「では、まず一人でしてもらおうかな?」
「ひ、独りでって……え、ええええっ!?」

 薫の要求は、早速優希の想像を超えていた。
 しかし、薫にしてみれば驚かれた方が想定外だった。

「どうしたのかね?」
「どうしたじゃないよ!?ひ、独りでって、その!お、おな、おな…!」
「オナニーだね」
「そ、そう!それをどうしてしなくちゃならないんだよ!?」
「もちろん撮影し、私が後々それを眺めて手淫に耽るためだ」
「だからなんで僕一人を撮るんだよ!?二人でするのを撮るんじゃないの?」
「それも撮る。だがまずは君が一人でするところをカメラに収めたい」
「そんなぁ…」

 顔を真っ赤にしながら、優希はぽつりと…

「一人でだなんて…恥ずかしいよぅ。
 薫も一緒に…」
「カメラの前で並んでオナニーをして欲しい、と?
 残念ながら自分自身をオカズにできるほど、私は道を極めていないのだよ。
 君は自分の痴態を想像しながら達せれるのかね?」
「それは…無理だけど…」
「ではしてくれたまえ」
「…うん。あの、電気は…」
「安心し給え。撮影のためにしっかりと点けておこう」
「……」

 すっかり撮影モードに入っている薫。

(しょうが…ないよね)

 エッチなところを撮影されるのは恥ずかしいが、愚痴っていてもしょうがない。

「じゃ、じゃあ…始めるよ」

 そう断ってから、優希は危険日前後によくするように、自分の体に手をかける。
 まずは胸からだ。仰向けになった体を包むワイシャツをの前をはだけて手を差し込む。

「…っ」
(揉まれると大きくなるって…嘘だよね)

 胸は薫と初めて肌を重ねたころから全然大きくなっていない。
 さんざん吸われ、揉みし抱かれたにも関わらずだ。
 ただ、外見こそ変わらないもの、その内面的な部分は大きく変わっていた。
「ぁぁんっ…」

 感度が、上昇していた。
 張りのあるつつましやかな双丘を軽くさする。それだけで、その先端に鎮座する鮮やかな肉芽はみるみる堅く、起立し始める。
 
「…ん、ちゅぱっ…」

 指を口の中に含む。

(これが…薫のだったら…)

 そう思うと、絡む舌にも熱がこもる。

「んはっ」

 朱唇から出てきた指には唾液がからみついていた。唾液がたっぷりと付いたその指で優希はすっかりと固くなった乳首をつまむ。

「っ…はぁ」

 左の乳首を、重点的に。唾液はローションの代わりとなり、程よい摩擦を与える。

(薫ぅ…)

 いつもと同じように、薫の名前を呼びそうになって、こらえる。
 今、その当人がこちらを見ていると思いだし、恥ずかしくなったのだ。

(い、いやだよぉ…。薫が見てるのに…僕、いつもより濡れてるよぉ)

 その思いは、ある意味逆だった。
 見られているのに濡れてる、ではなく、見られているからこそ濡れているのだ。
 泣きたくなるほど恥ずかしくなる優希の心に反して、情火は体を加熱してゆく。
 そして体が帯びる熱は、そのまま意識を自慰に没頭させていく。
 痺れはじめた意識は、いつもと同じように、薫の声と言葉を想像する。

『ふふふっ…今日はずいぶんといやらしいねぇ』
「くっ、ふぅ…」

 それは、あくまで想像だ。
 本人は無言のままにカメラをこちらに向けている。
(い、いつもより…早いよぉ)

 濡れるのが、だ。
 すでに優希の花弁からは、快楽の雫が溶け落ちはじめている。

『実にいやらしい…。見られて感じるなんて、そんなにスケベな子だとは思わなかったよ』
(違うっ…そんなんじゃ…!)

