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 それは祭りの序盤でのことであった。

 朝、各露店が出店準備にいそしむなか、不意に周囲がざわめいた。謎の一団が手に建築資材を持って現れたのである。しかもどう見ても普通の人間では扱えないような大きな建築資材すら楽々と持っている。

 「どこだい、ありゃ。」
 「ありゃぁ、越前さんのサイボーグだ。」
 「越前って……わんわんじゃないか?!」
 「ああ。だけど……参加するらしい。」

 越前のサイボーグ大工達は出店予定地に到着をすると一息つく間もなくあっという間に屋台を組み立ててしまった。しかもそれは屋台と言うよりどこからどう見ても完全な店であった。

 「……やり過ぎでしょう。」

 歩いてきた黒髪の眼鏡をかけた女性がそれを見て苦笑を零す。彼女の背後には大荷物を持った青年や少女が同じように苦笑を零している。彼女に話しかけられたサイボーグ大工の若き棟梁、空木虚介は照れたように笑みを浮かべた。

 「ああ、これはWishさん。いやぁ、職人魂が疼いちゃって。店の奥にはちゃんと休憩スペースもあるし、そのほかいろいろ売りやすいように整えたっすよ。」
 「いや……私達、別に此処で本格的に店を開こうという訳じゃないんだし。」
 「まぁまぁ、快適に商売ができるんだから良いでしょう。」
 「まぁ、ねぇ。」

 Wishは頭一つ振ると後ろの青年や少女達に声をかけた。

 「さ、準備をお願い。」

 サイボーグ大工達の帰宅を見送ると次々に準備を始めていく。店先にはどんどん品物が並んでいった。良くお土産にあるような饅頭、木刀、ペナントはもちろん越前にしかない特別なお土産まで。
 人数が多いが貧乏な越前は、昨今の大量支出によりとうとう国家経営が圧迫。やむなくこういった祭りに積極的に参加し少しでも外貨収入と、越前の名を売って観光客の呼び込みをするためのアンテナショップを設置することが決まった。
 その陣頭指揮に立っているのが外交官として各国を駆けめぐり、そして今も参謀として同じく各国を駆け回っているWishなのであった。

 「Wishお姉様、準備終わりました。」

 店の奥で経理担当の鴻屋心太と話し込んでいたWishに店番担当の椚木閑羽が声をかける。

 「あ、分かったわ。じゃぁ呼び込みして頂戴。」
 「は~い」
 「ところで夜薙さんは?」
 「さっきまで開店準備を整えていたんですけど、船を見に行くっていって外へ……。」
 「ああ、分かったわ。彼は砂帆船レースにも出場するからね。そっちに専念させて。」
 「はい。」
 「じゃぁ、鴻屋君。あなたもお店の方へいって。私はちょっと無名騎士藩国の担当者さんと話しをしてくるから。」
 「はい。いってらっしゃい」

 Wishが担当窓口に行くと各自も売り込みをはじめた。

  ○  ○  ○

 「いらっしゃい、いらっしゃい!楽しいお土産もあるよ~」
 「な~、な~、あんちゃん。ちょっといい?」
 「ん~、なんや?」

 鴻屋に少年が声をかけた

 「このウサギ饅頭、何でマスクをしているの?」
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 「ああ、これか?おもしろいやろ~。これなぁ、うちの藩王はんなんや。」
 「うっそだ~」
 「ほんま、ほんま。嘘なんかついてへん。ほんまマスクを被ってるっちゅうねん。ほれ、これ見てみぃ」

 鴻屋が差し出した藩王プロマイドには確かにマスクを被った藩王が映っていた。
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少年はそれを見て絶句をする

 「……本当だ……。」

  ○  ○  ○

 閑羽に声をかけたのは中年の紳士だった。

 「これ、君。」
 「はい、何でしょうか。」
 「これは……何かね?」
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 「これは鬼切りのレプリカです。」
 「鬼切り?お握りではなくて?」
 「はい、鬼切りなんです。越前には、鬼切りという特殊な武器があって、鋼米という普通に水分を与えれれば美味しいお米なんですが、ひとたび汗を与えるとすごく硬くなるお米からできあがった武器兼携行食品があるんです。もちろんこの売っている物はそのレプリカですから汗を与えても硬くはなりませんが、その分たまに外れが入っていますから気を付けてくださいね。」
 「ハァ、米が武器にねぇ。ん?外れ?」
 「はい、たまに舌が焼けるほど辛い具が入っていますから。」
 閑羽がにこにこと笑いながら言った。

  ○  ○  ○

 この二人ほど積極的ではないがそれでもマイペースに客引きをやっていた灯萌にも客が来た。中年を過ぎた辺りの女性である。

 「ちょっと、お姉さん。」
 「ん?はい?」
 「この湯ノ花、普通とは違うようだけど?」
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 灯萌は急に笑顔が大きくなる。実はこの灯萌、温泉が大好きなのである。

 「お客さん、通ですねぇ。違いが分かるなんて。」
 「それほどでも~。」
 「実はですね、越前は温泉が有名なんですが、この湯ノ花はその温泉の効果が抜群にはいっているんですよ」
 「ほうほう。」
 「実は越前の温泉には理力が混じっていましてね。その理力により体のみならず心まで元気になるんですよ。それも不必要なまでに!!お母さんも心が疲れたときあるでしょう?そのときこの湯ノ花を混ぜて入浴するともう翌日には元気復活ですよ!」
 「それは良いわねぇ。ねぇ、これとこれも買うから勉強してくれない?」
 「う~ん、それはちょっとねぇ。ほら、うちらも商売だし……ただ、お母さんは話が分かる人だから……これを足してこのぐらいでどう?」

  ○  ○  ○

 灯萌が熾烈な価格交渉をはじめた頃、ようやっと夜薙が帰ってきた。

 「……頑張っているな。」

 周囲を見て一言呟く。ふとそこへ焼酎を見入っている男性が目についた。

 「買いますか?」
 「ああ、今迷っています。これはどのようなお酒ですか?」
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 「これは越前特産の焼酎で『越前殺し』です。そうですねぇ、味は辛口で爽やかなのどごし。癖も少なくて、米の薫りが特によいですね。」
 「お、それは旨そうだ。店員さん、味見用はないのかい?」
 「ありますよ。どうぞ。」

 その後、店内にもかかわらず夜薙は客と酒盛りをはじめてしまった。

  ○  ○  ○

 Wishが戻ってきたのは夜も遅く、その日の終盤になって頃合いである。
 みんな疲れていたが、その額には快い汗が流れていた。(ただ一名は酔いつぶれ寸前ではあったが)

 「みんな、お疲れ様。頑張ってくれたわね。って、夜薙さんは?」
 「ええ、はい、Wishお姉様。これ今日の売り上げです。夜薙さんは僕たちがお酒が飲めないので1人でお酒の味見客を相手にしてくれたんですよ。」

 鴻屋の差し出した帳簿を見てWishは目を見開く。

 「あら、これはすごい売り上げね。……本当、みんなお疲れ様。」

 Wishの笑顔とともの心の底からの労いに全員がそれぞれ嬉しそうな表情を浮かべる。Wishはその顔を見ると持ってきた段ボールを開けた。その中にはたくさんの夜店で買った食糧があった。

 「これは私のささやかなりのお礼。さぁ、これを食べてみんなあしたも頑張りましょう!!」
 「おー!!」


 こうして祭りの夜は更けていった


(文責:Wish 挿絵:鴻屋心太)