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「うふふふふ。やだぁ、優一君ったら♪」
「アッ、アハハハハ」
「……なんなの、これ」

時間は昼休み。
昨日までは多恵と二人、机を囲んでお弁当をつついていた俺だったが、今日からは三人だ。

乙女のために、その8。彼氏を牽制するときは、その頬を、ぐにぐにとつつく。
ひきつった笑顔を見せながら、優一は頬に手を当てるが、それは照れ隠しではなく、
力加減を誤った俺のせいで、頬に血がにじんでいるからだ。

これが、俺の求めて止まなかった、イチャイチャラヴラヴ空間ッ!
楽しいっ! わけもなく楽しいぞっ!

自分でもよくわからないハイテンション状態にある俺と、
なかば強制的に付き合わされて、目を白黒させている優一と、
痛そうに頭を抱える(本当に痛いのかもしれない)多恵と、
そんな三人を、不信感と同情の目で見ては、ヒソヒソと喋っているクラスメート達。

すまん。正直、浮き上がっているのは俺にだって解るのだが、
楽しくてやめられそうにないっ!
明日はもう少しおとなしくするから、今日だけは、このバカップルぶりを許してくれっ!

後に多恵が語るところによると、この日は本当に、
「あなたを殺して私も死ぬ」と叫びたかったそうだ―――

・・・

「あの、高原さん……」
「さゆり」
「さゆりさん、僕、今日はもう家に帰りたいんだけれど……」
優一の視線は、下校時になっても、自分の腕をしっかり抱え込んで離さない俺に向いている。

「そうね。今朝は直接、学校にきたしね。いったん帰った方がいいね」
俺にも少し用事がある。ぱっと腕を放してやると、嬉しそうな、残念そうな顔をする優一。
「じゃ、じゃあ、さゆりさん。今日はこれで。また明日」
「うん。晩ご飯済んだら、うちに来てね」
「えっ?」
「今日の優一君、5回も“高原さん”と言ったよね」

優一の耳元に、顔を寄せる。
「今日のうちに5発殴らないと、気が済まん。殴られにやってこい。それも彼氏の責務だ」
「そんなぁ……」
「逃げるなよ」
「はっ、はい……」
情けない顔を見せてから、とぼとぼと家路に向かう優一の背中が小さくなるのを待つ。
「なぁ」
「なによ」
「優一、そんなにダメか?」
俺の斜め後ろに立っている多恵は、何も言わない。

「ねぇ、多恵ちゃん。今からうち、よっていかない?」
「……今日はなんだか疲れたから、まっすぐ帰るわ」
「話がある」
「強引ね」
「甘いものでも作るから、お願い」
彼女の両手を握って、甘ったるくねだってみる。
苦虫を噛み潰したような顔をしていた多恵だったが、重い口を開いた。

「……さゆりちゃんの作るシフォンケーキが食べたい」
「うんっ! じゃ、行きましょうか」

・・・

三つ編み眼鏡の少女が、フォークに突き刺したケーキを口元まで運んでいく。
その顔にあまり表情はみえないが、薄く開いた唇は、満足そうではある。
かすかに鳴る食器の音だけが響く。

テーカップを空にしてから、多恵は口を開いた。
「ねぇ。本当に、長田君でいいの?」
「俺が、躊躇しているように見えるか?」
「……たとえば、たとえばだけど。さゆりちゃん、長田君とキスするところ、想像できる?
 さゆりちゃんは、本当に、長田君相手に、ためらわずにキスできるっていうの?」
「なんだそれ?」
「キスするとこを想像できるような相手じゃないと、恋愛になんか無理ってこと」
「あぁ。そういうことか」
「どう?」
「その、想像とか以前に、もうしちゃったんだけど……」
「……え゛っ」
「いや、ほっぺだぞっ。ほっぺ。ほっぺにちゅっと」
「……」
多恵は頭を抱え込んでしまった。

「おーい、多恵ー、生きてるかー?」
がばりと頭を起こす多恵。おい、そんなことすると立ちくらみ起こすぞ?
「……く、唇同士じゃ、ないわよね」
「それはまだだ」
「でぃ、ディープキスとか、してないわよね」
「してないしてない」
「き、キスの先も、し、してないわよね?」
「さ、先ですか?」
「どうなの!?」
「しっ、してないっ! 第一、キスの先なんて、多恵は教えてくれなかった!」
「そっ、そんな生々しいことは乙女は知らなくていいのっ!」
「でっ、でも、知っとかないと、いざというとき、困るんじゃないのか?」
「そういうのは、王子様に任せておけばいいのっ!」
「いや、でも、王子様も、多分初めてだぞ?」
「そっ、そんなわけは……」
「女食いまくりの王子様って、どうなんだ?」
「そっ、そうね。王子様も、初めてね。でも、王子様だから、手順くらいは……」
「エッチなビデオでも見て、研究済み?」
「そんなの王子様じゃないっ!」
「ほら。だったら、お互い知らない同士になっちゃうじゃないか」
「そっ、それでいいのよ。恋する二人が愛し合えば、そういうのは体が勝手に動くのよ。
 神様が、そういうふうに作ってくれてるんだから」
「そうなのか?」
「わっ、わかんない……けど」
「本当に知っとかなくていいのか?」
「……やけに気にするのね。キスの先まで、するつもりなの?」
「そっ、それは、わからん」
「長田君に、女の子の初めてを、あげてもいいと思ってるの?」
「あいつが、いや、あいつじゃなくても、もし俺が本当に好きになったら、
 あげるべきなんじゃないのか? 
 多恵は、お前の好きな人に、あげたいとは思わないのか?」
「私は……」

聞いてはいけない質問だったということは、いつも聞いてからわかることだ。
目に見える多恵の手は、膝の上で組まれているが、
目に見えない方の手は、彼女自身の胸を握り潰している。

「多恵……その、すまん」
「……どうして、謝るの?」
「でも、お前」
泣きそうじゃないか。

「……今日はもう帰るわ。ケーキ、ごちそうさま。おいしかったわ」
「あっ、ああ」
俺から顔を逸らすようにして、急いで立ち上がった彼女を、玄関先まで送る。

「家まで送ろうか?」
「まだ日も高いし、構わないわよ。じゃ、また明日」
「ああ」

背を向けた多恵が、首だけをこちらに向けた。
「それと、長田君と付き合うの、もう反対しないから」
「えっ?」
「反対しないけど、あんまりバカップルぶるのはやめてね。見苦しいから」
「あっ、ああ」

・・・

「と、それだけ言って、多恵は帰っちまったんだ」
「う……うん」
「なんで多恵は、俺達のこと認めるつもりになったんだろうな」
「さ……さあ」
「なあ、優一。そんな曖昧な返事ばかりしてないで、もうちょっと真剣に考えてくれよ」

俺は目の前で、芋虫のように苦しげにのたうち回っている優一を覗き込んだ。
「そ……そう言われても、6発も殴られたところなので……」
「それはお前が来るなり、“高原さん”と言ったからだ」
「ぐっ……でも、もう少し、手加減してくれても」
「何を言ってる? お前まだ、昨日の傷が治っていないだろう? 
 俺が本気出したら、口をきける筈などないことは、お前も知っているだろう?」
「そっ、そうでした……」

日も暮れ、遅い時間になって、ようやく優一がやってきた。
こっちはとっくに風呂にも入って、もうパジャマ姿だ。
とりあえず殴ってから、多恵のことを相談してみたのだが、あんまり役に立ちそうにない。

芋虫だった優一が、なんとか起き上がってきて、俺の前に座った。まだ息は荒いが。
「なんかさぁ。多恵はさ、処女をあげられない、理由があるんじゃないかと思うんだ」
「そ……それはどんな?」
「さあ? お前、わかるか?」
「ふ……不倫、とか?」
「んなわけあるか。お前は昼メロの見過ぎだ」
発想が貧しい同士じゃ、話が進みやしない。

「じゃあ、深い理由とかはなくて、単にそう言うことが、恥ずかしいとか、嫌悪感があるとか」
「恥ずかしいって感じじゃなかったが……嫌悪感かぁ」
「さゆりさんは、嫌じゃないの?」
「なにが?」
「だっ、だから、はっ、はじめてとか、その、えっ、エッチな話とか」
「お前は嫌なのか?」
「ぼっ、僕は、男だから」
「ふむ。男はエッチな生き物、ということか」
「べっ、別にそう言うわけじゃっ!」
「いいからいいから。まーそうだな、初めては痛いらしいし、今は無理にしたいとは思わん」
「そうなんだ……」
「残念か?」
「いっ! いやっ、そのっ!」
「そうやっていちいち反応するなよ。まあ、すぐにしたいわけではないが、
 いずれ、本当に好きな人ができたら、した方がいいと思うし、多分、したくなると思う」
「……そう」

