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第1話 - (2011/10/02 (日) 18:33:34) のソース

<p><span style="font-size:12pt;line-height:250%;"><br /><br /><strong>  第1話 @ 作者 : 望月 霞</strong><br /><br /></span></p>
<p><span style="font-size:12pt;line-height:250%;"> 仕事でいう、おそらく転勤をいわれた。<br />
「君、明後日から霧生ヶ谷の高校ね」<br />
「はっ?」<br /><br />
――いや~、参ったわ。意味不明なこといわれたからって、校長に「はっ?」はないわね。<br />
朝っぱらから呼び出されたものだから、何かと思ったけれど。<br />
あ、ごめんなさい。私、藜御 楓(あかざみ かえで)っていうの。都立玖珂(くが)高校に通う2年生よ。<br />
教室に戻った私は、クラスメートからのどよめきに歓迎された。<br />
「藜御さん! どうしたのっ」<br />
「委員長がつるるん直々お呼び出しなんて超めずらしい」<br />
「なになに!? カッコいい転校生でも入ってくるの!?」<br />
主に女子集団に囲まれたが、私も同じ性質を生まれ持っているので、気持ちはわからなくなかった。<br />
「霧生ヶ谷の高校に転校だって」<br />
「へっ? どーゆーこと?」<br />
「わからないけど。抗議したら、もう決定事項だって。わけわからないわ」<br />
両手を広げながらわざと肩を大きく上下する。あまりの理不尽さに、教室自体が呆れ返ってしまった。<br />
……まあ、一部はうれしそうだけど。とりあえずにらみつけて黙ってもらったあと、話を続ける。<br />
「向こうの高校を取りまとめてほしいだの何だって言われたのよ」<br />
「何それ? そんなもんそっちでやればいいのにね」<br />
まったくである。つるるん、ならず校長センセからは、君のクラスをまとめる力を買われてたんだ。我が校には痛手だが、君の将来の為でもある。ぜひ頑張ってきてほしい、と伝えられた。<br />
余談だが、社会人の知り合いが、つい最近に似たようなことを告げられたらしい。<br />
「とにかく、準備があるから今日早退するわ。あとよろしくね」<br />
「いつ転校しちゃうの?」<br />
カバンに荷物を入れている最中に言われた言葉。私は普段どおりに返事をした。<br />
聞いた周囲は驚きの声と、職権乱用だー、だの何だのと騒ぎ、私は声に押し出されながら教室を後にした。<br />
家に帰ると、恒例行事が行われる。<br />
「お嬢! お帰りなすって。今日は早いですね」<br />
「ちょっとね。親父いる?」<br />
「へえ。兄貴は部屋にいまっせ」<br />
「そう、ありがとう」<br />
門をくぐり、その場にいた何人かが中腰になって出迎える。父親に気に入られている、成人したての男性に話しかけた後、そのまま自分の部屋へと向かった。<br />
荷物を放り投げ、父親の部屋へ向かう。いつまでも馴染めない葉巻の香りにむせながら、扉をたたいた。<br />
「誰だ、今忙しいん」<br />
「ごめんごめん、私なんだけど」<br />
超特急で開かれる扉。運よくかわすことができなかったら、今頃顔がはれてるかもしれない。<br />
「楓、どうしたんだこんな時間に!? 具合でも悪いのかっ」<br />
「いや、そうじゃないよ。実は今日学校から言われたことがあって」<br />
「言われてたこと? 何を言われたんだ」<br />
私は、校長センセに言われたことをそのまま伝える。徐々に親の顔面から赤い何かが出てきそうになり、<br />
「何だ偉そうに! 俺が話をつけてやる」<br />
「ちょっと待ってってば。親父が出てったら大問題になるからやめてよね」<br />
口から怒りの息もでないよう。『特殊な雰囲気』をまとった父親が外出するだけで騒ぎになるときもあるから、納得はしてくれたようだ。<br />
とはいえ、顔は仁王様もビックリなんだけど。<br />
「とにかく。急で悪いんだけどいろいろと準備するね。住まい何とかしないといけないし」<br />
「そんなものすぐに用意してやる。おい!」<br />
