのである。

『まず貴様の乗ってるザクがF型ってえのが腑に落ちなかったのよ!』

言いながらソンネンは塹壕からヒルドルブの上半身を覗かせ300ミリの主砲を水平に構えた。
炎に視界を遮られてパニックになったザクが動きを止めたなら、その瞬間に今度は狙いすました徹甲弾が奴を射抜く。
こちらの勝ちだ。

「舐めるな!こんなこけ脅しに乗るかよ!!」

しかしザクは上半身を火に巻かれたまま屈み込むと、右足に装着されたフットポッドのミサイルを発射したのである。
目論見が外れた事を悟ったソンネンは急いでヒルドルブの上半身を塹壕に引っ込め、あらかじめヒルドルブに装備された大型ショベルアームで掘り進めておいたピット(窪地)を通って次の射点へ高速移動を開始した。
初速の遅いミサイルは、先程までヒルドルブのいたあたりに次々と着弾したが、もちろんヒルドルブには何の被害もない。


823 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:20:42 ID:Il41vxck0

『集積所はカラッポよ!へへへ、残念だったな!!』
「畜生が!」

ソンネンの言葉にフェデリコは歯噛みした。確かにこのザクは開戦初期、ニューヤークにて鹵獲されたものだったのである。
今までは上手くいっていた手が、今回に限って完全に見破られてしまった。
かと言って今更逃げ場はない。
ザクの撤退は不可能だった。見るからに長射程な敵から離れれば離れるほど状況は不利になるからである。
何としてもここは眼前の敵を倒し、退路を切り開くしかない。
時間を掛ければジリ貧となる事を悟ったフェデリコはバーニアを吹かし、前方への大ジャンプを試みた。
敵車両の機動力はあの巨体にもかかわらず異常に高い事が先の戦闘で判明したのである。
どう張り巡らされているか判らない塹壕の中を縦横無尽に駆け回り、好きな位置からこちらを攻撃できるあの高速戦車と互角以上に戦うには、上空から奴の居場所を突き止め、イチかバチかの接近戦闘を仕掛けるしかない。
車両と違い姿勢制御バーニアを装備するMSは、自由落下の後着地点を大幅にズラす事ができる。狙い撃ちにもある程度対処できるだろうとの読みもある。
敵影を確認できるかこの一瞬が勝負だ。

「・・・見つけたぜ!」

ザクのジャンプで可能な最高到達点の直前、フェデリコは深いピットの中を移動する戦闘車両を発見した。
ナイトビジョンの画像で鮮明では無い物の、あの巨体は見間違うべくもない。
砲口もこちらへは向いていないのが確認できる。
やったぜ、勝負はここからだ。
満面の笑みを浮かべたフェデリコが舌なめずりをした瞬間。

彼のザクは空中で胴体を打ち抜かれ、真っ二つに千切れ飛ぶと地面に落下する事無くそのまま爆発四散した。


「おおおっ!?」


素っ頓狂な声を上げたのはソンネンであった。

「お前か!クソガキ!?」

信じられないという面持ちでソンネンはヒルドルブを止め、通信モニターを見つめた。
そこにはあどけない表情をした少年兵が、深く息をつきながらシートに背を預ける姿が映し出されていたのである。

「はい、ソンネン少佐」

そう答えるとアムロは手元のレバーを操作し、彼の操るMSに生えた巨大な砲身を折り畳ませた。
そのままホバーを吹かし、ソンネン達が戦っていた集積所の遥か10キロ後方に設営された塹壕のスロープから巨大なMSの威容を明らかにさせる。
全高27メートルを誇るYMS-16M【ザメル】。ラルの言っていたMSとはこれの事だったのだ。
長距離支援用に特化して開発された超重MSである。
ちなみにこれに搭乗する筈だったパイロットはまだこの地に到着していなかった。
敵と直接交戦していない集積所には他に訓練を受けたMSパイロットはおらず、急遽アムロが乗り込む事になったのである。

