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モンスターの飼い方

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<もんすたーの飼い方>

今日ものどかな越前藩国に、新たな住人がやってきた。
その、出来事。
事の発端は、我が藩国のマスコット、クレージュであった。

たたた、と城の廊下を走るかるい足音。見た目のわりには意外と俊敏なその音に、執務室で書類整理をしていた文士・Wishはメガネを押し上げて視線を上げた。
音もなく襖を開いて、珍しくおずおずと部屋に入ってくるクレージュに、Wishは微笑んだ。
「あら、クレージュくん。どうしたの?」
「wishおねえさま、おねがいがあります」
両腕に抱えた何かを差し出して、少年は上目遣いで、敬愛する先輩を見つめる。
その手にある物をまじまじと眺め、熟考してからようやく、wishは口を開いた。
「なぁに?ソレ」
「えぇと…その…、浜辺を月さまと一緒にタイヤを引っ張ってお散歩していたら…」
白くてあわい翠色の光沢の、ぷりぷりとした軟体。だが、細く鋭角的なラインも備えた、物体。
突然、白い部分の一部から、眼のようなものがぎょろりとWishを見た。
「イキモノ…なの?」
怪訝そうな問いかけに、クレージュは弾かれたように顔を上げる。
「浜辺をお散歩していたら、コレが行き倒れてたんです…かわいそうです、wishさま、お城で飼っちゃいけませんか…?」
涙目にさえなりながら、訴えるクレージュに、しかしWishにはそのまま是とはいえない理由があった。
臣下のお役目とは、時に、情を越えるものだ。
「お城と言っても藩王の自宅だからねぇ。ほら、藩王の自宅って小さいから自分の家で飼いなさいな」
そういってWishは、豊富な知識に基づいて、クレージュに生き物を飼うことについての訓戒を与えた。

さて、それから数日。
クレージュは藩王・セントラル越前にともなわれて、一日家をあけることとなった。
そのため、前日にクレージュはWishの家を訪れ、その生き物を預けていったのだが…。

おそらくクレージュの私物であろう、ちいさな水がめに入れられた、しろくぬめるもの。
順調か?と問うたWishに対し、クレージュは「えぇ、この子実は、おしゃべりするんですよ!」というクレージュの発言に心底度肝を抜かれたが、まさか冗談だろうと思いながらも何かを待つようについつい様子を伺ってしまう。

