体に直接当たるシーツの感触。ベッドの上には、優希が身に着けていたほとんどの物が、脱ぎ散らかされている。
 ついばむようなキス。もう何回目だろう。
 キスを終えた後、優希は恐る恐るといった感じに問う。

「僕の体……どうかな?」

 優希は既に、ショーツだけになっている。
 恥ずかしそうに自らの体を抱きすくめる優希。視線が向くのは、自分に覆いかぶさるようにする薫の顔。

「ああ」
「…それじゃわかんないよ」
「そうだな…その…綺麗だ」

 珍しく歯切れの悪い薫の返事。

(薫も緊張してるのかな?)

 だとしたら、嬉しいかもしれない。
 お礼の意味を込めて、優希も感想を口にする。

「薫も――綺麗だよ」

 薫は、上半身だけを全て脱ぎ捨てた格好だった。メガネは外され、端正な顔にあった二重の目が見える。
 薫の体は優希が見慣れた体育会系の異性とは異なり全体的に細身で、けれど女の子とは違って余計な脂肪も付いていない。
 白い肌の下に、うっすらと筋肉の存在が見て取れる。
 綺麗だと、優希は思った。
 だが褒められた当人は、あまり気に召す表現ではなかったようだ。

「……褒められているのかね?」
「そのつもりだけど?」

 不機嫌そうな顔をする薫に、優希は微笑み返す。
 少しだけ、両者の間から緊張が取れた。

「胸を触ってもいいかな?」
「…うん」

 薫は、いつもの無意味に自信ありげで率直な物言いで許可を求め、優希は躊躇いがちに胸を突き出す。
 薫の右手が優希の胸にふれた。


「…っ」

 優希は反射的に体をビクつかせる。薫は一瞬だけ躊躇うが、それでも止めずに愛撫を始める。
 全体を優しく持ち上げるようにしながら、手のひらで乳首を押しつぶす。

「上手…だね…」
「そうか?良かった」
「……ひょっとして、経験者?」
「いや、恥ずかしながら童貞だよ、今はまだね」
「そっか…」

 つまり自分が初めての相手という事。優希はその事にくすぐったい嬉しさを感じる。
 薫はもう片方の手を空いたほうの胸に伸ばす。
 だが、右手とは異なり、乳首には触れない。
 乳首には、顔を近づける。

「吸わせてもらうよ?」
「…ゃっ!」

 許可を求めるためのではない、確認のための言葉。
 優希が上げた声は拒絶か驚きか、自分でも解らなかった。薫はそれを拒絶とは取らなかった。
 色素の薄い乳首に、手とは違う暖かく湿った感触がきた。

「…!――ふぅっ!」

 優希は唇を噛み声を堪える。
 その努力を無視するように、薫はより一層熱心にキスを続ける。

「……、ひっ、ぁ…」

 染み込むような舌の感触と、吸引の刺激。
 交互に押し寄せる感覚に少しずつなれた優希は、視線を自分の胸元に寄せる。
 肌の感覚が知らせている通り、そこでは薫が自分の胸を吸っていた。
 一心不乱。そんな感じだった。
 その姿に、優希はなぜか愛おしさを覚えた。

(かわいい…赤ちゃんみたいだ…)

 だとしたら、ずいぶんと大きな、可愛げのない赤ちゃんだ。
 優希は両手で抱え込むように、薫の頭を撫でる。

「?どうしたのかね」
「ううん。なんでも―――あっ」

 赤ちゃん。その単語で、優希は重要な事を思い出した。避妊のことだ。


 コンドーム、と考えてその案を否定する。
 自分はもちろん、多分薫も持ってないだろう。
 今から薬局まで買いに行かせるのもなんだし、それに――

(今回は、何もつけないで…して欲しいな)

 自分の中に、愛しい人以外の存在を入れたくない――少なくとも、初めてだけは。
 幸い、優希は排卵期はとっくに終えて二、三日後には生理―――つまり今は安全日だ。

「どうした?」
「う、ううん。なんでもないよ…。
 それより…ごめんね?」
「何がだね?」
「その…おっぱい、ちっちゃくて…」

 恥ずかしげに言う優希。
 薫の持っていた『本』に出てきた女性達は、みんな胸が大きかった。
 具体的には男のアレを簡単に挟めるくらい。
 それに、今日の昼にも薫は委員長――桃子の胸に言及していた。
 やっぱり、大きい方がいいのだろう。
 少し気持ちが萎える優希。だが、薫は否定する。