俺は膝をついたまま、優一の目の前に迫る。彼の瞳の奥を覗き込む。
「えっ、ちょっ、さゆり、さん?」
「お前はしたいか?」
「えっ、そっ、そのっ!」
「襲ってみるか? なんだかんだいって、俺はお前を気に入っている。
 案外、抵抗しないかもしれんぞ」
「えっ!?」
「自分でもよくわからん。求める気はないが、求められたらどうなるのか」
「……そっ、その」

俺が顔を近づけるたび、優一は後ろに体を傾けていく。
しまいには、俺が優一を押し倒すような形になってしまった。
俺の目の前で、赤い顔をしている優一が、震える声を出す。
「さっ、さゆりさんが、したくないのに、僕だけがしたくなってもしょうがないよ。
 そっ、そういうことは、二人揃って、したくなったときに、することだよ」
「ふむ……なるほど」
「そっ、それに、今のこの体勢じゃ、襲ってるのはさゆりさんの方だよ」
「あはは。それもそうだ。じゃあ、ついでに」

優一の胸の上に、覆い被さる。
「さっ、さゆりさんっ!?」
「悪いが優一、俺はイチャイチャするのはしたいんだ。今日は学校で、とても楽しかった」
「そっ、そうなんだ……てっきり、からかってるだけかと……」
「いや、おろおろするお前を見るのも、それはそれで、楽しかったが」
「そうですか……」
「しかし、それだけじゃないぞ。今こうしているのも、楽しい。
 体のどこかが、くっついているのはいいな。なんだか、安心する」
「そ、そうなんだ……」
「お前はどうだ? まあ、俺はお前の同意がなくても、やめるつもりはないが」
「そっ、その、正直に言うと、天国かつ地獄というか」
「そりゃまたどうして?」
「だっ、だって、む、胸とか、当たってるし……」
「男は女の胸とか、好きじゃないのか? 金出してまで、見たりするんだろ?」
「そっ、そうかもしれないけどっ!」
「じゃあ、どうして地獄?」
「えっと、その、もう、なんて言えばいいのかな~っ!」
「なに一人でパニクってんだ?」
「えぇと、その、嬉しいんだけど、いったん離れて。おっ、落ち着いてちゃんと説明するから」
「説明の間だけだぞ」
「とりあえず、それでいいから」

しょうがないので、体を起こして、優一のそばに座る。優一も体を起こして座り直す。
「ふぅ……」
「落ち着いたか? じゃあ、説明しろ」
「えっと、その、一般論から」
「いや、今のお前の心境を、具体的かつ克明に語れ」
「すみません。同じことなので、一般論ということにさせてください」
「お前は本当に回りくどいな。できるだけ、明快に頼む」

身も蓋もないことを言う(と優一は思っているのだろう)俺に、優一は観念したように口を開く。
「……その、さゆりさんは興奮することってある?」
「そりゃ、殴り合いをしてるときなんかは興奮するな」
しまった。優一にジト目で見られた。

「うふっ♪ 王子様のことを考えると、胸がドキドキするのっ」
しまった。ますますジト目で見られた。

「すまん……続けてくれ」
「興奮すると、その、襲いかかっちゃいたくなるんだ」
「ほう。お前にそんな蛮勇なところがあるとはな。でも、さっき自分で否定したじゃないか」
「うん……理性では、相手の気持ちを尊重したいんだけど、
 さっきみたいに、えっと、性的に興奮させられると、よっ、欲情するんだ」
「理性が負けて、俺にエッチなことがしたくなる?」
「そっ、そう」
「ふーん。少しくらいなら、別に構わないぞ。抱きつくのは俺がしたくてしてるんだし、
 お前ばかり我慢するのは、不公平だしな。胸や尻を触りたいなら、好きに触ればいい」
「そっ、それはありがたいお申し出だけど、もっとエッチな気分になる……」
「男ってすごいな。どこまでエッチになるんだ?」
「さっ、最後まで」
「最後って、ああ、その、あれな」
「うん」
「どうにかして、エッチな気分にならないようにはできないのか?」
「それは……その、出せばいいんだけど」
「出すって、何を」
「……ねぇ、さゆりさんは、“あれ”って、どこまで知ってる?」
「……多恵が教えてくれなかったので、ほとんど知らん。
 二人、裸で抱き合って……って、さすがに、言わされるのは、恥ずかしいな」
「僕もさっきから恥ずかしいよ……あの、その先は?」
「そっ、その先は、小学校の時に、性教育の授業で習ったことくらいだ」
「どっ、どんなこと習った?」
「学校で習ったんだから、お前と同じだろ?」
「男女、別々にされたじゃない」
「えっと……恥ずかしいから、お前が説明してくれ。同じこと習ってたら、そう言うから」
「うん……あの、男の、おっ、おちんちんが大きくなって」
「あっ、ああ」
「おっ、女の子の、あそこに、いっ、入れて」
「おっ、おう」
「おちんちんから、せっ、精子が、出るんだ」
「うっ、うん」
「しっ、知ってるなら、話が早いよ」
知らず、二人揃って、息を吐く。なんだ、この緊迫した空気は。

「しかし、具体的なところは、全然解らないぞ?」
「ぼっ、僕も細かいところは解らないけど、今は、さゆりさんの質問に答えるだけだから」
「ええと、俺は、何を質問していたんだっけか」
「だから、男が、エッチな気分じゃならなくなる方法」
「そっ、そうだった。で、出せばいいって、えっと、つまり、精子を出すのか」
「そっ、そう」
俺はようやく、納得がいく。
エッチな行為が“出して終わり”なんだから、エッチな気分も、出せば終わるということか。

「出した後は、どうなる?」
「しばらくは、その、たとえば女の人の裸とか見ても、エッチな気分じゃなくなる」
「そうかっ! うむ。それはいいな。じゃあ、早く出せ」
「へっ?」
「だから、精子を出せと言っている」
「そんなすぐ出るもんじゃないよっ!」
「じゃあ、どうすれば出るんだっ!」
「え、エッチな気分になったら……」
「……ちょ、ちょっと待て。じゃあ、エッチな気分じゃなくするには、
 エッチな気分にならないといけないのか?」
「そ、そう」
「なんてややこしい」
結局、男というものは、エッチな気分になるようしか、できていないのか?

「ごめん。僕が、その、経験豊富だったら、違うんだろうけど、なにしろ、免疫がないもんで」
「いや。俺が処女なのに、お前が童貞じゃないなんて、なんだか腹が立つから、いい」
「そうですか……」
「とにかく、男の心情は解った。しかし、お前には悪いが、俺はお前にベタベタしたいんだ。
 今日のように、学校でバカップルぶりを披露するのはやめろと、多恵にも言われている。
 せめて、こうやって、二人の時はくっついていたいんだ」
「僕も、学校では恥ずかしいし、それに、僕も、さゆりさんにくっつかれると、うっ、嬉しい」
「そうか。それで天国で地獄だったんだな」
「うっ、うん。恥ずかしかったけど、こんな話をしたのも、
 “エッチな気分になってる”なんてことが、さゆりさんにバレないかドキドキして、
 余計焦ってしまうからであって、知っておいてもらえれば、だいぶん、マシだと思う。
 と、というか、その、エッチな気分になって、ごめん。い、嫌じゃない?」
「さっきも言ったが、少しくらいなら、別に構わん。
 そういうのは、腹が減るのと同じで、自分ではどうしようもないんだろう?
 ダイエットしている奴に、飯を食うなとは言えても、腹が減ること自体は否定できん。
 俺が不愉快に思うほどのエッチな行為は我慢してもらうが、
 エッチな気分になること自体は、否定もしないし、それを軽蔑したりもしない」
「うん。ありがとう」
「うむ。じゃあ、こっちこい」
俺は立ち上がり、ベッドの方へと歩いていく。

