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モンスターの飼い方~Wish視点~

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Wish日記~モンスターの飼い方編~

○月○日
 本日一信
 藩王様より外交巡察官の任務を拝命されてしばらく立った後のことです。私はいつものように執務室にいました。この執務室は外交機密情報も扱う必要があるため特別に藩王様に頼み込んで一つ開けてもらったものです。
 そこでいつものように入手した外交情報の整理と分析をしていたのですがそこへお客さんが来訪しました。クレージュくんです。クレージュくんは15歳ぐらいの少年でもともとは伏見藩国の少年です。
 しかし先の伏見藩国の崩壊で負傷していたところを我が軍が保護。恩義を感じたらしくそのまま私達にくっついてきています。そのクレージュ君がやってきました。

「あら、クレージュくん。どうしたの?」
「wishおねえさま、おねがいがあります」

 取りあえず机の上の書類は裏にして見えないようにします。
 クレージュさんは脇に変な物を抱えています。大体30センチ四方でしょうか。

「なぁに?ソレ」
「えぇと…その…、浜辺を月さまと一緒にタイヤを引っ張ってお散歩していたら…」

 おずおずとした声で言っていますが、よく見ると尻尾が勢いよく左右に揺れています。尻尾を触りたい欲望を必死に抑えます。クレージュさんは私に抱えていた物体を差し出しました。どれどれと覗くとそこにはイカに似た変な生き物がおります。

 「イキモノ…なの?」

 思わず怪訝な声を出してしまいました。きっと顔面が蒼白になっていたでしょう。

 「浜辺をお散歩していたら、コレが行き倒れてたんです…かわいそうです、wishさま、お城で飼っちゃいけませんか…?」

 クレージュ君がうるうるとした瞳で私を見上げてきます。あまりのかわいさにおもわずくらりとしました。お稚児さんの趣味はないはずですがこの表情はあまりにも凶悪です。だめよ、だめ。気をしっかりと持って、Wish。誘惑に負けて彼をお持ち帰りしたら行けないわ。
 私は気をしっかりと引き締めるとあえて厳しい声を出します。

 「お城と言っても藩王の自宅だからねぇ。ほら、藩王の自宅って小さいから自分の家で飼いなさいな。」

 たしかいくら藩王付きでも自宅は当然あります。私の記憶が正しければ彼の家は独身住宅があてがわれていたはず。もっとも寝るだけに帰るだけだから広くはありませんが。
 私はその後生き物を飼うことについて様々な薫陶を与えました。もっともこいつは何を食べるんだろうと思いながら。

○月⊿日
 本日一信
 さて、本日は休みです。しかし休みとはいえ見ないと行けない報告書は山ほどあります。そのためほぼ自宅の書斎に閉じこもって報告書を見ていました。山崎からの報告書は良いものです。彼女は人脈やら知識やらを使い越前の黒社会に食い込んでいる。このようなダーティージョブは彼女が適任ですね。この国の藩臣達はまっすぐなものが多いです。それは正しいことなのですが、私が必要な情報は得られません。この点山崎のような清濁併せのむ気質は大変助かります。私は彼女に返事を書いていました。
 近くの水瓶でぽちゃりと音がします。私の家にペットは居ないのですがクレージュ君が昨日例のイカに似た生き物を預けに来たのです。どうやら昨日、今日と藩王様に従ってイワヤト温泉郷に行っているはずですが。
 私は水瓶に目を向けました。

 「あら……。」

 水瓶にほっそりとした白い爪がひっかかっています。

 「起きたのね。」
 『おい、腹が減ったぞな…』

 驚きました。この子は喋ったのです。たしかに前にクレージュさんから喋ると聞いていましたが……本当に喋るとは。何とか文士のプライドにかけて抑えます。

 「えぇと…、でも、ここは仕事場だから、あんまり何もないのよ…」
 『しかたがないのぅ…お手、したらくれるかの?』

 なんか発声器官から声を出すというより脳みそに直接響いてくる感じです。不覚にもそのちょっと弱々しいおどおどした感じに可愛いと思ってしまいました。手をちょこっと差し出すとぺたりと手と思われる器官を載せてきます。可愛いです。しかしクレージュさんはこんな事をしこんでいるのでしょうか。

 「ねぇ、おまえ、何食べるの?」
 『みかん』

 おそらく目と思われる感覚器官がきょろりと動きます。というか蜜柑?蜜柑って木になるものよね?