「へぇ」<br />
「娘に部屋を。オートロックつきの高層マンションだ」<br />
「ちょっと、どこにそんなところに一人暮らしする高校生がいんのよ!」<br />
「何言ってる、危ないだろう」<br />
「オートロックはともかく高層マンションは却下っ。せめてやるなら普通のにしてよ、普通のに!」<br />
太鼓ほどの釘を刺したあと、私は自分で探すと進言。親父はぶぅたれたが、そんなものは無視である。世間から浮きっぱなしになってしまうから。<br />
「向こうに知り合いがあるから聞いてみるよ」<br />
「うーむ、わ、わかった……」<br />
納得がいかないらしいが、こんなときは娘でよかったと思った。<br />
部屋に6個ほどのダンボールが住みつき、もうひとつ兄弟が増えそうなところに、母親からの呼び出しがあった。気がつくと、鼻と体が食欲に従って動いていく。<br />
席について今日の出来事を話しながら食事をしていると、唐突に、<br />
「オレも行くっ」<br />
と、弟が不意な発言をした。<br />
「行くって、どこに行くの」<br />
「霧生ヶ谷に決まってんじゃん! 何でねーちゃん1人で行くわけ!?」<br />
「いや、何であんたがついてくんのよ。そっちのほうが意味不明」<br />
「危ないじゃんっ」<br />
どこかの父親か、あんたは。<br />
「……あのね、学校はどうすんのよ。今年高校受験でしょーが」<br />
「適当なとこでいいじゃんか。オレ、どこだってなじめるし」<br />
「お金はどうすんのよ。あんたまだ中学生でしょ」<br />
「出世払い。」<br />
都合のいいこといってんじゃないよ、この馬鹿。<br />
「雪祥(ゆきひろ)、あなたは残りなさい。第一、どこに住む気なの」<br />
「え? ねーちゃんと同じ場所でいいじゃん。姉弟なんだし、問題ないでしょ」<br />
「あなたはなくても、世間にはあるのよ。楓1人で住むこと自体そうでしょう」<br />
「そんなこといったってさ。お袋、もしものことがあったらどーすんの? 助けにも行けない」<br />
「それは問題ないって。『私』だよ」<br />
「それはそれ、これはこれ。何が起こるかわかりゃしないんだから」<br />
「静かに食べないか」<br />
まるで岩が落ちてきたような声。弟、私はユキと呼んでいるが、黙ってしまった。<br />
夕食が終わって、デザートを食べていたとき。唐突に玄関が騒がしくなった。数分後、朝に私を出迎えた青年が駆け込んでくる。<br />
左側に吹っ飛んでいった障子は半分ほど元気に跳ね返り、息を切らした青年・哲(てつ)の姿があった。<br />
「何だ騒々しい」<br />
「す、すんません兄貴。変なガキ共が急に上がりこんできて」<br />
「変なガキ共? とっととつまみ出せ」<br />
「そ、それが、滅法強くて……」<br />
「あ? ガキ相手に何やってやがる!」<br />
「あいつら、何か喧嘩慣れというか、ころ」<br />
「おつとめごくろーさんっ」<br />
視界から哲が消える。横から蹴りがはいったらしい。……同時にヤな予感がした。<br />
直後、弟と同じぐらいの少年2人組が入ってくる。以前、とある場所で、妙な出会いをした人たち、だ。<br />
「楓! 久しぶりじゃねーか」<br />
「カヌちゃん!? 何でここにっ」<br />
「おー、ユキもいんのか」<br />
「ここ、オレん家よ」<br />
「そりゃそーだな、オトウトだし」<br />
「小僧共、礼儀ってモンを知らないようだな」<br />
炎の陽炎のごとく動く、しかし、紛れもなく毒々しい赤色の雰囲気を放つ父親。招いていない来客に向かい、ゆらゆらと近づいていく。<br />
カヌちゃん、と弟が呼んだ、セミロングを持つ男の子の顔が、上から影に包まれる。<br />
「ウチに殴り込みに来るとは命知らずなガキ共だ。ここをどこだと思ってる」<br />
「関東組最大勢力、藜御組4代目の家だろ?」<br />
ほお、ともらす父親。言葉はなかったが、即答した少年に興味を抱いたようだ。<br />
「で、何の用だ」<br />
「楓に挨拶しにきたのさ。明後日からこっちくるだろ」<br />
眉と目を近づかせながら振りむく父親に、私は左右に首を振った。たしかに伝えたけれど、今は夜の8時で、連絡取ったのは4時ぐらい。霧生ヶ谷から東京にくるには4時間以上はかかる。<br />