「へっ?」
「今からイチャイチャするんだから、床じゃ背中が痛いだろう? 早く来いって」
「えっ! いっ! いやっ! そのっ!」
「お前、口ではいろいろ言うくせに、いざするとなると尻込みするタイプなんだな」
「はっ、はい……」

掛け布団をまくって、俺は一足先にベッドに潜り込む。
自分の横の、空いているスペースをポンポンと叩く。
「ほら、早く早く。恥ずかしいなら、電気消してから来い」
「……じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて」

部屋の照明を落としてから、暗がりの中、ベッドの端におずおずと入ってくる優一。
「うふふ。ほら、優一君、そんなに端っこじゃ、落ちちゃうよ?」
「あっ、いや、大丈夫です」
「うふふふふふ。ほぉら、はやくこっちこないと、力ずくで引きずっちゃうぞ?」
「はっ、はい……」
優一が、ずりずりと体をこちらに寄せてくる。それでもまだ、体の幅半分、距離がある。

「体、痛いところはないか?」
「あっ、うん、痣になったところは押さえられると痛いけど、普通にしてれば平気」
「そうか。じゃあ、ちょっと右腕だけ、こっちに伸ばしてみろ」
「へっ? うん」
伸ばされた右腕を、少し強めに押さえてみる。
「ここは痛くないか?」
「うっ、うん。大丈夫」
「そうか」
そのまま右腕をベッドの上において、その上に自分の頭をのせる。
優一の体の横に、ぴったりとくっついて、腕枕をしてもらう。
片腕で掛け布団を引き上げ、二人、ぬくもりの中に包まれる。

「くっくっくっ。なんだかニヤニヤしてしまうな」
「なっ、なんでそんな企んでるような笑い方……」
「優一も、そんなカチコチにならなくてもいいだろう?」
優一の胸の上に手を這わせる。ぽんぽんと叩いて、あやしてやる。

「あはは。まあ、緊張がほぐれても、お前には天国で地獄なんだったな」
「うん。今だって、耳元でさゆりさんの声がして、吐息がかかって、心臓がばくばくしてる」
「そうか? ああ、ほんとだな」
胸の上に手を重ねてみると、とくとくと脈打っているのが解る。

「あと、首筋にさゆりさんの髪がかかるのが、くすぐったい」
「おっ、こりゃすまん。そういうのって、イライラするだろ?」
「ううん。その、そばにいるのが、さゆりさんなんだって解って、嬉しい」
「ははは。そんなことで解らなくても、今、お前を抱きしめてるのは、俺なんだぞ?」
ぎゅーっと、抱きしめてみる。あー、なんか楽しー。
「いや、そのっ……」
「どうだ? もうエッチな気分になったか?」
「あっ、うん。その、エッチな気分じゃないって言うと嘘になるけど、まだ大丈夫。
 “エッチなこと考えちゃだめだ”とか思うと、余計に考えちゃうんだけどね」
「なんだ。少し残念だな」
「へっ?」
「エッチな男の実際ってのを、見てみたかったんだが……」
「あんまり、見ても楽しいもんじゃないと思うよ?」
「そうなのか? うーん、俺は、ほら、昨日のヤンキーみたいなのしか知らんし、
 もちろん、そういう輩は、触れる前に殴り倒すから、当然その先はないし、知りたくもない。
 が、お前みたいに丁寧にエッチなのなら、ちょっと、見てみたいぞ」
「丁寧にエッチって、なに……」
「さあ? 俺にも解らんが、昨日のヤンキーが“ガツガツと食べこぼす”ような感じなら、
 お前はこう、丁寧かつ上品に“フランス料理をいただきます”みたいな。
 “さゆりさんの胸は、マシュマロのように柔らかくて、僕は感動だ”とか、
 言ってくれたりしないのか?」
「えっと……柔らかいの?」
「おうよっ! と、言いたいところだが、すまん……たぶんお前をがっかりさせると思う。
 他の子と比べると、小さい方だ。お前よりは膨らんでると思うが、なんの自慢にもならん。
 やっぱり、男は、胸が大きい方がいいんだろう?」
「えっ? あー、人それぞれだと思うよ。ぼっ、僕は、ちっ、小さい方がいいかな」
「ふっ。お前は今、俺に気を遣っているな」
「そっ、そんなことないっ! だいたい僕、女の人の胸なんて触ったことないし、
 大きい方がいいとか、小さい方がいいとか……」
「そうだったな。でもそれなら、尚のこと、お前はがっかりしそうだ。
 胸なんて、単なる脂肪の塊で、別にとりたててすごいもんじゃない。
 触ってみたら、“なんだこんなもんか”って思うこと請け合いだ」
「そっ、そんなことないよ。男なら誰だって、好きな女の子の胸は触ってみたいよ」
「くくく。じゃあ、今からゆっくり考えろ。
 理性と欲望を秤にかけて、俺の胸を触るかどうか、今、ここで決めろ。
 この話はここまでで、機会は一度きりだ」
「へっ?」

俺は、ニヤニヤした顔を隠しもせず、優一を誘惑していく。
「イエスかノーかは、熟考した方がいいんじゃないか?」
「あっ、その」
「お前が考えている間、俺はお前の胸を好きなだけ触っていよう」
「へっ、ちょっ」
「ほほう、ここが乳首だな。シャツの上からでも解るもんだ」
「きゃっ!」
「あはは。そんな女みたいな悲鳴を上げるなよ」
「でっ、でも」
「なぁ、優一。とりあえずとは言え、俺達は付き合っているんだから、
 互いの体を触るくらいは、いいんじゃないか~?」
優一の胸の上に、のの字を書いていく。

「そうだなぁ。優一は男だから、上半身裸になるくらいはいいよなぁ」
優一のシャツの下に、腕を滑り込ませていく。

「えぇっ! ちょっ! さ、さゆりさんっ!」
「ほらほら、じっとしてろ、優一。今からお前の胸を、直に触るんだから」
お腹をなぞりながら、胸のあたりまでなで回していく。

「わっ、解った! 解りましたっ! さっ、触りたいですっ!
 さゆりさんの胸、触らせてくださいっ!」
ピタリと腕を止める。
「いいのかぁ、優一。もっとエッチな気分になっちゃうぞ」
「はぁっ、はぁっ……さっ、触られるより、まし……」
「男のくせに身悶えるなんて、変な奴だ」
「とほほ……」
しょげている優一の隙を突いて、彼の腹の上に馬乗りになる。
暗闇の中、優一の驚いた顔を見下ろす。

「ちなみに言っておくが、俺は夜寝るときは、ブラジャーはしない」
「そっ、そうなんだ……」
「締め付けられるのは性に合わん。昼間だってしたくはないが、さすがに多恵に怒られる」
「そっ、そうだろうね……」
「そして、今、俺はパジャマ姿だ。つまり、寝るときだ」
「うっ、うん」
言いたいことは全て言った。さあ、とどめは可愛らしく言ってやろう。

「ほら、優一君。私の胸、もうこんなにドキドキしてる。ねぇ、触って確かめてみて?」
「あぅ、あぅ……」
「うふふふふ……くくくくく」
おろおろするばかりの優一の腕を取り、そっと自分の胸元に寄せていく。
優一がごくんと、唾を飲むのがわかる。
彼の震える手のひらを、そっと胸に押し当てた。

「あんまり大きくなくて、ごめんね。どうかな?」
「あっ……うん……柔らかい。ほんとに、マシュマロみたいだ」
蕩けたような表情で、蕩けたような口調で、優一が手のひらで俺の胸を優しく包む。
俺は、俺は。

「くっ……あっ……ああーっはっはっ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
「へっ?」
「あー、なんだもーくそっ! おっ、面白いなっ、これっ!
 なあ、優一っ! もうなんつーんだっ! ケツの穴がむずがゆいっていうかっ!」
「け、けつ……」
「あははははっ! ひゃひゃひゃひゃひゃっ! た、楽しーっ!」
「さ、さゆりさん?」
「あははははっ、はぁっ、はぁっ……」
ベッドのスプリングを優一越しにブンブンと軋ませてしまったため、
俺は息が上がってしまい、優一に抱きつくように倒れ込む。