 「えぇ~!、海の生き物なら、海産物じゃないの?」

 謎の生き物はしばし考えるようにきょろりと首(?)を傾げます。

 『じゃぁ』
 『もずく。…三杯酢で』
 「もずく……いや、確かにもずくって海草だけど……三杯酢でたベルの?」
 『たべルの、のだ』

 思わず変な風に訛ってしまいました。しかもその訛りを忠実に再現をする謎の生き物。いや、たしかに書斎には息抜きのためのお酒とそのおつまみのもずくがあります。朝、見回りと称して散歩したときに地元のおばさまに戴いたものです。

 「……私の一杯のおつまみで良かったら……」

 生き物はにょろにょろぺたぺたと器用に三杯酢に浸されたもずくを器用に口と思われる器官に運んでいきます。

 「あらまぁ、本当に食べているよ……」
 『む…みさいるが、じゃま、ぞな』
 「って、ミサイル搭載なの!! 」

 今日何度目かの驚きです。しかも今回の驚きは今まで比ではありません。なんとミサイル搭載です。この子はまさか軍の研究所から逃げ出した生物兵器なのでしょうか。一度越前のバイオ工学研究所の査察をするべきです。生き物は口の中から米粒くらいのミサイル(?)を取り出して並べると再び食べ出しました。私はふと疑問に湧きました。

 「ねぇ、きみ。聞いてもいいかしら?そのミサイルも…ひょっとして成長するの?」  『みさいるは、さいしょはコメツブの大きさダガ…おっきくなるぞ、なんとニンジンやダイコンよりも…』

 その言葉で先日語り部のお婆さまから聞いた話を思い出しました。

 「そういえば伝説で聞いたことがあるわ…我が越前の海に住まう、おおきな生き物の話を。…30mくらいになるという話だけど、そうなったらミサイルは、一体どうなるのかしら?」

 この子が本当にその伝説の生き物なのか、バイオ工学研究所の連中がおもしろがってその伝説を模したものかは分かりませんが。
 謎の生き物がわたしの言葉に動きを止めます。

 『ウム…ム…まだなっていない、から、ワカラナイが、…おおきくしてくレれば、みせてやロウ。もずくの、お礼に、だぞな。』

 声の調子に真摯なものが混じります。この子の心は貴いものですが……

 「いえ、遠慮しておきます……というか大きくなったらどうしよう。」

 緊張に堪えきれず笑みが混じりました。相当引きつっているとは思いますが。

 『おおきク、なってハイケナイの、か……』

 聞こえてくる声に寂しいものが混じります。この子の瞳も悲しそうです。駄目です、私はこういう目を向けられると弱いです。

 「いや、あの……反則よ、そんな目で見られたら、ダメなんて言えないじゃない。」

 笑みが苦くなります。本当に参りました。その雰囲気を察した謎の生き物が真摯な声を出しました。

 『教えテやろう、飼いヌシのトモダチ…大きくなってならナイならば、メカブはたべさせるナ。おおきクなるゾ。オレは、がまんずる…ぞな。』

 謎の生き物は決意に満ちた声を出します。この子は本物の漢だ。姿格好は関係ありません。漢の意志さえあればすなわち漢なのです。私は不覚ながら感動を覚えました。

 「まぁ、…クレージュ君がかえってくるまで、まずはゆっくり体を休めなさい?まずは体をととのえなきゃ。なにか、他に食べたいもの、ある?」
 『みかん。』
 「たべたいのね、よっぽど。」

 生き物はちょっと肌を桃色に染めて言いました。なんだか可愛らしくて自然と笑みを浮かべます。

 『おいしい、ト、聞いたことがアる…あこがれ、ダ、ぞな…。』

 もじもじと手を擦りあわせて謎の生き物が言いました。わたしは家令を呼ぶと至急蜜柑を買いにいかせました。

○月□日
 本日一信
 今日、謎の生き物をクレージュくんが引き取りに来ました。やはり飼い主が良いのか謎の生き物は水瓶から手を出し、クレージュ君はよいっしょと持ち上げました。

 「あれ?ちょっと重くなってない??」

 謎の生き物は体を蜜柑色に染めていました。そして私の指先も。調子に乗って何十個も食べさせた私へのささやかな罰でしょう。

 「ねぇ、クレージュ君。この子の名前決まっている?」
 「いいえ?」
 「私思いついたの。この子の名前は……」

 チビクレ。これで決まりです。あと、メカブのことを教えなくっちゃ!


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