[世界は愛を中心に回る]の変更点 - シェアワールド＠霧生ヶ谷市企画部考案課

「世界は愛を中心に回る」(2007/11/09 (金) 23:50:48) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<div style="line-height: 2em" align="left"> 世界は愛を中心に回る　作者：あずさ 　秋になると気温も徐々に下がってきて、朝は特に肌寒い。目覚ましの音が聞こえた気もしたが気のせいだということにした。布団に潜り込む。亀だ。今の俺は亀。冬眠しますおやすみなさい。 「ほら、爽真！　起きなさい」 「…………」 「杏里ちゃんが迎えに来てるわよ」 「！？」 　布団を蹴り上げて飛び起きると――まるで悪魔のような笑顔が目の前にあった。ハメられた。うわ、しかも朝一で見たものがコレって。 　コレというのは、仁王立ちした俺の姉貴。柳川爽香（さやか）。北高の制服を着こなして準備万端だ。眼鏡の奥で目が怖いくらいにっこり笑っている。 　友達にはおまえの姉ちゃん綺麗だななんて言われるけど、正直みんなは騙されていると思う。口は災いのもとって言うからはっきり言葉にしたことはないけど、そりゃもうこの姉は人使いが荒いし口より手が先に出るしそのくせ言葉攻めってゆーの？も強いし要するに両方強いわけでさらにあるものは何でも使うし使えないものでも無理に使うし、 「ほら、さっさと準備しないと遅刻するでしょーが」 「……わかったよ」 「ところで爽真。あんた、今失礼なこと考えたでしょ」 「……別に、っだだだぁ！？　痛いって、こらっ、頬つねるのはやめろよ！」 　――全く、妙に勘が鋭くて嫌になるんだよ！ 　姉貴との攻防を終え、何とか準備を済ませて学校へ向かう。つねられたところはまだ痛かった。ヒリヒリする。あの馬鹿力め。赤くなってないといいけどな……。 「お」 　ふいに目の前に見慣れた影を見つけて、俺は足早に前へ進んだ。赤いランドセル。ぴょこぴょこ元気に揺れているのが微笑ましい。 「杏里！」 　声をかけると、クラスメートの一ノ瀬杏里はくるりと振り返った。パッと花が咲いたように笑う。――その一連の動きは反則だ。可愛い。心なし頬の痛みも和らいだ気がする。 「おはよ、爽真くん」 「はよう」 「おーっす、爽真！」 　これからだというのに、空気をぶち壊すように背後から肩を叩かれた。振り向けばクラスの奴。ニヤニヤ楽しげに笑っている。正直ちょっと気持ち悪い。不気味だ。 　何だよと顔をしかめてみせると、そいつは大袈裟に肩をすくめてみせた。 「いやあ、冷たいじゃないか」 「は？」 「だってよー。俺が前にいたのに挨拶もしないで追い抜いてっちゃうなんてさー」 　……気づかなかった。いたのか、前に。 「いいんだけどな？　一ノ瀬しか目に入らなかったんだろうし。うんうん、恋は盲目って昨日のドラマでも言ってた」 「なっ、ば！」 　何言ってんだこいつ！　しかも杏里のいる前で！ 　俺は慌ててそいつの口を塞いだ。もごもご苦しそうにしているけど構わない。ちらっと様子をうかがうと、杏里がきょとんとした表情でこっちを見ていた。うわ、いや、その。嬉しいんだけど可愛いんだけど恥ずかしい。落ち着け。落ち着くんだ俺。 「こらこら、喧嘩はいけないよ！」 「え」 　ふいに割って入ったのは、全身タイツにモログルミを頭部に装着したおじさんだった。俺が手を緩めたとたん、そいつはおじさんを見て「ひっ」と逃げ出してしまう。――確かに逃げ出したくなる怪しさだ。俺は少し慣れてきたけど。だって数日前からずっとこの付近で見回っているんだ、このおじさん。片手に「安全」って書かれた旗を持って、道路に飛び出しそうになった子供を止めたりしている。怪しいけどいい人なんだろう。この前、杏里が「お仕事は？」って質問したら答えないで泣いちゃってたけど。うん、大人って大変だ。 　