「さっ、さゆりさん? 大丈夫?」
「はぁっ、はぁっ。な、なあ、お年頃の男女ってのは、みんなこんなことしてるのか?」
「さっ、さあ? そうなんじゃないの?」
「あー、おもしれー。面白いよ、これは?」
「そっ、そう?」
「だってさ、はぁ。だって、優一は変な顔してるし、揉まれた胸はこそばゆいし、
 優一はプルプル震えてるし、それでも胸はモミモミされるしっ!」
「そっ、そんな、モミモミだなんて」
「いいやっ! お前は揉んだねっ! 俺の胸を、それはもうモミモミしまくったねっ!」
「ちょっ、ちょっと触っただけだよ」
「うふふふふ。優一君、私、怒ってるんじゃないのよ。嬉しいの。あははははっ!」
「さっ、さゆりさん……」
「あはははは、はぁ。すっ、すまん。俺一人、盛り上がってしまって」
「いや、別にいいんだけど……」
「だってさぁ。くふふ。あー、なんだろー、俺、おかしくなっちまったのかな?」
「そっ、それは」
「なっ、なぁ、優一。こういうとき、普通の女はどういう反応するんだ?」
「さっ、さあ、実際のところは知らないけど」
「エッチなビデオぐらいはみたことあるだろ? そんなんでいいさ」
「まっ、まあ、その、“あんっ”とか“きゃん”とか、かわいい声を上げるんじゃないかな」
「ああ、そうだな。さっきお前がしたみたいなのが、正解だよな」
「えっ……まあ」
「でもなー。俺には難しそうだなー。もう、顔はにやけるし、笑いを堪えるので必死だ」
「くすぐったいの?」
「あぁ。めっちゃ、くすぐったい。なんつーか、心がくすぐったい。解るか?」
「うーん、解るような、解んないような……」
「はー。これがエッチなのか。そうかー。こりゃみんなが夢中になっちゃうの、解るわ」
「さゆりさんのは、ちょっと違うんじゃ……」
「いやいや、俺は今、胸、揉まれて、気持ちよかったもん。むひゃひゃ」
「それ、気持ちよかった笑い声じゃないよね……」

優一の声に呆れの色が濃くなる。いや、先程から十分呆れていたのだろう。
俺が気がつかなかっただけで。
「えーっと、優一。俺のリアクション、期待はずれ?」
「いいえ、ある意味、さゆりさんらしいリアクションでしたよ」
「おっ。お前にしてはトゲのある口調だな」
「えっ、いや、そんなつもりは……」
「いいんだ。うん。そうだよな。こんなバカみたいに笑う女、おかしいよな」
「そんなこと……」
「なあ。俺、男にあんまり優しく触られたことないんだ。
 殴られたりとか、蹴られたりは、たくさんされたけどな」
「さゆりさん……」
「だからさ、優一。俺の体、優しく触ってくれ……
 そうだな、胸は慣れてなくて、さっきみたいに笑っちゃうから、
 腕とか、背中とか、あんまりエッチくないところから、触ってくれ。
 優しさに、慣れさせてくれ」
「……うん」

初めて、優一の方から抱きしめられる。少しだけ、ちょろい奴だと思ったのは、内緒だ。
背中をポンポンとあやされる。優しく撫でられる。
「優一、気持ちいいな」
「うん」

よしよしと、頭を撫でられる。
「にゃはは。高校生にもなって、頭撫でられて嬉しいなんて、くすぐったいなんて、
 俺、どうしちまったんだろう?」
「そんなことないよ。いくつになっても嬉しいもんだよ」
「そっか。そうだな」

優一の腕が、俺の髪を撫でながら、耳をなぞり、手のひらが頬に触れる。
彼の手のひらに、自分の手を重ねる。
優一と目が合う。彼の手を取る。知らず、顔が近づいていく。

気がついたら、彼の唇に、自分の唇を重ねてしまっていた。
再び頭を起こしてから、俺は、自分が何をしたのかを思い出す。
いや、どれだけの間そうしていたかすら、その感触すら、思い出せなかったが。
ただ、キスをしたという事実だけを、思い出した。

キス。優一と。ちゅー。口付け。ファーストキス。
「はぁーーーーーーーーっ!!」
「えっ?」

俺の脊髄反射は、優一の頭の下にあった枕を引き抜き、奴の頭に押しつけていた。
「うぐっ! ぷはっ! ちょっ、なにっ!」
「へぁーーーーーーーーっ!!」
「どっ、どうしたのっ!」
「うぁーーーーーーーーっ!!」
「むーっ! さゆりさんっ!」
「見るなっ!」
「ぐっ!」
「俺を見るなっ!」
「げほっ! なっ、なんでっ!」
「だっ、だって……」

ぐいぐいと、枕を優一の顔に押し当てる。
優一の顔を見るのが、優一に顔を見られるのが、
自分が唇を重ねた優一の唇を見るのが、おそらくは真っ赤な、自分の顔を優一に見られるのが、
「は……恥ずかしい……から」
「さっ、さゆりさん?」

俺の腕から力が抜け、優一が枕をどけて、俺の方を見ようとする。
「おっ、俺を見るなって!」
「どうしたのさ、急に」
「だっ、だって。だって、い、今、ききききき、キス、したじゃん……」
最後は消え入りそうな声で。

「いや……だからといって、キスした相手を窒息死させるのはどうかと」
「うっ、うるさいっ! お前は恥ずかしくないのかっ!」
「そりゃ、恥ずかしかったけど、余韻に浸るまもなく、今度は枕とキスさせられたし」
「あぁもうっ! ああ言えばこういうっ!」
「えっ、ちょっと」
「お前なんぞ、もうしらんっ!」
足を上げて、優一の体の上で反対を向く。
腹の上にいることには変わりないが、顔を見られないように、足の方を向いてしまう。

「さゆり、さん?」
「……しばらく、このままだ」
「しばらくって、いつまで?」
「おっ、俺の顔が赤くなくなるまで……」
「さゆりさんて、かわいいね」
「むきーっ!」
「わわっ!」
思わず腹の上でジタバタしてしまう。

「おっ、お前は当分、俺の背中でも見てろ」
「はあ」
二人、しばらくすることがない。
俺はイチャイチャしたいのだが、優一の顔がまともに見れない。
それもこれも、きっ、キスしたのがいけない。
だいたいこの男は、昨日は拒んだくせに、雰囲気に流されやがって……。
「さゆりさん?」
「もうちょっと待て」
「うっ、うん」

だいぶん落ち着いてくる、と、周りが見えるようになってくる。
そういえば、今、俺の手元にあるのは……。
くっくっくっ。優一め。この俺が受けた屈辱を、お前にも味わわせてやろう。

俺は素知らぬふりをして、優一の顔の方を向かずに問いかける。
「なあ、優一、お前、ここ、変じゃないか?」
「えっ、なにが?」
「だってお前、ジーンズの前の部分が、妙に盛り上がってるぞ?」
「へっ? あっ! そっ、それはそのっ!」
「これは苦しいんじゃないか? キツいんじゃないか? ああ? 大丈夫か、優一?」
「……」
「一刻も早く、脱いだ方がいいんじゃないか?」
「……わかってて聞いてるよね」
「ぷっ、あははははっ! バレてしまってはしょうがないっ!」
「ひどいや……」
「あはは。すまんすまん。だが、これ、本当に苦しくないか? パンパンだぞ?」
「そりゃ、ちょっとキツいけど、我慢できないほどじゃないよ」
「ふーん。お前は我慢強いんだな」
「そういうところを褒められても……」
「なぁ。お前はここ撫でられると、どうなるんだ?」
「へっ? いやっ、その……」
「まあ、撫でてみれば解るか」
ジーンズの厚い布地の上から、撫でさすってみる。
あまり感触は解らないが、弾力性のある棒状のものが、中に入っているのが解る。

「ちょっ! くっ! さっ、さゆりさんっ!」
「えっ? なに? その反応、気持ちいいのか?」
「だっ! だめっ! 触らないでっ!」
「そうか~、気持ちいいのか~、なんだ~、気持ちいいんだなぁ~」
優一の言葉には耳を貸さず、さわさわと触り続ける。
ジーンズの上からだから、少しぐらい強めでもいいのか?