「そんな事はない。むしろ想像以上だ」
「け、けど…桃ちゃんとかより全然ちっちゃいし」
「それは仕方ない。彼女が一般的に言うところの『巨』であるからだ。
 それは先天的な特質であり、言わば彼女はエリート。乳貴族だ。
 一般人に過ぎない君と比較するのが間違っている」
「…なんか、よく解らないんだけど…いいの?この胸で?」
「ああ、なんと言っても君の胸だ。
 それに吸い心地、揉み心地も抜群ぬごっ?」
「も、揉み心地とかいうなぁっ!」

 あまりに明け透けな感想に、思わず拳打を放ってしまう優希。
 だがゼロ距離だったのと、愛撫による脱力で、威力はいつもに比して極めて小さかった。 
 いつもにも増して平気な顔で、薫は口を開く。

「さて、程よく緊張がほどけてきたところで、次のステップに進んでよいかな?」
「ぅ、け、けどあまり特殊なのは駄目だよ?」
「では―――コレは特殊か?」

 薫は言うと、優希の下半身―――蜜に濡れた花弁に手を伸ばす。
 ショーツの布越しに触れる。

「ぁっ!や、やぁっ!」
「ふむ?そうは言いつつ濡れているな」
「だ、だって…薫が、あ、ふゅ…!」

 至近距離に近づく薫の顔をから、顔を背けるように首を振る優希。
 薫は、見えていないはずなのに、まるで見えているように、指で的確に弱い場所を愛撫して行く。
 いや、厳密には違う。既に優希の秘花は爛熟し、その土手に触れる刺激の全てが快感と認識するほどに出来上がっていた。
 まして、触れるのは薫の――自慰に際して、想像していた指なのだ。

「ぅ、ぁっ!ぇぁ…!」

 優希は薫の愛撫のなすがままにされながら、声を堪える。
 堪えるのは優希の羞恥心ゆえの行為だったが、薫にはそれが気に入らなかったようだ。
 いや、むしろ気に入ったからこそ、もっと苛めたくなったのかもしれない。
 とにかく、彼は優希の耳元で囁いた。

「直接、触れるよ」


「ぁ、な、何にぃ…?」

 快楽に濁った意識は、薫の言葉の意図を取れなかった。
 薫は応えずに上体を起こし、彼女の足を持ち上げ、ショーツを引っ張る。

「糸を引いている…」
「ぁっ!イヤァ…!」

 優希のほっそりとした足をショーツが通り抜ける時、パンツと優希の秘裂の間に、銀色のアーチがかかって、そして切れた。
 自分の愛液が、あんなに粘ついて…。
 それを見せ付けられ、優希は泣きたくなるほどの羞恥心に襲われる。
 だが、薫は泣く暇すらも与えるつもりはない。
 止め処なく愛液をあふれ出す泉に、顔を近づける。
 薫の意図に気付き、そこで初めて優希は抵抗を試みた。

「だ、だめぇっ!汚い!汚いよぉっ!」
「…すまない。止まらない」

 言葉少なく、薫は優希の中心に襲い掛かった。

「!?はぅ!」

 どうにか押しのけようとした優希だったが、彼女が薫を止める前に、薫の舌が優希の花弁に届いた。
 湿った布越しとは全く異なる、はるかに強い刺激が、背筋を突き抜け脳で弾ける。

(ビリビリ、くるぅ…!)

 その刺激に堪える事に必死で、もう薫を押しのける余裕などない。
 薫は容赦なく、口撃を咥え、さらには両手も加勢する。
 片方の手で優希の太ももを愛撫し、もう片方の手は、その指先でピンク色のラビアを引っかくように刺激する。
 そして口は、まるで先ほど乳首にしたように、優希の体の中で一番敏感な、肉芽を吸い上げた。

「~~~~~~~っ!」

 最大級の刺激。
 快感や苦痛という枠を超えた刺激に、全身が硬直する。
 流石に強すぎたと悟ったのか、薫のクリトリスへの責めは弱まったが、それでも乙女に過ぎない優希には強すぎる刺激だった。


「ふっ!ふえぇ!だ、だめぇ!ひゃ、あ、だめ!あああん!イク!イっちゃう!あん!きゅふぅぅっ!」

 澄んだ高い声が奏でる嬌声。
 その音色に誘われるように、薫はより熱心に愛撫を続け、愛撫はより一層、その音色を引き出す。

(と、止まらない!イってるのに―――止まらないぃっ!)

