(一体どうした事なのだろうか?)

 薫は、困り果てていた。
 大野 薫はそれなりに自分の知能に自信があった。だが、その頭脳を以ってしても、現状の把握は困難だった。
 現状とは即ち、自分の唇を優希が積極的に吸っている―――キスしている状態だ。

「…っ…ぁん…ちゅ……ぷちゅ…ん……」

 積極的に舌を絡ませ、唾液を交換する優希。
 普段は消極的――というよりマグロといってもいいほどにさせるがままの優希の口撃に、薫は戸惑いいつもと逆の立場で蹂躙されている。
 嫌ではない。

(むしろドンと来いといったところだが…)

 しかし、何か違う。何かがおかしい。
 具体的には優希の様子だ。
 いつもの優希は恥ずかしがりながら、おっかなびっくりといった風にこちらを求めてくる。三歩近づいて二歩下がり、しかし耐え切れずまた寄ってくる。
 さしずめ野生動物の餌付けのような感じだ。

(今日のユーキは違う)

 今日の優希はまるで餓えた野獣のように、こちらをひたすらに求めてくる。
 餓えて、空腹に追い詰められた獣。

「っはぁ…はぁ……」
「ユーキ、今日はどうして…ぅむっ」

 問い返そうとしたら、またキスで口をふさがれた。
 そしてそのままベッドに押し倒される。
 そのベッドは、薫の使い慣れた物ではなかった。仰向けにされた視界は天井――の、鏡。
 そう、鏡。天井全体を覆うガラス体。部屋の壁も一面が鏡でもう一面はガラス張りの向こうに風呂場。
 ラブホテル。

(なぜ私はここにいるのか?)

 優希の舌を感じながら薫は三十分の事を回顧する。


「アメリカに来て欲しいんです。私のパートナーとして」

 レジーナの言葉に衝撃を受けたのは優希だけではなかった。同じ以上に、薫は驚いていた。

 実は、薫はアメリカの一部――株・証券取引業界では少々有名人だった。
 転んでもただでは起きないというか、薫は霞に呼び出された時、その元を取るべく行動した。
 それは、大学に通うことだ。正確には大学の講義を聞くことだが。
 潜り込んだ先は経済学部。ちょうど霞のホームステイ先の人の伯父が教授をやっていたため、厚意で受けさせてもらえた。そして霞が帰国する直前、薫はアメリカでの勉強の集大成として株価のシミュレートソフトを作った。
 ネット上にフリーソフトとして公開されたそれは、機関投資家に大きな衝撃を与えた。偶然そのプログラムをDLして、プログラムが示す通りに投資していった配管工が、一ヶ月で二百ドルを二十万ドルにまで増やしたのだ。
 その噂がネット上に広まり、薫の作ったプログラムは多くの人がダウンロードした。その使用者の多さのあまり株の動きが変化し、薫のプログラムの予想を外れてしまったほどだ。
 市場という系の中に想定していなかった自己という要素が加わり、結果として薫のプログラムは予想を外し、多くのダウンロードした者達は、配管工が単に幸運だったと結論付け、薫のプログラムを捨ててしまった。
 一方そのプログラムの優秀性を認めた投資家は、そのプログラムの製作者を血眼になって探した。しかし、よもや日本から姉にお使いを頼まれてやってきた十三歳の少年が、力試しに作った物とは考えもよらず、薫に辿りついた者はいなかった。
 ただ一人、一緒に隣り合って講義を聞いていた経済学部のセルジオ教授の娘、レジーナを除いては。


「―――と、まあ、大体こういう経緯でね」

 満腹亭から出た後、レジーナとの会話の間、ずっと沈黙していた優希に言った。
 レジーナは既に去っている。電話で霞に飲みに誘われたからだ。

「一緒に来てくれるなら共同経営者の椅子も用意しマスヨ?」

 レジーナは23歳の若さで、既に年商億ドル単位の投資ファンドの経営者だ。会社自体は父親のそれを株分けしてもらった物だが、親の七光りなどでなく、彼女が本格的に経営に乗り出してからは業績を伸ばし、経営規模を拡大していてる。その辣腕と美貌は注目を集め、雑誌の拍子になった事さえある。


