「ね・・・ねぇ!?やっぱりやめようよ!?」

困惑したような困ったような声が後ろから響く。
だが少年は声をあげた少女の手を引き歩みを止めない
後ろは振り返らず前を向いたまま声だけで相手に返す

「なんでだよ?」
「ぅ・・・駄目なものは駄目なんだよっ!」
「理由になってねぇよ」

ぅー・・・と不満そうな声が後ろから上がるが無視しつつ
なぜこんな事になったのだろうと発端を振り返るのだった・・・・・




それは午前中の事だった
今日は夏休みで夏祭がある程度で後は特に予定もなく惰眠を無駄に貪っているときだ

「光治ー?光治ー?」
「・・・・ぁー?」
「今日から母さん達、お隣の樹山さんの所と3日くらい旅行に行ってくるから」
「・・・・んー」
「というわけで、美咲ちゃんと二人で仲良くしておいてね」
「・・・ぁぃょー」

こんな会話があったような気がするがもう覚えていない
起きた頃には母達はもう荷物をまとめて出発していたのだった
気が付けば残されたのは俺と美咲の二人だけだった
樹山美咲。俺と同じ高校に通う幼馴染という奴だ
といっても俺にとっては下手な男より気を許せるしフランクに付き合える俗に言うボーイッシュな少女だった
「や。光治、今日からしばらくよろしくね」
「お前気楽だよなぁ・・・・?」
「まぁ、正直親がいなくて色々やりたい放題だしね?」

微笑みながら片手にボストンバッグを下げた美咲が尋ねてきたのは昼過ぎ頃だった
いつものように無造作に後ろで纏めた背中まで伸びた髪にTシャツに短パンジーンズといういつもの格好で立っていた
靴を脱ぐために前かがみになったTシャツの隙間からブラ見えてたりすることに気付いてるんだろうか?
いくら親友感覚とはいえブラジャーが見えたりするのはさすがにあれかなー?
とか普段考えないような事を考えていたせいか
気付くと俺は切り出していた

「んー・・・俺が言うのもあれだけどさ?」
「ん?何?」
「もう少し女っぽい格好しねぇのか?」
「・・・・んー?別に興味ないしね?軽装って楽だし?」
「いや、でもさ?もう高校なんだし?」
「別に年は関係ないでしょ?それにボクには似合わないよ」
「んー・・・似合うと思うけどな?」
「ぅ・・・どーせ似合わないから」
「そこまで言うなら着てみないか?」
「む・・・んー・・・まぁ、人に見られるような事もないし・・・」
「そうそう、確かワンピースっぽいのがあった気がするから待っててな」
「あ!?まだ着るとは言ってないぞ!?」

そんな抗議の声を無視して俺は今は使われていない姉の部屋に踏み込んだ。
確か結婚して家は出て行ったがたまに帰ってくるから服は残ってるはずと踏んで踏み込んだ
軽くタンスを開けるとそこに目当ての品があった

「と、お待たせ。これな」
「ぅわっ!?」
「そいじゃ待ってるからな」
「ちょっ!?ちょっと光治!?ボク着るなんて言ってないよ!?」
「よろしく」

そう言って笑いかけ手に持っていたワンピースと残っていた化粧道具を投げて渡してさっさと扉を閉める
扉をはさんだ向こうから戸惑った声が聞こえてくる

「ねぇ・・・?ほんとに着ないと駄目?」
「駄目」
「ぅぅ・・・・はぁ。分かったよ。まったく」

そういって扉の奥から布が擦れる音が聞こえてくる
ていうかよく考えたらこの家にいま俺とあいつだけなんだよな・・・
なんか無駄に意識して緊張してきたなとか無駄な考えをしている間にその声は聞こえた

「・・・終わったよ?」

聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声が後ろから聞こえてきた
心臓がバクバク言っている。落ち着け意識する必要なんかないと自分に言い聞かせて
扉に手をかけ一気に開いた先に一人の少女がいた
淡いブルーのワンピースに身を包み普段は後ろでまとめている髪の毛を今は降ろし
ワンピースの裾をきゅっと握り真っ赤な顔をしながら俯いている

「・・・・・」
「・・・な、なんだよ!?着ろって言うから着たんだぞ!?」
「えーと・・・・」

こんな格好してると普段とは全然違う。
細い肩に真っ赤になって目をそらしている少し濡れた大きな瞳


「だからなんだよ!?だからボクは着たくないって言ったんだ!」
「いや・・・違うって、予想外に・・・その・・・可愛かった」
「そう。可愛いって・・・・可愛い?・・・・?誰が?」
「お前が普通に可愛いからびっくりしたんだよ」
「ぅ・・・・嘘だ。こーいうのは似合わないんだよボクは」
「まさか、ここまで似合うとは・・・と、そろそろ飯の時間か・・・」
「・・・褒めても何も出ないからな」
「よし、このまま祭りいくぞ。夜店でなんか飯買うぞ」
「えぇ!?待ってよ!?着替えさせてよ!?」
「駄目、売店人が多くなるだろ?」

そういって彼女の手を引き俺は祭の会場へと繰り出した・・・・

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最終更新:2007年10月07日 23:48