 優希は、押し寄せてくる快感に恐怖を覚えた。
 自慰によって辿り付ける終着点など、とっくに越えていた。つま先は丸まり、太ももは痙攣している。
 だが薫の愛撫は、さらにその先、さらにその奥へと自分を押し上げ、あるいは引きずりこんでゆく。
 戻れないところまで、連れて行かれる!
 優希は無意識にすがる物を求め、近くの枕を見つけて思い切り抱きしめる。

「ぅ、ふぅっ!…ぅぅっ!」

 薫の匂いがする枕を抱きしめ、顔を埋め、自分が消し飛びそうなほどの快楽の嵐に、優希は必死に耐え―――そして耐え切った。
 薫が、優希の泉から顔を上げた。
 顎まで垂れた愛液を拭って、一言。

「結構なお手前で」
「ば、かぁ…」

 荒い息をつきながら、優希はそういうのが精一杯だった。
 蹴りの一つでも叩き込んでやろうかとも思ったが、下半身が言う事を聞かない。
 叩き込まれた快楽が、甘い痺れになって残っている。
 だから優希は、せめてもの意思表示と、自分でも解るほど惚けた表情を無理やり引き締めて、薫をにらめつける。

「次…イヤって言っても続けたら…怒るからね?」
「つまり、今回は怒ってないということだな」
「!――屁理屈言うなぁ!」

 言われて、自分がそれほど怒っていない事に気づいた優希は、恥ずかしさをごまかすように叫ぶ。
 まったく、さっきのしおらしさが嘘みたいだ。
 優希は膨れっ面でそっぽを向く。
 それを見て、薫は苦笑交じりに近づいてきた。
 なるべく不機嫌を装って、優希は聞く。

「…何?」
「ユーキ、キスをしたい。いいかな?」


「…勝手にすれば」

 キス一つでなんて誤魔化されないぞ、という意思表示をしつつ目をそらしたまま言う優希。

「うん、勝手にしよう」

 薫はそういうと、キスをした。首筋に。

「―っ!?」

 唇に来るだろうと予想して、ちょっと唇を窄めていた優希にとっては、不意打ちだった。
 さらに薫は、まるで優希のが「キス一つでなんか~」と考えていたのを見越していたかのように、次々とキスの雨を降らす。
 しかもキスだけでなく、優希の肌に舌を這わせる。
 首筋に、頬に、額に、顎に…そして最後に、唇に。

「はむぅ…」

 ディープキスだった。
 優希は自分の口内に、薫の舌が侵入したのを感じる。
 一瞬、薫が自分のをさっきまで舐めていた事を思い出し、若干の嫌悪感を覚えた。
 だが粘膜が味わう生まれて初めての、食以外の心地よい刺激に溶かされていく。
 くちゅくちゅと交換される両者の唾液。
 優希は自分と薫が溶け合って繋がっているかのように錯覚する。
 けれどもそれは錯覚に過ぎず、やがて薫はその融合を解く。

「あっ…」

 思わず上げてしまった優希の切なげな声。
 離れようとする薫の体を、抱き寄せる。
 薫は少し困惑したように、彼には珍しい曖昧な微笑を浮かべる。

「ユーキ、少し離してくれないか?これでは脱ぎにくい」

 優希は薫が自分との体の間で、何かをゴソゴソとしているのに気付き、視線を下げた。
 薫が、ズボンのボタンを開け、チャックを下げていた。
 優希が手の力を緩めると、薫は起き上がり、パンツごとズボンを下げた。
 そこには、いきり立った薫の一物があった。
 血管を浮き立たせ、硬く反り上がったそれに、優希は思わず生唾を飲む。
 これが、自分の中に入る。
 愛おしさとも似た、しかしどこか違う感情が、胸を締め付ける。
 一方の薫は、そんな優希の様子を、怯えていると判断した。
 気まずげに、薫は言う。