「だめっ! ほんとっ、ダメだったらっ! いっ、痛っ!」
「おっ、おいっ、なんだか、より大きくなってきた気がするぞ? 大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない……もう、痛いです……」
「どうすれば治る? もしかして、ずっと痛いままか!?」
「えっと、あの、位置を直せばいいだけだから、ちょっとどいてほしい」
「なんだ、それだけでいいのか」
俺は優一の上からおりて、横に座ると、
上半身を起こした優一は、俺に背を向けながら、ベッドの上であぐらをかいた。

「“それだけ”っていうけど……好きな女の子の前で、アレの位置を直すなんて、
 顔から火が出るくらい恥ずかしいよ……」
しょぼくれた背中を見せる優一。
かちゃかちゃとベルトを外す音が聞こえてくる。

「そんなにしょげるなよ」
いいながら、俺は優一の肩に手を置き、後ろから覗き込もうとする。
優一が首を回して、目の前に顔と顔。
「見たいんですか?」
「うん」
「……恥ずかしいので、いやです」
「そこをなんとか」
「……もっ、もう一回、きっ、キスしちゃうよ?」
「うん」
「あれ? さっきはあんなに恥ずかしがってたのに」
「恥ずかしいのはファーストキスだけだ」

ちゅー

「な?」
「……なんかもう、僕ばっかり恥ずかしい……」
「ふっ。今の俺は、羞恥心より好奇心の方が勝っているんだ」
「そんな、胸反らせて言われても……」
「なー、見せてくれよー。どーなってるか、見てみたいんだよー」
「でも……」
「暗いし、いいだろー。ほんとは明るいところでじっくり見たいのを、譲ってやってるんだぞ」
「そんなことで、恩を着せられても……」
「ちぇっ。けち。見せてくれたっていいじゃん。減るもんじゃなし。
 俺にはおちんちんついてないんだから、見たくても見れないんだぞ」
「それを言ったら僕だって!」
「僕だって、なに?」
「いや……その……」
「“僕だって、女の子の胸やお尻を見てみたい”って?」
「……」
「お前さー、ほんと、のせられやすいよな。誘導尋問に弱いっていうか。
 将来、冤罪で捕まりそうで、俺は心配だぞ」
「さっ、さゆりさんの口が上手いんだよ」
「んなわけあるか。口が達者なら、こんな乱暴者になってやしない。理由は他にあるのさ」
「どんな?」
「お前は俺の裸が見たくて、さらには、俺に裸を見せたいって思っているってこと」
「そっ、そうかもしれないけど……やっぱり口が上手いよ」
「ふっ。まあいい。お前がそう思いたいなら、好きにしろ。俺も好きにするから。
 俺がいいって言うまで、後ろ向いてろよ」
「えっ?」
優一の返事を聞かず、自分のパジャマのボタンを外していく。慌てて後ろを向く優一。
先程優一に揉まれた、ささやかな胸が露わになる。
優一は喜んでくれるかな。俺の胸、気に入ってくれるかな。

「よっと」
腰を浮かせて、パジャマのズボンを脱いでいく。
多恵と選んだ、可愛らしいショーツが目に入り、俺は少し考えてしまう。

「さっ、さゆりさん、なっ、何してるのかな?」
「もうっ、わかってるくせにぃ♪」
どうしよう。優一の体が、これ以上なくガタガタと震えている。
おい、局地的に大地震だぞ?

「なあ、優一」
「ひゃっ! ひゃいっ!」
おもしれー。

「お前、全裸と半脱ぎとどっちがいい?」
「ひゃへっ!?」
吹き出しそうになるのを堪えて、努めて冷静に問いかける。
「いやな。ここでお前にとどめを刺すには、インパクト重視で全裸になろうと思ったんだが」
「ぜぜぜぜぜ」
「今、穿いているショーツ。せっかく可愛らしいのを買ったんだ。ふりふりのレースの」
「ふっ、ふっ、ふりふり」
「せっかくなんで、お前に自慢したいし、そっちの方がいいかしれんとも思うんだ」
「そっ、そっちって」
「うん? パジャマの前ははだけて、あっ、さっきも言ったけど、ブラはしてないぞ。
 で、ズボンは穿いてなくて、ショーツだけ」
「はっ、はっ、はいて、はいて、ない」
「なあ、今の格好がいい? それとも、全部脱いだ方がいいか?
 もちろん、あとでショーツだけ見せてやるぞ。つーか、見ろ。高かったんだし。
 ただし、持って帰るのは許さん。高かったんだからな」
「……」
「って、おい。聞いてるか?」
「……はっ!」
優一は軽くトリップしていたようだ。

「なあ、優一、どっちがいいんだよ?」
「……その、い、今、もう、ぬ、脱いでるの?」
「いや、だから、半脱ぎ」
「さゆりさんっ!」
「えっ?」

優一が、勢いよく跳びかかってきて、俺は押し倒されてしまう。
腕が伸びてきて、乱暴に胸を掴まれる。
優一はハアハアと荒い息をするばかりで、俺の言葉は届きそうにない。
おお。優一が獣になってしまった。
優一、痛いぞ。力を込めて揉みすぎだ。俺は不愉快だ。

優一の頭に、思いっきり、げんこつを見舞う。

「痛っ!」
「……痛いのはこっちだ」

頭を押さえた優一が、きょとんとした顔をした後、みるみる青ざめていく。
いや、暗くてよく解らないが、多分そうなのだろう。
俺の上から飛び退くと、すぐに後ろを向いてしまった。

「そっ、そのっ! ごっ、ごめん……」
「“二人揃ってしたくなるまではしない”って言ったのはお前だぞ」
「……うん」
「何度も言うが、俺はお前を気に入っている。
 お前がどうしてもというなら、処女をくれてやることを、考えてやらんでもない。
 だが、それが恋愛感情なのかは、俺にはまだ解らん。
 というか、本音を言えば、男とエッチなことをするのに興味があるだけで、
 お前に恋愛感情があるわけではないだろう」
「……」
「ああ。自分で言ってみてよく解ったが、俺はひどい女だ。お前を弄んでる」
「そっ、そんなこと……」
「いいんだ。今だって、お前に襲われて、文句を言える義理じゃない。
 どう見たって、誘ったのは俺だ。裁判でも勝てやしないさ」
「……」
「でも、まだ俺のことを想ってくれるなら、少しでも好きでいてくれるなら……
 優しくしてくれ。乱暴にはしないでくれ。
 俺の体のどこに触ってもいい。どんなエロい格好でも、望むだけしてやる。
 だから、だから、優しく触ってくれ。俺を気持ちよくしてくれ。頼む。お願いだ」
「さゆりさん……」
背を向けていた優一が、こちらに向き直る。顔は俯いたまま。

「ごめん……本当に、ごめん。僕、自分で自分が……」
「いいんだ。今なら解る。俺がお前にくっつくたび、お前が慌てていたのは、
 こうやって、自分が抑えられなくなるのを、心配していたんだな」
「うん……でも、僕は、欲望に負けてしまって……」
「そうさせたのは俺だ。優一が負い目に感じることはないんだ」
「でも……」
「それに、もう、大丈夫だろう? 優一は、俺に、優しくしてくれるだろう?」
「……さゆりさんが、許してくれるなら」
「じゃあ、こっちに来てくれ。俺のそばに来てくれ」

小さく頷いた優一が、俺の方に体を寄せてくる。
まだ、俺には言い忘れたことがあった。
「あっ、えっと……」
「なに?」
「その、俺だけこんな格好なのは恥ずかしいから、お前も、脱いでくれないか?
 俺に全てを許す気があるなら、何も身につけないで、来てくれ」
照れくさそうに横を向きながら、言ってみる。

「あっ、ああ。うん」
シャツを脱ぎ、ジーンズを下ろす優一を、横目で見る。
トランクスに手をかけたところで、躊躇する優一。

「目は、閉じておくから」
安心させるよう、言っておく。

「……ぬ、脱いだよ」
優一の声が聞こえる。

「じゃあ、俺を、抱きしめてくれ」
目を閉じたまま、顔を上げ、両手を前に広げて、伸ばす。
腕を取られるのが解る。肌が触れ合うのが解る。抱きしめられるのが、解る。

「優一、目、あけるぞ」
「うん」
俺の顔のすぐ横には、優一の顔。首を曲げ、目を合わせて、微笑む。

「ありがとう、優一。これは、ほんのお礼だ」
可能な限り優しく微笑みながら、当たりをつけて、優一のおちんちんを握り潰してみる。

「ぐぁっ!!」
「ふははははっ! まったく、手間とらせやがって」
「そんなっ……ひっ、ひどいよ。さゆりさん……」
「お前がサクサクこれを俺に見せてくれれば、こんなに手順を踏む必要もなかったんだ」
「今までのって、手順だったんだ……」
「何を言っている。お前に揉まれた胸の分を返しただけだ」
「そうだけど……」
「手順だったが、本心だぞ?」
「……うん」

