シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

『不吉な黒猫』第二話「幸せな空間」

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■第二話「幸せな空間

 

 「亜紗香? ちゃんと説明してもらおうかしら?」

 静かに言い放った母親の言葉。しかしそれが怒りを抑え切れてないことすら亜紗香にはすぐに解る。

「だ、だからぁ……黒猫、拾っちゃったんだってば……」

「拾ったって……いつからいたのよ!?」

 明らかに怒っている母親に、亜紗香は口ごもるしかなかった。

「き、昨日から……」

 そんなやりとりを呆れたように見ていた大輔は、亜紗香の父親に気に入られようと媚を売っていた。

「お? 俺には懐いてくれてるようだな」

 嬉しそうに大輔を抱き上げ、ソファに座り、その暖かい膝元に大輔を座らせた。大輔は亜紗香の父親に喉を撫でられてごろごろとご機嫌だ。亜紗香はその大輔のせいで、窮地に陥っているというのに。

「お、お父さん……、飼ってもいいでしょ?」

「ん? もちろんいいよ」

 鶴の一声で母親は納得しきれてはいないものの、飼う事に決まったのだった。

 


 「ただいま」

「よぅ亜紗香」

「人間の言葉喋るなって言ったでしょーーーーーーーー!!!」

 高校から帰ってきた亜紗香を待ち受けていたのは、淡々とした大輔一人……いや、一匹だけだった。あれだけ忠告したというのに、大輔はのほほんとして、猫の振りをあまりしない。それでも一応は亜紗香の両親がいないという事を解っていて喋っているのだから、亜紗香の心配のし過ぎ、なのだが。

「大丈夫だろ。誰もいねぇし」

「どこで誰が聞いてるか解んないでしょ!? ちょっとは自覚してよっ」

 二人――と言っても大輔は一匹だから一人と一匹だが――は、亜紗香の部屋へと移動した。それには理由がある。亜紗香の部屋なら、バイオリンを弾けるようにかなり強く防音してあるからだ。そこなら大輔が喋っていても、外の人には聞こえないはずだ。
 二人が話す事は、いつも一緒だ。何故、大輔が黒猫に変身できるように怨霊が手を貸したのか。何故、亜紗香の元へ行かせたのか。後者については大輔は解らないとしか言わなかったが。
 ちょっと不思議なことが起こる、と、囁やかに噂されている、この霧生ヶ谷市。少し不思議な事が起こると「あぁまただ」等と思われるようなところだ。怨霊が現れても不思議でもなんでもないのかもしれない。ただ、何故大輔を救ったのかが理解できなかった。
 それでも……

「俺はこのままでもいいぜ」

 亜紗香のベッドの上で丸まってふぅと気持ち良さそうにしている大輔を見て、亜紗香はどきりとした。何故なら、いくら猫の格好をしているとは言っても、昔は密かに想いを寄せていた相手だ。自分のベッドの上に乗っかられるのがこそばゆく、恥ずかしい。

「なんでよ? 大体、怨霊は何を考えてるのよ。異常じゃない?」

 亜紗香はむっとした顔を寝っ転がってる大輔に向けるが、大輔はぷいっと顔を背けた。

「考えてても仕方ないだろ。大体、怨霊が何を考えてても俺たちには関係ないだろが」

「関係あるでしょうがーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 亜紗香は思いっきり大輔の耳元で叫んでやった。そしてすぐにぷいっと自分の椅子に座り、大輔からは後姿しか見えないようにした。

 ――なんでこんな奴に惚れてたんだろ・・・。

 それは亜紗香の言葉でもあるし、大輔の言葉でもあった。
 しかし二人はまだ気づいていない。二人の声が聞こえるほどの近い距離で、何者かが微笑んでいた事を……。

 


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