シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

時のいたずらを歩みし者

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  時のいたずらを歩みし者 @ 作者 : 望月 霞

 「おっ、いたいた」
 「あら加濡洲 (カヌス)、どうしたの?」
 「いやさ、お前にちっと聞きたいことがあってよ」
 と、とある木の下で小さめのお弁当を広げている伽糸粋 (カシス) に声をかけた加濡洲。 彼は、彼女のひとつ上の兄である。
 とはいうものの、彼らに性別は存在しないのだが。 ならばなぜ兄妹と呼んでいるかというと、それは人間にあわせた結果である。
 「最近さ、加阿羅 (カーラ) のやつ機嫌めちゃくちゃ悪くね?」
 「そうねぇ。 確か、楓 (かえで) と会ってからじゃないかしら」
 「そっかぁ、やっぱりな」
 「まさかそのことであたしを探してたの?」
 「確認とりたかっただけだって。 ―― その握りの具はなんだ?」
 「昆布に蛇のぶつぎりをまぜたやつよ。 はい」
 自分のとなりに座った彼にひとつ、三角形でできたご飯粒のかたまりをわたす。 礼をいった加濡洲は、続けざまにかみついた。
 「ところでよ、ここんとこ暴れてる馬鹿見たか」
 「見てないわ。 たぶん加阿羅が腹いせにたたき斬ってるんじゃない?」
 「あー、でやがったな。 あいつの悪いクセ」
 はぁ、とため息をする彼。 一定の呼吸を吐きだした加濡洲は、天をあおぎそのまま話さなくなる。
 兄の話を片耳に入れながら、伽糸粋は逆の方向をむいていた。
 「……やっぱり、気にしてるのかしらね。 あのときのこと」
 「たぶんな。 さすがに楓の前じゃ顔色変えなかったが、いないときひどく荒れてたし」
 「うーん、これは本人の問題だからそっとしておけってジジに言われたけど。 本当はあたしも気が気じゃないのよ」
 「そりゃオレだってそうさ。 でもよ、ジジやおっちゃんが触れるなっていうからよ」
 「えっ!? そうだったの?」
 「ん? 何でそんな驚くんだ? もしかして聞いてねぇのか」
 「そ、そういえばあれ以来会ってないわ。 あたし」
 「―― おっちゃんらしいな。 つーか、加悧琳 (カリン) は大丈夫か。 加阿羅の不機嫌を見たのはじめてだろ」
 「平気みたいよ。 最初見たときは目を丸くしてたけど、虫の居所が悪いときはいつもああだって説明したら妙に納得したわ」
 「……意外に神経ずぶといのか能天気なのかどっちなんだ。 今に限ってのことじゃねぇけど」
 「たぶん、前者だと思う……」
 先ほどとは違う意味で、おたがいの視線が反対方向へとむくふたり。 生まれてから1年と少ししかたっていない末弟の適応能力に、驚くばかりである。
 まるで水滴がたくさんついたかのような雰囲気になっているとき、上から大きな影が現れた。 いや、降ってきたと表現をしたほうがよいだろう。 それは突然、何の音さたもなく落ちてきたのだ。
 反射的にかまえるふたりだったが、動作が中断してしまう。 理由は、謎の物体を追っていたらしい話題の人物がすぐやってきたからだ。
 だが、普段とは異なった容姿になっている。 加濡洲たちは、彼の様子をうかがうに空中戦をおこなっていたことを理解した。
 「このおれから逃げようだなんて、万年早いんだよ。 うっとうしいからとっとと太刀の肥やしになりな」
 と言い放ち、正体不明の影は声もあげることなく斬り捨てられる。 すると、加阿羅の手にあった太刀は藍色の相手を食いつぶしていき、しまいには、刀身が敵を吸いとってしまう。
 相手が消滅すると、今度は赤い色をしているそれが淡い黄緑色の光をまといやがて消えていった。