 言いながら、優希の指―――想像の上では薫の指が、ゆっくりと肉泉に沈んでいく。

「ひぁぁぁっ!」
『おやおや…。吸いついてくるね?貪欲なものだ』
(違うぅっ!貪欲なんてそんな…)
『本当かね?実は誰のでも良いのではないか?』
(違うよぅ!信じて!薫のだからだよぅ!薫のだからこんなに感じてるんだよぅ!)
『嘘だね。なぜなら―――これは自分の指だろう?』
「ふぇ?」

 妄想の中の薫に言われて、優希は現実を思い出す。
 薫の姿が、立てられた膝の間に見えた。
 自分の秘所がフレームに収まるように、こちらの全身を煽りで撮っている。

『見られて、それも自分の指でこれほどまで感じるとは…とんだ淫乱だね?』
(ち、違う!そんなんじゃ…感じてなんか…)
『ほう?私の指は気持ち良くないのかね?』
「んんっ!?」

 指の動き激しくなる。
 現実には自分の指だが、想像の中では薫の指だ。
 想像の中の薫は乱暴で強引で、言葉攻めを多様しながらこちらを追い詰める。
 現実の優しい薫は、黙ってこちらを見ている。指は、当然自分のものだ。

(切ないよぉ…。触れてほしいよぉ!でもいい!気持ちいい!)

 愛しい相手がすぐそばにいるのに触れてもらえない現実と、愛しい相手に凌辱の限りを尽くされる想像。
 二つの間を意識は右往左往し、絶頂の果てへと追い詰められていく。

「いくっ!薫!薫ぅっ!ぼ、僕、も、もう少し…でぇっ!」

 声はもう止まらなかった。 右手は花園、左手は丘陵。
 股間からはぐじゅぐじゅと音が立ち、細身の体を包む肌は桜色に色づき、汗の玉が浮かぶ。
 あともう少しで、というところで、それは来た。
 自分以外の体温が、体全体と、唇に来た。
 薫だった。

「んぃっ!!」

 驚きを、心地よさが押し流した。
 求めていた薫の味と触感が口内を満たし、薫の体温が体を包む。
「か、薫っ?何で…」
「我慢できなかった」

 キスを終えた薫はそれだけ言うと新たなキスを首筋に落とす。
 首筋を這う舌の感触と、頬と、そして内股をなでる薫の手の感触。
 薫の愛撫と同時に、自身の手も止まらない。至上の快楽が待ち受ける終着を目の前にした体は、止まらない。
 止まらぬまま、たどり着いた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」

 下腹部、子宮辺りから全身に向けて、爆発が起こる。
 優希の体が震える。ピクピクという感触が薫にも伝わってきた。
 それが収まると脱力した腕を、ゆっくりと薫の体に回す。

「不意打ちは…ひどいよぉ」
「すまない。我慢できなかったんだ」
「ちゃんと…撮ってるの?」

 優希の指摘に薫は体を起して、後ろを指さす。

「大丈夫だ」

 三脚に備え付けられたカメラ。

「いきなり襲いかかってきたくせに用意周到な…」
「ともあれ、これで安心して君を堪能できるわけだ」
「ちょっ、か、かお…」
「いただきます」

 問答無用と薫は優希の乳首を口に含む。

「んんーーーっ!」

 舌で転がし、甘く噛み、そして吸う。左右と交互に繰り返す。
 鋭い刺激は、あと一歩で痛みに変わってしまうような強いものだ。
 しかしその一歩がまるで目に見えて分かっているかのように薫の口は優希の胸をついばむ。
 優希は片手を薫の頭にやって抱きつき、もう片方の手でシーツをつかみ、胸をそらす。

「はん、はっ……ぁぁっ…」

 悶える優希。
 実を言えば、純粋に生理的刺激として見た場合、さきほどの自慰の方がはるかに高い快楽を与えていた。
 自分で行うのだから、それが当然だ。
 しかし、なぜか薫の自慰の方が、優希には心地よく感じられた。
(どうして…かな?)

 蕩けはじめた意識の端で考える。
 確かに肉体的には自慰の方が気持ちいい。
 時々タイミングやポイントを外す薫に対し、自分の指は自分の弱いところを過不足なく刺激してくれる。
 けれど、やはり薫の方が気持ちいい。

(体温、かな?)

 暖かさ。これだと優希は思った。
 単純な温度ではなくて、相手がいるということによる温もり。これだ。
 薫が自分を感じてくれているという事実は、その愛撫の拙さを埋めて余りある。
 オナニーによる絶頂が、無理やり押し上げられるようなのに対して、セックスによるそれはゆっくり持ち上げられる感じだ。

