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恋する乙女に、俺はなる」の最新版変更点

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+誤解を恐れず言えば、俺は、純粋だったのだろう――― 
 
+ガキの頃から腕っ節が強かったのが、災いした。 
+近所の気に食わないガキ共を叩きのめしていたら、 
+気がつけば、近隣の県にまで、その名を轟かせてしまっていた。 
+確かに、調子に乗っていたとは思う。 
+髪を赤く染めて、刺繍入りの特攻服を着て、悦に入っていた頃もあった。 
+
+そして、俺は最強の座を手に入れた。 
+だが、どうだ。それのなんと、虚しいことか。 
+
+俺だって……俺だって…… 
+
+ 男 に ち や ほ や さ れ て み た い ん だ っ !!!! 
+
+・・・ 
+
+うふっ♪ 
+きょうは~、わたし、さゆりの、高校入学の日ですっ♪ 
+新しい学校、新しい生活、いったい、どんな素晴らしい出会いが待っているのかな~♪ 
+
+よしっ! 丸文字書き取り100ページ、只今達成ッ! 
+
+「くっくっくっ」 
+俺は、真新しい制服の袖に腕を通しながら、書き上げた一筆入魂の大学ノートを満足げに見つめる。 
+結局、今日、入学式の日の朝までかかってしまった。 
+このくねくねした字体を見つめ続けたせいで、目眩と吐き気を催した夜もあった。 
+書かれた内容の気恥ずかしさに、身悶えと戦慄を覚えた朝もあった。 
+だが、俺は、やるとなったら、やり遂げる女だ。 
+
+感慨深げに、ノートをパラパラとめくる。 
+ページは全て、真ん中に横線が引いてあり、上下に分かれている。 
+上半分は、幼なじみの松木多恵の字だ。 
+彼女は俺のためだけに、この「乙女ノート」を作成してくれた。 
+文学少女の彼女でなければ不可能だったであろう、この奇跡のノート。 
+乙女の恥じらい、夢、希望、まだ見ぬ白馬の王子様へのきゅんきゅんな想いが詰まっている。 
+
+不良仲間に囲まれ、喧嘩に明け暮れていた俺。 
+そんな中で、変わらず友人でいてくれた普通の少女は、多恵だけだった。 
+
+“普通の女の子のような、恋愛がしてみたい” 
+
+仲間に聞かれたら、三日三晩は笑われ続けたであろうこの悩みを、彼女は真摯に取り合ってくれた。 
+それからしばらくして、彼女はこのノートと共に、俺の前に現れたのだ。 
+
+「はい」 
+「……なんだ? これ?」 
+「あのね、上半分はね、私が書いたの。女の子の気持ち、女の子が想うこと。 
+ 女の子の喋り方、女の子の好きなもの、女の子の字で書いたの」 
+「もしかして、これで俺に“女の子”を勉強しろと?」 
+「うん。でね、下半分は空けてあるから、そこにさゆりちゃんが同じ文章を書いていくの。 
+ 書くと覚えるっていうし。あっ、字も真似て書いてね。そうすれば……」 
+「そうすれば?」 
+「……そうして、全部書き終わったときには、さゆりちゃんも、 
+ 女の子らしい女の子になれるんじゃないかなって思うんだけど、どうかな?」 
+三つ編み眼鏡の彼女の顔を見つめる。 
+こんな漢字の書き取りのようなことで、本当に女らしくなれるのだろうか? 