「もしも…もしもイヤなら、止めてもいいぞ?」
「薫?」
「君に怒られたくはないからね」
「―――イヤなんかじゃないよ?」

 優希は言うと、薫に迫る。正確には薫の分身に。
 そして、恐る恐る手で取った。


 驚く薫に、優希はうっすらと緊張が見える笑顔を向ける。

「お返し」

 それだけ言って、優希は薫の根を口に含んだ。

「ぅぉっ…!」
「ん…」

 口の中で、薫が跳ね上がる。
 薫の熱と、匂いと、そして味。
 そんな体験した事もない感覚に驚きながらも、優希はさっき見た薫の本と、そして少ない知識をフルに活用して、薫の先端を舐め上げ茎をしごき上げる。

「や、めろ…ユーキ!」
「っぷはぁっ!ふふ、イヤだよ。お返しだもん。ん、ちゅりゅぅ…」

 優希は一度口を離して、悪戯な笑顔を浮かべる。
 そう、コレはお返し――仕返しなのだ。さっき、イヤだといったのに散々自分のを嘗め回し、弄り回した薫への罰だ。
 自分以上に切なく、気持ちよくなってもらわなくてはならない。
 優希は、薫の喘ぎ声を心地よく思いながら、薫の分身を舐め上げ、しゃぶり上げる。
 だんだんと薫のペニスはより一層に太く、固く、熱くなり、優希が仕返しという大義名分も忘れかけた頃、破裂した。

「で、出るっ…!」

 びゅるりと、最初の一撃が口の中に溢れた。

「ん!?」

 ドクドクと、二撃三撃と口の中に精液が流し込まれていく。
 最初の一撃では目を白黒させた優希だったが、3度目の震えの時にはそれが射精だと、口の中に溢れるのが精液だと理解した。
 となれば、後は本に描いていた通りにするだけだった。
 その独特の匂いはきつかったが、薫のものだと思うとイヤじゃなくなった。

「ほら、吐き出したまえ」

 枕もとのティッシュを手に取り、口元に広げる薫。
 その気遣いをありがたいと思いつつも、優希は無視して、その粘り気に苦労しながら飲み込んだ。


「ぅぇ…なんか、喉がイガイガするね」
「当たり前だ。アレは本来飲むものじゃない」
「けど、本ではみんな飲んでたよ」
「彼女達は特殊――その道のプロだ。君がそこまでしなくても…」
「けど、薫は一人でする時、飲んでもらうのを想像してたんでしょ?」
「……」

 沈黙する薫。優希は適当に言ったのだが、どうやら図星だったらしい。

「僕は…薫がして欲しいって思うこと、出来る限りしたいって思う」
「無理は…しなくていいんだぞ?」
「してないよ、無理なんか」

 けれどあまり変態チックなのはイヤだよ、と付け加えるて微笑む優希。対する薫の鉄面皮も、どこか柔らかく感じた。
 和やかな雰囲気を交わす二人だったが、しかし心臓は大きく早く鳴り響いていた。
 二人とも、なんとなく気付いていた。
 ついに…その時が来ると。

 優希の手に薫の手が重なった。
 そして、優希はそれを握り返した。

「ユーキ…」
「うん…」

 薫は優希の肩を抱き、優しく押し倒す。
 優希は祈るように胸の前で両手を組んで、呟いた。

「薫…僕を―――私を、女にしてください」

 薫は無言で頷くと、その先端を優希の中心に向けた。
 一度、射精したはずのそれは、しかし十分な硬度を保っていた。
 薫の亀頭が優希の花弁にあてがわれる。優希は来るであろう痛みに目を閉じると薫にしがみ付く。
 薫は片手で一物の方向をそろえ、もう片方のてで優希の肩を抱き――貫いた。

「んっっっっ!?」

 何かが、自分の中で裂けるような感じがした。
 錯覚かもしれない。だが今まで誰にも許した事のない深くに、自分以外の誰かが到達したというのが、解った。
 胎内で薫を感じながら、同時に薫を抱きしめる。

「ほ、本当に…入っちゃったぁ…。薫が、入っちゃったよぉ」

 惚けたような表情で、優希は全身で薫を感じる。
 それは薫にしても同じだった。優希のもっとも深い聖域に到達しながら、それでも足りないという風に優希を抱きしめる。
 互いの呼吸が落ち着いてから、薫が優希に尋ねた。