「薫…温かい」
「?なんだね、突然」
「なんでもない」

 口を離して優希の顔を見上げてくる薫。
 その姿を見て、優希は少しおかしくなる。

「なんか…いつも思うんだけど、ホントに一生懸命だよね?僕のおっぱいを吸うとき」
「あたりまえだ。男は誰しも偉大なる乳の前には赤子にすぎないのだ。本能だ」
「最初の『ほ』に濁点忘れてるよ?」
「それか、ひょっとしたら君の胸からは中毒性の高い成分が分泌されているのかもしれないね。
 母乳もな出すそんな危険な物質を生成するとはけしからん。こうしてくれよう」
「あ、ま、またぁっ!」

 などと言いながらもう一度。
 今度は吸うより舌先で弄ったり噛んだりするのがメインとなった。
 薫の口の中のコリコリとした感触が、いよいよ確かなものになってきて、乳丘の奥にある肺の運動も激しくなる。
 薫が次に顔を上げた時、優希はすっかり出来上がっていた。

「両者とも十分堪能したようなので、次のステップに進もう」

 優希の蕩けたような、しかしどこか抗議の色を含んだ視線を遮って、薫はそれを突き出した。

「!?」
「さあ、次は口で頼む」

 差し出したのは、言わずと知れた薫のペニスだった。
 いきり立ったそれは脈打ち、薫のうちに秘めた欲望を、その冷静な声よりも訴えていた。
「な、なんか…今日の…いつもよりすごくない?」
「そうかね?まあ、主観で言わせてもらえばいつもよりよほど追い詰められているがね」
「なんで?」
「実は、五日射精してないのだよ」

 薫は遠くを見ながら

「男性の精管が精子が満タンになるにはおよそ70時間と言われている。
 それゆえに私は昨日の段階で君と徹底的にしまくるために自慰を調整していたのだ。充填率100パーセントになるようにね。
 ところが昨日は余計な邪魔が入ったことにより発射が不可となってしまった。
 よって現在の私のヤマトの波動砲は、いわば出力125パーセントであり……何かね、優希。その微妙な視線は」
「いや、相変わらず無駄にいろいろ考えてるなぁ、って。それで…口ですればいいんだよね」

 優希は言いながら薫の分身に手を添える。

「ああ、情けないことに今の状況で入れてしまえば三擦り半で暴発してしまぅっ!?」

 変な語尾になったのは、優希が薫の先端を何の前触れもなく口に含んだからだ。
 片手で陰嚢を軽く持ち上げ、もう片方の手で薫の弱点――裏筋の根元側を擦りながら向きを調整。
 薫の教育と優希の試行錯誤が作り上げた、お決まりのパターンだ。
 薫はファーストインパクトから立ち直ってから、カメラを手にとって、自分の視点で撮影を始める。

「脱ぐのを恥ずかしがるのに、これは躊躇いがないね」
「んっ?薫こそ恥ずかしくないの?自分の撮影してるのに」

 ペニスから口を離して、優希はカメラ目線で問い返す。その間、片手でペニスをしごくのに余念がない。

(良い絵だ…)

 パッケージはこれにしようと近いカメラモードで撮影しつつ薫は答える。

「私のはどこに出しても恥ずかしくないと自負しているからね」
「頼むから変態行為で逮捕とか話しにしてよね?」
「安心し給え。私は完璧主義者だ」
「……どうコメントしてよいものやら…ぁんぅ」

 溜息をつきながら、優希は再び薫のを口に含む。
 今度は手は使わず、頭を前後させて唇で扱く、
 宣言通り、薫はあっという間に追い詰められていく。
 それが優希には口の中の感触で分かった。
 一方の薫はそれを悟られまいとこらえながら、時間稼ぎのセリフを口にする。

「ふふっ…しかし、君もいやらしいね。こんなにおいしそうにチンポをしゃぶるなど」

 真っ赤になって言い返してくる優希。それを想像していた薫だが、優希は少し意地悪そうな笑いを作りながらペニスを離し

「ひょっとしたら君のおちんちんからは中毒性の高い成分が分泌されているのかもしれないねぇ」

 と、薫の真似をして言う。それから薫の亀頭部分だけを口にして、まるでキャンディーを舐めるようにして

 びゅるん!

「!?」

 優希が驚くほどの唐突さと勢いで、薫が射精した。
 いつもは薫は、いく時は優希に行ってからする。不意打ちは初めてだった。
 嫌ではないが驚いた。

「んっ、んく……」

 少し驚いたが、後はいつもと同じだ。口にたまる青臭いそれを、優希は味わうように飲んでいく。
 以前は飲むのに多大な努力が必要だったそれも、今ではさほど苦ではない。

(むしろ…ちょっとくせになっちゃったかな?)