「嘘だろおい・・・初めて乗ったMS、しかも暖気も終えてねえ680ミリカノンをあの距離から当てた・・・だと・・・!?」

まず大前提として、680ミリなどという大口径のカノン砲は、動き回る小さな敵を狙撃するタイプの武器では断じて無いのだ。
そして、気温や湿度、気圧や風等の気象条件で刻々とコンディションが移り変わるこの地上では、どんな砲兵でも初弾の命中など、幸運以外ではまず有り得ない事を知っている。
如何な名手といえど、当日の着弾の状態を見ながら少しづつ修正を重ね射撃精度を上げてゆくものなのだ。それは腕利きのベテラン戦車兵であるソンネンも変わりはしない。
無意識にソンネンはレシーバーと共に軍帽を脱ぐと、短髪に刈り込んだ頭をざらりと撫でた。

「確かに『絶対に塹壕から出ずに、チャンスがあった時だけ援護しろ』と言っておいたがな・・・・・」

全てを言われた通りにやってのけたアムロに、ソンネンは文句の一つも付け様がない。
それどころか事前にソンネンは、「もし俺がやられても敵と一戦交えようなどとは考えず、速やかにここから離脱しろ」とまで言い含めていたのである。
いくらランバ・ラル肝いりの少年兵だろうとこの局面でアテにできる訳がなく、ド素人を実戦に出す訳にはいかない。
あれだけ距離を離しておけば援護などやれる筈もないし、そうこうしている間にいずれかの形でこちらの決着は着くだろう。
万が一、自分がやられた後に例え敵に見つかったとしても・・・一目散に逃げ出せばザクの足では追い付けまい。
マニュアルにざっと目を通し、ザメルというMSのスペックを把握したソンネンは、そう考えていた。
始めから彼は、迫り来る敵を一人で迎え撃つ腹だったのである。
そんなソンネンの不器用な配慮はしかし、意外な形で裏切られた。


824 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:21:33 ID:Il41vxck0

しかも相手は空中にいた――――

先程の状況を正確に思い返す都度、ソンネンは眩暈を禁じ得ない。
あの場面を自分に置き換えたらどうすると彼は頭を巡らせた。
もしジャンプした敵を空中で狙い撃つとするならば―――
例えばクレー射撃の要領で、対象物が放物線を描いている頂点、つまり敵が自由落下を始める直前に動きが止まる一瞬を狙うしかないだろう。
しかし、手持ちのライフル銃ならいざ知らず、長距離砲撃において複雑な手順と操作を要求される680ミリカノン砲である。

果たして、突発的にどこへ動くかわからない敵MSを・・・
10キロ以上も離れた位置から狙い・・・
ジャンプした一瞬を逃さず・・・
素早く680ミリカノン砲の照準を合わせ・・・
確実に砲弾をぶち込む事など・・・可能なのであろうか。

一筋の汗がソンネンの頬をつたう。
いつの間にか喉がからからに乾いていた。

偶然など、有り得ない。「敵の行動を先読み」でもしていなければ、そんなのは到底無理な芸当だ。
ソンネンは、薄気味悪そうに通信モニターを覗き込んだ。

「・・・クソガキお前、いったい何物だ」
「え、な、何の事ですか?」

モニター越しの眼光に射竦められて戸惑う少年に、ソンネンは溜息をついて何でもねえと呟いた。

――――そう言えばあの直後
通信機をオフにしたアムロは真っ青な顔でいきなり、あのF型ザクは怪しい、迎撃準備を整えておくべきだと言い出した。
たまたまソンネン自身もそのつもりだった為に大きな混乱もなく事は運んだが、あれは――――

ソンネンは頭をばりばりと掻き毟った。
彼とてニュータイプという言葉は聞いた事があったが、それをこの頼りなげな少年兵と結び付ける気にはとてもならなかったのである。

「アムロ!無事か?」
「!」

突如スピーカーから飛び込んで来た元気な声が場の重い空気を吹き飛ばし、ザメルを集積所へ向けていたアムロの顔を上げさせた。

「ハマーン・・・」

メインモニターには月明かりの下、アムロの搭乗しているザメルと同型のMSが、ホバー走行でこちらに向けて走り来る姿が映し出されている。
アムロがやや走行スピードを緩めると、見る間にもう一機のザメルはアムロ機に追い付き、強大な超重MSが2機、横並びとなった。
激しい砂煙を巻き上げて荒野を疾走する両者のザメルは、アムロの乗機がカーキ、もう一機がモスグリーンと、ボディカラーを異にしている。