「もう、大丈夫か?ユーキ」
「うん。痛いけど想像や、友達に聞いていたのよりは、痛くなかった。
 鷲に内臓を啄ばまれる様な痛みだって、脅かしすぎだよ」
「それはまたギリシャ神話的表現だね。それで、もう動いても平気か?」
「う、うん。けど、ゆっくりだよ?」
「ああ、善処する」

 薫は言うと、まずは動きやすい体勢を作ろうと体を起こし…その瞬間、優希の体に電撃が走った。


「っはひゃん!?」
「ユーキ?」
「ば、バカッ!ゆっくりって言ったのに…!」
「痛かったか?」
「痛くは…ないけどぉ…」

 涙声で言う、優希。
 電撃の正体は、薫の一物が優希の中を擦った刺激だった。
 外気に触れた事のない敏感な膣壁にとって、肉棒との摩擦はかつてない刺激だった。
 そして…、それは間違いなく快感だった。

「すまん…コレでもゆっくり動いたつもりだったんだが…」
「今度は、気をつけてよね?」
「ああ」

 薫は応えて、今度は慎重に動かし始める。

「ふぁ、ぁ、ぁぁっ…」

 一呼吸程の時間をかけて、抜ける直前まで引き抜き

「きゅふぁ、ぁぁぁっ…!」

 同じだけのペースで根元まで突き込む。

「どう…だ?」
「う、うん、いい、よぉ…」
「なら…続けるぞ?」

 薫はそういうと、まるで機械のように同じペースで優希の中に肉棒を打ち込む。
 一呼吸ごとに突きこみ、引き抜く。

「くぅふ…ひふぅ…!ぅぁっ…はぁぁ…!」

 単純二拍子の粘膜刺激に、優希は酔いしれる。
 だが、それが続くにつれてその刺激に慣れ、体はもっと求めるようになる。
 もっと欲し。もっと激しく、もっと強く…!
 優希はそんな自分に戸惑いながら薫を見る。
 そして、薫の表情が険しくなっているのに気付いた。
 焦れているような餓えているような、まるでお預けを食らった空腹の犬のような表情。

(薫…もっと激しく動きたいんだ…)


 薫が必死で我慢してくれている事に気づいた優希は、その事を嬉しく、そして申し訳なく思いながら、鎖を解き放ってやる事にした。
 抱きしめ、耳元で囁く。

「いいよ」
「…ユーキ?」
「好きに動いて、いいよ。もう、慣れてきたから」
「だが、辛いんじゃ…」
「ううん。大丈夫。大丈夫だから…ね」
「…止まらないぞ?」
「うん」

 優希の頷きに応えず、薫は止めていた腰を動かし始めた。
 今度もまたゆっくり引き抜いていって、しかし今度は一気に突き込んだ。

「あんっ!」

 優希が弾むような嬌声を零す。
 それに触発されるように、薫の動きは激しさを増す。
 一呼吸で一往復。それも、突くたびに息が荒くなり、速度が増す。

「あん!やん!はぁん!あん!きゃん!」

 声が弾み、速度が増す。
 やがて薫の腰が優希の尻とぶつかり合い、パンパンという音を立て始める。

「ひぅ!あひっ、やぁ!あっ!へふっ!ひぎゅぅ!んんぅっ!」

 薫の一物に抉られるたびに、優希の膣はヒクつき艶声が上がる。
 それに刺激され薫はより一層激しく優希を攻め立て、一物自身も固く大きく膨れ上がる。無限連鎖だった。

「あああっ!はっ、い、イくぅ!は、初めてなの、に!ん゛ンっ!
 イく!イっちゃう!やぁ!あ゛っ!あああぁっ!イクゥゥゥッ!」

 ついに絶頂を迎える優希。薫は止まらない。
 先ほど、クリトリスを吸われたときと同じ要に、連続的にイきつづける状態に陥る。

「りゃめぇ!これ以上、イクの、だめぇ!イク、イ゛グゥゥゥッ!
 はへ!はへぇ!ま、たぁっ!あ、ぎぃっ!ひ、ひくぅっ!あん!ああっ!」

 数えるのも馬鹿らしいくらいの絶頂の波。
 まるで雲に乗っているような浮遊感と体の芯を走り抜ける刺激。
 手足の末端と、下腹部から広がる痺れるような甘い感覚。
 それに意識が飲まれ始める。
 それは優希が体験したことのない感覚―――本物のオーガスム