 こんなこと、薫に知られたら恥ずかしくて死んでしまうなどと考えている内に薫の射精は終わった。
 彼が事前に宣言していた通り、それはいつものよりはるかに濃厚だった。

「珍しいよね。薫が何も言わずに出しちゃうなんて」
「それは……君のせいだよユーキ。君が私には想像もできないほど、とんでもなくいやらしいことを言ったので、メーターが一気に振りきれたのだ」
「ちょっ!想像できないほどとんでもなくってなんだよ!君の真似をしただけじゃないか!?」

 優希の言葉に薫は呆れたように首を横に振り

「君の発言と私の一物の機能を鑑みて、君の発言を考慮するとだね、君は『僕、薫の精液中毒になっちゃった?』という意味にきょっ!」
「そそそそんなわけないだろ!何言ってんだよ!?」

 自分の思考を読まれたかのように思えた優希は真っ赤になって、薫の向こうずねを打ちすえたのだった。
 プルプル震える薫を抑え込むように上にのって、優希は赤い顔のままに言う。

「と、とにかく!次、次はどうすればいいの?」
「ふふふ…次はお待ちかねの本番だよ?」
「ぇっ」

 本番。それが意味する言葉に優希は

「ってことは今までの全部リハーサル!?やったことをもう一度するの!?」
「いや、そうではなくてだな…」

 薫は優希の肩に手をやり、そっと押し返して上半身を起こす。

「挿入と言うことだよ」
「んっ!」

 優希の声は、薫が体を起こした時、薫の腹に乗っていた腰が薫の太ももに落ちる際に、性器同士がこすれあったためだ。
 角度を調整していなかったペニスは侵入までは至らず、先端で軽く優希の聖域を侵すだけにとどまった。
 今、薫のペニスは、向かいあう薫と優希の体の間で自己主張している。
 その姿を目にして、僅かな期待が胸をかすめる。

(ひょっとして……今日はそのまましてくれるのかな?)

 コンドームなしのセックス。
 今まで二回しか感じたことのないあの快感を思い出して、優希は体を熱くする。
 何の障害もなくもっとも深いところで繋がるその感触。特に射精の時などはその一撃ごとに絶頂を上回る満足感を覚える。
 だが、そんな優希の期待も虚しく薫は優希の体をシーツの上に置く。

「では、少々待っていてくれたまえ。装着するのでね」
「う、うん……」

 優希は、少し歯切れの悪い返事を返したのだった。
 薫は枕元のティッシュに忍ばせておいたコンドームを手に取る。

「見たまえ!これぞ新兵器。厚さ0.005mm!公売されているなかで最も薄い物と比べ、さらに四分の一の薄さの逸品だ」
「そんなのどこで手に入れたんだよ」
「私が開発した」
「…え?」

 あまりに突飛な発言に、優希は目を丸くする。
 自分で開発って…そんな例の顔に目玉を書いたサランラップと同じようなノリで。
 優希の表情に気づいたのか、薫は説明を補足する。

「心配はいらんよユーキ。私が、とはいっても単に私が友人の会社に企画と技術と資金を提供して、
 共同開発したというだけだがね。まあ、褒めてくれてもかまわんよ」
「まあ、凄いと思うから褒めるけど…なんでまたそんなものをわざわざ?」
「決まっているだろ?君の感触をなるべく直接と同じように感じたいからだ」
「………それならつけないですればいいのに」
「そう言うわけにもいかんだろう」

 少しむくれる優希に、薫は少し顔をしかめる。

「なんども説明したが…」
「わかってるよ!まだ責任を取れる年じゃないから、だろ?
 それは分かってるけど……」

 優希は上目遣いに睨みながら

「けど…やっぱり、僕、薫を直接感じたいんだよ」

 突然、薫が踊り出した。もちろん踊ると言うのは比喩であり、実際は悶絶という言葉の方が適当だ。
 両手を上にあげたかと思うと、次は右手で左腕を握りしめ、それから今度はその左手を頭にもっていき、
 自分の頭にアイアンクローをかける。体を右、左と傾けた後天井を仰ぎ見てプルプルと震えてから