 その人物からの誘い。薫自身は金や地位や名誉などといった物にはあまり価値を見出さない性質だ。しかし、

「…どうするの?」
「―――何がだね?」

 優希の呟きに、まるで心を見透かされたような気がして、薫は少しバツが悪くなりながら答える。

「残念ながら彼女とコンビを組んでアメリカでデビューする気はないよ。
 するとすれば吉本でだね。強烈なハリセンを開発してからの話だが…」
「真面目に…答えてよ」

 いつもの張りがない優希の声。盗み見るが、俯き加減の優希の顔は、前髪に邪魔されてみる事ができない。
 少し迷ってから、薫は正直に答えた。

「―――惹かれていない、といえば嘘になるね」

 自分の能力が認められ、そしてそれを欲せられるというのは、悪い気がしない。

「そう…」

 優希は、ただそれだけ答えた。
 薄い反応に、薫は不安になり、何かを言おうとして―――唇を、奪われた。

「っ!?」

 その行為に薫は驚く。
 優希は、極めて恥ずかしがりやだ。二人きりのときですらキスを躊躇う。まして人通りのある路上でなど。
 しかし現実、優希はキスをしてきた。唇を重ねるどころか舌を入れる。通行人の何人かがこちらを見てくるが、それでもやめない。
 十秒ほど経ってから優希は唇を離す。


「ユーキ?」

 戸惑う薫に優希は答えずに手を掴むと、強引に引っ張り無言で歩き出す。

「…?ユ、ユーキ?どこへ…」

 それでも優希は答えない。薫の手を引いて歩いてゆくのは、裏の路地だ、そこを抜けて進んでいく。
 答えを得られないと判断した薫は、抵抗を完全に諦めれると、手を引かれるままに優希についていく。
 右へ左へ…。やがて二人はいかがわしい店が集まる地区―――いわゆる歓楽街に入っていく。
 薫は私服だが優希は学校指定のブレザーのまま。流石にまずいだろうと、薫は優希を止めようと思う。それより早く、優希が立ち止まった。ビルの前だった。
 薫は不審に思って顔を上げて、固まった。

「ここ、入るよ」

 優希は薫と視線を合わせずに宣言すると、固まった薫の手を引っ張ってそのビルに入っていった。
 そのビルこそがラブホテルだった。



(つまりどういうことだね?)

 回想を終えて薫は現実に戻ってくる。
 現実世界では、ベッドに腰掛けた薫の一物を、優希が咥え奉仕していた。


「んっ、んっ、ちゅっ、じゅぱっ、ちゅりゅるるぅっ!…ちゅ、はぅ、むぅ」

 一心不乱に舌を這わせ、吸い上げ、扱き上げる。普段より雑だが、勢いと思い切りがよく、いつもと違う感覚に薫は少しずつ追い詰められていく。
 手のほうはといえば、片方は肉棒を支え、もう片方は自分の秘裂にやり、引っかくように刺激している。薫の位置からは見えなかったが、既に指の一本が埋まり、奥まで刺激していた。
 唾液の音と混じり、淫液が空気と掻き混ぜられ、泡立つ音さえ聞こえてくる。

「今日は…激しいね、ユーキ」

 かけた言葉にも、ユーキは反応せずにひたすら口淫と自慰に没頭する。
 その様子に、薫の中の違和感はだんだんと増していく。
 心が食い違っている感覚。
 手を伸ばせばすぐ触れれるところにいるはずの優希が、だけれどもずっと遠くにいるような感覚。
 心が、触れ合っていない。

(このような状況で、抱くわけにはいかないね)

 セックスは、体と一緒に心が触れ合ってこそ。薫はそう考えている。
 幻想だとは思っていない。生理的な開放、快楽が欲しいなら自慰で十分事足りる。
 それでもなぜ人間は、わざわざ相手を探すなどの手間や妊娠のリスクを得てまでセックスをするかといえば、それは体温と、受け入れあうことの充足感を得るためだ。
 今、優希を抱いたら、生理的な快楽も、体温も手に入る。だが…

(心は、得られない)