優しく握りなおした、おちんちんの感触を確かめてみる。
温かい。というか、熱い。柔らかくて堅くて、なんとも不思議なものだ。
視線を下げて、まじまじと覗き込んでみる。
優一の体から、不自然なほどに突き出た、ぴくぴく震える、謎の棒。
自分にはないものなので、興味は尽きない。


「へー。これが、おちんちんというものか」
つまんだ指に力を込める。

「さっ、さゆりさん、ちょっと痛い」
「おっ、結構、敏感なんだな」
「そういう部分ですし」
優一は観念したのか、されるがままだ。
俺の指で弄ばれる、自分のおちんちんを、俺同様、見下ろしている。

「これ以上、大きくはならないのか?」
「あとちょっとは大きくなると思うけど、もう、あんまり変わらないかな」
「どうすればいい?」
「えっと、強くない程度に握って、上下にこするんだ。
 そうされると気持ちいいんで、さゆりさんの手でしてくれると嬉しい。
 ただ、しばらく、いや、わりとすぐに、先から精子が出るから、
 シーツ汚しちゃうかも。ティッシュある?」
「……えっと、なんでそんな素直?」
「もう、恥ずかしがったり、中途半端にかっこつけたりしないで、
 素直にしてもらいたいこと、言おうと思って」
「今まで、かっこをつけていたのか……」
「あっ、あはは。えっと、今言ったの、いつもは自分でするんだ。
 一人でするエッチな行為。オナニー。エッチなビデオとか見ながら。
 僕はオナニーをする、いやらしい男です。
 そして、それをさゆりさんに手伝ってほしいと思ってる」
「俺に、エッチなことをしてほしいんだな?」
「うん。してほしい」
「おちんちんをこすると、お前は気持ちいいんだな?」
「うん。気持ちいい」
「そうか。俺はお前を、気持ちよくすることができるのか」
「うん。さゆりさんがしてくれるなら、自分でするよりも、何倍も気持ちいいと思う」
「ティッシュを、用意すればいいんだな?」
「うん。その、精子って、結構な勢いで出るんだ。
 えっと、白いネバネバした液体で、臭いにおいがする。
 さゆりさんには、嫌な思いをさせるし、シーツ汚しちゃうけど、
 それでも、精子を出したい。射精したい。手伝ってもらいたい」
「30秒待て」
「うん」

ベッドから出て、机の上のティッシュを、箱ごと掴んで舞い戻る。
「姿勢はどうする?」
「えっと、僕が仰向けになるから、さゆりさんは座ってして」

言いながら、ベッドの上で大の字になる優一。
突き立てられたおちんちんが、ぶらぶらと揺れて面白い。
その脇にすわり、揺れるおちんちんを、指先でつついてみる。

「どう握るのがいい?」
「親指と人差し指で、輪っかを作って、他の指は添える感じで。
 おちんちんの先、きのこみたいに傘になってるじゃない。
 その部分に指が当たるようにして」
「おお。確かに、きのこみたいになってるな。こうか?」

言われたとおりに、傘の部分に指を当ててみる。
「くっ」
「痛いか?」
「ううん。気持ちいい」
「そうか。気持ちいいか」
「初めのうちはゆっくりで、少しずつ激しくこすっていって」
「こんな感じか」
「うっ、うん」

ゆっくりと、掴んだ手のひらを上下させる。
優一が荒い息を吐く。気持ちいいのだろうか。
切なげに、苦しそうに顔をゆがめているが、それが、気持ちいいのだろう。
俺の手の動きに合わせて、悶える優一が面白い。

しばらくこすっていると、なんだか手がべとべとしてきた。

「なんか、ぬるぬるしてきたぞ。精子出てるか?」
「うっ、ううん。精子は、まだ。射精の前に、透明な液が出るんだ」
「ふーん。おちんちんからは、いろいろ出るんだな。あっ、ちょっと変な匂いがするかも」
「ごめん。そろそろ臭いね」
「いいさ。気にするな」
「ありがとう。じゃあ、もう少し速く動かしてくれないかな。
 出そうになったら言うから、最後にぎゅっと握って」
「強くていいのか?」
「興奮してるとね、刺激が強い方がいいんだ」
「へー」

言われたとおりに、激しくこすってみる。
しゅっしゅと、こすこすと、スナップをきかせていく。
おちんちんの回りには、皮が余っているようで、ぐにぐにと、こすることができる。

「くっ、もっ、もう、出るかも……」
優一が切なげな声を上げた。

「よしっ、出せっ、優一っ、精子、出せっ!」
乱暴なくらいに、おちんちんをこすりあげる。

「出るからっ! 顔、離してっ!」
「出せ出せ出せっ!」
力を込めて握り、余った皮を、これでもかと引き下げる。
優一が悶絶して、とたん、液体がおちんちんから吹き上がった。

「わわっ!」
びっくりした。噴水のように勢いよく吹き上がった液体が、パタパタとかかっていく。
優一の腹に、太ももに、おちんちんに。
俺の手に、腕に、覗き込んでいた俺の顔に。

「ふーっ」
深呼吸した優一の体から、力が抜けていくのが解る。
張り詰めていたおちんちんから、抜けた精子の分だけ、ゆるゆると緩んでいくのが解る。

「はー……これが、射精ってやつか……」
「ああっ! ごめん、さゆりさんっ! 顔に少し……」
「えっ? ああ」
上半身を起こした優一が、慌ててティッシュをつまみ取り、
俺の顔から精子をぬぐってくれる。
「髪の毛にも少しついちゃって。ちょっと、じっとしててね」
「ああ。気にするな。後でもう一回、風呂に入るさ」
「そう? あっと、シーツも拭かないと」
「へぇ。これが精子か……」

優一のおちんちんについた精子を、指でぬぐってみる。
いつの間にやら、おちんちんは完全に萎びてしまった。これが通常時なのだろうか。
ネバネバした精子が、指にまとわりつく。確かに臭い。
色はこの暗がりではよくわからないが、確かに白いようだ。

「ふーん。これが赤ちゃんの元なんだなー。へー」
「さっ、さゆりさん、感心してないで、早くシーツ拭かないと」
「ああ。適当でいいぞ。はー。これが精子ねー。ほー」

シーツを拭いた優一は、自分の腹やおちんちんについた精子を拭おうとしている。
「待て。俺が拭いてやろう」
「えっ? あー、はい。お願いします」
ティッシュをつまんで、お腹の精子を拭う。
小さく、芯のなくなってしまったおちんちんを拭いていく。

「これがいつもの大きさ?」
「うっ、うん」
「今って、どんな感じ?」
「えっと、これが自分でも不思議なんだけど、出すととたんに冷静になるんだ」
「へー。そういや、さっきもそう言ってたな。
 あっ、あのさ、出すときは、気持ちよかった?」

拭き終えた俺の両手を、優一が握ってくれる。
「うん。とっても、気持ちよかった。さゆりさん、ありがとう」
「そうか。うん。そうか」

思わず、顔がほころぶ。
そのまま、優一に抱きしめられる。

二人、ベッドの上に寝ころんで、ついばむようにキスをする。

「そうだった。射精したから、しばらくはイチャイチャし放題だな」
優一に頭を撫でられる。

「あーうん。でも、さゆりさんに手でされたの、とっても気持ちよかったから、
 僕はすぐまた、おちんちん大きくなっちゃうかも……ごめん」
「いいさ。大きくなったら、また出せばいい。
 好きなだけ出せばいい。いくらでも、こすってやるさ」
「あはは。まあ、一日に何度も出るもんじゃないんだ。
 たぶんもう一回ぐらい出したら、今日はもう大きくならないよ」
「へー。そうなのか」
「だいたい、三日でいっぱいになるんだって」
「ふーん。じゃあ、少なくとも三日おきには、うちに来い」
「えっ?」
「だって、三日でいっぱいになるんだろう? 溢れるじゃないか」
「いや、溢れはしないんだけど……その、自分でしちゃうかな」
「お前は俺にされるより、自分でする方がいいのか?」
「ううん」
「じゃあ、うちに来い。毎日出るなら、毎日来い」
「うん。毎日来る」
「よし。いい子だ」
抱き合うと、優一の胸に、俺の胸が当たる。
肌と肌が直接触れ合うのが、気持ちいい。
布越しよりも、とても、気持ちいい。

