「妖(あやかし)と獅子たちの伝奇の世 -第3話-」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「妖(あやかし)と獅子たちの伝奇の世 -第3話-」(2011/11/09 (水) 02:06:29) の最新版変更点
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新しい生活のにおいがする。友人たちが事前にいろいろと用意してくれたおかげで、住まいを確保することができたからだ。&br()
ちなみに、役所にいってジュウミンヒョウを取らなければいけないらしい。後で役所関係の書類が必要になったとき、もらえなくなる
らしい。 &br()
「あ~ぁ、よくねた……」 &br()
昼時近くにようやく起きてきた弟。少しだるそうである。とはいえ、昨日ばかりは寝袋を使わざるをえなかったので仕方がない。 &br()
「おはようユキ。ご飯どうする?」 &br()
「ん~、すぐ食べるよ。すぐでかけるっしょ?」 &br()
「せめて布団ぐらい買わないとね」 &br()
「みーつぅー。背中いたいし」 &br()
同感だ。私も少し痛いから。 &br()
軽めの食事を作って食べ、私たちは区役所に行った。 &br()
必要な書類の次は、新しい住まいの、3LDKの家から約20分ぐらいだろうか。安くて質もよいと有名な家具屋さんがある。7階建て
のビル一棟全部が家具屋だったので、有名な家具屋かと思ったが、実はここ1店舗だけらしい。&br()
たしかに、値段は良心的だし、布団のふかふか感も個人的に好みだ。従業員の雰囲気もよいんじゃないかと思う。&br()
「ねーちゃん、布団と折りたたみベッド、どっちにする?」 &br()
「布団にしようかと思うんだけど。折りたたみベッドもいいわね」 &br()
「けっこう種類あるよ」 &br()
と、弟と私はすぐ隣にあった折りたたみベッドコーナーに歩いていく。言われたとおり大きさや素材など、さまざまな種類があった。 &br()
向かいの通路には、大型ベッドが、ある。 &br()
「これがいいかなー」 &br()
「大きすぎない?」 &br()
「オレのじゃないって。なるちゃんのだよ」 &br()
「ああなるほど。うーん、本人に選んでもらったほうがいいんじゃないの」 &br()
そうそう、実はもう1人一緒に暮らす人がいるの。名前は藜御 鳴海(あかざみ なるみ)、年齢は21で、私たちの兄的存在の人な
のよ。母親がだした条件のひとつだと聞いているわ。 &br()
「やっぱそうしたほーがいいかぁ」 &br()
「好みもあるだろうし、場所だけ伝えておけばいいんじゃない」 &br()
「んじゃそうする」 &br()
ひととおり見た後、結局私も折りたたみベッドにした。掃除のとき、どかせるし楽できるだろうから。 &br()
当日の15時までで、市内配送なら当日まで届けることができるサービスを活用し、支払いを終えた後、私たちは喫茶店に入った。
ユキのおなかが食べ物を求めたらしい。 &br()
「決めた?」&br()
「イチゴパフェにするっ」 &br()
「大きいほうでいいのね?」 &br()
「もちっ」 &br()
顔の周りに花びらでも咲いたかのような表情でいう弟。私は呆れながらも注文をお願いした。まったく成長期の胃袋は恐ろしい。数
時間前に食べたことを忘れてるんじゃないのか、と疑問に思う。 &br()
「ところでねーちゃん、回りに何かいるの」&br()
「何で?」 &br()
「視線。ここに何かいるとは思えないんだけど」 &br()
さすがは我が弟、洞察力は並大抵じゃないみたいだ。もっとも、環境のせいでそうなった、としか言いようがないが。 &br()
「何か、というより、監視されているような気がして」 &br()
「ふうん? クセじゃないよね」 &br()
「違うわね」 &br()
そうこうしているうちに、イチゴパフェと紅茶がやってきた。ものすごくチャラいウェイターが持ってきたが、受け渡しはすごく丁寧な
のが印象的だ。最後に会釈と笑顔があったからだろう。 &br()
「うわー、あんな茶髪の人でもバイトできるんだっ」 &br()
「お店によるんじゃないの」 &br()
「そりゃ助かる。んま、オレ地毛だからカンケーないもんねー」 &br()
それもお店によると思うけど。まあ不自然な茶髪でもないしね、あんたのは。 &br()
弟が食べ終わったのを確認し、再度飲み物を頼んだとき、ふと外を見てみた。ガラス越しにある風景は、昔ながらの水路と現代の