 今日はやめておこう。
 薫は優希の顔に手をやり腰を引き、そっと自分の一物を優希の口内から引き抜く。

「もういい、ユーキ」
「じゃ、入れるよ」
「それもいい」
「…っ!」

 床に跪くようにしていた優希が、打たれたように顔を上げた。まるで裏切られたかのような、ショックを受けた瞳。
 その目に、理由のわからない罪悪感を覚えるが、それでも言うべきことは言わなくてはいけない。

「今日はもういい。今日の君を、抱くわけにはいかない」

 言い終えると薫。優希は再び俯き…

「そんなに…」

 そして叫んだ。

「そんなにレジーナさんの方が良いの!?」

 何を言っているのか、そう問い返す前に、薫は押し倒された。

「ユーキ!落ち着…」
「渡さない!僕、嫌だよ!薫は僕のだもん!渡さないんだから!」

 かんしゃくを起こしたように叫びながら優希は薫に跨る。
 優希はその体格からは想像がつかないほどに力が強く、そして重心のあつかい方も心得ている。その資質と技術は、男女の力差を十分屈返す。
 薫を押さえつけながら、優希は薫の一物を自分の中に導こうとする。
 まだコンドームをつけていない一物を…

「ユーキ!ダメだ!避妊を…!」
「嫌だ!」

 一周すると、優希は秘裂に薫の先端を押し付けて、力を込めた。
 だが、薫の一物を簡単に飲み込めるほど、優希の淫孔は開いていない。
 愛液に滑る花弁を擦りあげるだけ。

「あ、あれ?入らない…僕のに、薫が入らないよ」

 焦ったように優希は腰を動かすが、それでも優希は自分の中に薫を導くのに失敗する。
 優希は手で薫のそれを掴んで方向を決めて入れようとするが、一度焦った意識はその動作を失敗させる。まして、いつも挿入は薫がやっていて、優希はひたすらマグロだった。
 焦りと経験不足で、優希は薫を導き入れれない。
 その姿を、薫は痛々しいと思った。
 原因は解らない。何を優希が思っているのかも解らない。
 しかし、それでも優希が辛そうなのは―――泣いているのは事実だ。

「ユーキ」
「っ!?」

 薫が優希の頬に手をやって涙を拭う。優希が驚いたのは薫の手のためか、それとも自身が知らないうちに流していた涙のためか。
 その時が、満腹亭をでてから初めて、まともに優希と目が合った瞬間だった。
 優希の目には、怯えが見えた。
 だから薫は、少しでもその恐怖が和らぐようにと撫でながらいう。

「ユーキ。落ち着いてくれ」

 自分の鉄面皮を呪いながらも、それでも可能な限りの笑顔を作って…。
 自分のぶっきらぼうな物言いを呪いながらも、それでも可能な限りの優しさを込めて…。

「ユーキが泣いていると、私も悲しい」

 抱き寄せる。
 優希は先ほどまでの暴れっぷりが嘘のように、軽く倒れこんでくる。
 薫自身が若干のコンプレックスを抱いている『板』というにはあまりに薄い胸板に顔を埋めてから、優希は力なく、言葉を零した。

「ゴメン…薫…ゴメンナサイ…」

 その言葉の後に、堪えるような嗚咽を、薫は自分の胸元から聞いたのだった。






 薫の胸板に顔を押し付けながら、優希は自己嫌悪に浸っていた。

(僕…最低だよ…)

 あの時、レジーナが薫を誘った時、優希は今まで感じた事のない恐怖を覚えた。
 薫がいなくなるという、恐怖。
 優希には確信があった。薫の良さを知っていて、悪いところを受け止めれるのは自分だけだと。
 それは自信、あるいは慢心と言っても良かった。今まではそれでよかった。薫に異性として好意を持つ者が、現れなかったから。
 その状況を、レジーナが壊した。
 自分の知らない薫を知り、自分の知らない薫の魅力を知り、そして薫の欠点を受け止めれる女性。
 自分なんかよりずっと女性的な体。社会的地位や知性などでは最早比べようがない。

 自分より遥かに魅力的な人が、薫を求めている。

 その事が堪らなく怖くなった。
 薫が自分を捨てて遠くに行ってしまう。
 それを止めたくて、けれど止めれる要素が何もなくて、絶望する。
 その時、不意に桃子との会話が頭をよぎった。