「お前だけ全裸なのも変だな。俺も全部脱ぐ」
「さゆりさん?」
「見たいか?」
「うん。さゆりさんの裸が見たいな」
「よし」
射精したからだろうか、裸を見たいというその顔に、ぎらぎらしたものはなく、優しげだ。
俺は、はだけていたパジャマを脱いで、ショーツをするすると下ろしていく。

「どうだ。じっくり見たか?」
「うん。とても綺麗だよ。明るいところで見たいよ」
「それは後の楽しみに取っておけ。俺も取っておくから」
「うん。そうだね」
もう一度、優一を抱きしめる。
互いに腕を背中に回し、胸と胸を重ねて、お腹とお腹をくっつけ、足と足をからませる。
できるだけ、二人の距離が近づくように。
できるだけ、たくさんの肌が触れ合うように。

「ぬはははは」
「なんでそんな笑い方?」
「気持ちいいから」
「そう」
「もっと可愛らしく笑おうか?」
「いいよ。ぬはぬは笑うさゆりさんも、可愛いよ」
「ふっ。なあ、今日も、泊まっていけよ。ダメか?」
「うん。そんなことになるかもと思って、家、内緒で出てきちゃった」
「なんだ。お前もけっこう抜け目ないな」
「いやあ」
「それで来るの遅かったのか」
「親が寝てからじゃないとね」
「そうか。じゃあ、今日はこのまま一緒に寝ような」
「うん」
 
優一が、俺の胸にキスをする。乳首の先を、口に含まれる。
「ははは。くっ、くすぐったい」
「さゆりさんは、くすぐったがりだねぇ」
「だって、胸にちゅーされたら、くすぐったいって」
「えっと……あのさ、さゆりさんって、一人エッチってしたことある?」
「は? エッチは二人でするもんだろう」
「あー、その、さっき言った、オナニー」
「いや、こすろうにも、俺にはおちんちんはないのだが……」
「えーっと、女の子も、こすると気持ちよくなれるらしいです」
「えっ! そっ、そうなのかっ!?」
「やっぱり、知らなかったんだね……」
「すまん……俺が自分の力で知ったことといえば、人体の急所ばかりだ」
「いや、謝らなくてもいいけど」
「一人エッチの方法は、多恵も教えてはくれなかった」
「恋する乙女を目指すのに、一人エッチは、関係ないしね……」
「お前はどうして、そんなにエッチに詳しいんだ?」
「そうやって真剣に聞かれると、けっこうへこみます」
「どうして?」
「だって、エッチな男みたいじゃない……」
「さっき自分でそう言っただろう? お前はエッチじゃないのか?」
「あー。はい。エッチです」
「そうか。だから詳しいんだな。いろいろ研究したんだな」
「えーと、尊敬の眼差しで見られると、少し心苦しいです」
「どうして? 俺はお前を、エッチの師としてあがめているぞ」
「とほほ」
「で、どうだ? 俺にも一人エッチはできそうか?」
「あー、うん。できるにはできると思うけど……」
「おお」
好奇心に溢れる俺と、歯切れの悪い優一。

「ただ、問題が、2つほどあって」
「2つもあるのか」
「えっと、1つめは、僕が男だから、女の子の一人エッチについては、あんまり詳しくないんだ。
 たぶん男とそう変わらないとは思うけど、やっぱり、男と女は、体のつくりが違うしね」
「そうだな。俺にはおちんちん、ないもんな……あれば良かったのに」
「えっ、それはやだ」
珍しく、俺の言うことを、即座に否定する優一。
俺は笑いがこみ上げる。俺におちんちんがあったら、優一はどんな顔をするだろうか?

「そうだ。それこそ、多恵にやり方を聞こうか?」
「うーん、恥ずかしがって教えてくれないか、逆に怒られるんじゃないかな。エッチなことだし」
「そっか。そうだろうな。多恵はエッチなことには厳しそうだ」
「あと、それに、2つめなんだけど、男はたいてい、一人エッチをするもんなんだけど」
「お前だけが、特別エッチじゃないというわけだな」
「まっ、まあ、そうじゃないことを願うよ」
「俺はそうでもいいけどな」
「そっ、それはありがとう」
「うむ」
「ええと、女の子は、オナニーをよくする子と、ほとんどしない子がいるらしいんだ」
「そうなのか……割合は?」
「僕もそこまでは……。とにかく、あんまり気持ちよくなれないようなら、無理にする必要もないというか」
「俺はどっちだ?」
「それはわからないけど、今のところは、してもあんまり気持ちよくは、なれないんじゃないかと」
「どうしてわかる?」
「胸触っても、くすぐったいばっかりでしょ?」
「あっ、そうか」
「うん。感じやすい女の子だったら、胸触られたら、気持ちよくなれるんじゃないかと」
「がーん」
「さゆりさん?」
「優一、胸、揉んでくれ」
「うん」

優一が、俺の胸をむにむにと揉んでいく。
「くすぐったい……」
「あはは。まあ、単に慣れていないだけで、そのうち気持ちよくなる可能性もあると思うんだ」
「もしくは、お前が下手か」
「うっ、その可能性も、十分あるとは思うけど……」
「あはは。まあ、オナニーで気持ちよくなれるかどうか、俺の努力次第か」
「うーん。努力でどうにかなるかは、解らないんじゃないかな」
「そんな。それは理不尽だぞ」
「まあでも、気持いいと思うことは、エッチだけじゃないんだから、
 そのときはそのときで、他のことで気持ちよくなればいいんじゃないかな」
「無い物ねだりをしても、仕方ないか。
 おちんちんをこすられているときのお前は、なかなかに気持ちよさそうだったから、
 少し妬ましいぞ。やっぱり、俺もおちんちんが欲しい」
「ごめんね。僕ばっかり気持ちよくなって」
優一に抱きしめられる。
「いや、そうだな。俺は俺で、お前に十分、気持ちよくさせてもらっている。
 こうやって、抱きしめてくれるので、俺は気持ちいい」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、僕にも本当のところは解らない。
 どうする? 少し試してみる?」
「ダメ元で、やるだけやってみるか」
「うん。じゃあ、その、あそこに、指、当ててみて」
「あそこって、あぁ。ここね。って、お前が見てる前でするのか?」
「恥ずかしい?」
「お前にあれだけさせておいてなんだが、少し恥ずかしいかな……。
 お前は俺がオナニーするのを見ると、興奮するか? 俺のオナニーを見たいか?」
「あっ、うん。見たいんだけど、実のところ興奮半分、心配半分」
心配ってなんだ。心配って。
お前は俺がオナニーをするというのが、そんなに心配か。俺をなんだと思っている。
俺だって女の端くれなんだぞ。
……たっ、確かにさ。

「確かに、俺も心配になってきた……今からするから、お前、ちゃんと見ててくれ」
「うん。あの、わかっていると思うけど、敏感なところだから、慎重にね」
「おっ、おう」

俺は自分の股間に手を伸ばす。
風呂では毎日洗っているが、それ以外の理由で触れることなどない。
少し、緊張する。

「……なぁ。お前がしてくれないか?」
「えーっと、本音を言うと、是非ともしたいんだけど、
 なにしろ僕もやり慣れてないから、最初はさゆりさんが自分でした方がいいと思うんだ」
「そっ、そうか。そうだな」
「慣れてきたら、手伝わせてね」
「そういうのも興奮する?」
「するする」
「よし。じゃあ、待っていろ」

一つ息を飲んでから、指先で触れてみる。
「さ、触った」
「どう?」
「どうって、別に……」
「なにも、感じない?」
「いや、もちろん、指が当たってる感触はあるが」
「それだけ?」
「それだけ」
「……少し、動かしてみる?」
「おっ、おう」
指先で、なぞるように動かしてみる。

「どう?」
「……もしかして、俺、触る場所間違ってる?」
「えっ。その、まー、僕で言うと、おちんちんのあるところだけど」
「お前は出っ張ってるから、わかりやすくていいよな」
「女の子も、割れ目になってるんだから、わかると思うけど……」
「そうな。まあ、割れ目になってるな。もっと奥まで入れた方がいいのか?」
「いやっ、それはどうだろう。女の子って、ほら、処女膜ってのがあるじゃない?」
「そこまで強くするつもりもないが」
「じゃあ、少し奥まで触って、動かしてみたら?」
「ああ」
二人、固唾を飲む。
「くすぐったいというか、むずがゆいというか、もう少し強めに……つっ!」
「さっ、さゆりさん?」
「いや、大丈夫だ……はぁ……だめだ。気持ちいいって感じじゃない」
「そう……」

