「ねえ真、これなんかどう?」
と言っては、弥生が色々様々な服を俺ーーーー真(まこと)のいる試着室に持ってくる。
そしてその度に着替えては弥生にお披露目している俺ガイル。正直あまり乗り気じゃないんだけどね。
多分今ので7回目だと思う。
「うん、これも悪くないな」
「もう、真ってばさっきから『悪くない』ばっかりじゃん」
むぅー、とばかりに弥生がふくれるが、正直な所、悪くないなどと言わず、とても良いと言っても充分で、組み合わせもバッチリだった。だったのだが……
「なら言わせてもらうけどな……」
ここにきてようやく兼ねてから……もとい、いつも通りの疑問を放った。
「何で女物ばっかりなんだ!?」
「だってその方が似合うんだもん」
「やっぱりか……」
いつも通りの返答にげんなりする俺。
そう、さっきから弥生の持ってくる物は、全て女物なのである。というわけで予め宣言しておこう。
俺は男だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
無論今のは心の声である。流石にこんな所で雄叫びをあげるつもりは無い。
「どしたの? 難しい顔して」
「いんや、なんでもない」
どうも顔に出てしまっていたらしい。いかんいかん。
ところで、さっきから弥生の持ってくる女物の服を俺が平然と着れる理由だが、主に俺の見た目、というか体格が原因だ。
まず、線が細い。高校2年の男としては、明らかにおかしい身長と体重の比を持ち、脂肪は無いが肉も無いときた。
そして女顔。髪は短い方だが、顔に合ってると言われるからタチが悪い。
そのうえ声も高いのだ。男の範囲をギリギリアウトするレベルで。
と、上記の点から言える事は一つ。『俺が男に見えない、というかむしろ女にしか見えない』
とまあこんな容姿の俺だが、それでも彼女はいたりする。
さっきからあれこれと服を持ってきては戻しにいっている女の子、弥生(やよい)。俺を『男』として扱ってくれる『数少ない』人間の一人でもある。
…………言ってて少し泣きたくなった。主に『数少ない』のあたりに。
ちなみにどれくらい少ないかというと、家族や親戚を除くと、片手で数えられるくらいしかいない。無論、学校も含めて。
…………ちょっと涙が出てきた。
「あれっ? どしたの真、だいじょうぶ?」
弥生は結構鋭い。俺の涙を素早く発見し、今度は心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫。ちょっと……いやかなりヤな事思い出しただけ……」
ちなみにさっきから俺を着せ替え人形にしている弥生だが、これでもちゃんと俺を『男扱い』してくれている。
そして俺を男と知覚し、理解し、認識した上で、女物の服を持ってきては俺に着せる(着るのは自分でやっている)のだ。
もちろん男物の服を持ってきてくれる事もある。男物女物を問わずにおいてある場所限定、しかも7回に1回くらいの比率で、だが。
まあ、既にいつもの事で慣れているし、俺自身はいつも乗り気じゃあないが、弥生が楽しそうだからそれでいいかな、とか思っている。
ところでその弥生なのだが、普通の女の子とはちょっと違ったりする。どの辺が違うのか一言で言えば、あまり女の子らしくない、が一番適切な言い方だと思う。
一人称が『僕』だったり、喋り方が少年っぽかったり、少女漫画も持っているが少年漫画の方が倍近く多かったり、スーパーロボットが好きだったりーーーー俺も好きだけどね……とまあこんな具合に。
女の子らしい趣味や一面も持ってはいるけど、あまり表に出さないと言うか、出ないと言うか……。
ある特定の条件下ではバッチリ女になるんだが…って何考えてんだ俺は!
「やっほー真。ちょっとお邪魔するよ」
アホな事を考えてるうちに、弥生が別の服を持って試着室に入ってきた。
「いやお邪魔するなよ!」
「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃ無し」
別の服を二着ほど持ちながら、平然と弥生は踏み込んできた。
「そりゃ確かに何も減らんだろうが……、こっちの格好を考えて欲しいんですが」
ちなみに俺の格好だが、丁度さっきの服を脱いだ所だったので殆どトランクス一丁だったりする。
「まあまあいいじゃないの。眼に見えない所まで知ってる仲なんだし♪」
「そうゆう問題じゃなぁぁぁぁぁい!!!」
しまった! つい大声を上げてしまった。……シャレじゃないぞ。
というか、こんな所見られたら下手すりゃ警察沙汰になりかねん。
迂闊に自分の服を着る訳にもいかず、仕方なしに弥生の持ってきた服を引ったくって着込む。
ってしまった、これが弥生の狙いか! なんかニコニコしてるし……。
もう少し弥生にはこんな行動を控えて欲しいと思いながら、俺はいそいそと新たな女物の服を着るのであった……。
最終更新:2007年10月08日 00:35