「…子供出来ちゃったの、承認してね、とかいって無理やり繋ぎとめようとしてるんじゃ…」

(もしも…僕が妊娠すれば…)

 予定だと排卵日は五日後。少しでも排卵が早まれば妊娠する。
 薫はああ見えて責任感が強い。
 もしも自分が妊娠したら、責任を取ってくれる。ずっと一緒に…いてくれる。

(汚いよ…卑怯だよ…僕…)

 あの瞬間は、それが良いと思った。それしかない、たった一つの冴えたやり方だと思ったのだ。
 だから薫の手を引いて、ラブホテルに駆け込んで、そして無理やり薫としようとした。
 薫を―――レイプしようとした。
 けれども、そんな自分に薫は優しく言ってくれた。

「ユーキが泣いていると、私も悲しい」

 優しくなでられて言われた時、優希は目が覚めた。
 薫のペニスを中々入れられなくてかっこ悪く焦い、そんな自分。
 そんな自分の姿を、優希は汚らしいと思った。浅ましいと思った。

(僕…最悪だよぉ…)


 軽蔑されてしかるべきことをして、けれど薫はそれでも自分のことを気にかけてくれている。
 そして自分は薫の優しさに甘えて、泣いている。それどころか、心のどこかで赦してくれる事さえ望んでいる。

「ゴメン…ゴメン、薫…」

 何も言う事もできず、考える事もできずに謝る優希。

「…ユーキ」

 薫が頬をなでてくる。
 それでも、何を答えて言い変わらず、怖くて顔を見ることも出来ない。
 しばらく優希の頬を撫でていた薫は、優希の肩に手をやった。

「あっ…」

 抵抗出来ずに優希は横に倒され、二人は体勢を入れ替える。
 身を硬くする優希。薫は無言のまま優希の足を抱えて、覆いかぶさってくる。
 何を、と優希が思った時だった。

「ふきゅぅっ!?」

 無言のまま、薫が優希の中に押し入ってきた。
 不意打ちな敏感な粘膜への刺激と、下からの突き上げに、優希は声を上げる。

「な、何をっ…ぅんっ!」

 声は、キスで塞がれた。
 全てが突然の展開に、優希は目を白黒させる。
 けれども、全身で感じる薫の体温は押し返すには心地よすぎた。

「っ…ちゅ…くちゅ…、ん―――んっ……ん…っはぁ」

 情熱的に絡まされた薫の舌が、優希の口内から引き抜かれる。
 キスを終えた薫はそのまま動かず、呼吸を合わせるように優希の頬に自分の頬を寄せる。
 優希は自分の深く差し込まれた熱い塊を感じる。その感触は何度か感じだ物とは異なっていた。
 初めての時以来、何度か薫としたが、それは全てゴムをつけてだった。唯一、生でしたのは初めての時で、その時は痛みやら刺激やらが激しく良く覚えていない。
 初めて体の最奥で感じる、何もはさまない薫の体温。
 薫の心音に合わせて胎内の薫もピクピクと動く。
 それを感じて薫の先端のさらに先で、子宮が疼いた。


(い、いやだぁ…僕、喜んでるよぅ…。子宮が喜んでるよぉ…)

 自己嫌悪をしていたにもかかわらず、現金にも喜ぶ自分の雌性に、優希は死にたくなるほど恥ずかしくなる。
 顔を赤くして薫の方に顔を埋める。
 その耳に、薫が囁いた。

「よく、わからない」
「えっ?―――ふはぁぁっ!?」

 意味を問い返す前に、優希は体を引っ張り上げられた。
 腰に腕を回されて、挿入されたまま胡坐をかく薫の足の上に座る。対面座位だ。重力がより深く薫を導きいれさせる。
 その圧力を受けた優希の子宮が、もう一度キュンと疼く。
 反射的に薫の腰に回した足が痙攣する。
 虚空を見つめる優希に、薫は言葉を続ける。

「ユーキ。私はユーキが好きだ」
「か、薫…?」
「しかし情けない事だが、私はユーキが何を考えているのは解らない。
 今日、なぜ君が積極的に迫ってきたのかも、正直理解できていない」
「それは…」
「言わなくていい。言いたくないから、理由を言わずに行動したのだろ?」