+ページをパラパラとめくっていくが、終わりは見えない。 
+「何ページあるんだ……」 
+「100ページ」 
+「えっ」 
+
+めくってもめくっても、彼女の手書きの丸文字に、揺るぎはない。 
+俺がとりとめもなく口にした、現実味などまるでない夢のために、彼女はこれを書き上げたのだ。 
+眼鏡の奥の彼女の目元には、少しばかりクマができている。 
+
+俯いて肩を震わせるだけの俺に、多恵が問うてくる。 
+「さゆりちゃん、どうしたの? やっぱりこんなの、バカみたい?」 
+
+俺は乱暴に、彼女を抱き寄せてしまう。 
+「きゃっ」 
+「多恵……ありがとう……俺、俺、やってみるよ。 
+ 多恵がここまでしてくれたんだ。これでやらなきゃ、女が廃るってもんだ」 
+「……うん……さゆりちゃん、頑張ろうね」 
+「ああ。頑張ろう」 
+
+それから俺は、猛勉強した。 
+多恵と同じ高校に入るための受験勉強と、このノートによる女の子の勉強だ。 
+
+期間は十分ではなかったが、俺は俺なりに頑張った。 
+多恵は、自分の受験もあるというのに、どちらの勉強も、俺の面倒を見てくれた。 
+
+初めのうちは、受験勉強の方がキツかったが、 
+ある程度わかってくると、こちらの方がすいすい進んだ。 
+普通の勉強は、基本を押さえれば、あとはそれの組み合わせだ。 
+矛盾なく知識を積み上げていけば、自然と答えは出る。 
+それに対して、女心というのは、結果に理由がない。 
+矛盾を矛盾とも思わない、なんともやっかいな代物だった。 
+
+勉強の合間に、多恵と二人で、俺の部屋の模様替えをした。 
+木刀は片付けて、熊のぬいぐるみを飾った。 
+特攻服は押し入れの奥にしまい込み、二人で店を回って、少女らしい洋服を揃えていった。 
+
+合格発表の日。手を取り合って、抱き合って泣いた。二人とも合格した。 
+
+そして、入学式の朝――― 
+
+玄関のチャイムが鳴る。多恵が迎えに来たのだ。 
+
+俺は、今から乙女になる。 
+男どもを腕っ節で平伏させるのではない。優雅な微笑みでかしずかせるのだ。 
+俺が欲しいのは、喧嘩のための兵隊ではない。白馬に乗った王子様だ。 
+猿山のボスになりたいのではない。きらびやかなドレスを着たお姫様になるのだ。 
+
+さあ。俺は、一歩を踏み出そう。 
+
+・・・ 
+
+私は玄関のドアを開け、優雅な微笑みを作り、多恵ちゃんに挨拶します。 
+
+「おはようございます、多恵ちゃん。今日も、いいお天気ね」 
+「うん。おはよう、さゆりちゃん。いいお天気ね」 
+満足そうに、笑顔を返す多恵ちゃん。 
+爽やかな春の風が、二人の間を駆け抜けていきます。 
+
+「では、行きましょうか。二人の新しい学校へ」 
+「ええ」 
+今日から毎日通うことになる通学路を、二人、ゆっくりと歩いていきます。 
+
+「ねぇ。さゆりちゃん、気づいてる?」 
+「えっ? なにを?」 
+私は反復練習により、脊髄反射レベルで身についた、“肩までかかる髪をかき上げる” 
+可憐な動作をしながら、多恵ちゃんに問いかけます。 
+
+「みんな、さゆりちゃんのことを見てるよ」 
+「げっ、マジかっ!」 
+「さっ、さゆりちゃんっ!」 
+「はっ! えっ、ええと、ごっ、ごめんなさい。取り乱してしまって」 
+「もう……」 
+思いっきりガニ股で、きょろきょろと挙動不審になった私を、多恵ちゃんが咎めます。 
+
+「そうじゃなくて、みんな、“可愛い子がいるな”って目で、さゆりちゃんを見てるのっ」 
+「ほっ、ほんとっ!?」 
+私は落ち着いて、周囲に視線を送ってみます。 
+確かに、行き交うおじさんや男子生徒と目が合いますが、すぐに、視線を逸らされます。 
+あまり、以前と変わりがないような……。 
+
+私は、多恵ちゃんの耳元に囁きかけます。 
+「そ、そうなのかな……今の男、気まずそうに目を逸らしたぞ、よ」 
+「かわいい女の子と目があったら、恥ずかしくて逸らすんだって。赤い顔してるじゃない」 