「お疲れ様アムロ。物資と人員の退避は無事に完了したわ」
「セイラさん。そちらこそお疲れ様でした」

ハマーン・カーンとセイラ・マス。通信モニターに映し出された2人の顔を見てアムロは笑顔になった。
ザメルは操縦士と射撃手がそれぞれを担当する複座仕様のMSであり、モスグリーンのザメルは現在セイラが操縦しているのである。
やろうと思えばアムロが今やっている様に操縦系を切り替え、1人で全てを操作する事も出来るが、この特殊なMSにおいて操縦と砲撃を1人で行う事はパイロットの負担を著しく増大させる為、公式には推奨されていない。
戦闘はソンネンとアムロに任せ、重要な物資と駐留する人員をザメルを使って速やかに遠方へ避難させる。
それが今回彼女達に割り当てられた役目だった。

「大急ぎだったから、見て?物資がここにもあるの。だから狭くって!もう!」

ハマーンはぷうと頬をふくらませて不満顔だ。
作業員の誰かが、どうせ戦闘に参加しないからという理由で、ハマーンの座る射撃手用のコックピットスペースに小荷物を幾つか放り込んだのだろう。
モニターの中で荷物に押され口を尖らせている小柄な少女を見てアムロは噴き出した。
過積載気味に物資を満載し、嵐の中で無理をさせた為かエンジンに不調をきたし、やむなく置き去りにせざるを得なかったファット・アンクルこそ破壊されてしまったが、その他の被害が皆無であったのは、間違いなく彼女達の頑張りによるものだったろう。


825 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:22:14 ID:Il41vxck0

「その様子だと、すっかり調子は戻ったみたいだね、ハマーン」
「うん、もう大丈夫だ。ごめん・・・」

しゅんと項垂れたハマーンにアムロは苦笑した。
今思えばあのF型ザクと会敵(!)するまでがハマーンの具合の悪さのピークだった。
後から聞いた話では実はセイラもその頃軽い頭痛を覚えていたと言うし、何を隠そうファット・アンクルを操縦していたアムロ自身もそうだった。
もしかしたら、あの味方に偽装したザクが放射していた悪意の様なものを・・・自分達は感じ取っていたのではないか。
アムロにはそんな風に思えてならない。
特にクレタ島のニュータイプ研究所で被験者だったハマーンは、よりそういったものに対して敏感に反応するのかも知れないと。

やがて、塹壕からゆっくりと這い出して来たヒルドルブに2機のザメルは合流した。

「・・・ま、良くやったよクソガキ。
ゲリラ屋・・・いや、ランバ・ラルの眼もまあ、確かだったって事にしといてやらあ」

これじゃ本職の戦車兵が形無しだぜと小声で呟きながら帽子をかぶり直したソンネンは、諦めに似た表情を浮かべた。
結果オーライと言われようが、戦場において何より大事なのはその結果なのである。

「それから、そっちの小便臭え2人もご苦労だった。お前らのお蔭で首尾良くいったぜ」
「有難うございます」
「小便臭いって言われたんだぞ!?礼なんて・・・!!」

ソンネンの下品な物言いに澄まし顔で答えたセイラに噛みつこうとしたハマーンは、何故か突然言葉を切って黙り込んでしまった。

「どうしたのハマーン?」
「・・・イヤな感じがする・・・なんか、まだ・・・・・・」

ハマーンの様子に首をかしげたセイラの手元で突然、コンソールのアラートがけたたましく鳴り響いた。

「定点センサーに反応!11時の方向より地上を何かがこちらへ向かってくる模様です!!」
「友軍反応出てねえ!敵襲だ!!散開しろ!!」

ソンネンの一喝で色違いのザメルは散り散りに分散した。
どうやら敵はたった1機でこの地を踏んだ訳では無かった様だ。考えてみれば、至極当然の部隊構成である。

「敵は3機!・・・しかし何だこのスピードは!?」

速度が異常だ。
このスピードは、恐らく本気を出したヒルドルブにも匹敵するだろう。

「来る!逃げて下さいセイラさん!なるべく遠くに!」
「で、でも相手は3機なのでしょう!?」
「アムロ!私だって戦える!!」
「ハマーンは黙れ!これはシミュレーションじゃないんだぞ!!」
「・・・!」

