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皆の声に、『それ』は言葉で答えることはない。 元より鋼鉄の塊に、心など有るはずもない。 だが、それでも、『それ』の姿は、人々の心に訴えていた。 尊く、気高い、大切な、「何か」の存在を、声無き声を張り上げて。 『それ』に蓄積された情報のかなたには、大切な、それが大切だと、なぜか確信できる、ひとつの言葉があった。 ―「人間を、守ってくれよ。××××」― 『それ』を作った誰かが、もう今では知る者もない『それ』の最初の名への呼びかけと共に発した言葉だ。 心無き『それ』は答えない。 だが、結果として『それ』は、ただひたすらにその言葉を遵守していた。 偉大なる造物主に与えられた崇高な使命であるかのように? 否。 それは違う。 それはきっと、約束だったのだ。 大切な人との、大切な約束なのだ。 神という絶対者から、一方的に与えられた使命ではなく、 自由意思の元、信頼と友情で結ばれた、血の通った、約束なのだ。 ゆえに『それ』は守り抜くのだろう。 たとえその身が破壊のための兵器として生まれ落ちたのだとしても。 絆を宿し、命を護るものを、なんで悪と呼べるだろうか? 闇より生じたもの総てが、穢れているとは限らない。 心無き存在の総てが、魂の気高さを知らぬわけでもない。 このゲームに参加する者たちの、良く知るとおりに。 鋼の体を震(奮)わせ、『それ』は、今また約束を守らんと前進を再開した。 (書:不破陽多)

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