建物が同時に映っている。 &br()
反射によって店内の人が視界に入るのはよいとして、それでも一部、ごく一部だけ周囲とは印象が違う何かがいた。目を凝らすと、
和服を着ている。友人たちとは違う、もっと後の時代の和服だろうか。&br()
思い違いかな、あの目には殺意を感じる。赤い瞳は、私をにらみつけているような気がしてならない。それとも、霧生ヶ谷だから、そ
う考えてしまうのか。 &br()
「ちゃん、ねーちゃんってば」 &br()
ふと意識が戻り、声のしたほうへと向きなおる。ユキは不思議そうな顔をして外に目をやると、すぐ元に戻し、飲み物来たよ、と促し
た。 &br()
いつの間にか若干の冷や汗をかいていた私は、アイスティーを飲み干し、店をでた。 &br()
太陽の色がオレンジ色に染まった時間帯になった。近くのスーパーで買い物をしていると、携帯電話が騒ぎだす。ディスプレイには
『春夏冬 瞬』とでている。ちなみに、読みかたは『あきなし しゅん』である。 &br()
「もしもし」 &br()
「おう、今大丈夫か」 &br()
「平気だけど、どうしたの」 &br()
「ちっと話したいことあってよ。時間もらえねぇか」 &br()
「いいよ。私1人のほうがいい?」 &br()
「ああ。駅前に何時ぐらいにこれそうだ」&br()
「うーん、たぶん40分後ぐらいかな」 &br()
「わかった、その時間でいい。じゃあな」 &br()
と、最後は意外とそっけない。彼は、あまり電話が好きじゃないらしい。 &br()
私はユキに他の場所で買い物することを伝え、家具待ち当番をお願いした。 &br()
買い物をすませ荷物を家に置き、待ち合わせ場所に行く。先に来ていた春夏冬君は、缶ジュースを飲みながら待っていた。 &br()
「ごめん、待たせちゃったかな」&br()
「いや、今着たばかりだぜ。ほれ」 &br()
と、缶コーヒーをもらう。彼はかの有名な海外メーカーのココアを飲んでいた。 &br()
「ここじゃ人が多すぎるから、公園に行くぞ」 &br()
私は、素直に彼についていく。 &br()
中央公園、と呼ばれる緑の多いこの場所は、以前遊びに来たときと同じように、お城が堂々とそびえ立っている。すでに暗くなって
いるせいか、人はいなかった。&br()
「引っ越した手前なのに悪いな。お前にはちゃんと話しておかねぇとな」 &br()
「私に?」&br()
「ああ。お前、何で霧生ヶ谷に長期間連れてこられたか知りたいだろ?」 &br()
もちろんである。しかし、そちらから教えてもらえるとは思ってもいなかったので、面食らってしまった。理由は、以前来たときも、必
要以上には話さないところから、秘密主義だと思っていたからだ。 &br()
「それに、何でオレらが偽名を使ってるのかと今後の話さねぇとな」 &br()
春夏冬君、いや、妖怪兄妹のひとりは、まず私に質問した。 &br()
今日、何か見なかったか、と。&br()
&br()
* * *&br()
&br()
諸諸城の中から、ひとりの青年が見下ろしていた。その目は憎悪に満ちており、すぐにでも目下の人間に襲いかかりそうな勢いだっ
た。 &br()
しかし、かろうじて止めてはいる。頭上の月に映る多きすぎる烏(カラス)と下にいる人型をした蛙がいるからだ。&br()
しかも、遠くからは狐と河童、さらにもうふたつの監視の目も感じられる。 &br()
『出てはダメよ、坊や』 &br()
「わかってる」 &br()
『まあ、怖い事』 &br()
姿なき女人の声。艶やかで、どこか魅惑的だ。腕があれば青年の首回りを抱いていそうな雰囲気である。 &br()
『忘れていたわあの人間の事を。用心しないと、わたくしの存在がばれてしまう』 &br()
「声だけなのにか」 &br()
『うふふ、五大妖怪をなめない事ね。特に、あの狡猾(こうかつ)な老人と死の闘争神にわたくしの存在に感づかれると、手に負えな
いわ』 &br()
くすくす、と笑う声からは、本当はそのように思ってないかのように聞こえなくもない。しかし、青年にはどうでもよかった。下にいる人
間の少女が、どうしても憎くて仕方がないのだ。 &br()
「あの娘、なぜあの男と一緒にいるのだ」 &br()
『直接本人に聞いてみるといいわ。さあ、明日も早いのでしょう? 早く帰りましょう』&br()
そういって、女の声はしなくなった。 &br()
残った男は、平気で化け物と話している人間の女の心理がわからなかった。異なる存在の、異形のもの。なぜ親しくできる? なぜ
