夜の植物町、とあるファミリーレストランにて。学校帰りの高校生で溢れ帰る席の一つに、高校生くらいの男女が腰掛けている。
 一人は、喫煙席のテーブルに肘を突いている眼鏡をかけた少年。紺色のデニムジャケットを赤いTシャツの上に羽織り、迷彩柄の野球帽をつばを後頭部に向けて被っている。
 向かいの席に座っているのは、デコを光らせている三つ網少女。同じく眼鏡をかけており、膝丈ほどある若葉色のワンピースを着ている。ロボロボ団四天王親衛隊の一員、「長野クルミ」だ。
 「…………なぁるほどな。要はお前、その鷹栖斗的ってやつに負けたわけか」
 少年は静かに口を開き、パッケージから紙煙草を一本取り出してくわえる。クルミは気まずそうに目を伏せ、黙ったままだ。少年は意地の悪い笑みを浮かべ、言葉を続ける。
 「いっひっひ、どうしたぁ〜? ロボロボ団の風紀委員さんがよぉ〜。普段の偉そうな態度が欠片も見えないじゃねぇかよぉ♪」
 くつくつと愉快そうに笑い、少年は煙草に火を点ける。
 が、クルミは一言も言い返さない。やがて、ぽつりと呟く。
 「何も申し開きはございませんわ……。わたくしは負けた、これは事実ですから……」
 そう。クルミは、植物中学校にて斗的とロボトルし、いいように踊らされた。あれは紛れもない敗北。組織の備品であるブラックメイルまで持ち出して任務に失敗するなんて、幹部であるクルミにとって許されないこと。
 「ばーか」
 「え? ―――― ふゃっっ?!!」
 クルミが顔を上げた途端、額に衝撃が走る。思わず、涙目になる。
 これは……デコピン?
 「なっ……なにをするんですのスイカっっ!!」
 「お前らしくねぇんだよ、タコが! ラストの乱入でロボトルがドローになったんだろ? だったら、負けじゃないだろが!」
 スイカと呼ばれた眼鏡の少年は、クルミの頭にポンと手を置き、優しく撫でる。
 「安心しな、俺が全て片付けてやっからよ!」
 「す、全てって……?」
 「仇とってやる、って言ってるんだよ。このロボロボ団四天王が一人――」
 スイカは、煙草の灰を灰皿にトントン落とし、不敵に笑う。
 「伝助スイカ様がよォ……!!」
 その時、

 ―――― スイカの右手に、ガシャリと手錠がかかる。

 「…………へ?」
 情けない声を発し、スイカは目を点にする。
 ふと横を見れば、真っ白な軍服に身を包んだ二人組みの男が立っている。国の平和を守る警察組織「セレクト防衛隊」の方々だ。
 「未成年者喫煙の現行犯で、逮捕であります!」
 「いや……その…………、そこの床に消えてない煙草が落ちてたから、消火作業を……」
 スイカはパクパクと、金魚のように口を開け閉めする。が、こんな言い訳が通じるほど、セレクト防衛隊はアホでない。
 「ちょっと署まで来るであります!」
 「ちょっ、まだ火を点けたばっかなんだよッ!! せめて一口だけでも…………うわぁあああああああッ!! 助けてクルミぃいいいいいいいいいッ……!!!」
 泣き叫びながら、スイカはずるずるとセレクト隊員達に連行されていく。
 「はぁ……、先が思いやられますわ……」
 クルミは呆れたような視線をスイカに送り、大きな溜息を吐いた。



 ……かくして、悪は滅びた。
 よい子のみんな! 煙草は20歳になってからだよ!