 太刀からかがり火が消えたのを確認した加阿羅は、上から下へと勢いよくふり、それから鞘に収めた。 ふと右側に目をむけると、彼の弟と妹が映る。
 「あれ、こんなところでなにしてるの」
 「ただ話してただけだぜ。 それより、さっきの影は何だよ。 影使いか?」
 「わかんない。 突然背後から襲われて頭にきたから見てないよ」
 「ちゃんと確かめてから戦いなさいよ」
 「仕方ないだろ。 おれそんときカラスだったんだから」
 「なるほど、だからその姿なのか」
 そういうこと、と返す加阿羅。 今の彼は、いつもの姿に背中から黒い羽がはえているもので、普段は翼のない形をなしている。 おそらく、鳥の容姿から急いで姿を変える術をとなえたので中途半端な体つきになったのだろう。
 このような会話の中、加濡洲と伽糸粋は思わず目を合わせてしまった。
 「何、どうしたの」
 「何でもないわ。 ところで、これ食べる? 昆布と蛇のおにぎり」
 「そうだなぁ、もらっていい?」
 このように言葉にし、伽糸粋から握り飯をもらう加阿羅。 口半分に米をつめる彼の顔を、加濡洲はまじまじと見つめていた。
 「―― どうやらおれの話をしてたみたいだね」
 「! い、いや、そんなんじゃ」
 「本当に嘘つくの下手だな。 演技はうまいのに」
 笑いながら語る彼に、見破られた当人は少々腹をたてる。 微妙に引きつった表情の加濡洲に、せっかくごまかそうとした妹はあれてしまった。
 そのとき加糸粋は、やはり気分が悪いことを認識する。 一番の理由は彼の口調で、いつもは語尾がのびたような話しかたをする長男だが、その特徴がみられないからだ。
 「いっておくけど、気持ちの整理はちゃんとついてる。 まあときどき思いだすことはあるけど」
 「加阿羅……」
 「おれ自身が中途半端な存在だからね。 でもどうしようもなかった、ちゃんと考えてたつもりでも時間は待ってくれなかった」
 「でも、それはあんたのせいじゃ」
 「まあね。 でも、力不足は否めない。 事実、ふたりや加具那 (カグナ)、挙句にはあいつにも迷惑かける結果になっただろ」
 「おっちゃんはそう思ってなかったみたいだぜ。 むしろへこんでた」
 「―― 今でもしつこく忠告してくるよ。 うっとうしいぐらい」
 「うっとうしいって。 あんたのこと思って言ってるんじゃない」
 「だからうざいんだって。 とうの昔に縁も切れたんだ、今更ふるまう必要ないだろ」
 「んなことオレらに言ったってわかるかっ」
 両手を腰にあて、のどからの音を大きくして話す加濡洲。 その態度に、加阿羅は見開いてしまう。
 「確かに、わかるわけないか」
 自分の抱いている胸の奥をごまかすように笑う彼。 同じ場所にいるふたりには、痛々しそうに映っていた。
 「さて、またひと暴れしてくるかな。 お前たちは?」
 「オレはパス。 ちっと表に行ってこなきゃならねぇんだ」
 「あたしはこれから調べごとがあるわ」
 「わかった。 じゃ、またあとで」
 そういうと、加阿羅は変化の術をとなえはじめる。 すると、彼の体が透きとおっていき、最後には視界から消滅しまう。 次の瞬間、加阿羅がいなくなった場所から光があふれだし、小さな爆発が起こった。
 そこには、今までいなかった老緑 (おいみどり) 色の鳥が現れる。
 カラスに化けた加阿羅は、何も告げずに飛びたっていった。
 「そいじゃ、オレも行くわ」
 「ええ。 また夕方に」
 何ごともなかったかのように話し、ふたりは別れる。 ひとりは歩きだし、ひとりはまたその場に座りこむ。

 それぞれの思惑がどこにむかい、どこにたどり着くのか。 何らかの過去を背負った者たちは、目の前にある道を、ただひたすら進んでいるのだった。



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