何とも思わない? 考えれば考えるほど忌ま忌ましくなっていった青年は、舌打ちをし、その場から姿を消した。&br()
[[<<前へ>http://www27.atwiki.jp/kiryugaya/pages/1089.html]]
新しい生活のにおいがする。友人たちが事前にいろいろと用意してくれたおかげで、住まいを確保することができたからだ。&br()
ちなみに、役所にいってジュウミンヒョウを取らなければいけないらしい。後で役所関係の書類が必要になったとき、もらえなくなる
らしい。 &br()
「あ~ぁ、よくねた……」 &br()
昼時近くにようやく起きてきた弟。少しだるそうである。とはいえ、昨日ばかりは寝袋を使わざるをえなかったので仕方がない。 &br()
「おはようユキ。ご飯どうする?」 &br()
「ん~、すぐ食べるよ。すぐでかけるっしょ?」 &br()
「せめて布団ぐらい買わないとね」 &br()
「みーつぅー。背中いたいし」 &br()
同感だ。私も少し痛いから。 &br()
軽めの食事を作って食べ、私たちは区役所に行った。 &br()
必要な書類の次は、新しい住まいの、3LDKの家から約20分ぐらいだろうか。安くて質もよいと有名な家具屋さんがある。7階建て
のビル一棟全部が家具屋だったので、有名な家具屋かと思ったが、実はここ1店舗だけらしい。&br()
たしかに、値段は良心的だし、布団のふかふか感も個人的に好みだ。従業員の雰囲気もよいんじゃないかと思う。&br()
「ねーちゃん、布団と折りたたみベッド、どっちにする?」 &br()
「布団にしようかと思うんだけど。折りたたみベッドもいいわね」 &br()
「けっこう種類あるよ」 &br()
と、弟と私はすぐ隣にあった折りたたみベッドコーナーに歩いていく。言われたとおり大きさや素材など、さまざまな種類があった。 &br()
向かいの通路には、大型ベッドが、ある。 &br()
「これがいいかなー」 &br()
「大きすぎない?」 &br()
「オレのじゃないって。なるちゃんのだよ」 &br()
「ああなるほど。うーん、本人に選んでもらったほうがいいんじゃないの」 &br()
そうそう、実はもう1人一緒に暮らす人がいるの。名前は藜御 鳴海(あかざみ なるみ)、年齢は21で、私たちの兄的存在の人な
のよ。母親がだした条件のひとつだと聞いているわ。 &br()
「やっぱそうしたほーがいいかぁ」 &br()
「好みもあるだろうし、場所だけ伝えておけばいいんじゃない」 &br()
「んじゃそうする」 &br()
ひととおり見た後、結局私も折りたたみベッドにした。掃除のとき、どかせるし楽できるだろうから。 &br()
当日の15時までで、市内配送なら当日まで届けることができるサービスを活用し、支払いを終えた後、私たちは喫茶店に入った。
ユキのおなかが食べ物を求めたらしい。 &br()
「決めた?」&br()
「イチゴパフェにするっ」 &br()
「大きいほうでいいのね?」 &br()
「もちっ」 &br()
顔の周りに花びらでも咲いたかのような表情でいう弟。私は呆れながらも注文をお願いした。まったく成長期の胃袋は恐ろしい。数
時間前に食べたことを忘れてるんじゃないのか、と疑問に思う。 &br()
「ところでねーちゃん、回りに何かいるの」&br()
「何で?」 &br()
「視線。ここに何かいるとは思えないんだけど」 &br()
さすがは我が弟、洞察力は並大抵じゃないみたいだ。もっとも、環境のせいでそうなった、としか言いようがないが。 &br()
「何か、というより、監視されているような気がして」 &br()
「ふうん? クセじゃないよね」 &br()
「違うわね」 &br()
そうこうしているうちに、イチゴパフェと紅茶がやってきた。ものすごくチャラいウェイターが持ってきたが、受け渡しはすごく丁寧な
のが印象的だ。最後に会釈と笑顔があったからだろう。 &br()
「うわー、あんな茶髪の人でもバイトできるんだっ」 &br()
「お店によるんじゃないの」 &br()
「そりゃ助かる。んま、オレ地毛だからカンケーないもんねー」 &br()
それもお店によると思うけど。まあ不自然な茶髪でもないしね、あんたのは。 &br()
弟が食べ終わったのを確認し、再度飲み物を頼んだとき、ふと外を見てみた。ガラス越しにある風景は、昔ながらの水路と現代の
建物が同時に映っている。 &br()
反射によって店内の人が視界に入るのはよいとして、それでも一部、ごく一部だけ周囲とは印象が違う何かがいた。目を凝らすと、