書き物の最中、ふと、ぱちゃん、という水音を聞いた気がして眼をあげる。
「あら…」
水がめの端にひっかかる、白いほそい爪。
「起きたのね」
さらに水音が重なったあと、いよいよその生き物は姿を現した。
『おい、腹が減ったぞな…』
のたり、と水がめから這い出た姿は、30センチほどの高さの奇妙な生き物。
(ほんとにしゃべったわ!)
内心、パニックをおこしかけながらも、文士のプライドにかけて踏みとどまる。
「えぇと…、でも、ここは仕事場だから、あんまり何もないのよ…」
『しかたがないのぅ…お手、したらくれるかの?』
声、というよりは意思による交感なのだろうが、それにしても弱弱しげなこの生き物の不思議な口ぶりに、思わずWishの口元に笑みがこぼれる。
(なんだ、ちょっとかわいいかも)
ちょっと手をさしだしてやると、のたり、ぺたりを手らしき部位を懸命に伸ばしてくる。
(か、かわい~~~!!)
「ねぇ、おまえ、何食べるの?」
ほころんだ顔でのぞきこむWishに、生き物はきょろりと眼を動かした。
『みかん』
「えぇ~!、海の生き物なら、海産物じゃないの?」
しばし思案するように視線をめぐらして、ふたたび生きものがはなしかけてくる。
『じゃぁ』
『もずく。…三杯酢で』
「もずく……いや、確かにもずくって海草だけど……三杯酢でたベルの?」
『たべルの、のだ』
微妙な空気のやり取り。
そういえば、とWishは執務室の冷蔵庫にしまってあったものを思い出した。
たしか、浜辺の付近を見回りもかねて散歩していたときに、地元に住むおばさまに頂いたものだ。
「……私の一杯のおつまみで良かったら…… 」
ちょっぴりお酌を、というときのために取っておいたものだが、まぁ、仕方がない。
どうやって食べるのかと見ていたが、
にょろり・ぺたぺた…と、生き物はなかなかに器用に、三杯酢に浸されたもずくをすくい上げている。
「あらまぁ、本当に食べているよ……」
と、そこで。
急に生き物はビクリとひとつ震えると、動きを止めた。
『む…みさいるが、じゃま、ぞな』(しょぼん)
「って、ミサイル搭載なの!! 」
Wishの驚きが聞こえぬように、仕方なさそうな様子で生き物は、一つずつ丁寧に、口内のみさいるを取り出して、ならべて、改めて食し始めた。
「ねぇ、きみ。聞いてもいいかしら?そのミサイルも…ひょっとして成長するの?}
興味本位で問うてみたWishに、いきものはややとまどった様子で眉(?)をしかめた。
『みさいるは、さいしょはコメツブの大きさダガ…おっきくなるぞ、なんとニンジンやダイコンよりも…』
ぺたぺた・にょろにょろ。
「そういえば伝説で聞いたことがあるわ…我が越前の海に住まう、おおきな生き物の話を。…30mくらいになるという話だけど、そうなったらミサイルは、一体どうなるのかしら?」
にょろ…
途中でその手(触手?)が動きを止める。
ふと、生き物は顔を上げ、そして答えた。
「ウム…ム…まだなっていない、から、ワカラナイが、…おおきくしてくレれば、みせてやロウ。もずくの、お礼に、だぞな」
真摯な言葉がWishの胸を打つ。
心は、誰しも同じく尊いのだ。だが…
「 いえ、遠慮しておきます……というか大きくなったらどうしよう(笑) 」
すくなくとも、ただ大きくなる、というだけで。この城くらいは壊れてしまいそうだ。
「おおきク、なってハイケナイの、か……」
Wishの言葉を聞くや、いきものはかなしそうな目で、みつめてくる。
悪いことをしたのがこっちだとさえ思ってしまいそうな目で。
「いや、あの……反則よ、そんな目で見られたら、ダメなんて言えないじゃない」
苦笑めいた微笑みをこぼしながら見やるWishに,いきものは少しおいてこう言った。
なにかを決断した者のような声で。
「教えテやろう、飼いヌシのトモダチ…大きくなってならナイならば、メカブはたべさせるナ。おおきクなるゾ。オレは、がまんずる…ぞな」
こころなしか、拳をぎゅっと握り締めているようにも見えるいきものの姿に、Wishは漢を見た。
「まぁ、…クレージュ君がかえってくるまで、まずはゆっくり体を休めなさい?まずは体をととのえなきゃ。なにか、他に食べたいもの、ある?」
問うWishに、いきものは白い体を、器用にもわずかに薄紅に染めて、答えた。
「みかん。」
「たべたいのね、よっぽど」
ふふ、と笑う文士殿に、いきものはもじもじと恥ずかしげに手をすり合わせて、こうと答えた。
「おいしい、ト、聞いたことがアる…あこがれ、ダ、ぞな…」
ならば、それに答えてやろう、と、Wishはみかんを取り寄せるため、連絡をした。

そして翌日。
クレージュが戻ると、水がめから出たいきものが、うれしげに手を差し出し、クレージュはそれをよいしょ抱き上げた。
「あれ?ちょっと重くなってない??」
いきものの体は、あわくみかん色に染まっていた。
そして、Wishの指も同じく。
どれだけのみかんを剥き、そして食したのか。

そのときに出た大量のみかんの皮は、そのまま温泉へ持ち込まれ、ネットに入れられて湯船に浮かべられた。
みな、その温浴効果にすっかりぽかぽかになり、国内では、みかん湯が流行したのは言うまでもない。


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