おじさん――みんなはこのカッコをした人を「モロウィン」って呼ぶ――は、逃げ出したあいつを見て「元気だなあ」と笑った。キラリと歯が光って眩しい。 「さあ、君たちも早く行かないと遅刻するぞ」 　その言葉と共に『らんりんるんれんろんろんろん♪』と軽やかなメロディーが流れてきた。蛙軽井（あかるい）小学校の校歌であり、予鈴の合図だ。俺と杏里は顔を見合わせ、慌てて走り出す。後ろから「危ないからあまり走らないようになー」と声が飛んだ。急げって言ったり走るなって言ったり、一体どっちなんだよ。 　無事教室に着くと、瑞原ほのかがにっこり笑って挨拶をしてきた。そういえばこいつが俺らより遅く登校してきたことってない。律儀っていうか何ていうか。前から知ってたけどしっかりした奴だ。 　ふと奥へ目をやると、水槽の中にいた蛙がぐぶうと鳴いた。 　授業は正直、あまり好きじゃない。難しい話を聞いていると眠くなる。 　国語。どこをどう間違ったのかヌシモロの話になって、感極まった先生が泣き出した。先生もモロウィンだったのかもしれない。一方で杏里はなぜかその話を必死にメモしていた。 　算数。速さの公式、「金のモロモロ・はしゃいで・地響き」が大活躍。けど何で分数の割り算が逆数で掛けることになるのかさっぱりわからない。とりあえずちょっと眠そうな杏里が可愛い。 　中休みを挟んで移動、音楽。授業が始まる前に先生が「抱きしめて☆モロモロ」をピアノで弾いた。みんなノリノリだ。そりゃ確かにKY☆KOは可愛いと思う。思うけど。でもでも、 「杏里さんの方が可愛い、と？」 「瑞原！？」 「握り拳のまま葛藤なさっていたようなので」 「……う、いや、まあ」 　頼むから勝手に心を読まないでくれ。心臓に悪い。本気で。 　四時間目の理科は、実験。杏里の目がやたら輝いていた。同じグループの瑞原も楽しそうだ。羨ましくなんか、羨ましくなんか……ないことも、ない。だって実験のときの杏里はすごく笑顔だから。そりゃいつもの笑顔にも文句なんてない。ないけど、あんな笑顔を俺に向けてくれたら、とか思うわけで。思っちゃうんだよ。仕方ないだろ。だから瑞原、そんな全てを悟ったような笑みでこっちを見るな。 「爽真、ビーカー傾いてる」 「うおっ？」 　秋の食材をふんだんに使った給食を終えた後は、みんな元気な昼休み。みんながワイワイと外や体育館へ向かう中、俺はさりげなく杏里と瑞原の席へ寄った。……正直、早く席替えをしたい。何でことごとくグループが別なんだ。給食のときからこの二人はずっと楽しげで、俺は何度耳を澄ませたことか。……どうせ聞こえないんだけどな。クラス、うるさいし。 「あ、爽真くん」 　俺に気づいて無邪気に笑う杏里。俺は慌てて口元が緩むのを押さえた。平常心だ、平常心。 「何話してるんだ？」 「七不思議！」 「……七不思議？」 　そう、と杏里は大きくうなずく。それから可愛いメモ帳を取り出した。何やらたくさん付箋が貼られている。しかもやたらカラフルなやつ。 「カエル小の蛙はモロモロの人気に嫉妬してるって噂なの」 「し、嫉妬？」 　蛙軽井小学校、通称カエル小。名前をもじって蛙がモチーフになりがちである。時計もなんか緑だし。よくプリントに蛙のイラストが描かれているのもそのためだ。保健便りには蛙が「防寒対策にも気をつけるんだぴょん」って台詞つきで書いてあった。ちょっとそれはどうかと思う。蛙が防寒って。ぴょんって。 　ただ、カエル小ではモロモロがそれ以上に流行っていたりする。モログルミは一時期すごいブームになったし、モロモロ自体食材としても美味しいし。それこそ「金のモロモロ・はしゃいで・地響き」なんて言葉が出てくるくらい人気がある。そこに蛙――クラスのほとんどが水槽に飼っている――は嫉妬した、という話のようだ。 　何でも、蛙には蛙の意地があるらしい。そしてモロモロに対抗しようと様々な技を身につけた。それが七不思議となって話が広まったそうだ。 　一、「今までの地位は捨てた！」