一人旅が好きだ。特にどこへ行こうわけでもなく気分でバイクを走らせ、適当なところで寝泊まりするのだ。
金があれば宿を探し、空きがあればそこに泊まるし、どれもなければ野宿だ。
今日はあいにく、宿も見つかりそうにない。野宿にはもう慣れている。
安全かつ寝心地のよさげなところを見つけ、小さなテントと寝袋を広げる。
特に何もすることがないのでCDを聞く。このCDプレイヤーは中学生のときから使っている。
   北のはてにも人生があり   南のはてにも歴史がある
30年も前の作品だが、俺はこれが好きだ。と、まったりしていると何かの気配…
ガサッ。 まさか、オヤジ狩り!?いや、夏は潮干狩、冬はオヤジ狩りだろ?というかオヤジじゃねえよ。
念のため外を確認してみる。誰かいるようだ。若い少年のようだ。
「あの…すいません」
少年が言う。
「ボクも一緒に寝てもいいですか?」
「いいけど…狭いぞ?」
俺は少年にテントの中を見せる。1人用だからほんとに狭い。幅は1メートルもない。
「いいんです、寝られれば」
そうして少年をテントに入れてあげることになった。
少年の名はヒロミという。19歳。休みを利用して旅に出てみたが、あまりに軽く考えすぎていたようだ。
免許もない、テントもない、寝袋もない。
「あのなあ…せめて寝るのと食うのだけは準備しとけよ…」
「はぁい。オジサンはいくつ?普段何やってるの?」
「オジサンて…俺まだ24だよ?俺は原田。仕事は…まあ、謎があったほうが面白いか。いや、ニートじゃねえぞw」
しかしこいつ、綺麗な顔してるなぁ…っとあぶない。俺はそっちの気はないっ!
「ねえ、念のため言っておくけど、ボクが寝てる間にえっちなことしないでよ?」   おいっ!
「いや、俺、そういう趣味はないからさ」
「え、インポ?」
「そうじゃねえーー!!」
「ボク、まだ処女だからね」
ん、処女?…え?こいつ…女の子???あぁ…そういうことか。
まあいいや。もう寝よう。…寝つけねえや。あれ、こいつの寝顔、可愛い…

かわいいな…こんなに近くに…
『ボクが寝てる間にえっちなことしないでよ?』
さっきの言葉が頭をよぎる。えっちなこと……『ボク、まだ処女だからね』
………ぁぁぁあああああーーーーーー!!!!!
俺、最低だorz   とりあえず外に出よう。
そういえば、セックスは久しくしてない。
   一発やらせろこのやろー  外でな  外でな
   青姦やらせろこのやろー  外でな  外でな
なぜかこんな歌が頭の中で流れた。あれは10年前、中3のときだったな。
セックス・ピストルズの再結成公演で前座のバンドが演奏した、ベイ・シティ・ローラーズのサタデーナイトの替え歌だ。
そうか、あれから10年もたったのか。そしてかれらは活動休止し、また新しいバンドを結成したという。
10年…思えばいろんなものに出会ってきたな。映画や舞台、音楽、本、そして自然、それから…
女に関する記憶は極端に少ない。別に、女というものが嫌いなわけではない。
初恋は中1。同じクラスの子だった。しかしクラスが変わるとどうでもよくなってしまい、
中3の修学旅行のときにその子に告白されたのに、俺は自分はひどいやつだと考え、断ってしまった。
初めて女の子と付き合ったのは高校に入ってすぐ。彼女とは2年ほど付き合って別れた。
その後、何事もなく時は過ぎ、高校を卒業すると俺は大学に進学した。
彼女のことを忘れかけていた頃、突然の知らせが入った。
19歳の誕生日の6日前、彼女は死んでしまったという。事故だった。
俺は彼女の死をすんなりと受け入れてしまった自分を憎んだ。
そしてどうしようもなくなった俺は旅に出た。
そこで旅の魅力につかれ、今では長い休みに旅に出るようになったのだ。
で、今日、カオルと出会った。これほどまでに女を感じさせないのは初めてだ。
それでいてカオルには何か不思議な魅力がある。なぜだ。

「…原田さん?」
気が付くとヒロミが隣にいた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、別に原田さんのせいじゃないよ」
「そっか。なあ、明日からどうするんだ?」
「どうしようね。ハハハ…何も考えてないや」
うーん、先が思いやられる。このままだと行き倒れになりそうだ。
「俺と一緒に行くか?」
「いいんですか?ボク、バイクで旅してみたかったんだー!」
ヒロミと2人旅…タンデムツーリング?…まあ、それもいいだろう。
そう決まると、2人でテントに戻る。今度はよく眠れた。
次の朝、簡単な朝食をとるとヒロミをここに残し、俺は急いで街に出て必要なものを買い揃え、再びここに戻ってきた。
俺とヒロミのいきあたりばったりタンデムツーリングが始まった。
いつものように適当に走り、昼になるとまた適当なところで休憩する。昼食もここでとることにした。
「そういえば昨日、処女だって言ってたけど、男と付き合ったことはある?」
「ないよ」   即答。
「じゃあ男とこれだけくっつくのも」
「初めてだけど…原田さんなら大丈夫そうだし。寝てる間にえっちなこともしなかったしね」
しそうになった…とは言えないがな。
「そういえばあの、オートバイの出てくる曲、あれいい曲ですね」
俺が買い物に行っている間にヒロミは俺のCDプレイヤーを使っていたようだ。
CDはCharの他にも俺は何枚か持ってきている。
「オートバイの出てくる曲って、いっぱいあるんだけどw」
「これが最後じゃないのかといつもそんなせつなさでぎりぎりのキスをしよう、ってやつ」
「え、付き合ったことはないけどキスしたことはあるの?」
「いや、ないけどさ。まあ何だ、憧れかな?」
うーん、やっぱ女の子なんだな。

昼食を終えるとまた走り出す。途中で温泉とコインランドリーに寄った。
そして今日も野宿。次の日も野宿。3日連続の野宿だ。
4日目の夕方。
「お願いがあるんだけど」
ヒロミが言う。俺に頼みごと?
「今日はベッドで寝たいな…安っっすいとこでいいから」
「安っっすいとこ?」
「うん…いや、寝るだけだからさ、どんなところでもいいから…」
3日連続の、それも初めての野宿で疲れたのか、それとも……何を期待してるんだ、俺は!
その夜、俺達はあるホテルに到着した。飛び入りでも泊まれる安いホテル。
「おい…本当にこんなところでいいのか?」
「うん、寝るだけだから」
中に入る。初めて見る光景にきょろきょろする姿はやはり少年のようだ。
鍵を開けて部屋に入るなりヒロミはベッドに転がる。
「原田さんは今まで女の子とキスとか…えっちとかしてきたんですよね?」
「まあな」
「ボク、原田さんに…してほしい」
はじめてのチュー、俺とチュー?
「いいナリか?」
「うん……え、『ナリ』?」
「ごめん、変なこと考えてた」
せっかくのムードがぶち壊しではないか!ここはキスしてほしいにしておくべきだったな。
「俺、風呂入ってくるわ。それからにしよ?」

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最終更新:2007年10月07日 23:39