+「そ、そうか?」 
+
+今すれ違った男子の胸ぐらを締め上げて、私をかわいいと思ったかどうかを 
+ゲロさせたい気分に駆られましたが、ぐっと我慢します。 
+
+握りしめた私の拳を見ながら、なぜだか多恵ちゃんは、くすくすと笑いました。 
+
+駅から出て、しばらく歩くと、校門が見えてきました。 
+緊張で、足が震えます。決して、武者震いじゃないです。 
+
+・・・ 
+
+「それでは、本日は皆さんに、自己紹介だけしていただきましょうか」 
+妙齢の上品そうな女性教師が、教卓を前にして新入生に語りかけています。 
+
+入学式自体は、問題なくクリアしました。 
+黙って突っ立っていればいいだけなので、問題も何もありはしませんが。 
+それに、運も味方してくれました。多恵ちゃんと同じクラスだったのです。 
+もし一人きりだったら、心細くて一暴れしてしまいそうだったので、嬉しいです。 
+
+新しく級友になった方たちの顔を、それとなく見回します。 
+皆、善良そうです。髪を染めた子もいないし、きちんと制服を着ています。 
+
+私は、皆さんの間に、とけ込めているでしょうか。 
+今朝、鏡で見た自分の姿を思い出します。大丈夫だとは、思うのですが。 
+
+
+
+「では、次の、高原さゆりさん」 
+自己紹介は進んでいるようですが、私は回りの視線が気になってしかたありません。 
+
+「高原、さゆりさん?」 
+「へっ? はっ! はいっ!」 
+私は慌てて立ち上がります。心拍数が上がります。私は、呼吸を整えます。 
+今から、真剣勝負です。 
+
+「初めまして。高原さゆりと申します。 
+ 何も取り柄はありませんが、皆さん、仲良くしていただけると、とても嬉しいです。 
+ よろしくお願いします」 
+
+乙女のために、その1。 
+発話に必要なのは、明瞭さと流麗さ。この短い挨拶を、流れるようにはっきりと、 
+近くの人にうるさくなく、遠くの人にも聞こえるように、声に出します。 
+
+言い終わると、何度となく練習した微笑みを顔に浮かべ、深くお辞儀をします。 
+なんのひねりもない挨拶ですが、多恵ちゃんと議論に議論を重ねた結果です。 
+
+乙女のために、その2。 
+本物の美少女は、特に変わった言動をする必要などない。 
+ただ笑顔でいるだけで、花が咲いたように、存在感を示すのだと。 
+
+自分が本物の美少女だとは思えませんが、確かに、激しい自己主張は無用なのでしょう。 
+私が今までいた世界では、少しでも弱みを見せれば、立場は悪くなる一方でした。 
+が、ここはそういう場ではないのです。 
+
+挨拶を終えて不安になった私は、多恵ちゃんの方にすがるような目を向けてしまいます。 
+多恵ちゃんは、指で小さく丸を作ってくれました。 
+私は胸をなで下ろします。良かった。とりあえず、第一関門はクリアしたようです。 
+
+・・・ 
+
+私は自宅の玄関の扉を開け、多恵ちゃんを家の中に招き入れてから、扉を閉めます。 
+
+「うっ、ふぃーー」 
+「あはは。なんて声出してんの」 
+「うぁー、つっ、疲れたーー」 
+玄関先で、ばたりと大の字に倒れ込んでしまう俺。 
+本当に、疲れた。 
+こんなに疲れたのは、武器を持った七人を一人で相手にした、あの夜の死闘以来だ……。 
+
+「ほらほら、こんなところで寝ころんじゃ、はしたないでしょ?」 
+「すまん……今日はもう、勘弁してくれ。これ以上は、体が持ちそうにない」 
+「そうね。今日はお疲れ様でした」 
+しゃがみ込んだ多恵が、俺の顔を覗き込みながら、苦労をねぎらってくれる。 
+
+「で、どうだった? 俺、ちゃんと女の子だったか?」 
+「うんっ! それはもう、自己紹介の時なんて、ほれぼれするほどだったよ」 
+「そっ、そうか?」 
+「私の隣の席の男の子なんか、絶対、さゆりちゃんに見とれてたね」 
+「ほんとかっ!?」 
+しばらくは起き上がれないと思っていたくせに、つい、体を起こしてしまう俺。 