とばかりに脱皮を繰り返す。 　二、モロモロがすると噂の分裂を真似る。 　三、もっと目立ってやるとカメレオン並に変色する。 　四、「飛べない蛙はただの蛙」だとばかりに飛行する。しかも華麗に回りながら。 　五、「俺の話を聞いてくれ」と人語を話しては愚痴をこぼす。 　六、俺を見てくれとばかりに巨大化する。教室に詰まっていたという証言が現在の最大サイズだ。（んなアホな） 　七、口から卵を吐く。理由はさっぱりわからない。多分色々無理に頑張りすぎて吐いちゃっただけだろう。 　話を聞きながら、俺は頭を抱えたくなった。七不思議なんて杏里が食いつかないはずがない。何たって杏里はいわゆる不思議萌えなんだ。俺はそんな杏里に萌えるわけだけど、いや待て違う今のなし。 　――だけど、杏里がいつものように「行こう！」とか「確認しよう！」とか言い出すことはなかった。俺は拍子抜けして首を傾げる。珍しいな。 「……気にならないのか？」 「気になるよ！　でも……今って秋でしょ？」 「？　ああ」 「七不思議って、やっぱり夏な気がするの。風流も大事かなぁって思っちゃって」 　……こだわりが一応あるらしい。さすが杏里。一味違う。うん、多分そうなんだ。そういうことにしておこう。 「けど、来年に持ち越すと卒業してしまわれますよ？」 　瑞原が微かに首を傾げる。それは間違っていない。俺たちは今六年生、来年はここを卒業して中学生になっているはずだ。そうなると確認する機会を逃すことになる。 　だけど杏里は、大きな瞳で瞬いてからすぐに笑った。 「卒業しても、母校だからきっと大丈夫だよ。いざとなったら忍び込むもん」 「……し、忍び込むって……」 「そのときは一緒に行こうね！」 　華やぐような笑顔。これに撃ち抜かれない奴がいるならお目にかかりたいと俺は思う。 　「ね？」ともう一度確認のように見つめられ、俺はうなずくより何よりこっそりと拳を握ってしまった。だってそれはさ、つまり、あれだろ？　来年も一緒にいようねってことだろ？ 「そのときは大樹と春樹くんも来てくれるかなー？」 　…………。 　うん、まあ……そんなもんだよな、人生って。ため息なんてつかない。俺は杏里のこういうちょっととぼけたところも好きなんだから。泣いたりなんてするもんか。 　昼休みが終わった後は体育で、思い切り体を動かした。おかげで調子は良好。下校までずっと気分が良かった。しかも杏里、瑞原と一緒に帰れることになったから尚更だ。毎日、この帰れるかどうかが一番ドキドキする。タイミングとか色々気を使うんだよ。 　ちなみに今朝のモロウィンのおじさんはまだいた。何人かの子供たちに逃げられて肩をしょんぼりさせている。夕暮れ効果もあってその背中はやたら寂しい。 「おじさん、またね！」 　杏里が声をかけると、おじさんは顔を輝かせて手を振ってきた。キラリ。やっぱり歯が眩しい。 「ああ！　不審者の多い世の中だからね、気をつけるんだよ！」 　今まさに不審者が目の前で手を振ってるんですけど、なんて。 　冷静にツッコみたくなったけど、今の俺は気分が良いのでやめておいた。 　楽しい時間はあっという間だ。少し寄り道をしていたらすぐ暗くなってしまい、俺たちはそれぞれ家路に着いた。夏だったらもう少し遊べたのに、それが何だか物足りない。 「ただいま」 　家に入った瞬間、笑い声が耳に飛び込んでくる。この声のでかさは姉貴だ。そう思ったとたんにため息が出てきた。別に姉貴のことが嫌いなわけじゃない。ただ、無駄に長電話でうんざりしちゃうってのが俺の本音だ。一度言ったら「それが女ってもんよ」と返された。でも杏里は……ああ、不思議話になると止まらないか……。それはそれで、一生懸命話している姿がいいなぁとか思うんだけど。 「あ、爽真。あんたに電話」 「俺！？　ちょっ、何で俺あての電話であんたが盛り上がってんだよ！」 「爽真がいるかって聞かれたから、まだ学校よーって。