商店街繁盛記・番外編
ゆうき いさむ
鈴は釣りが好きだった。
どうしょうもないくらい。
まいにち釣りをした。
まいにち走り回った。
大好きなモロモロをいっぱい食べた。
鈴木の爺さんは一人でたたずんでいた僕に「道具」をくれた。
そう、モロモロと心を通わせる道具だ。
彼らの声が聞こえるわけではない。
聞こえるのかもしれないけど、悲鳴は上げていないよ。多分。
「じっちゃん!」
僕が麦藁帽子をかぶって上を見上げる。
じっちゃんは目を見てくれた。
瞳が僕を迎えてくれる。
朝霧に隠れた水面の地には糸が吸い込まれていく。
…… ぴしゃん、竹竿が揺れた。
境界には波紋ができた。
トントントントン、ネギを刻む軽快な音。
そう、ここは「霧生ヶ谷蕎麦・水路」さっそく今日の仕入れを済ました俺は、相棒のすり身のテクを横目に見ながら、目を半分閉じていた。
そう、半分。
見えない半分は違うものを見ていた。
「モロットモンスター♪」
えーと、この時間にアニメ?
jyzkajyzkaと流れる歌を背中ごしに聞いた。
俺は苦笑して作業を続ける。
志穂さんの顔から流れる汗は、美人を引き立てる。
大学まで行ってるからこそ切り盛りできるのだろう。
刹那、白い女性を見た気がして目を細めてみた。
「シロ、クロ、ネコ鍋~♪」
その声に目の前の霧は霧散した。
タックルでもしそうなパワーで飛び込んできた赤みがかった髪の少年。
薄目を閉じた俺にそいつは話しかけてきた。
「おそば作るといたくない?」
と、少年は言った。
「いや、いたいよ?」
「怪我したの?」
「いや、怪我していないよ?」
あ、しまった。イントネーションが違うのか。
霧生ヶ谷に戻ってきてからの俺は、視力が悪い。
見えたものが見えなくなってきている。
ま、視力を測ると1.0以上あるよ。
「兄ちゃん、モロットモンスター、最後まで見た?」
「いや、今日最終回か?」
シロがこちらを見ている。
先程やってきた二匹のネコ=クロ、シロ、は、いつの間にか増えていた。
おれも増えたんだな。
息を吸って、深呼吸! 笑って笑って!
「ここは店の裏だぞぉ、子供の来るところじゃないぞ!」
手を伸ばすと、俺は赤毛をくっちゃくちゃにした。
ネコと目が合った、クロとシロへまかない様のお椀へ手の伸ばすと、
そーと二匹は舐めている。
「あ、バス来ちゃう! 俺、大樹、初めまして!」
駆け出す少年に、「おぅ、鈴だ! 北霧 鈴だ!」
勉強ばっかじゃ息が詰まる! 暇なときはマンガでも読もう!
しかし、「モロットモンスター」って、ヌシモロ捕まえて帰ってくる話だろ?
あの笑顔を見てると、子供に触れてよかったな、って思うよ。
感想BBSへ