+
+「ほんとほんと。あの分じゃ、一人や二人なんてもんじゃないよ。 
+ もう、クラスの男子全員の視線を釘付けだったよ」 
+「よっ、よせやい」 
+「だって、さゆりちゃん、女の子の中で、一番かわいかったんだもの」 
+俺はまた、大の字に寝ころんでしまう。 
+「さすがに、それはないだろ。他の子も、みんなかわいらしかったよ」 
+「そんなことないよ。さゆりちゃんが、一番だよ」 
+
+見上げた先にある多恵の頬に、手を伸ばす。 
+「俺は、多恵の方がかわいいと思うけどな」 
+
+彼女の三つ編みをもてあそびながら、思ったことを素直に述べる。 
+知的で穏和で清楚な彼女は、その心根も澄んでいて、それが表情に表れている。 
+
+「もう、ばか……」 
+頬を赤らめたあと、ぷいと横を向いて、彼女は廊下を奥へと歩いていこうとする。 
+
+「ちょっ、待ってくれっ! その技を教えてくれっ!」 
+俺は勢いよく起き上がり、彼女の背を追いかけた。 
+
+・・・ 
+
+それから、一か月。乙女擬態は、順調に進んでいる。 
+もう、考え事をするときの口調の切り替えだって思いのままです。 
+
+何度か、危ない場面はありました――― 
+女の子らしく教室の花瓶の水を換えようとして、うっかり落としそうになったのを、 
+得意の瞬発力で、通常の三杯の速さで掴んでしまったり、 
+つい授業中にうたた寝をして、よだれ付きの寝顔を晒してしまったり。 
+多恵ちゃんのフォローがなければ危ないところでしたが、 
+周囲の私に対する“清楚で可憐な乙女”評価は、着実に高まっていきました。 
+
+「さゆりちゃんも、だいぶ、慣れてきたよね~」 
+「そうかな? 私、まだまだだと思うけど」 
+指をもじもじさせながら、多恵ちゃんに返事をします。 
+今日も多恵ちゃんには、学校帰りに、うちに寄ってもらいました。 
+
+「でさ。そろそろ、良い頃じゃないかと思うのよ」 
+「えっ? なにが?」 
+「だから。お・と・こ・の・こ」 
+「きゃっ。もう、やだ~」 
+「ねぇねぇ。さゆりちゃんは、誰か“いいな”って思う男の子は、いないの?」 
+「やだ~」 
+「ねぇってば~」 
+「……あー、問題はそこなんだよな」 
+腕を組んであぐらをかき、頭をひねる俺。 
+
+「そもそも、ここまで頑張ってきたのも、“俺だって恋愛をしてみたい”と、 
+ それが、俺の夢であり希望であり、目的であるわけだ」 
+「うん。白馬の王子様は、女の子の憧れよね」 
+「なあ、多恵。俺は結構、女の子らしくなったと思うが、多恵の目から見てどうだ?」 
+「それに答えてほしいなら、その口調はどうかと……」 
+「ねぇ、多恵ちゃん。私、ちゃんと女の子らしくなれたかな?」 
+「同じ人間とは思えなくらいよ」 
+うんうんと頷く多恵に、俺も頷く。 
+
+「そうか。だが俺には、まだ解らんのだ」 
+「解んないって、何が?」 
+「男の善し悪しというか、どういう男がかっこいいのか悪いのか、イイ男なのかダメ男なのか。 
+ もちろん、多恵がレクチャーしてくれた“白馬の王子様”学は、それなりに理解したつもりだ。 
+ ただ、頭ではわかっているのだが、どうも心情の方がついてこないというか……」 
+歯切れの悪い俺に対して、多恵の口調はよどみない。 
+「サッカー部の青山君とか、格好良くない?」 
+「確かにあいつは、芸能人並みに整った顔をしているとは思う。思うんだが、どうもなぁ……」 
+「じゃあ、大阪から来た中川君は?」 
+「ああ。あいつの話は面白いな。退屈しないのはいい。が、それと恋愛とは違う気がする」 
+「背が高くて、いつも本読んでる斉藤君は?」 
+「あの文学青年なら、むしろ、多恵の方がいいんじゃないか? 文学好き同士、話も合いそうだ」 
+「私? 私は吉田君かな~」 
+眼鏡のレンズを光らせる多恵。獲物を狙う獣の目だ。 
+
+「えっ! あのムキムキマッチョ!? 多恵はああいうのがいいのか? 