そしたらいつ帰ってくるか聞かれて、うーんそろそろだと思うけどなんて話してたらいつの間にか」 　説明になってない。全くもって説明になっていない。 　とにかく姉貴を押しやって、俺は改めて電話に出た。 「もしもし？」 『あ、爽真。帰ってきたのか？』 「…………」 　受話器の向こうから呑気そうな声が聞こえてきて、俺は一瞬、このまま切ってしまおうか本気で悩んだ。だって疲れる。こいつ――日向大樹との会話は妙に疲れるんだ。しかも杏里の元クラスメートだとかで仲良くしてるのがちょっとムカつく。今のクラスメートは俺なんだぞこの野郎。 　とはいえ、やっぱり黙って切るのは忍びない。俺は大袈裟なほどため息をついて口を開いた。 「何だよ、一体。俺に電話なんて珍しいな」 『んー。この前言ってた杏里の写真あったぜ。運動会の』 「ほんとかっ？」 『春兄がアルバム整理してたら見つけてさ。だから今度持っていこうかと思って』 　俺は無意識に受話器を握り締めた。何だ、いい奴じゃないか。どうしようもないアホだって誤解してたけど。 『でも、杏里の写真なんてどーすんだ？』 「……別にいいだろ。男のロマンだよ」 『マロン？　あ、そういや今度、杏里が栗取りに行こうって言ってたぜ！　いいよなー。秋って感じじゃん』 　……やっぱアホなんだろうな。それとも極度の鈍感か。まあ、今回はそのアホさと鈍さに感謝だ。 「ところで、何かお礼やるよ。何がいい？」 『へっ？　別にいいって。写真持ってくだけだし』 「いいから言えよ」 　まあ、なんていうか。正直に言うと、俺が借りを作りたくないだけだ。特にこいつに借りを作るのは俺のプライドが許さない。 　大樹はしばらく迷っているみたいだった。向こうでガヤガヤしているから、おそらく兄貴の春樹に相談でもしているんだろう。少ししてから、あいつの声が戻ってくる。 『んじゃさ、シェネーケネギンのチョコ食いたい』 　やっぱり食い物か。ある程度予想していた通りで、俺は思わず吹き出した。 『この前杏里の家で食ったらすっげー美味かったんだぜ。あ、でもな！　春兄も料理うめーの。お菓子だって簡単に作れちゃうんだぜー♪』 「兄貴の自慢話なんてどうでもいいっつーの。とりあえずチョコな。……安いやつだぞ」 『あ、春兄の分もだぜ！』 「このブラコン野郎」 　おまえはどんだけ兄貴が好きなんだ。 　――ともかく、後は他愛ない話をいくらかして俺は電話を終えた。ふう、と一息ついて子機をしまおうと思ったところに姉貴が立っていて、俺は思わず後退る。ニヤリって。笑った。ギラリって。眼鏡が光った。 「少年」 「な、何だよ」 「写真なんかに一喜一憂してないで、さっさと想いのたけを本人にぶちまけて玉砕してこようとは思わないわけ？」 「なっ……！」 　あまりといえばあまりの言い草に、俺は言葉も忘れて口をパクパクと開けるしかなかった。聞いてたのかよ。しかも玉砕って決めつけて。 　ていうかうざい。超うざいんですけどこの人！ 「お姉さまに向かってうざい？」 「いてっ、てててて！　読むな人の心を！」 　ギャーギャー騒いで、疲れてきたところで親が止めに入って。解放された俺はぐったりした。疲れた。何だか無性に疲れた。 　でもまあ、いいこともあったよな。うん、杏里はやっぱり可愛かったし。写真も見れることになったし。 　ふいに窓から見上げた空の月は笑えるほどまん丸で、俺は何となく拝んでしまった。明日も、――も？　まあ、とりあえずいいことがありますように。 　 　それにしても月の影がモロモロに見えてきた俺って、結構末期なんだろうか……。 <a href= "http://bbs15.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=kansou&mode=view&no=98">感想BBSへ</a> この作品に投票する！ </div>

表示オプション

横に並べて表示：

変化行の前後のみ表示：