彼氏いない暦イコール年齢。
 それの、一体何がいけないのでしょう。
 会うために予定を組んで、会ったらお互いに気を使いまくってデートして、浮気したとかしないとか、結婚するとかしないとか、一回やっちゃえばポイだとか、処女じゃない女に興味は無いだとか、童貞はきもいとか。

「ほんとーに。頭悪いんじゃ無いかと思います。男は馬鹿です。女も馬鹿です。異性相手に腰を振る事しか出来ないんですかね本当に」
 ごん、とビールの大ジョッキを荒々しくテーブルに叩きつけ、真っ赤な顔で千博が睨む。
 彼氏いない暦二十年のお祝いにとからかい混じりでつれてきた、見知らぬ酔っ払いの笑い声で喧しい居酒屋のテーブル席である。
「大体ですねー、世の中おかしーんですよ。いーですかぁ? まず生殖と言う物はですねぇ、快楽を求めて行うのではなくぅ、子孫の繁栄のために行う物であってー、恋人という制度はつまり、その相手が自分の繁殖の相手として好ましいかどーかお判断するためのですねぇ、いわゆるオタメシ期間なわけなんですよ。つまりー、そのオタメシ期間中にですねぇ、はんしょくこーどーを行うと言うのはぁ、動物学的にはなはだおかしいんですよぉ!」
 くどくどと訳の分からない講釈を並べ立てながら、千博が空になったビールジョッキをごんごんとテーブルに打ち付ける。
 そうかそうか、全くその通りだな、などと適当に相槌を打ちながら、康介は半ばうんざりとして焼酎を一口舐めた。
「もーちょっと可愛くなるかと思ったんだがなぁ……」
 あてが外れた、とでもいいたげな口調である。
 そんな康介の呟きが酔っ払いに届くはずもなく、千博は相変わらずビール瓶を振り回して賑やかに喋り続けている。
 大ジョッキ三杯。焼酎一杯。甘ったるいカクテル二杯。想像以上にザルである。

「だからですねー、つまりですねー、ぼくがいーたいのはですねー……あれ? あー……うんつまり、そういうことなんです!」
「そーかそーか。いや、わかるよ。よくわかる」
「そーなんれす。うん、こーすけは物分りがよくてよろしい。さすが僕のおとなぃさんだ。らいぞぅ」
 うんうんと満足げに頷いて、身を乗り出して康介の髪をくしゃくしゃと撫でる。
 お隣さん――と言っても、康介が千博の隣に住んでいたのはもう五年も前の事である。しかも、お隣さんである事と物分りがいい事に何の関連性もない。
「だからー。ぼくはかれしを作らないだけなんですー。できないんじゃないんですー」
 ごん、と弱々しくジョッキをテーブルに置き、ぐったりと頭を垂れる。
 千博は眠そうに瞼を落としてふるふると頭をふり、康介が舐めていた焼酎に手を伸ばした。
「やめとけ。さっき苦いって文句言ってただろうが」
「いやだぁ、のむー」
「おねーさーん! ちょっとお水もってきてー!」
「なんでぼくはこーすけくんに敬語なんでしょう……?」
「酔ってるからだろ……普通に」
「僕はよってなぁぁあい!」
 声を大にして叫ぶ。
 が、底辺の居酒屋の喧騒の中では、それも微々たる物である。
「よってなーい。よってなーい。酔ってないよぉおお!」
 あぁ、壊れた。
 高らかな絶叫を最後にテーブルに突っ伏した千博を前に、康介は静かに焼酎を飲み干した。