「………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………駄目だ」

 ギリギリのところで薫は堪え切った。

「……何、今の?」
「ふむ。脳内でちょっとした大戦が勃発してね。世が世なら映画の題材になったことだろう」

 額に滲む汗を拭きながら、薫は頭蓋内で繰り広げられた右派、左派を超えた苛烈な戦いの中で拾った勝利を噛みしめる。
 しかし、優希には不服だったようだ。
「もうっ!エッチの時に変なこと考えないでよね!」
「…『変なこと』を考えなければ何もできんのだが?」
「そ、そう言うことじゃなくて…!その…こういう時には……」

 優希は薫の顔から視線をずらして囁く。

「……僕以外のこと、考えちゃ、イヤだよ」

 第二次脳内世界大戦、勃発。辛勝。

「ま、また変な踊りをっ!もう!真面目にしてくれないと怒るよ!」
「そ…そうだね…。第三次にも勝てるとは限らん。私の理性が確かなうちに装着するとするよ。
 君も、もう待ちきれないようだしね」
「……っ!」

 うつむいた優希の顔は薫からは分からなったが、耳の色から察するに、かなり赤面しているようだ。
 薫は優希の体を少し離して、コンドームの袋を破く。
 さて装着しようかとした時、優希が待ったをかけた。

「あ、あのさ!良かったら、その……僕が、つけてあげようか?」

 脳内、冷戦に突入。
 脳が凍りつき、それの命令によって動く筋も硬直。
 破いた袋の中のコンドームを、優希は返事も待たずにひったくり

「(ごくっ)」

 と固唾を飲んでから―――口に含んだ。
 薫がそれは内服薬ではないと言おうとする前に、優希は更に彼の想像力を踏破する。
 コンドームを含んだ口で、薫の肉棒を咥え込んだ。
 口での取り付け。
 知識では知っている。しかしよもや優希がこれをしようとは…!

(稲田君に感謝せねば)

 本名安田桃子に感謝しつつ、薫は絶妙な動きを見せる優希の口の感触を楽しみ……

「…あ~、ユーキ?まだかね?」
「ほ、ほうひょっと…」

 三十秒ほど待ったころ、薫は痺れを切らして問いかける。
 優希の口内は暖かく心地よく、いっそもう一発ほど発射してもいいかなとも思ったが、そうすると内部での発射回数が減ってしまう。
 仕方なく、薫は優希の顎に手をやって、顔を上げるように促す。優希は、特に反抗する様子もなく口を離した。

「っぷはぁっ…!」

 優希の口から、唾液に滑る肉棒が現れる。その先端には伸び切ったコンドームが引っ掛かっていた。
 明らかに、失敗だ。

「少々期待してしまったではないかね?」
「ご、ごめん。練習では上手くいったんだけど……」
「練習?」

 薫が眉をしかめる。それを見て優希は慌てて

「ご、誤解しないでよ!薫以外にそんなことしないよ、僕!
 僕が練習に使ったのは、は、張り型だからね!」
「落語以外でディルドーがそう呼ばれるのを聞いたのは初めてだよ」
「本当だよ!信じてよ!」
「あ、いや、疑っているわけではない。ただ、その…ディルドーとはいえ…」

 優希は潤みかけた目で訴え、それを受けた薫は、珍しいことに言葉を濁す。
 その反応を見た優希は首をかしげ

(あ、ひょっとして…)

 と、一つ思いついたことがあり、優希は薫の顔を覗き込みながら

「ひょっとして……張り型に嫉妬したり?」
「………だとしたら、どうするかね」

 観念したように、薫が言う。開き直ったようにも見えるが、無表情がいつもより堅く見えた。
 そんな薫を見て、優希は苦笑。

「少しは僕の気持ちも分かってくれた?」

 卑猥な本やビデオやDVD…。いくら性欲処理とはいえ、恋人がそういうのを使うのは、

「ああ。あまり、気持ちのいいものではないな」
「うん。だから…もう、僕以外の人のことを考えて、そういうことしないでよね…」
「ああ……。それはそうと、練習用に使ったディルドーだが……」
「安心してよ、薫。桃ちゃんの家で借りて練習しただけで、自分でする時に使ったりはしてないよ」
「……そうかね」
「うん。だって……」

