昼休み、朝比奈みくるの異時間同位体と入れ違いに文芸部室に入った。 
そこに彼は居た。

 朝倉涼子の異常動作、こちらの不手際、にもかわらず彼は
「長門 昨日はありがとよ」
 そう言ってくれた。 また、帰り際に
「やっぱり、眼鏡は無い方がいいぞ」
 とも言っていた。 その言葉の意味するところは正確には把握できないけれど、
その時、心臓と呼ばれる臓器の鼓動が通常に比べて早くなったことは確認できた。


 鈴宮ハルヒの観察に重点を置くため、極力、対外的コミュニケーションを避けてきた。
それは他のバック・アップ・インターフェイスに対しても同じこと。
三年間、私はずっとそうやって生きてきた。

 昨日、朝倉涼子の暴走を阻止するために、彼女の作った情報制御空間に進入したとき、
初めて他の個体と物理的な接触が発生した。
また、有機生命体との物理的な接触は、予想し得なかった新たな情報を私にもたらした。
その時のデータが、先程の彼の言葉によって、唐突に再ロードされ始めた…。

 ─── ………

 ─── 彼にもう一度触れたい………。

 ─── 肌と肌の直接接触……。

 ─── あの時の感触…。


 そんな言葉がバグのように神経野で点滅を繰り返す。
心臓の鼓動、脈拍の加速…、僅かな体温上昇と発汗作用が伴う…… 何故?

 何か衝動めいたものを感じ、体が自然に動き出す。
あの時のように、あの時の体勢と同じように、身体が動いてしまう……… 何故?

 ドアが開いた。

「そうそう、長門 ───?」

 突然の彼の進入。 私はその体勢のまま静止してしまった…。


 ─── 不覚。


「…………」

「な、長門!?   …… それ … 回し蹴りの練習か?」



 

終わり。
最終更新:2007年03月16日 01:28