 酔いつぶれた千博を連れての帰り道は、相当に難航した。
 意識を失っては覚醒を繰り返すものだから、暴れたり黙ったりで忙しいことこの上ない。
 何とかタクシーに押し込んで自宅まで連れ帰り、康介は千博をベッドに転がしてやれやれと溜息を吐いた。
 まぁ、酔いつぶれた男を担いで連れて帰るよりはましかもしれない。
 ううん、と千博が呻き、ごろりと仰向けに転がった。
 ジーパンのベルトが窮屈なのか、ぼんやりと目を開けてもぞもぞと腰の辺りに指を這わせている。
 とれないー、とれないーと文句を言い出したかと思うと、だめだぁ、とふて腐れて大の字に手足を投げ出した。
「しょうがねぇやつだなぁ……」
 なんだかんだ言いながらも、溜息一つで何でもやってあげてしまう。そんな自分が実はそんなに嫌いじゃない。
 康介は仰向けに寝転がってあついあついと文句を言っている千博を無視し、腰のベルトを外してやった。
「ほら、はずれたぞ」
「脱がされたぁ。おかされるー」
 こわいよう、と呻きながら、もぞもぞと毛布の中に潜り込む。
 誰が犯すか、失礼な、と引きつる康介の前で、今度は汗臭い、暑苦しいと自分勝手な文句を連ねて被った毛布を蹴飛ばした。
 この女、どうしてくれようと苛立ちを込めて睨み下ろす。
 すると千博はその康介の眼前で、あろうことかTシャツを脱ぎはじめた。
「ちょ……ちょっとお前、馬鹿! なにやってんだ!」
「ぬぐ」
「脱ぐな! 着てろ!」
 叫ぶ康介をまるで知覚していないように、じたばたと暴れながらジーパンを脱ぎ捨てる。
 これでよし、とでもいいたげに再び毛布を被りなおし、千博はすうすうと寝息を立て始めた。
 色気の無い黒のスポーツブラのみ確認した。下はさすがに見る勇気がなかったが、どうせ似たような物だろう。
 だが、少し見てみたい気もする。
 一人ベッドの上で取り残され、康介はごくりと生唾を飲み込んだ。
「ち……千博……?」
 んー、と呻くも、千博が起きる気配は無い。
「おい……さすがにやばいぞ……女としてやばいぞ」
 言いながら、やばいのはどっちだ、と内心怒鳴る。
 康介は千博の被っている毛布に手をかけ、そろそろと下半身の部分を外気へと晒していった。
 ほっそりとした白い足が露になり、むき出しの太腿に目を奪われる。
 そして完全に毛布の下半身部分を捲られても、千博は身じろぎ一つしなかった。
 こちらも黒だが、想像していたよりずっと愛らしいデザインだった。真ん中よりやや左によったあたりに、小さな飾りのリボンが揺れている。
「……処女か……」
 ぽつりと、噛み締めるように呟く。
 いかん。処女はいかん。いかんいかん。
 頭の中で繰り返しながら、手が伸びるのは止められない。
 恐る恐る太腿に触れると、酒のせいでじっとりと汗ばんだ肌が吸い付いてきて、康介はたまらずむにむにと柔らかな太腿をもみしだいた。