+ あれは白馬の王子様って感じじゃないだろう? むしろ馬を担ぎ上げそうだぞ?」 
+「最近、ああいう筋肉系もいいかなぁ~と思うようになって」 
+「やめておけ。あんなのに抱きしめられたら、多恵の華奢な体がもたん」 
+「あはは。ご心配どうも。じゃあ、いつもマンガ読んでる長田君は?」 
+「ああ。あの非力そうな男な。あれなら多恵にも安心だ」 
+「そうじゃなくて、さゆりちゃんによ」 
+「俺に? うーん、まあ、悪い奴じゃないとは思うんだがな」 
+「ちなみにね、今、名前を挙げたみんな、さゆりちゃんのことが好きなんだよ」 
+さらりと、とんでもないことを言う。 
+
+「へっ? まっ、まさか」 
+「ふぅ……さゆりちゃん、そのあたりはまだ全然ね。目を見れば、すぐに解ると思うけど」 
+「目を見るだけで解るのか?」 
+「まあ、そろそろ来るんじゃないかな」 
+「来るって、何が?」 
+「告白とか、ラブレターとか」 
+「まっ、マジかっ!」 
+「まじまじ」 
+「誰から!?」 
+「誰だったら嬉しい?」 
+「えっ。うーん」 
+俺はまた、考え込んでしまう。 
+俺は、男と付き合ってみたい。恋愛をしてみたい。 
+しかし、それは、誰と――― 
+
+翌日。昼休みも終わろうという頃、俺の席の前に、青山が立った。 
+
+「青山君、どうしたの? なにかご用?」 
+乙女のために、その3。質問は、首を傾げながら。 
+もう慣れた仕草だが、昨日の多恵の話のせいで、首筋に冷や汗が流れてしまう。 
+
+「高原さん、話したいことがあるんだけど、放課後、時間とってもらえないかな?」 
+爽やかな笑顔全開で、青山が誘ってくる。これは……。 
+
+「えぇと、私、いつも多恵ちゃんと一緒に帰ってるから……」 
+「私のことは気にしないで」 
+振り返ると、いつからいたのか、笑顔の多恵が青山に話しかけていた。 
+青山から死角になるように、脇腹をつついてくる。 
+
+「松木さん、ごめんね。すぐにすむから。で、どうかな、高原さん?」 
+「えっと、その……」 
+「お話ぐらい聞いてあげれば? 私、校門のところで待ってるから」 
+「えっ? うっ、うん」 
+「じゃあ、放課後、屋上で待ってるから」 
+「あっ、はい。屋上ね」 
+去っていく青山の背中から、横にいる多恵に視線を移す。 
+多恵よ。光っているのはお前の眼鏡か、それとも、その奥の瞳なのか。 
+
+乙女のために、その4。風が強い日、屋上では、はためくスカートの裾を押さえる。 
+
+「単刀直入に言うとね、ボクと付き合ってほしいんだ」 
+俺は青山の告白を聞いていた。 
+
+今日までの努力は、この瞬間に報われたらしい。 
+自分では、その実感はなかったが、青山の目には、俺は好ましい女の子と映ったのだろう。 
+少しだけ長く息を吐いて、俺は苦労の日々を思い出す。 
+
+「どうかな?」 
+促されて、青山の顔を見上げる。 
+決して悪くはない。 
+青山は、自分の容姿が他人より優れていることに自覚的だが、それを鼻にかけたりはしない。 
+それは、自分の本音を見せないタイプということかもしれないが、俺が他人に言えることではない。 
+
+そう。悪くはないのだ。悪くは――― 
+「あの。少し、考えさせてもらってもいいかしら」