勝気な表情の少年は、さらに口元をゆがめながら、<br />
「ちゃんと世話してやるって。オレたち、地元だからな」<br />
一歩前にでた父親の動きとほぼ同時に、のんきな声が耳を通る。うちはねのショートカットの少年が、いつのまにか、飾ってある日本刀の前にいた。<br />
何の迷いもなく手に取り、いとも簡単に抜き放つ彼。刀を表と裏にひっくり返しながら、なかなかだねぇ~、と話した。<br />
「何してんだお前。人んちのもの」<br />
「いいじゃ~ん、減るもんじゃないし~」<br />
勝気な少年の呆れ顔が、常に微笑んでいる少年に投げかける。前に遊びに行ったときに見た光景とまったく同じ口調だ。<br />
体から出している雰囲気を、除けば。<br />
「クモリひとつないねぇ。ま、最近はトビドーグが多いからなぁ~」<br />
「小僧きさ」<br />
「おやめなさい」<br />
と、母親。誰に何も言わせない勢いとともに、着物のすそを持ちながら、のんびり口調の少年に近づいた。<br />
彼は、にっこりと笑う。<br />
「別の部屋を用意します。そちらでいかがですか」<br />
「んー? 別にいいよ、お姉さん」<br />
ね、と、もう一人の少年に投げかける。ちょっと目を大きくした彼は、好きにしろ、とだけ口にした。<br />
「おい、どういう意味だ」<br />
「あなた、後でお話します。ここはわたくしにお任せください」<br />
「ふむ……」<br />
「ご安心を。わたくしはあなたの妻ですよ」<br />
絶対的な自信に満ちた大人の笑顔に、父親は下がるしかなかったらしい。めったに表情を変えない親父だが、やはり肉親にだけは違うようだ。<br />
入り口に歩いていく和服姿を見ていると、<br />
「哲さん、奥の部屋を用意して頂戴」<br />
「わかりやした」<br />
いつの間にか復活していた哲は、素直に言うことを聞く。<br />
20分後。私とユキ、母親、それに、お客人2人がそろった。<br />
「ねえちゃん、あのおっさんのこと、随分尻に引いてんだな」<br />
「ちょっ」<br />
「いいのよ、楓」<br />
勝気な少年は少しつまらなそうな表情になる。だが、すぐに、怪しい笑みをし、母親を見つめる。<br />
「どこの血筋だ?」<br />
「さあ、よくわからないわね」<br />
「それはないでしょ~。感づいてるみたいだし~」<br />
「本当に知らないのよ。ただ、本家が霧生ヶ谷にある、とだけは聞いたことあるわ」<br />
「ええっ。お袋、それガチでっ」<br />
私も弟と同じだ。<br />
「ええ。ほら、私って家出してるからよくわからないのよ」<br />
「あ、そうだったっけ……」<br />
笑いながら言うことでもないと思うが、勘当同然だとは聞いた。本人いわく、若さゆえ、だというが。<br />
一口お茶を飲んだ後、<br />
「娘をどうする気なの」<br />
「べっつに? ただ面白い奴だから?」<br />
「面白い? 霧生ヶ谷のことは聞いたことがあるわ。認めるわけにはいかないわね」<br />
「そうはいっても? 手続き終わっちまってるんじゃしょうがないだろ」<br />
「ちょっとー、それが趣旨が伝わらないんだけど~」<br />
「趣旨?」<br />
母親とお客人の会話。私たち姉弟は完全に置いてけぼりだ。<br />
「ごめんねー、こいつ悪戯好きでさ~。本当は楓ちゃんの力を貸してもらいたいんだよ~」<br />
「わ、私の?」<br />
「そーそー。お姉さん見て確信した。やぱり『血』みたいだからさ~」<br />
まったくもってわからない。彼らは、一体なにを考えている?<br />
「具体的には」<br />
「なぁに、ちょっと手伝ってほしいだけさ。『こっちの人』にしかできねぇことだからよ」<br />
「おれたちじゃ難しいことだけど、楓ちゃんならできるわけね~。だから~」<br />
「危険があるのでしょう」<br />
「そりゃあ~ちょっとは、ね。もちろん、身の保障はするよ。それが条件」<br />
「どういうことをさせる気なのかしら」<br />
「うーん、今は言えないなぁ。他言無用って指示だし~」<br />
何を思っているのか読めない笑顔に、母親はため息しかでなかったらしい。呆れにも似た表情で、<br />