今までに見た事もないアムロの剣幕に、モスグリーンのザメルに搭乗している2人は息を呑んだ。

「・・・お願いしますセイラさん。ここは僕らに任せて早く!」
「判ったわ。頑張ってね、アムロ」
「アムロぉ・・・」

悲しそうなハマーンの声には敢えて反応せず、アムロは通信を切った。
意を決して踵を返したモスグリーンのザメルはホバーを全開にすると、そのまま駆け去った。


826 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:23:21 ID:Il41vxck0

「へへへ、なかなか言うじゃねえか、いい判断だったぜクソガキ」
「ソンネン少佐、済みません、勝手に・・・」
「聞こえなかったか?俺はいい判断だと言ったんだ」

ソンネンは薄く笑いながらタブレットを噛み砕いた。しかし気分は何故か、悪くない。

「敵は恐らくMSだ。俺のヒルドルブはそうでもないが、そっちゃあお世辞にも白兵戦が得意とは言えねえだろう。
いいか乱戦に持ち込まれんじゃねえぞ。後ろへ下がってなるべく俺の援護に徹しろ、判ったな」
「了解です」

ヒルドルブは再び塹壕の中に潜り込み、アムロはザメルを集積所の中まで後退させるとHLVを回り込んで足を止め、敵の方角に向けて680ミリカノン砲を展開した。
巨大で頑丈なHLVならば、ザメルの遮蔽物に丁度いい。
センサーが2度目の警報を鳴らす。相対距離は10キロを切った。しかし敵の姿はまだ見えずターゲットのスピードは揺るがない。
言い知れぬプレッシャーに耐えながら固唾を飲んで敵を待ったアムロはやがて、小高い丘の稜線を蹴散らし姿を現した、まるで弾丸の様に地面を疾走する3機の戦闘車両を見て驚きの声を上げた。

「あれは・・・ガンタンクなのか・・・?」

そのシルエットは、砲身を一門に減らしたガンタンクそのものであった。
しかし、スピードが段違いである。何より、彼の知るガンタンクはこんな風に敵陣に突っ込ませるタイプのMSでは無かった。

「!」

突然、先頭を走るガンタンクの上半身がガシャリと前方に倒れ走行速度を更に上げた。
続く2機も次々に変形するや先頭機の後を追う。どうやらこのMSは突撃走行時に変形を行うらしい。
空気抵抗を減らし、車高を低くする事で被弾率をも減らす狙いもあるのだろうとアムロは読んだ。





『やれやれ、間に合わなかったか。どうやら本当に片目のオッサンはやられちまったらしいね。
クズワヨ!カルッピ!残骸の写真、ちゃんと撮っておきなよ!!』
『もう撮り終えてますぜ技術中尉殿!!』
『敵は2体です!!一匹は塹壕の中!もう一匹はでけえ建物の後ろだ!』

部下の報告にアリーヌ・ネイズン技術中尉は目を細めた。
彼女の開発したRTX-440【陸戦強襲型ガンタンク】に搭載された最新式の索敵装置は、瞬時に敵MSの居場所を炙り出す。
かつて部隊を同じくしたマット・ヒーリィが見込んだ通り、この3機のMSはまるで有機生命体の如く、阿吽の呼吸で敵陣に切り込んで行った。

827 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/05/03(木) 17:23:44 ID:Il41vxck0

『隊長が死んじまっちゃセモベンテ隊生活も終わりだな、配置換えになった途端にこれか・・・』
『上は相当及び腰になってるみたいだし、いったい次は何処へやられんでしょうね、俺ら』
『知るか!それより折角だ、オッサンの弔い合戦と行こうじゃないか!
あたしらには目的があるんだ!こんな所でしくじるんじゃないよ!!』
『了解!MLRS(多連装ロケットシステム)発射!』

まるで示し合わせた様に3機のガンタンクは履帯側面に装着されていた56連装のロケット弾を一斉に射出した。
命中率は高くないが、弾数でカバーする武器である。対MS戦では思いの外有効な攻撃となる。

