ツキモノと文化 @ 作者 : 望月 霞
ある日のこと。
「なぁ~んかつまんねぇな。 最近事件らしい事件もないしよ」
「いいじゃないの。 処理しなくて済むし、あたしは大歓迎よ」
「加濡洲 (カヌス) はお子ちゃまだから仕方ないよね~」
「だぁれがお子ちゃまだっ」
兄につっかかる弟に、彼の反応を楽しんでいる加阿羅 (カーラ)。 横にはあきれている妹という、いつもの光景だ。
そこに、最近できた弟の加悧琳 (カリン) がかけよってきた。 見た目は10歳前後で赤い髪をしている。
「あら加悧琳、どうしたの? 楽しそうにしちゃって」
彼からみて一番近い年齢の伽糸粋 (カシス) の裾 (すそ)
をひっぱった加悧琳は、手にしていた大豆入りの袋をかかげる。 どうやら、気にいって自店からもってきてしまったらしい。
「あら、何で大豆があるのかしら」
「伽糸粋が頼んだんでしょ~?」
「頼んでないわよ」
「ふぅん? まあ、いいんじゃないのー。 ……ん?」
上から1番目と3番目の兄妹が話していると、末弟が紙を差しだした。 彼は口が利けないので、文字を書いていたのである。
「え、豆まきしたい? 何処でそんなこと覚えたのー」
「人間がやってるの見たんじゃねぇか? お、そうだ」
何かを思いついたらしい加濡洲は、怪しい笑みを浮かべながら加悧琳に近づく。
「どうせなら盛大にやろうぜ! 見かけた奴かたっぱしから投げつけんの」
「ただのいたずらじゃないのっ」
「いいじゃねぇか、消えるもんじゃねーし」
「そうだねぇ~、んじゃ~」
と、加阿羅は加悧琳のもっていた大豆袋をあけ、次男に投げつけようとした。
そのときである。
どういう構造になっているのか、豆たちは勝手に宙をまい巨大なひとつの大豆になってしまったではないか。
「あ、え。 あれ~?」
「えーっと。 だ、だいだらぼっち、じゃないわよね」
「どう見たって豆だろーが、しかもでかいの」
産声をあげる豆の化け物。 目の前にいた13、4の子供たちを見るやよだれをたらしてしまっている。
「あ~、おれたち食っても何にもないけどー」
無言のまま加濡洲は模 (かたど) りの術で手裏剣を生成。 化け物についているふたつの目の間を貫き、相手は霊子 (れいし) の泡となって消えた。
何事もなかったかのように、
「絶っ対これジジの仕業だわ」
「やってくれるなぁ~、も~」
「あんのつるっぱげ……」
空にため息つく3人。 しかし、純粋に豆まきをしたかったらしい加悧琳は、悲しげに袋を見つめている。
後日。 普通の豆まきなら、という条件で豆を調達。
しかし、妖怪である彼らの “普通” が果たしてどのような結果を招いたかは、また別のお話。