シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

恋はまるで雷のように。

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 恋はまるで雷のように。 作者:あずさ

 




「一ノ瀬杏里です! 不思議が大好きで、だから霧生ヶ谷のお話を聞いて嬉しくなりました! えっと、面白い話があったら聞かせてください。よろしくお願いしまーす」

 小学四年生の、夏らしく太陽が強くて暑い日。
 そんな太陽の光に負けないくらいの明るさで、転校生がやってきた。



【恋はまるで雷のように。】


 転校生なんてやっぱり珍しくて、その日、俺たちのクラスはどこか浮ついた空気が漂っていた。
 だけど俺としては「ふぅん」というのが正直な感想だ。
 これが男子ならまだ違う。どんな奴か、結構気になる。一緒に遊べるような奴か、それとも全然気の合わなさそうな奴なのか、面白い奴だといいな、ムカつく奴は嫌だな、……色んなことを考えてみたりする。
 だけど女子が来たところで、俺たちの何かがそう変わるとも思えなかった。だからまあ、結構かわいいなとは思ったけど本当にそれだけだった。嬉しいとか嬉しくないとかそういう気持ちは全然なくて、強いて言うなら男じゃなくてちょっと残念、くらいのもんだろう。

「へぇ~っ。それで、それで?」
「うん、それで逃げないとね……」

 一ノ瀬杏里は転校は初めてらしいけど、ずいぶん慣れた……というか、すぐクラスの奴らと馴染んでいるようだった。明るくて元気な性格みたいだから他の奴らも安心したんだと思う。しかも好奇心? の塊みたいで、色んな奴の話を目を輝かせて聞いていた。頭の上で二つに括った髪の毛が笑うたびに楽しげに揺れている。
 休み時間なのに急に天気が悪くなったせいで外で遊ぶこともできなくて、特にやりたいこともなかった俺はそんなことを何気なく観察していた。……やたらと話が盛り上がっていたから、ふつうにしていればどうしたって聞こえてきちゃうんだけどさ。
 それからしばらくして数人の女子がトイレに行って(何で女子ってあんなに大勢でトイレに行くんだ?)、一ノ瀬は残っていたけど何となく話も落ち着いた流れになって……いきなり空が光った。
 え、と思った次の瞬間には太鼓のような音。

「……雷?」

 うおっ、だとか、わぁ、だとか。クラスにいた奴が何かしらの驚いた反応をする。俺もその一人で目をぱちくりさせているとすぐに雨足が強くなってきた。本格的に大雨だ。

「うわー」
「帰るの面倒ー」
「ちょ、ほんと強いんだけど」
「俺、今日傘ない!」

 そこかしこで悲鳴じみた声。
 そんな中で一ノ瀬がいつの間にやら窓にへばりついていた。窓際の席だった俺とも距離が近くて、俺は少しばかり面食らう。確かに外の様子が気になるのは分かるけど、なんていうか、その、……何でそんなに楽しそうなんだ?

「い、……一ノ瀬?」
「え? あ、えっとー……お名前は?」

 くるりと振り返った一ノ瀬が首を傾げてみせる。……ああ、そういえば初めて話すんだから知らなくて当たり前か。

「爽真。……柳川爽真」
「爽真くんだね、よろしくね!」
「あ、ああ……。で、何でそんなにへばりついてんだ」
「え?」

 ぴかっ、ごろごろ、どーん。
 そんな感じでまた雷が落ちてくる。さっきよりも少し近いみたいだった。
 再び一ノ瀬の視線が外に釘付けになる。だけど俺を無視するつもりはないみたいで、会話だけはちゃんと続けてきた。心なし声が弾んでいる。

「あのねあのね、雷って光るよね。だけど何で音は後から聞こえるのかな」
「は?」
「聞いたこと、あった気がするの。でも思い出せなくて……うーん、どうしてだろう。不思議だよねぇ」

 顔は窓の外に向けたまま、うんうん唸りながら尋ねてくる。俺は呆気に取られて何も言えなかった。いやまあ、分からなかったから答えられなかっただけとも言うけど……。そんなこと気にしたこともなかったし。

「えっと……」
「光の方が、音よりも速いんですよ。だから同時に出発しても、音は遅れて届くんです」

 ふいに涼しげな声が聞こえて、俺も一ノ瀬もほぼ同時に振り返る。そこに立っていたのは瑞原ほのか、同じクラスの女子だった。ニコニコと落ち着いた笑顔が特徴的だ。

「あ、そっか! ほのかちゃん、だっけ」
「はい」
「教えてくれてありがとう!」

 元気にお礼を言った一ノ瀬は、次に俺の方を振り返って、

「すごいね!」

 ……ものすごい笑顔で同意を求めてきた。正直何に対しての「すごいね」なのか俺にはよく分からなかったけど、

 あ、いいな、なんて。
 何となく思ってから我に返る。

(いや、待て、いいって何が……)

 混乱している間に雷がまた光って、それ以上にぴかぴかと輝いた一ノ瀬の楽しげな笑顔が照らされて。

「わ!? うわぁ、今の近かったね……って爽真くん、どうしたの? 顔、赤いよ?」
「……!」

 急に心臓がドキドキしてうるさくなった。遅れて、唐突に理解する。――してしまった。
 いや、でも、え、そんな、だって。

「爽真くん?」

 どこか心配そうな目で一ノ瀬が覗き込んでくる。恥ずかしすぎて俺は思わず顔を逸らした。そのとたんにまた雷の落ちた音がする。

 ……ああもう、雷の音より、ドキドキの方がずっとうるさい!


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