落ち着かなくて、体を起こしてしまう。優一もそれに付き合い、二人、座り込んだ。
「何か、足りないんだろうか?」
「えっ……そうだね。ちょっと、僕達、緊張してない?
 男は、緊張してると、立つものも立たないというか。リラックスしないと、ダメなときある」
「そりゃまあ、リラックスって感じじゃないな。
 でも、初めてするんだから、緊張するなって言う方が無理だぞ」
「それはそうだけど……できるだけエッチなことを考えてみるとか」
「エッチなことって、なんだ? お前はオナニーをするとき、何を考えてる?」
「えっ、そりゃ、裸の女の子とか……」
「お前はエロいな」
「すみません」
「というと、俺だと裸の男になるのか?」
「えっ? そっ、そうだけど」
「裸の男なら、目の前にいるが。おちんちんだって、見放題だ」
「恥ずかしいんですが……」
「俺のおちんちんに対する学術的興味は尽きないが、それを見てエロくなるかどうかと言われると、
 疑問を感じずにはおれん」
「その言い方だと、いずれ解剖されそうで、少し怖いです」
「やはり、俺にはオナニーの才能は、ないのかな……」
「まあ、特に必要な才能でもないとは思うけど」
「あー、損だっ! なんだよお前ばっかりエロ気持ちよくなりやがってっ!
 あんなにおちんちん大きくしやがっ……」
「そっ、それはごめん」
謝る優一の、だらりと垂れたおちんちんを握ってやろうと思って、俺はあることに思い至る。

「あのさ。これで、入るのか?」
「へっ?」
「だって、お前のおちんちんを、ここに入れるんだろ?
 しかも、さっきみたいに大きくなったのを」
「えっ、その、セックスするときは、入れることになると思う」
「どう考えても、入りそうにないぞ?」

俺の問いにしばらく考え込んだ優一が、口を開いた。
「さゆりさん、濡れた?」
「え? ここが、濡れるのか?」
「ほら、僕のおちんちん、こすってもらったとき、精子が出る前に、透明な液が出てきたじゃない。
 女の人も、気持ちよくなってくると、そういう液が、愛液って言うんだけど、出るんだって。
 そうやってぬるぬるになれば、するんと入るらしいんだ」
「じゃ、じゃあ、気持ちよくなって、ぬるぬるにならないと、セックスができないのかっ!?」
「えっと、確かなことは言えないけど、その可能性は……」
「なっ……なんてことだ……」

がっくりとうなだれてしまう。

「そんな……これじゃ恋する乙女になれても……俺は、王子様と結ばれることはできない……」
「さゆりさん、まだ決まったわけじゃないんだ。そんなに悲観しちゃいけないよ」
「しかし、俺はどうすればいい? こういうのは、努力しても、なんともならんのだろう?」
「努力はともかく、慣れってのはあると思う。さゆりさん、オナニー、今日が初めてでしょ?
 あきらめるのは、まだ、早いよ。二人で頑張ろうよ」
俺の肩に、優しく手を置く優一。俺は顔を上げることができる。
「優一、今、お前が初めて、頼もしく思える」
「初めてですか」
「そうだな。あきらめるのは、全ての挑戦に敗北してからだな」
「そうだよ。それでこそ、さゆりさんだよ」
「ありがとう。優一。俺は、俺はきっと、感じやすいエロい女になってみせるっ!」

ぐっと拳を握る。その拳を、優一の両手がしっかりと包んでくれる。
「かっこいいよ。さゆりさん。言ってる台詞がちょっと変な気がするけど……」
「……そうだな。今の俺達、ちょっとおかしいな」

素っ裸の男女がベッドの上で、何をしてるんだろうか……。

「しかし、そうは言っても、具体的にどうすればいいんだろうか」
「えっ、うーん。こういうのは、時間をかけて、ゆっくり慣れていった方がいいんじゃないかな。
 まずは、リラックスするのと、その、エッチな気分になることに、慣れることから始めてみようよ」
「まず、リラックス、そして、エッチな気分な……」

とりあえず、優一に覆い被さる。
「えっ? さゆりさん?」
「は~、りら~っくす」

優一の体温を肌で感じる。先程までの不安が、掻き消される。
「エッチな気分にはなった?」
「うんにゃ。ぜんぜん」
「微妙に傷つきました」
「優一の体は、気持ちいいし、安らぐし、言うことないんだが、エッチな気分にはならないな」
「とほほ……」
「んー、優一の体、好きだ~」

胸板に頬ずりをする。首筋にキスをする。
「好きなのは、僕の体?」
「うん? もちろん優一も大好きだぞ? 
 他の男じゃ、抱きついても、こんなに気持ちよくはならん自信がある」
「それは嬉しいけど、僕とセックスしたいと思う?」
「全然、思わない」
「……」
「優一、そんなあからさまに落胆するなよ」
「そうは言っても……」
「うーん……そうか。きっと、そうだ」
ふいに、俺は思い当たった。

「どしたの?」
「なぁ、優一。俺は思うんだ。どうして俺がエッチな気分になれないか。セックスしたいと思わないか。
 それは、今ひとつ、ピンとこない、知識がない、実感がないからだ」
「えっ? まっ、まあ」
「つまり、類型を認識する必要があると思う」
「どういうこと?」
「セックスしてる女を見たい」
「どうやって!?」
驚く優一。こいつは、俺が新婚夫婦の寝室に忍び込むとでも思っているのか?

「そんなの。お前がエッチなビデオを貸してくれればいい」
「あっ……そうか」
「お前が悶えるところは、さんざん見せてもらったが、そうは言っても、お前は男」
「まあ、そうですが」
「やはり、悶える女の姿を見れば、俺もイメージが掴みやすいと思うんだ」
「確かに、口で説明するよりは解りやすいと思うけど、
 ああいうエッチなビデオのおねーさんは、演技らしいよ? 実際とは違うんだって」
「わざとらしい方が解りやすいだろう。
 むしろ俺は、演技だって解っているのに興奮するお前の方が、よく解らないが」
「まあその、大半の男は、演技だって知ってても、エッチなビデオでエッチな気分になれるけど、
 女の人は、あんまりそういうの、聞かないよ」
「ふむ。エッチな気分になれるに越したことはないが、
 そうでなくても、実際のところを見て、知識は得た方がいいと思うんだ」
「うーん、まあ、そうかもしれないねぇ。うん、今度持ってくるよ。
 えっと、一週間ぐらい、待ってもらえるかな? DVDでいいよね?」
「ああ。よろしく頼む。一緒に見ような」
にやり、微笑んでみる。

「えっ? いっ、一緒に見るの!?」
「うむ。たぶんお前は、エッチな気分になって、おちんちんを大きくして、
 かといって、俺の目の前で、自分でこするわけにもいかず、
 それはもう、捨てられた子犬のような目をして、俺におねだりをしてくるに違いない。
 くっくっくっ。とても楽しみだ」
「……先生、主旨が違ってきていると思います」
「甘いな、優一。一つの機会は、できる限り有効に利用しなければ」
「はぁ。そうですか。」
「ははは。ふぁ~」
不意に、眠気が襲ってくる。時計を見ると、いつもはもう寝る時間だ。

「ふぁ。俺は、そろそろ眠い。お前は、普段はまだ起きてるのか?」
「うん。いつも寝るのは、もう少し後かな」

優一の腕を横に伸ばし、それを枕にする。
裸の体をぴたりと寄せてから、瞳を閉じる。
「今夜のうちにもう一回ぐらい、おちんちんこすってやろうと思ったんだが、もう、眠い。
 ふぁ。悪いが、自分でしてくれ。俺が寝付いたら、俺の体、好きに使えばいい……」
「えっ、寝てるときにそういうことするのは……」
「……起きてるときに、胸揉まれると、くすぐったいからな。まあ、機会は、有効に……」

優一がなにやら言っているようだが、俺には聞こえなくなってきた。
肌のぬくもりを感じながら、俺はまどろみに落ちていった。