メダロット



Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!」



原案:ブッチョンブッチョン&流離太

文:流離太





 前回までのあらすじ。
 ツンデレンジャーってサブタイ、ぶっちゃけ時期はずした気がする。



 ノブ太との戦いが終わり、植物町は深い夜の闇に覆われていた。
 時刻は午後六時を回ったところ。住宅街の周りを散策すれば、ふんわりカレーの匂いが漂う時間帯。空にはガラス片を散りばめたかのような満天の星が瞬き、家々の窓には仄かな明かりが灯っている。
 そんな植物町の一角にある、鷹栖斗的の家でのこと。
 「きゃぁああああああああああああああああああああっっ!!!」
 鼓膜を突き破るほど鋭いソプラノ声が、家を震わす。鷹栖家の家事担当メダロット、マイドの悲鳴だ。
 「あべしっっ?!!」
 「な、なんジャンこの超音波は……ッ!?」
 「み……、耳が痛い……」
 居間でくつろいでいた磨智、ガマン、サラ、シアックはいずれも両手で耳を押さえている。どうやら、全員撃沈されたらしい。
 ……いや、一人だけ無事な人間がいた。蜜柑だ。
 「いやぁ〜、すごい悲鳴だったね! ねぇ、誰か測定器で測ってなかった? 今の何ヘルツかすんごい気になるんだけど!」
 目を輝かせながら下らないことを言い出す蜜柑を無視し、一同は悲鳴の聞こえた台所へ目を向ける。そこには、ワナワナと震えるマイドが。
 「ど、どうしたんスかマイドさん……?」
 緊張した面持ちで、磨智は聞く。いつもおっとりしていてマイペースなマイドの悲鳴なんて、今まで聞いたこともない。これはもしかして、余程のことがあったのでは……?
 場に、しばしの沈黙が訪れる。
 間もなく。マイドは、静かに、それでいてはっきりした声を発する。

 「…………斗的ちゃんの下着、そういえば買ってなかった……」

 その場にいたマイドと蜜柑以外の全員がずっこけたことは言うまでもない。
 「うっ……うぅっ……、私としたことが……。斗的ちゃんの着せ替えが楽しくて、つい下着のこと忘れちゃったわ……っ」
 「どうでもいいじゃろそんなもんっ!! そんなことで一々悲鳴を上げるなっ!! おぬしはあれか? 斗的坊ちゃんの下着がないと死んじゃう病かなんかかッ!?」
 しくしくと泣き出すマイドに、ガマンは甲冑に覆われた肩をいからせながらツッコミを入れる。が、マイドはひるまず、逆にガマンをエメラルド色の瞳でキッと睨みつける。
 「ダメなのぉ! 早くブラしないと、斗的ちゃんのほわわんバストが型崩れしちゃうのぉ! それに、斗的ちゃんには女の子の自覚ってものを身に着けてもらわないと……」
 「いらんじゃろそんなの!! どうせ、斗的坊ちゃんはすぐ男に戻るんじゃから!!」
 「そんなのいつになるかわからないじゃなぁい! 私は、斗的ちゃんが女の子としても生きていけるようにお世話する義務があるのよ!」
 「だからそれが余計なお世話と言っておるのじゃっ!! 斗的坊ちゃんは、絶対男に戻るんじゃっ!!! 斗的坊ちゃんが生まれた頃からお世話をしているわしが言うんじゃから間違いないっ!!!」  「だぁ〜かぁ〜らぁ〜こっちだって、根拠がないって言ってるじゃない! それに、斗的ちゃんとの付き合いなら私だって、幼稚園からずっとお世話してたから知ってるわよっ!」
 「ちょっ、ガマンさんにマイドさん、落ち着いてっ!! クールになるっスよっ!!」
 斗的の教育問題で争うガマンとマイドの間に入り、磨智は互いをなだめようとする。
 「あっはっは〜、磨智も大変だね!」
 「も〜、蜜柑も黙って見てないで、喧嘩止めるの手伝うっスよ〜!」  「でもさぁ、お互い納得できるまで話す機会も大切なんじゃない? ……とりあえず、あたしは疲れたから休憩〜」  蜜柑は、仕事帰りのサラリーマンのように、ドカッとソファーに腰掛ける。スカーフは緩められ、投げ出された足の間からはスカートの中が見えそう。
 「蜜柑ちゃん、女の子がはしたないことしちゃダメ! 女の子になり立てで不安定な斗的ちゃんがマネしたらどうするの! めっ」
 どうやらマイドの発言は、最終的に斗的へと行き着くらしい。
 「そうっスよ…………一応、女の子なんだから……」
 磨智は顔を赤らめながら、蜜柑から目をそらす。すっかり忘れていたが、磨智だって健全なオトコノコ。例え相手が幼馴染の蜜柑とはいえ、目のやり場に困ってしまうのは当然かもしれない。
 そのように初心な態度を示す磨智を見てSっ気が刺激されたのか、蜜柑は眼鏡の奥にある瞳を三日月のように細める。
 「磨智ぉ〜、どうしたのぉ〜? 昔は一緒にお風呂に入った仲じゃなぁ〜い♪」
 「そ……それは昔のことっス! 」