 いれなきゃ、いいか――。

 そんな、無理やりな言い訳が康介の思考を支配する。
 康介は一旦千博から手を放すとそそくさと衣服を脱ぎ去り、再び――今度は改めて千博に圧し掛かった。
 千博の体は小さく、康介の腕の中にすっぽりと納まってしまう。
 自分の貞操の危機も知らずにぐうぐうと眠りこける千博に罪悪感を覚えないでは無いが、康介は最早止まらなかった。
 いいのか、俺。こんな形でいいのか、と激しく自問を繰り返しながら、千博の無防備な唇を奪う。
 酒臭いのは覚悟していたから問題ない。
 ふにふにとした柔らかな唇を甘噛みし、舌を入れて口の中を弄ると、千博は息苦しそうに呻いて顔を背け、眠たそうな目で康介を見た。
「あー……ゆめか……」
「うん。夢だ。だから大人しく寝てなさい」
 よし。助かった。
 なんとも都合のいい展開に心の中で思い切り握りこぶしを作り、康介は会心の笑みでぽんぽんと千博の頭を撫でた。
「だめだー。この夢はだめだー」
 夢でも嫌か。当たり前か。
 だめだー、だめだよう、と逃げようとする千博を押さえつける事もせず、耳たぶを噛んだり、太腿を撫でたりと十分に体を堪能する。
 失礼しますよ、と妙に事務的な台詞を吐きながらスポーツブラを鎖骨辺りまでずり上げると、ふっくらとした小さな膨らみがいかにも触って欲しそうにふるふると震えていた。
 我慢できず、いきなりその頂にしゃぶりつく。
「きゃぅう……! ぁ、やぁ……こーすけ、は、だめだよぉ」
 なんで俺はだめなんだ。俺限定でだめなのか。
 むっとして、尖らせた舌先でこりこりとした乳首を押しつぶす。
 ひん、と可愛らしい声をあげ、千博は康介の頭にしがみ付くように背を丸めた。
「だめぇー、だめぇー……! ちがうよぉ、こんなこと、したいんじゃ……なぃよお……」
 こんな夢だめなのに、と千博がめそめそ泣き始める。
 ますます苛立ってさらに激しく責め立てると、千博はびくりと肩を震わせ、ふるふると苦しげに唇を噛んだ。
「千博、触って」
 え、と千博が目を見開く。
 その手を下半身に導くと、千博は見る見る顔を真っ赤にし、いよいよ声を上げて泣き出した。
 泣くほど嫌か。いや、それも当然か。
 だが泣きながらも、千博は指示通り康介の物に指を這わせ、たどたどしい手つきで刺激を与えようと動いている。
 上手くは無いが、精神的にたまらなく気持ちよかった。
「それじゃあ、俺もお返ししないとな」
 言い訳がましく言いながら、いよいよ下半身に手をかける。
 下着の上からすりすりと割れ目をなぞると、じっとりと下着に染み出してくる物があった。
 いいのか、処女がこんなに濡れて。
「お前、もしかして自分でしてる?」
 かぁ、と今まで以上に真っ赤になって、唐突に千博が拳を振り上げた。
 どんどんと康介の肩を叩き、してない、してないと繰り返す。
「してるんだ……うわ、意外」
 そんな事を言いながら刺激を加え続けると、下着の上からでもくちくちといやらしい音がこぼれ始めた。
 康介が指を動かすたびに、千博の体が面白いくらい素直に跳ねる。
 いよいよ下半身を隠す最後の砦を取り払っても、千博はぐったりとして抵抗しようとはしなかった。
 これは夢だ、これは夢だ、と繰り返し。
 いれなきゃ大丈夫、と自分に都合のいい言い訳ばかりを並べ立てる。
 千博の両足を纏めて肩に抱え上げ、康介はとろとろとした愛液で光る茂みの中へ、滑らせるようにいきり立った物を突き入れた。
 にゅるりと愛液が絡みつき、動かなかった千博が甘ったるい悲鳴を上げる。
 赤く充血した柔らかな突起が、竿のあたりに触れているのが分かった。
 わざとそこを刺激するようにゆっくりと腰を振る。
 肩を浮かせてのけぞって、千博はいやいやと首を振って必死にシーツにしがみ付いた。
「ぁめ、も、やぁ……! こーすけ、こぅ、すけぇ……!」
「いいよ、千博、すげぇいい」
 ひくひくと、千博の入り口が疼いているのが分かった。
 とめどなく愛液があふれ出し、動かすたびにじゅる、ぐちゅ、と音がする。
 苦しげに、びくびくと千博の足が震えた。もうやめてくれと言うように、千博が康介の肩に手を突っ張る。
 目のくらむような開放感に全身を震わせて、康介は千博の体に精液をぶちまけた。
「ごめ……こーすけ、ごめ……」
 うわごとのように呟きながら、千博が気を失うように眠りに落ちる。
 しばらくぼんやりとその姿を見つめ、ようやく理性が戻ってきた頃、康介は恐ろしい罪悪感に頭を抱えて悶絶した。
 とにかく千博の体を綺麗に整え、何事も無かったかのように服を着せる。
 ショーツは洗って感想させてから着せる隠蔽の徹底振りに自分自身呆れたが、千博にばれて軽蔑されるよりはましである。
 適当に酔わせて「彼氏がほしいんだ」とか言わせて、だったら俺がという王道展開にもって行こうと思っただけなのに、まさかこんな事になろうとは――。
 康介はその日毛布も被らず、別の部屋の床で寝た。
 最低だ。異性と見れば腰を振るしか能のない頭の悪い馬鹿男である。千博に夢でさえ相手にしたくない男と思われて当然だ。
 後悔と罪悪感に苛まれ、別室で悶絶していた康介の耳に、千博の「ゆめじゃやだ」という寝言が届く事は永遠に無い。

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最終更新:2007年10月08日 02:57