「あ゛あっ!へぁ、ひぃん!ああん!な、なんか!何か来る!
 怖い!薫!薫!薫、薫ぅっ!」

 どこかに飛んでいってしまいそうな、消え去ってしまいそうな感覚に恐怖し、優希は薫を抱く腕に力を込め、無意識のうちに背中に爪を立てる。

「ユーキ…ユーキィ!」

 薫も、限界が近かった。狂ったように、それ以外の全てを忘れたかのようにひたすら腰を叩きつけ、一物を叩き込む。
 そして…先に果てに達しのは優希だった。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 一瞬で全身が緊張し、そして脱力。
 己が消え去ったような感覚の中、優希は抱きしめたかおるの体が震えたのに気付いた。

「くぅっ…」

 薫の声が聞こえたような気がした。
 それと同時に、体の奥で薫の一物が振るえ、何かが注ぎ込まれるのを感じた。

(射精…してる)

 本能的に、優希は察した。
 薫が…自分を犯している雄が、自分の中に精子を注ぎ込んでいると。
 薫の射精は、口の中で感じたのよりはるかに長く、勢いよく、多量だった。
 薫に、犯されている。
 薫に、奪われている。
 自分を薫の物にされている。
 薫を自分の物にしている。
 薫と一つになっている。

「か、お…るぅ」

 震える声で、愛しい相手の名前を呼ぶ。
 答えはすぐに帰ってきた。
 最初はキス、声はその後だった。

「ユーキ…」

 そして、薫は優希を抱きしめる。
 薫の声を聞きながら、薫の体温に包まれながら、優希の意識は闇に落ちていった。


「誘っているのかね?」

 風呂からあがった薫が真っ先に言ったのはそんな言葉だった。
 先に風呂を頂いていた優希は赤面して言い返す。

「そ、そんなわけないだろ!
 僕のどこが誘っているように見えるのさ!」

 腰に手を当てて仁王立ちしようとして

「うあっ!?」

 と、腰砕けに転んだ。
 転んだ彼女が着ているのは、薫のワイシャツ一枚きりだった。

「大丈夫かね?」
「だ、大丈夫だよ…」

 優希はテーブルに捕まりながら立ち上がり、再び椅子に腰掛ける。
 それから、もう一度胸を張って文句を言い直す。

「で、僕のどこが誘っているように見えるんだよ?
 コレだって見ようによってはワンピースみたいに見えるだろ?
 そ、そりゃ下着はつけてないけどさ…」
「…あー、ユーキ。裸ワイシャツという単語は知ってるか?」
「は、はだっ!?ど、どうすればそんな卑猥な言葉を思いつくんだよ!?」
「……私が考えたものではないんだが…まあいい。
 味噌汁を作ってくる」

 言いながら、薫はダイニングキッチンに向かう。

「あの…晩御飯、ご馳走になってもいいの?」
「良いも何も…それ以外選択肢はない。
 それに、今日は霞が帰ってこないのだろ?
 ならば材料が余ってしまう。処理してくれると助かる」