「敵わないわねぇ。どうしましょうか」<br />
「どーするも何も決まっちまってるんだってば」<br />
「はいはい。楓、いいの?」<br />
ぼんやりとお茶を飲んでいたので、話が飲みこめなかった。母がいうには、霧生ヶ谷に行って彼らの手伝いをするらしい。ただし、肝心の中身はわからないままだが。<br />
わかるのは本人たちと、おそらく私だけ。私がわかるのは、以前、彼らの家に行ったことがあるからだ。<br />
「そうはいっても、拒否権ないでしょ」<br />
「ないねぇ~」<br />
「じゃあ、行くしかないんじゃない」<br />
「さっすか楓ちゃん。話がわかる~っ」<br />
少年時独特の、邪気のない笑顔で喜ぶショートカットの少年。わざとらしく見えないのがすごい。<br />
「カラちゃん、オレはオレは? オレも行くよっ」<br />
「ん? もちろん雪祥君も一緒だよ?」<br />
伝えてなかったっけー? と、とぼける彼。もうひとりの少年も、言ってなかったっけか? と口にしているので、本心からのようだった。<br />
「どういうことなの」<br />
「ねえちゃんならわかんだろ」<br />
違う意味で心外と話したそうな勝気な少年と母親。母親に限っては、故意に顔にしわをつくっていく。<br />
「いろいろなタイプがいてね、雪祥君じゃないと対応できないのもいるんだよ~」<br />
「他の人でもいいわよね」<br />
「その辺の奴じゃ面倒くせぇんだ。ユキなら運動神経いいし、やりやすいんだって。なっ、ユキ」<br />
もち! 運動神経もいいけど、顔もいいよっ、と悪ノリの弟。状況がわからず、性格のまま口走っている。<br />
結局、話がつかず1時間が過ぎようとしていた。<br />
「このままだと平行線だねぇ。楓ちゃんたち、ちょっとはずしてもらえる~?」<br />
「何でよ」<br />
『手荒なマネはしねぇよ。頑固なねえちゃんを説得するだけだ』<br />
頭の中に飛びこんできた声。勝気な少年のもので、目があった。<br />
もしかしたら、彼らにしかできない、独特の方法をとるのだろうか。<br />
しかし、その視線に嘘と嫌な雰囲気は感じられない。<br />
「わかったわよ。お母さん、私たち部屋にいってるね」<br />
「ええ。終わったら行くわ」<br />
「オレも?」<br />
「雪祥君もね~」<br />
彼は、複雑な表情で頭をかいた。だが、要領はよいほうなので、先に戻る、と、部屋をでた。<br />
30分後。自室で片づけをしていていると、扉をたたく音が聞こえた。<br />
扉を開けると、母親とお客人の2人の姿がある。母は子供に駄々をこねられたような表情をしており、お客人はしてやったり的な笑顔をしていた。<br />
「終わったの?」<br />
「困った人たちよ。こちらの都合なんてお構いなしね」<br />
「んま、オレたちだから仕方ねぇんじゃねーのっ」<br />
笑いながら言うことじゃないぞ、そこ。<br />
ショートカットの少年は、のほほんとした顔をしながら弟の部屋をノックする。私の部屋から左斜めにある扉から、弟は何事もなかったかのように頭をのぞかせた。<br />
ユキの表情が花咲いた様子を見ると、一緒に行くことになったようだ。<br />
弟に結果を伝え終わると、連れ立って母親の元へ。<br />
「お姉さん、彼女たちはおれたちが責任持つから安心ししてね~。妹ともうひとり弟いるしさ~」<br />
「今度連れてくるぜ。今日はこれなかったからな」<br />
「わかったわ。先程の条件、きちんとのんでもらうわよ。それでもこの子達に何かあったら」<br />
語尾にいくに連れて強くなっていった言葉。少しの沈黙の後、<br />
「そっちに任せる」<br />
彼らは不敵の面構えをしていた。<br />
結局、私と弟の雪祥は霧生ヶ谷に行くことになった。時間は明後日の夜である。父親は怒り狂いそうになっていたが、母親がいさめて事なき終えた。<br />
お客人が帰った後、弟がいう。<br />
「ねーちゃん、何持っていけばいーんだろ?」<br />
まったく考えずに、ほとんど全ての荷物をまとめてしまった私は、ひどく後悔した。<br /><br /><br />
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