 優希は自分の下腹部に手を添えながら

「ここは……大切な場所だから…薫の以外に、入ってきてほしくないもん」
「………………………………………………………………………………………限界だね」
「えっ?」

 それはどういうことかと優希が訊くより早く、薫が優希の体を押した。
 コロンと、優希は後ろに倒れた。

「か、薫…?」

 不安と、僅かな期待を込めて優希は想い人を呼ぶ。
 薫は半端につけられたコンドームの中に、硬化した一物を収めて

「遺憾ながら理性が尽きた。
 私の波動砲でガミラス星を撃ち抜かせてもらう」
「お、お、女の子の大切な場所にそんな名前…」

 と、優希が文句を言いきる前に

「ふぁぁぁぁぁっ!」

 膣口から膣底までを、薫が満たした。
 薫は優希の足を両脇に抱え込み、腰を持ち上げるようにしてより深く深く分け入ってくる。

「は…ひっ、酷いよぉ…いきなりなんて…」
「仕方ないだろう。ユーキがあまりに嬉しいことばかり言うせいだよ」
「な、なんの…こと?はふっ!」

 薫の腰と優希の恥丘がぶつかった。
 薫は根元まで優希の中に埋まる。優希は薫の一物によって膣壁越しに、内臓全体が持ち上げられるような感触を覚える。
 その感触になれる前に、薫は運動を始める。
 ゆっくりと引きぬいてゆき、赤黒い先端が、ラビアから姿を現す直前に、ベクトルの方向を変える。
 同じようにゆっくりと押し込んでゆき、淫肉の甘い抵抗を受けながら、再び優希を最奥まで犯し抜く。

「あふっ」

 もう一度、二人の下半身が接触した。

「ユーキが可愛すぎるのが悪いのだよ。君があまりに私を魅惑するせいで、私は君を孕ませて、
 無理にでも永遠に、自分だけのものにしたくなる衝動と戦わねばならない。
 ……聞いているかね?」
「き、聞いてる…よ…あ、あああぁ……」
「喘ぐ優希も魅力的だよ」
「ば、かぁ…」

 罵りの響きは甘い。言葉を結んだ唇は、キスを求めている。
 薫はそれに応える。

「んっ…」
「…」

 唇を絡める深いキスは、しかし長くはなかった。
 なごり惜しみながらも唇を離した。より激しく動くためだ。

 パン!

「アンッ!」

 弾むような嬌声が響いた。
 薫は体重を掛けながら、その棒杭で優希の秘所をつきまくる。

「あ、はへっ!へあぁっ!?きゅぐっ!ああ!ふぇっ!ああん!んんっ!
 薫っ!か、おぅっ!薫ぅ!」
 優希は薫の体を求めて腕を伸ばす。
 薫は応えて体を前に傾ける。優希に覆いかぶさるようになった薫の体に、優希は薫の首ったまに腕を回す。
 それを確認してから、薫はシーツに手をついて、上半身体を起こす。
 薫の体にしがみ付いていた優希の体も一緒に持ち上げられる。

 正上位から対面座位、さらに薫は上半身を後ろに。どうじに手を背後に着いて体を支える。

「はぁ…はぁ…」

 薫の攻めが緩み、優希は体を震わせながら息をつく。

(薫の…熱い)

 薫の攻めが止まっているとはいっても、刺激がなくなるわけではない。
 胎内では薫のペニスが脈動し、膣も薫を求めて蠢いている。
 
(生殺しだよぉ…)

 薫の動きを誘うように、もぞもぞと腰を動かす。
 しかし薫は意地が悪かった。

「ん?動きたいのかね?」
「ち、違うよ!薫が…薫がこうした方が気持ちいんじゃないかって」
「ふうむ…しかし残念だが、私はもっと君の中を感じたいのだよ。
 君が動きたいと言うなら、話は別だがね?」
「ぅ…」

 薫の言葉に、優希は下唇を噛み迷い…

「あとで覚えてろ…」

 そう言ってから、優希は

「んんっ…」

 ソロソロと体を持ち上げ肉棒を体から引き抜き、

「ふぅっ!」

 その肉棒で、再び自らを貫く。
 一度破ってしまえば、羞恥心の障壁など脆いものだった。

「んっ…ふっ…ふっ、ふきゅ、あう!あくぅっ!あんっ!ああん!」

 優希は加速度をつけながら、薫の肉棒を受け止め、引き抜き、また受け止める。
 動きは上下ではなく、前後。自分の体を薫の体に擦りつけるように。
 優希の柔らく滑らかな肌の感触は、ペニスへの感触以上に薫の官能を刺激する。
(そろそろ動くかな?) 