和服を着ている。友人たちとは違う、もっと後の時代の和服だろうか。&br()
思い違いかな、あの目には殺意を感じる。赤い瞳は、私をにらみつけているような気がしてならない。それとも、霧生ヶ谷だから、そ
う考えてしまうのか。 &br()
「ちゃん、ねーちゃんってば」 &br()
ふと意識が戻り、声のしたほうへと向きなおる。ユキは不思議そうな顔をして外に目をやると、すぐ元に戻し、飲み物来たよ、と促し
た。 &br()
いつの間にか若干の冷や汗をかいていた私は、アイスティーを飲み干し、店をでた。 &br()
太陽の色がオレンジ色に染まった時間帯になった。近くのスーパーで買い物をしていると、携帯電話が騒ぎだす。ディスプレイには
『春夏冬 瞬』とでている。ちなみに、読みかたは『あきなし しゅん』である。 &br()
「もしもし」 &br()
「おう、今大丈夫か」 &br()
「平気だけど、どうしたの」 &br()
「ちっと話したいことあってよ。時間もらえねぇか」 &br()
「いいよ。私1人のほうがいい?」 &br()
「ああ。駅前に何時ぐらいにこれそうだ」&br()
「うーん、たぶん40分後ぐらいかな」 &br()
「わかった、その時間でいい。じゃあな」 &br()
と、最後は意外とそっけない。彼は、あまり電話が好きじゃないらしい。 &br()
私はユキに他の場所で買い物することを伝え、家具待ち当番をお願いした。 &br()
買い物をすませ荷物を家に置き、待ち合わせ場所に行く。先に来ていた春夏冬君は、缶ジュースを飲みながら待っていた。 &br()
「ごめん、待たせちゃったかな」&br()
「いや、今着たばかりだぜ。ほれ」 &br()
と、缶コーヒーをもらう。彼はかの有名な海外メーカーのココアを飲んでいた。 &br()
「ここじゃ人が多すぎるから、公園に行くぞ」 &br()
私は、素直に彼についていく。 &br()
中央公園、と呼ばれる緑の多いこの場所は、以前遊びに来たときと同じように、お城が堂々とそびえ立っている。すでに暗くなって
いるせいか、人はいなかった。&br()
「引っ越した手前なのに悪いな。お前にはちゃんと話しておかねぇとな」 &br()
「私に?」&br()
「ああ。お前、何で霧生ヶ谷に長期間連れてこられたか知りたいだろ?」 &br()
もちろんである。しかし、そちらから教えてもらえるとは思ってもいなかったので、面食らってしまった。理由は、以前来たときも、必
要以上には話さないところから、秘密主義だと思っていたからだ。 &br()
「それに、何でオレらが偽名を使ってるのかと今後の話さねぇとな」 &br()
春夏冬君、いや、妖怪兄妹のひとりは、まず私に質問した。 &br()
今日、何か見なかったか、と。&br()
&br()
* * *&br()
&br()
諸諸城の中から、ひとりの青年が見下ろしていた。その目は憎悪に満ちており、すぐにでも目下の人間に襲いかかりそうな勢いだっ
た。 &br()
しかし、かろうじて止めてはいる。頭上の月に映る多きすぎる烏(カラス)と下にいる人型をした蛙がいるからだ。&br()
しかも、遠くからは狐と河童、さらにもうふたつの監視の目も感じられる。 &br()
『出てはダメよ、坊や』 &br()
「わかってる」 &br()
『まあ、怖い事』 &br()
姿なき女人の声。艶やかで、どこか魅惑的だ。腕があれば青年の首回りを抱いていそうな雰囲気である。 &br()
『忘れていたわあの人間の事を。用心しないと、わたくしの存在がばれてしまう』 &br()
「声だけなのにか」 &br()
『うふふ、五大妖怪をなめない事ね。特に、あの狡猾(こうかつ)な老人と死の闘争神にわたくしの存在に感づかれると、手に負えな
いわ』 &br()
くすくす、と笑う声からは、本当はそのように思ってないかのように聞こえなくもない。しかし、青年にはどうでもよかった。下にいる人
間の少女が、どうしても憎くて仕方がないのだ。 &br()
「あの娘、なぜあの男と一緒にいるのだ」 &br()
『直接本人に聞いてみるといいわ。さあ、明日も早いのでしょう? 早く帰りましょう』&br()
そういって、女の声はしなくなった。 &br()
残った男は、平気で化け物と話している人間の女の心理がわからなかった。異なる存在の、異形のもの。なぜ親しくできる? なぜ
何とも思わない? 考えれば考えるほど忌ま忌ましくなっていった青年は、舌打ちをし、その場から姿を消した。&br()
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