 薫は優希の背中を、まるで幼子をあやすように擦る。

「私は君の意図するところは解らないが、けれども、君がコンドームなしでしたがっているのは明白だ。
 だから、する」
「…いいの?妊娠、しちゃうかもしれないよ?」
「君はそれを望むのだろ」
「赤ちゃんできたったら、僕、薫に責任とれって言っちゃうよ?
 それでもいいの?」
「かまわない」

 真っ直ぐに見返しながら、薫は即答する。

「初めての後に言ったはずだ。責任を取る、と。
 妊娠を避けているのは、法的に責任を取る事が――結婚できない年齢だからと、そして君の学業の妨げにならないようにだ。
 だが、君がそのリスク以上に避妊をせずにしたいというなら、断る理由は無い」
「けど…薫はいいの?それでいいの?」

 レジーナの誘いを受けれなくなるだけではない。
 自分を妊娠させるという事は、その責任を取るということは、薫の可能性を大幅に捨て去る事だ。
 そこまでさせる権利が、自分にあるはずが無い。
 そこまでさせる価値が、自分にあるはずが無い。
 優希はそう思うが、けれど薫の目には、やはり迷いは欠片も無かった。

「いい。私にとって一番大切なものは、今こうして抱きしめている」

 優希をきつく、しっかりと抱きしめながら、薫は言った。

「私は―――笑顔の君が傍にいてくれれば、幸せだ」
「ぁっ…」

 薫の腕の感触と言葉に、優希は安堵を覚えた。
 薫は傍にいてくれる。
 そしてその確信と同時に優希は一種の諦観に達する。

(もう…僕、ダメだ。完全に…薫に惚れちゃったよ)

 自分さえいてくれればそれでいい。
 漫画やドラマにすら使われる事も無いような陳腐な台詞。優希も以前、薫にこんな事を言われたら、と想像した事があったが、その時は一笑にふした程度だった。
 実際に言われてしまえば、その台詞のなんと甘美な事だろう。
 愛している相手に――それこそ彼さえいてくれればそれで幸せになれると思っている相手に、自分さえいてくれれば幸せだと言われる。
ああ、もうダメだ。
 薫の声が、匂いが、体温が、挙措動作が、全てがまるで麻薬のようだ。
 その麻薬は、精神的にも肉体的にも依存生が高い凶悪な奴で、一度味わえばやめられない。
 あっという間に中毒者の出来上がりだった。それなしでは、生きていけない体になる。
 泣き笑いの表情で、哀れな中毒者は言う。

「反則だよ、薫…そんなこと言われたら、僕、もう薫から離れられないよ」
「もちろん、元から離れてもらうつもりは無い。
 というわけで…」

 薫は言いながら、腰を引きながら優希から抜けていく。
 流石に中に出すつもりは無いのかと、優希は少し残念に思った。それが、隙になった。

「そら」

 亀頭が顔を出す直前まで来たところで、一気に突き入れた。

「あん!」
 
 普段の正常位では到達しないほどの深部を、普段の正常位とは異なる力の方向で擦られ、優希は一気に軽い絶頂を与えられる。

「ふむ?軽くイッたかね?」
「ば、ばかぁっ!いきなり何をするんだよぉっ!?」
「何といわれても、入れた後に動くのは当たり前だろう?
 まさか、あそこまで私を誘惑しておいて、お預けなどというプレーではなかろう?」
「う…ううっ」

 言われて、優希は考える。
 理由である薫がレジーナに奪われてしまうのではないかという心配は消えている。けれども、ここまで強引に誘っておいて、いきなりやっぱなし、って言う訳にもいかない。

(それに…お腹が薫の精液を欲しがってる)

 ゴムを付けていない薫の感触。
 物理的な刺激だけで言えば、気をつけて感じなければわからない程度の違いだ。
 けれども、薫ともっとも深いところで、なんの障害も無く接していると思うだけで、普段のセックスとは全く別物のように感じる。
 この感触を、拒絶できるほど優希は禁欲的ではなかった。
 しかし「早くぅ!僕の子宮にちんぽ汁びゅくびゅくしてぇ~!」などと言えるほど、優希は熟練者ではない。