 着実に迫ってくる終末を感じた薫は、そろそろ自分も動くため、体を少し起こして後ろ手を優希の腰に当てる。
 そして、優希が肉棒を咥え込むタイミングに合わせて、腰を突き上げた。

「!っ!!?」

 奥を貫きかねない勢いに、優希は目を白黒させるが、腰の動きは一瞬の停滞の後、すぐにまた動き出す。
 蜜はくちゅくちゅと音を立て溢れ出し、両者の陰毛を濡らして余りある。
 卑猥な水音をBGMに優希の嬌声が大きさを増す。

「ああ!へあ!ああん!はうん!ひゃへぇっ!はへぁっ!」

 舌を突き出した淫蕩な表情で優希は快楽をむさぼる。
 すでに理性も羞恥心も、快楽の海の中に沈んでしまった。
 だが、沈んだだけである以上、引き上げるのは簡単だ。

「ユーキ…よく、撮れてる、ね」
「ふぇ?」

 薫の言葉に優希は首をかしげ、思いだす。
 自分の今の姿は……!

「い、いやぁっ!」

 カメラの方を向いて、優希は悲鳴を上げた。
 カメラの背後、白い壁に自分の姿が投影されていたのだ。
 腰をくねらし、薫の分身に貫かれた自分の姿が。

「ど、どうしてぇ…あぅっ!」
「ふふ、もちろん、しっかり、撮れてるか、確認するためだ、よっ!」
「はひぃっ!」

 薫の突き上げに、体を隠すどころか甘い声を上げることしかできない。
 いや、原因は薫の動きだけではない。優希自身の腰が、まるで別の意思が働いているかのように、
 更なる悦楽を求めて妖しく踊っている。

「と、とま、止まらないぃ…エッチにゃの…とらりぇてるのに…」

 すでに呂律も回らないほどに、優希の体は溶けている。
 強制的に目覚めさせられた理性と羞恥心に、もはや彼女の体を止めるだけの力はなかった。
 ただ、懇願のみが許される。口先だけの、懇願を。

「りゃ、りゃめぇ!りゃめ、ふあぁっ!りゃめてぇ…!かおるぅ、ひぃっ!やだ!こんな!
 エッチなの、やぁぁっ!見ないで…!こんなの見ちゃ嫌だ!嫌われちゃう!」

 言いながら、しかし優希は気付いていた。薫はきっと言うだろう。

「心配いらない。エッチなユーキも含めて……愛してる」

 予想通り。しかし予想で知っているのと、実際言われるのでは安堵感が違う。
 その安堵感が、絶える頂きへの階段の、最後の一歩分となる。

「薫っ!薫ぅっ!」

 大好きな薫の体温をめい一杯感じようと、快楽に溶けきった腕力をかき集めて抱きしめながら、優希は辿り着く。

「!!!!ふぇぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

 張りつめ、そして脱力する。だが、薫はまだ固いまま。

「こちらも、終わらせてもらうよ、ユーキ」
「っ!!」

 突き上げが来る。
 脱力し、薫の体にしだれかかる優希の体を、薫は容赦なく突き上げる。
 普段の薫なら気を使って遠慮するだろうが、残念ながら彼も限界が近かった。

「っ!ほふっ!おひゅ…!」

 絶頂に敏感になった膣を抉られた優希は、絶え間なく襲いかかる絶頂に匹敵する刺激に、眼を見開いて翻弄させれる。
 やがて、彼女の意識が途切れる直前

「ぅっ!」

 薫の腕が、優希の体を抱きしめる。コンドーム越しに、薫が震える感触が来た。
「しゃ…せ、ぃ……」
「ああ…」

 力強い吐き出し。その迸りは薄く、しかし厳然と存在する膜によって妨げられる。
 その事に優希は一抹のさみしさを覚える。
 その感慨を、ペニスの抜ける感触がかき消す。

「ふぅ…」
「あん…」

 優希の体から抜けた、コンドームに包まれた薫は、まだ張り詰めていた。

「さあ…このまま二回戦かね?それとも少し休むかね?」

 休ませてほしい。そう言おうとして、しかし止める物があった。
 優希の、体だった。膣が子宮が、切なげに動いた。

(ああ…僕ってすっかりエッチになっちゃったなぁ…)

 優希は甘い諦観を持って、うつ伏せになり、腰を突き出す。

「今度は…こっちからが、いいな」

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最終更新:2007年10月08日 00:26