[エンドロール]

 原作――ブッチョンブッチョン&流離太
 原案――ブッチョンブッチョン&流離太
 脚本――ブッチョンブッチョン&流離太
 演出――流離太

 キャスト:
 鷹栖斗的――桑島法子
 フォレス――朴ロ美
 愛媛蜜柑――仙台エリ
 成城磨智/ラスト――沢城みゆき
 マイド――鈴木真仁
 ガマン――西村知道
 シアック――松風雅也
 富良野葡萄――緑川光
 伝助西瓜/敵A――草尾毅
 ブルー・ベリー ――中原麻衣
 ルシファー /ロボロボ団員――難波圭一
 サラ――水原薫
 栗ノ木格ノ進――吉田小南美
 マスコットキャラ(コンビニ店員)――伊藤健太郎

 キャラクターデザイン――ブッチョンブッチョン&流離太
 タイトル――流離太

 オープニングテーマ
 『Everlong』
 作詞:デイヴ
 作曲:デイヴ
 歌:フー・ファイターズ
 RCA

 エンディングテーマ
 『カブトムシ』
 作詞/作曲:AIKO
 編曲:島田昌典
 歌:AIKO
 ポニーキャニオン


 制作――柿ノ木レオの心霊ファイル

 監督――流離太












[次回予告]

 「ア〜アア〜」

 ―― 斗的が歌う!

 「しょえ〜!!」

 ―― 斗的がギャグる!!

 「とりゃ〜〜〜っ!!!」

 ―― 斗的がうなる!!!

 「あ〜あ……」

 ―― 作者がメンドくさがる!!!!

 「いや、メンドくさがっちゃダメだろ」

 ……お、お楽しみに!?


→Episode4「ぶっちゃけ眼鏡率多くない?」





 「メダロット登場キャラ名鑑(その3)」
●名前:マスコットキャラ
●性別:♂? ●年齢:不詳(推定30代後半)
●出身地:不詳 ●所属:全日本モブキャラ協会
●一人称:ボクちゃん ●血液型:不詳 ●誕生日:不詳
●家族構成:不詳
●身長:200cm
●好きなもの:自分
●嫌いなもの:自分
●趣味:変態ごっこ
●イメージカラー:どどめ色
●イメージボイス:伊藤健太郎
●テーマソング:にっぽん昔ばなし(花頭巾)
●容姿:スキンヘッドで口ひげを生やした、筋骨隆々の大男。姿は演じる役によって変わるが、普段はジーンズに白いトレーナーというスタイル。
●交友関係:多数。
●履歴:
 ブッチョンブッチョンの描く漫画内によく登場するキャラ。名前の由来は「こいつなんでこんなに出てるの?」という流離太の質問に「ああ。そいつ俺の漫画のマスコットキャラだから」とブッチョンブッチョンが返して以来、「マスコットキャラ」と呼ばれるようになった。
 メダロットMでのモブキャラを全てこなしているが、彼自身の身元はわかっていない。一説によるとその正体は「冥界の王ハデス」であるとされているが、真偽は定かでない。もし噂が本当ならば、殺されても殺されても次の瞬間には復活するという彼の不死身体質も納得がいく。……単に無敵の魔法「ギャグ補正」の効果だと思うが、いかがだろうか?
●作者から一言:
 ブッチョンブッチョンに頼み込み、出演許可をとったキャラです。とにかくうざいです。でも、面倒くさいモブを一々描写しなくていいので便利です。
 ……ていうかこのキャラ、ノリで考えられたはずのキャラなのになんでこんなに出張ってるんだろう。





 「サラと格ノ進のメダロット教室(第参回)」

格ノ進「さぁ、やって参りました第参回っ! アシスタントの『栗ノ木格ノ進』と!」

サラ「ども〜、解説役のセーラー服美少女型メダロット『サラ』です。……生き残れてよかったな、この企画」




※「(2ch)用語辞典」
・スマソ――「スマンの『ン』の部分を『ソ』に変えた言葉。意味は、『ごめんなさい』」




{あとがき}

 流「」
 ブ「」