「上空より高熱原体複数飛来!緊急退避して下さい!!」
「チッ!」

先手を取られたヒルドルブは塹壕外に通じるスロープを掛け上がり、間一髪ロケット弾幕の直撃を回避した。
しかしそれは、敵の前に己の体をさらけ出す事に他ならなかった。

『いたな!回り込めクズワヨ!カルッピはもう1機を仕留めろ!!』
『了解!』『了解!』

敵MSの連携力を見て、アムロの背にぞくりと怖気が奔った。
恐怖ではなく生理的な嫌悪、である。
この3機、恐らく単独で戦えば自分やソンネンの敵ではないだろう。しかしこのチームワークは何だ。
いや、チームワークなどというものよりもっと深くて昏い何か、敢えて言うなら淫らな業・・・
まだまだ人生の青二才であるアムロにとって、一種おぞましい類の何か、で、彼等は繋がっている気がしたのである。

「くっ・・・!」

アムロは軽く首を振って己を奮い立たせると、こちらに向かって来る1機のガンタンクに向け、8連多弾倉ミサイルランチャーを撒き散らした。
ザメルに白兵戦用の武器はない。できるだけ敵を懐に入れぬ戦い方をせねばならない。



YMT-05【ヒルドルブ】&YMS-16M【ザメル】 対 3機のRTX-440【陸戦強襲型ガンタンク】

ジオンと連邦、両陣営が様々な思惑の中で作り上げた地上機動兵器が数奇な運命に導かれて一堂に会した。
そして、今まさに激烈な戦いに身を投じようとしている彼等と時を同じくして、遂にオデッサの戦局も大きく動き出そうとしていた。

夜は未だ明けない――――

しかし地平線の彼方にたなびいていた不気味な黒雲は、いよいよ風雲急を告げようとしていたのである。

912 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/08/01(水) 19:01:31 ID:25u12kew0

「ハマーン、アムロの言った事、理解できて?」
「・・・・・・」

戦場に背を向けてザメルを疾走させながらセイラは背後上方、射撃手用のコックピットに座るハマーンに声を掛けた。
しかし、いくら待っても意気消沈した少女からの返事はない。

「アムロは私達を危険な目に合わせたくないの。
特にあなたを、人と人との殺し合いに巻き込みたくないって」
「・・・・・・」

深く項垂れたハマーンの顔には両脇からツインテールが掛かり、その表情は窺い知る事ができない。
だが、その両目はしっかりと見開いている。そんな気配だ。
ちらりと背後を眼をやってそれを確認すると、小さく深呼吸をしたセイラは視線を前方に戻してから口を開いた。

「でもね」

突如雰囲気を変えたセイラの口調に、俯くハマーンの肩がぴくりと反応する。

「ここは戦場で、今私達は戦争をしているの」

言いながらセイラは高速走行中のザメルにスリックカートよろしく強烈なドリフト制動を掛けた。
突発的に捲き起こった強い横Gに、俯いていたハマーンの顔は跳ね上がり彼女を抑え込んでいた荷物はまとめてシート後方のスペースに転がり飛んだ。

「ごめんなさい、あなたには先に謝っておくわね。
でも、やっぱり私はアムロ達を見捨てて逃げる事なんてできない。あなた、シミュレーター経験はあるのでしょう?」
「え・・・」

スピンターンで180度機体の向きを変えた為、ズームが効いた正面モニターには戦場の様子が映し出されている。
はっと、ハマーンは眉をひそめた。カーキ色をしたザメルの動きが、明らかに鈍い。
MSを駆るアムロの動きを知るハマーンが目を疑うほど、その動きはぎこちないものであった。

「ここに座って判ったのだけれど・・・このMS、一人で全部戦闘機動をやろうとすると、すごく操縦がし辛いの」
「そんな・・・!」
「武器用のコンソールパネルが変な位置に取り付けてあるのよ。
あくまでもこのMSは二人乗りが前提なのね。これじゃいくらアムロでも・・・」
「・・・・・・」
「本当は、あなたをここに降ろして私一人で戦場に戻るべきなのかもしれないけれど・・・」

アムロが持て余すMSを自分一人でどうする事もできはしないだろう。
それどころか味方の足を引っ張りかねないお荷物と化す公算が大である。それが判るセイラだけに苦渋の選択を採らざるを得ない。

913 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/08/01(水) 19:01:58 ID:25u12kew0