「薫がしたいなら…いいよ?」

 相手の求めを期待した、少し意地を張った言葉。
 その意図を正確に汲んだ薫は、笑顔で答える。

「よし、ならばやめようか?」
「えっ!?―――あっ」
「ふむ、随分と切なげな声くふぉっ」
「このまま薫としたいです!これでいい!?」

 真っ赤になりながら、優希は半ば自棄になって叫ぶ。

「―――最初から素直にそういえばいいのに、なぜわざわざ打撃と言うプロセスを経るんだね?」
「薫が馬鹿だからだよっ!」
「君に馬鹿呼ばわりされるのは心外だが…その議論は後にしよう。
 そろそろ私の理性と我慢も限界だからね」

 薫はそういうと、ゆっくりと腰を動かしだす。

「んっ…っ…っ。このままの…ふっ…格好でっ、するの?」
「ああ…」

 会話しながら、だんだんとこつを掴んできたのか薫の腰の動きが早くなってくる。
 言葉は少ない。どうやら薫が限界が近いのは本当らしい。
 そしてそれは優希も同じだった。
 初めて体験する体位故の興奮と、違う擦られ方。そして生でしているというシチュエーションが、優希を快楽の頂点へと押し上げる。
 すぐに、優希の太ももが震え始める。小さな絶頂を連続的に迎え手いる状態――いわゆる、逝きっぱなしになってしまった証拠だ。
 その痙攣は薫の征服欲を満たし、どうじに更なる征服欲を喚起する。
 もっとイかせろ!自分の肉棒でこの女をイかせまくれ!
 早く出せ!射精しろ!この女の胎内を、自分の遺伝子で満たせ!
 二つの正反対の欲求にはさまれながら、薫はぎりぎりで堪え続ける。
「はへ、はへぇぁ!はぁ、ああっ、ああん、ああん!」

 舌を突き出し、薫の与えてくる快楽に酔いしえる優希。

「っ!…くぅっ!」

 歯を食いしばり、優希の与えてくる快楽に耐える薫。

「ふぁっ!あん!あ、あ、あ、あっ、あっ、はあっ、はぁっ、はっ、くぁぁっ!」

 一際大きく喘いだ優希が、薫を強く抱きしめる。
 細く絞まって筋肉質だが、それでも女性らしい柔らかさが失われていない優希の肉の感触。それが止めになった。

 どくん!

「~~っ!?」

 中ではじけた感触に、優希は目を見開く。
 射精自体はコンドーム越しに何度も感じた感触だったが、その先が違った。

「な、中で…広がって…」

 中で薫が欲望を吐き出すたびに、自分と異なる体温が広がる。
 出され、注がれ、満たされる感触。
 そう、満たされる。欠落していた何かが、求めていた何かが補充されていく感覚。

(ああ、そうか…。僕―――私、こうされるために生まれてきたんだ)

 雄の精を受ける為に生まれてきた、雌としての本能が感じる充足感。 
 大量の精液は膣底に注がれ、しかし一滴も外には漏れてこなかった。鍛えられた優希の体は膣は薫の一物を締め上げ、漏れる隙間を作らない。薫の全てが膣と、そしてその奥にある子宮へと注ぎ込まれていく。
 それに堪らない喜びと安堵を覚えながら、優希は脱力し薫にもたれかかる。

 びゅっ…

 最後の一撃が終わると薫は優希を抱きしめたまま後ろに倒れる。
 優希は薫に覆いかぶさりながら、薫の首筋に顔を埋める。

「まだ硬いね」
「ああ…あまりに気持ちよくてね」
「うれしいよ」

 思わず、素直な言葉が口から漏れた。
 引かれるかなと優希は思ったが、薫の反応はむしろ逆だった。

「んっ」
「…」

 キス。それに呼応するように、優希のヴァギナと薫のペニスが反応する。
 もっと受け入れたいと卑猥に蠢き、もっと突き入れたいと卑猥にビクつく。
 どちらからともなく唇を離す。
 合わせた視線に言葉は要らなかった。
 優希は上半身を起こし、薫の腰に跨る。
 それは、奇しくも最初に薫を押し倒そうとした時と同じ体位だった。
 違うのは、ペニスが優希の秘園を貫いている点。