 薫は振り向きもせずにそう言うと、鍋でお湯を沸かし始める。
 優希はその後姿を複雑な心境で眺めていた。



 気絶するように意識を失った優希と薫(彼も同様だった)が目を覚ましたのは、優希の門限である7時直前だった。
 目覚めた優希は大いに慌てた。


 優希の親は門限に煩い方だ。門限を破ったら外出禁止にされてしまう可能性だってあった。
 だが、帰るには問題が二つあった。
 一つは単純に肉体的な問題。立てなかったのだ。処女喪失に初オーガスムという体験は、堅牢な優希の肉体といえど負担が大きかったらしい。
 まるで歩き方を忘れたかのように、思うように立てない。
 もう一つは、服。特にショーツは壊滅的なほどに愛液で濡れていた。
 こうなればノーパンでズボンをはいて這ってでも…!と悲壮な覚悟を決める優希だったが、そんな彼女を半ば無視する形で薫が冷静に動いた。
 まずは学園祭実行委員の仕事を手伝ってもらい遅くなる。ついでに夕食を一緒にするという旨の連絡を東三条家に伝えた(優希の親にとっても薫は良く知った間柄なので疑わなかった)。
 次いで優希のショーツを洗濯機に放り込み、さらには風呂を沸かして優希を入れ、次いで自分も入った。
 もちろん、その合間に米を研いで炊飯器にセットするのも忘れない。
 実に無駄も卒もない行動だった。
 それこそ、初めて女性を抱き処女を奪ったというイベントなどなかったかのような平然ぶりだった。



(どうしてこうも平然としてられるんだよ?)

 優希はテレビを見ながら、胸中で呟く。
 正確には、テレビを見る振りをしながら、テーブルの反対側で茶を入れている薫を見ながら、だ。
 風呂から上がった後も、薫にはなんら変わった様子はなかった。
 普通に味噌汁を作り、買ってきた惣菜をさらに盛り付け、炊けたご飯を盛って食事。
 それが終わると食器を片付け、洗い、今はこうやって茶を入れている。
 その間に洗濯が終わったショーツを、乾燥機に移した。
 乾燥が終わるまであと十分。優希の足腰も、最低限歩く程度には回復している。
 問題はない。唯一つ、薫が何も言ってこない点以外では。

(…どういうつもりなんだろ?)

 結局、風呂から上がった薫と交わした会話は、必要最低限以上の物ではない。

「足腰は大丈夫か?」
「お代わりはいるか?」

 等の、いわば業務連絡的なものばかり。

(…もっと、いろいろあるじゃないか!)

 「付き合おう」とか「責任は取る」とか「なんか照れくさいね」とか、そういうのがあってもいいはずだ。


 しかし優希の期待に反して、薫がそういうことを言う気配など欠片もない。
 あと10分で乾燥機も止まり、後は帰るだけなのに…。

(…って、ひょっとして。向こうもこっちが何かを言うのを期待してる?)

 優希は、はっとする。
 そうか!向こうも何を言うべきか解らなくて、こちらの出方を伺っているのかもしれない!

「…ユーキ」
(…普通、女の子に言わせるかな?こういう状況で…)

 苦笑する優希。だがそんな彼の性格もカワイイと思ってしまう。惚れた弱みだ。

「…ユーキ?」
(えっと…まずはやっぱり「上手だったよ」って…)
「ユーキ!」
「じょ、上手だったじょ!?」

 優希は唐突に(少なくとも彼女の主観では)かけられた声に飛び上がり、思わず思考中の言葉をそのまま流す。
 薫は胡乱な目つきで優希を眺める。

「何がかね?」
「あ、な、なんでもないよ!で、何?」
「緑茶が入った」
「あ、うん、ありがと」

 バクバクする心臓を押さえながら、緑茶を貰ってすする優希。温度は65度。甘みが出ている。

「あ、おいしいね」
「ああ。良い葉を使ってるからな」

 薫はそう言った後、思い出したようなタイミングで付け加えた。

「ユーキ?」
「?」
「結婚してくれ」
「ぶぷふぅ!」

 緑色の霧を噴出する優希。
 ゲホゴホとむせ返る優希を、薫は厳しい顔で見る。

「勿体無いし汚いね」
「そういう問題じゃないよ!
 付き合おうとか、責任取るとか、全部吹っ飛ばしていきなり結婚!?
 しかもあのタイミングで!?」

 テーブルが間に入っていなかったら殴り飛ばしていただろう剣幕で怒鳴る優希。
 熊も逃げるような迫力に、しかし薫には暖簾に腕押し。

「仕方があるまい。タイミングを計っていたら残り時間が10分だ。
 パンツが乾いてしまったら君が帰ってしまうだろう。
 ならば、今しかないと思った」
「だからって……もっとシチュエーション考えようよ。
 例えばベッドの上で抱き合って、とか。
 一緒にお風呂に入っている時、とか」
「不可能だ。私とて非常に混乱していたのだよ。
 落ち着いた思考を取り戻せたのは、夕食を終えて腹に物を入れてからだ」
「……混乱していたの?そんな風には見えなかったけど」
「混乱しない訳がなかろう?懸想の相手と両想いになり、あまつさえ避妊もせずにセックスしたんだからね」
「セッ―――!ま、まあ、そうだろうけど…」