しかしハマーンはセイラの偽りの無い葛藤と苦悩を感じ取ると、むしろ嬉しそうな顔でシートベルトのロックをものともせずに身を乗り出した。

「早く戻ろう!」
「!」

肩越しに振り向いたセイラとハマーンの視線が中空で交錯した。だがそこに以前の火花は発生しない。

「アムロを助けに行こう!ついでに、うーんと、仕方ないから、あの嫌なオヤジも助けてやろう!」
「ありがとうハマーン・・・!」

ハマーンを説得するつもりだったセイラは、じんと胸が熱くなるのを堪える事ができなかった。
実戦の怖さを知らぬいたいけな12歳の少女を戦場に駆り出す罪咎は、全てこの身に受けると心に決めている。

「行きましょう。仲間を助けに」

ヘルメット装着を指示されたハマーンは、シートの横にぶら下がっていたそれを急いで引き寄せた。
大人用なので多少ぶかぶかしたが、どうやら新品らしく嫌な汗の匂い等は皆無だったので安心してフードを閉める事が出来た。
セイラも、脇からヘルメットを取り出し被るとフードを閉める。
素早く各部をチェックしコントロールモードを『戦闘』に切り替えると、ザメルの機体がガクンと一段沈み込んだ。
戦闘準備が完了したのである。

「いいわね?戦闘中は私の指示に従う事。武器管制は完全に任せて宜しい?」
「・・・マニュアルは読んだ。できると思う」

正直なハマーンにセイラは好感を持った。ただこういう場合は意気を上げる為に多少のハッタリが欲しい所だ。

「わ、私は新型MSのテストパイロットをやっていた!少なくともバーチャルデータ上では敵なしだった!」


セイラの心の声が通じたのかどうか、直後のハマーンの言葉にセイラは戦闘前だというのにクスリと微笑んだ。
940 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/09/27(木) 19:08:36 ID:NVmpDrD.0

「くっ・・・!ダメだっ・・・・・・!」

一瞬早く左側方に回り込まれ照準から外れてしまった敵に舌打ちすると、アムロはザメルの機体を真横に滑らせた。
サイドモニターで撃ち出したミサイル全てが外れたのを横目で確認しながら左手を伸ばし、コンソールに備え付けられているスイッチの一つを捻る。
瞬間、ガンガンガンガンと機体に連続的な衝撃が疾った。

「当てられたっ!?バルカン砲か!」

同じホバー機動とはいえ、以前に乗った飛行試作型グフとは随分と違う操縦感覚である。
流石に図体の大きなこの機体では回避スピードにも自ずと限界があるようだ。
急いでモニターに目を奔らせ各部のダメージチェックを行うが、幸いにも特に目立ったアラートは示されていない。
全高27M全備重量121.5tという巨大なザメルはその分装甲も厚い。この距離、そしてこの程度の威力の実体弾ならば致命傷にならないのかも知れなかった。
だが限度はある。このまま迂闊に接近を許し、至近距離からの攻撃を受け続けるような事になれば、この超重MSといえど持ちこたえる事はできないだろう。
アムロは横Gに歯を食いしばりながらフットペダルを踏み込み、ザメルを振り回してもう一度敵を照準モニターの中央に捉えようと試みた。
足を止める訳にはいかない。アムロの直感は正しい。
しかし目前に迫る凶悪なガンタンクはアムロの知るそれよりも遥かに速く、そして想像以上に無謀だった。

「何!?」

姿勢を低く変形させ、真正面から全力で突っ込んで来る敵車両を映し出すモニターの映像に、アムロの背筋は凍りついた。
いつの間にか相対距離は400Mを切っている。
常識的に考えてこの角度からの正面突撃など通常では有り得ない。敵が正面に向けて武器を放てば蜂の巣となれる事請け合いだからである。
敵の突撃には迷いがない。だとすれば行動の意図が読めない。命が惜しくはないのか!?
まさか敵はずぶの素人なのだろうか、それとも何か別の思惑があるとでも言うのだろうか。
あるいは罠か?こちらの攻撃を誘っているのか。
意表を突いた敵の挙動が逡巡を呼び、逡巡がゼロコンマ数秒の遅れを呼ぶ。
アムロの指が20mmバルカン砲のトリガーに掛かる、が―――