「んっ…ふっ、んんっ…!」

 上下に動いたり、こすり付けるように前後に動いてみたりと、いろいろ試す。
 薫は優希の尻に手をやり動きをサポートし、動きは優希に任せる。
 その動きは最初は羞恥と不慣れゆえにぎこちなかったが、すぐに覚える。
 あとは、激しかった。
「ふぁぁっ!あぁん!凄い!凄いよぉ!」
「っ、随分、激しいね」
「だってぇっ!僕ぅ!気持ちいいんだもん!はあん!」

 薫の胸に手を置いて腰を振る。
 初めてする自分からの動き。
 時折、薫の表情が僅かに歪む。
 それを見下ろしながら、優希は染まった頬に笑顔を浮かべる。

「はぁ、薫ぅ、気持ち、いいの?ふぅっ!」
「ああ、もう…イきそうだ」

 薫はそれだけ言うと、優希の柔らかな尻を握りつぶすように押さえ、動き出す。

「かふっ!くふぅっ!ふ、深いよぉっ!薫っ、深いよぉ!壊れちゃう!僕、壊れちゃうぅ!」
「すまん…手加減できそうにない」

 突き上げられる動きと快感に、優希の小柄な体は翻弄される。
 その優希の目に、自分と同じように、男に下から突き上げられ弄ばれる少女の姿が見えた。
 それは、鏡に映った自分自身だった。ちょうど薫の頭が向いているほうの壁は全面鏡張りで、そこには薫の一物を出し入れする自分の姿が映っている。

「いやぁ!」

 優希は自分の体を隠すように、薫の体に倒れこもうとするが、薫はそれを許さなかった。
 尻を押さえていた手を優希の胸にやって、揉みしだきながら押し返す。

「いやぁ!薫!見えちゃう!エッチなところ、見えちゃうぅっ!」
「ん?ああ、そういうことか。そういうことなら直のこと倒れさせるわけにはいかんね」
「バカァ!あ、あああっ!」

 しっかりと腰を固定されてしまった優希には、最早腕で自分の体を隠すしかない。
 もちろん、自分の痴態を細腕で全て隠すことなどできるはずもない。

「いやぁん!あん!あぁん!はぁん!見てるよぉ!見られてるよぅっ!」

 淫らな鏡像を見せ付けられている。鏡像に淫らな姿を見せ付けられている。
 倒錯的な状況に、優希はいよいよ追い詰められる。
「薫!僕、来ちゃう!凄いの来ちゃうぅ!
 イちゃう!見ながらイっちゃう!見られながらイっちゃうぅぅっ!
 ああっ!へあぁっ!はぁん!あん!あん!くぁぁっ!はぁぁっ!」

 もう自分の姿を隠すことも忘れ、ひたすら薫をむさぼる。
 薫は乱れに乱れた優希の姿に誘われるままに、加速度をつけて腰を突き上げる。
 そして、最後の一撃を叩き込んだ。

「あああああああああん!」

 一際大きい嬌声が、優希の口から漏れる。
 口の端から唾液を拭う事も忘れて、優希は薫の射精を受け入れる。
 二度目とは思えないほどに、多く、そして濃かった。 

「ふ、ふふ…凄いよぉ…僕の子宮、薫ので一杯だよぉ…」

 優希は微笑みながら鏡越しに自分の下腹部を見る。
 あの奥には、子宮がある。
 女の子の大切な場所がある。その聖域に、愛しい人の精液がドクドクと送り込まれ、一杯になっている。
 そう想像するだけで、絶頂すら感じてしまう。
 それは、薫にしても同じらしい。
 薫は荒い息をつきながら、優希の下腹部にそっと手を添える。

「解るか、ユーキ。出ているぞ」
「うん…解るよ、薫ので、一杯になってる。すごく…幸せ」

 けれど、と優希は付け加えて、微笑んだ。

「もっと幸せになりたいな」

 そう言う優希の胎内で、薫の一物はまだ硬度を保っていた。
 その誘いに、薫が断る理由はなかった。

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最終更新:2007年10月08日 00:23