 言われて、優希は改めて状況を認識する。
 そう、薫のリアクションなどには変化は見られないが、それでも関係は大きく変化したのだ。
 幼馴染から―――両思いの恋人に…

「って、だからっていきなり結婚は飛躍してるよ」
「していない。
 この場合、定型表現としては『もしもの時は責任を取る』だろう?
 それはつまり結婚という事だ。
 もう一つのパターンとしては中絶というものもあるが…私は、産んで欲しい」
「う、産むって…」

 言われて、優希は赤面する。

(それはつまり、ママになるって事?)

 その場合、薫がパパでありつまりは夫で、毎日こんな風に食後にお茶を飲んで、けどそこには二人の愛の結晶が…

「―――もちろん、君がイヤだと言うのであれば、中絶の費用は…」
「するわないだろう!産むよ!―――っぅぁ」

 叫んで、さらに赤面する。
 馬鹿みたいだ。まだ出来てないし、そもそも安全日の今日は出来る確率が低いって言うのに…。
 なんてフォローしようかと思っていると、再び何の前触れもなく薫が立ち上がった。


「えっ?」

 そして、優希の前に立つと

「ありがとう」

 そういって優希を抱きしめた。

「え、ええっ!?」
「大丈夫だ。必ず守る。ユーキも、お腹の子供もだ。経済的には可能だ。株式運用で稼いだ資産が2千万――」
「ちょ、ちょっとタンマ!お腹の子って、まだ出来てないよ!」
「しかし避妊など欠片もしていないわけで――」
「あ、安全日なんだ。生理まで後三日だから、多分、大丈夫だよ」
「……嘘をついているのではないか?
 私に迷惑をかけないようにと、数ヵ月後には姿を消し、遠くの町で母子だけで生きていこうと…」
「するか!本当に安全日なんだって。安心してよ」
「…そうか」

 ようやく信じたのか、薫は頷くと隣の椅子に座る。
 その姿は、どこか残念そうだ。
 それを見て、優希は赤面しつつも聞いてみる。

「あ、あの、ひょっとして…ほ、欲しかった?
 その、赤…ちゃん……」
「いや、それほどでも」
「なんだよそれ!」
「落ち着けユーキ。私達は高校、しかも一年だ。
 私はまだ結婚出来ない。仕込むとすれば早くとも高校三年の二学期だろう」
「ぐ、具体的だね…」
「本気だからね」

 言いながら、薫は湯飲みを口に運ぶ。
 本当に、憎たらしいほどに落ち着いている。

(ひょっとして…あの時写真を見つけられた時のって、演技?)

 違うとは思いつつも、そんな邪推までしてしまう優希。

「まあ、子供が出来るかどうかは関係ない。付き合おう」
「……いきなり素直クールだね」

 変わらないのは不安だったが、変わりすぎても困ったもんだ。


「両想いで、しかもここには二人、万一妊娠していた場合であっても三人しかいない。照れることもないだろう」
「だからそんなすぐに出来るわけないだろう!」
「そうだな。それで…どうだね?」
「どうって…」
「付き合って…くれないだろうか?出来れば結婚を前提に、だ」

 だからなんでそう急ぐんだよ!
 と、優希は言いかけて、思いとどまる。
 この変人の思考や感性を理解するのは不可能に違いないし、それに…

(薫は…真面目だから)

 変な奴だけど、変わった奴だけど、決して悪い奴ではない。
 だが、そう簡単に言ってやるのもつまらない。だから少しひねくれる。

「いいよ。君みたいな変なのに付き合えるのはきっと僕だけだもん」
「うむ、同意だ。君のような無差別打撃兵器の管理を名乗り出るような自己犠牲の精神を持っているのは私だけ痛い痛い頭蓋骨がみしみしいっているのだが」
「無差別じゃないよ!こんな事をするのは君にだけだよ!」

 優希は両手で薫の頭を掴んで握力を加えることで打撃以外の攻撃方法があるのを証明しながら―――

「――こんな事もね」

 ―――その困った恋人に、真っ赤な顔でキスをした。



【終】

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最終更新:2007年10月08日 00:12