「あっ・・・!」

次の瞬間、指はレバーを掴み損ねた。
もともと一般兵用を前提に調整されたザメルの操縦士用コックピットに急遽備え付けられた武器管制コンソールは
小柄なアムロの体躯では腕をいっぱいに伸ばしてようやく届く位置にバルカン砲のトリガー付きレバーが設えられていた。
敵の無謀な突撃に焦ったアムロが勢い良く体を乗り出した瞬間シートベルトにロックが掛かり、はずみでレバーから一瞬指が外れてしまったのである。
普段では考えられないミスに愕然とするアムロはレバーを握り直すがその時既に、ガンタンクはザメルの懐に入り込む事に成功していた。

941 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/09/27(木) 19:09:16 ID:NVmpDrD.0

「ヘッヘ・・・テメエもいただくぜデカブツ!!」

カルッピは舌なめずりをすると何やら動きの鈍い巨大MSの眼前で220ミリ低反動キャノン砲を発射した。
彼の行動理念はとにかく敵に肉薄して撃つ、それだけなのだ。
戦術と言えるシロモノでは到底なくある意味、カミカゼ・スタイルに極めて近い自分の命というものを全くもって顧みない迫撃。
それが彼等ガンタンク小隊が敵味方から命知らずと目される所以なのである。
彼等の特殊な境遇によって形成されたメンタル、そしてRTX-440陸戦強襲型ガンタンクの機動力と性能が可能にした戦法とはいえ尋常ではない。
どう考えても正気の沙汰ではない。
しかしこの捨て身の攻撃方法が敵に与える恐怖は予想以上であり、誰もが刹那の生にしがみ付こうとする戦場では極めて効果的に作用したのである。
それは彼等が激戦の中、ここまで生き延びて来たという紛れもない事実が物語っている。
すなわちそれは、ジオン歴戦のMS乗り達が、地上戦において技量でははるかに劣る筈の彼等の前に無残に散って行った事に他ならない。

狙いは敵のどてっ腹。

一切の小細工は無し、外し様の無い必中の距離である。


「―――!?」


カルッピは目を剥いた
目前の巨大MSが急激に角度を変え、90度横を向いたのだ。
必殺の砲弾は命中したものの、敵MSの左手部分を破壊するに留まったのである。

「ヤロォッッ!!」

当てが外れたカルッピは、ガンタンクを通常形態に変形させながら突撃を継続させた。
敵はあの巨体だ。加えてどう見ても長距離攻撃に特化したMS、密着すればこちらは更に有利になる筈だ。
自身は気付いていないが、少なくとも今までの敵ならば間違いなく仕留められていたという違和感が彼の心を逸らせていた。

「む?新手かよ!?」

突如鳴り響いた手元のアラートにカルッピは顔を顰めた。
ミノフスキー粒子に荒れたモニターには眼前のデカブツと同型だが色違いのMSが、砂煙を上げてこちらに向かって来るのが映っている。
しかしお仲間のMSにピッタリ張り付いているこのガンタンクには迂闊に手出しできまい。目論見通り、こちらはまず目の前のコイツを仕留めるのみだ。
ニヤリと笑ったカルッピだったが、片側のサイドモニターに迫り来る黒影に表情を引き攣らせた。


瞬間、超硬スチール合金製の極太の鉄棒が、重低音の唸りを上げて強襲型ガンタンクを横殴りに叩きのめし、吹き飛ばしたのである。


「ぐぅわああああぁああああぁあぁ・・・・・・!!」

もんどりうって地面を転がったガンタンクの中で、カルッピは訳の分からぬまま意識を失った。

942 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/09/27(木) 19:09:53 ID:NVmpDrD.0

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・・!」

アムロは荒く息を吐きながらヘルメットを脱ぐと額の汗を何度も手の甲で拭った。
まさに間一髪の勝負だった。
咄嗟の機転でザメルの機体を真横に回転させ砲弾による致命傷を何とか免れたアムロは、敵の意識がこちらから一瞬離れた事を感じ取り
すかさずザメル背部に折り畳まれた68センチカノン砲を展開しながら更なる勢いをつけて機体をスピンさせたのである。
ザメルの誇る68センチカノン砲の砲身は、展開させればその長さは実に30Mを超える。
アムロはザメルの姿勢を前傾させる事で砲身を限界まで下に向け、ホバー駆動ならではの回転でたっぷりと重量を乗せたそれを
密着して来たガンタンクに叩き付け、薙ぎ払ったのだった。
しかも砲身が敵に激突する瞬間、アムロはホバーを切っていた。
安定性が高いガンタンクが上半身をひしゃげさせながら派手に横転したところを見ると、どれほどインパクト時の衝撃があったのかは想像に難くないだろう。

「アムローッ!!」
「無事なの、アムロ!?」

くの字に曲がった砲身の先が地面に突き刺さって埋まり、集積所の瓦礫に半ば突っ込んだ形で動きを止めたザメルを見て、もう一機のザメルのパイロット達は恐怖の声を上げた。
ホバーを切った事で激突時の衝撃が増し、相応のダメージがザメル側にもあったのである。

「セイラさん、ハマーン、どうして戻って・・・いや・・・」

アムロは唇を噛んだ。彼女達が敵の気を一瞬でも逸らせてくれたからこそ、何とか勝ちを拾えたのだと気付いたのである。

「・・・助かりました、本当に・・・」

敵の意識がこちらに向いたままだったならば、主砲及びミサイルランチャーの弾薬庫があるザメルの背部を一瞬でも敵ガンタンクに向ける事はできなかっただろう。

「大丈夫なのねアムロ、良かった」

セイラは安堵の声を漏らす。

『すごかったぞ!あんな風に戦うなんて!さすがアムロだ!』
「そんなんじゃないよハマーン、咄嗟にやったあれは人マネに過ぎない。
それにこっちもダメージがかなり大きいし・・・とても褒められたもんじゃないさ」

ハマーンのはしゃいだ声を、アムロは自嘲気味に遮った。
脳裏にはかつて黒い三連星と共に戦った『ガンダムもどき』との対決が鮮明に思い出されている。
あの日やられた事を、今日は違う相手にやり返しただけなのだ。何ともほろ苦い模倣であった。
アムロはあの時、対峙した敵によって戦いのセオリーと固定観念をぶち壊された。
なりふり構わず生き抜けという強烈なメッセージを、敵から文字通り叩き込まれたのである。

とまれ結果的に見れば、互いのあずかり知らぬ処ではあったが
自らの命を顧みない者とあくまでも生き抜こうとする者の対決は後者に軍配が上がった形で決着を見た。


「このMSはもう動けません、脱出します」

アムロはヘルメットを被り直すと、斜めに傾いだコックピットの中でシートベルトを外した。
しかしコックピットハッチが稼働せず、手動でも完全に押し開く事ができない。

「駄目だ、歪んでる」

ここから抜け出せないのであれば、セイラ達とMSの操縦を交代する事は不可能だ。
時間を掛ければ脱出できそうだが、今は何よりその時間が惜しいのである。
アムロは、腹を括るしかない事を悟った。

『アムロ、出られないの?』
「ええ、でも一人で脱出できます、それよりも」
『判ったわアムロ、私達はソンネン少佐の援護に向かいます』

地面に接地していたモスグリーンのザメルが砂塵を巻き上げふわりと浮き上がる。
察しの良いセイラはすぐにアムロの意図を読み取った。
アムロにとっては辛いであろう言葉を最後まで言わせなかったのはもちろん、彼女の心遣いによるものだ。

「くれぐれも慎重にお願いします、絶対に敵を近寄らせてはダメです、危ないと思ったら迷わず引いて下さい!」
『了解』
「ハマーン、君ならできる。セイラさんと心を合わせるんだ」
『任せておけアムロ!』

明滅を繰り返し始めたモニターには踵を返すモスグリーンのザメルが辛うじて映し出されているが
カメラの角度が変えられない為、その姿はすぐにフレームアウトするだろう。
こうなれば、各人のやれる事を最大限にやるしか道はない。
アムロは座席の下から脱出用の工具箱を引っ張り出し、中からバール付きのスチールカッターを手に取った。

「頼むぞ・・・!」


光の漏れるハッチの隙間に工具の先端をこじ入れると、アムロは誰に言うともない言葉を噛み締めながら呟いた。
ツールボックス

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