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 「何だお前は」
 「てめぇこそなんだ! 突然押し倒したあげくに獲物を突きつけやがって」
 もがきながら騒ぐ、私と歳が近いだろう謎の少年。抵抗するも、左足で右手を踏み、右手で相手の左手首をつかまれ、体重で上から押さえつけられているので、加濡洲君をどかすことができないでいた。
 「楓ちゃん、どう見える?」
 「あの子のこと? うーん、別に普通の人間じゃない? ちょっとヤバそうだけど」
 「君にもそう見えるんだねー」
 ちょっと行ってみよう、と、加阿羅君。ふたりに近づいてのぞきこむと、何と以前見かけた茶髪のウェイターだった。どこの店か忘れたが、和服を着た謎の人物を見た店員である。
 まだもがいている少年は、私を見ると小さな声で、あ、と発した。加濡洲君も聞こえたらしく、そのままの体勢で、知り合いか、とたずねる。
 「顔見知りよ。お店のウェイター」
 「そうかよ。で、何でこんなところにいんだ」
 「こっちが知りてぇよ。知り合いが突然消えちまったから探してたんだ、そうしたらてめぇらがあの化け物とドンパチしてて」
 「ねえ、おれが代わるよー」
 と、加阿羅君。いや春夏冬(あきなし)君と呼んでおこう。兄貴の翔(しょう)君は、まず相手を起こし腕を後ろにまわす。右手で両手首をつかんでいると思われ、左腕で少年の首を巻いた。少年は、ぐっ、と声をもらし痛そうにしている。力は翔君のほうが強いと思うので決して逃げらられないだろう。
 一方、瞬君は立ち上がり、私の近くにやってくる。しばらく周囲を見渡した彼は、両肩と両手を天にむかって動かした。
 「そいつ以外いねぇ」
 「ふう~ん」
 「おいこのバカ力っ、いつまでこうしてやがるっ」
 「うるさいなぁ、このまま腕使えなくさせるよー?」
 「俺が何したってんだ!」
 「んー? 色々とイケナイこと~」
 茶髪少年の顔がこわばる。本当にやましいことをやっているのだろうか。それにしてもよく調べているものである。
 だが、今は個人の経歴などどうでもよい。問題は、この特殊な空間にこの人がいることだ。
 「おい、離してやれ。あとはオレが何とかすっから」
 「そ。じゃあ」
 少年の体が翔君の腕から開放される。急いで彼から離れた少年は痛そうに手首を押さえ、何かあったら慰謝料請求してやっからな、とわめいた。うんざりそうな表情をしながら、瞬君は少年の額に左手の人差し指をさす。瞬君は瞬きをせず少年を見つめると、次第に少年の目がうつろになっていく。彼は、ここから去れ、と少年に命令し、少年は方向を変えながよろよろとら歩いていった。
 「これでいい。あとは結界だな」
 「だねぇ~。さっきの奴じゃないなら誰が作ったんだろーねぇ~」
 「オレが知るかっ。とりあえず戻るぞ」
 私たちは店のなかに戻り、ガラスの破片を払って席につく。すると、瞬君が目を閉じ、沈黙が辺りを支配した。視野が虹色で波打っていき、徐々に通常の感覚に戻っていくと、小さなビニール袋に空気をいれて破裂させたような音が耳を貫通する。
 次の瞬間、お店は元の騒がしさを取り戻していた。
 化け物のことなどまったく気にしていないのか気づいていないのか、ウェイトレスは普段と変わらないだろう態度でランチを運んでくる。そして、決まったセリフをいい、そのまま下がっていった。
 「特定以外の人がはいれないんだよー、結界って」
 手を拭きながら、加阿羅、いや、翔君はハンバーグがふたつのった皿を見ている。彼の言葉は、私が思った疑問点を消してくれた。
 「じゃあ、その他大勢の関係のない人たちはさっきのことを知らないってことなのね」
 「ああ。んま、霧生ヶ谷の連中は怪異に慣れすぎちまってるけどな」
 それはそれで問題だと思うが、今は無視しておこう。とりあえずは、関係のない人が巻きこまれる心配はないってことだけど。
 なら、さっきの少年はどうしてケッカイの中にいたのだろう。
 「さっきの野郎はオレらが調べとくって。そうそう、楓。今日から特訓すっから」
 「特訓? 何の」
 「戦いかたを教えるっていっただろ。今まで通りじゃあ通用しねぇからな」
 チキンソテーを口から落としそうになる。行儀が悪くて申し訳ない。しかし、いつ私が『戦った場面』を見ていたのだろうか。
 「春ぐらいだったか。お前たちが遊びにきたの」
 「ふたりともからまれて雪祥君が殴られたんだっけねぇ~」
 そんなこともあったかもしれない。あまり覚えていないが、かつあげされそうになったのかな、たぶん。
 まあ、その後の展開はいつものことだ。闇にまぎれて力で解決したのだろう。正直な話、東京でも同じようなことに巻きこまれたから。
 もちろん、東京のような抗争をしようとはこれっぽっちも思わない。いい加減、潮時だ。
 おっと。食べにきているのに世界にはいってしまった。私は、何も考えていなかったように食事を始める。
 様子を見ていたのだろうふたりは、視線を合わせたあと、そのままフォークとナイフを動かした。
 店からでると、外は本当に通常そのものだった。先ほどの戦いのほうが夢に思える。携帯電話がなったことで、さらに現実味がおびた。鳴兄からの電話にでると、
 『楓、今どこにいる?』
 「駅前のレストランだけど。どうしたの」
 『ユキが怪我したんだと。俺ちょっくら学校に行ってくるから後頼む』
 「ちょ、どういうこと、それっ」
 『詳しく聞いてないが、喧嘩したそうだ』
 あの馬鹿、転校早々に何やってんのよっ。
 「鳴兄、私も行く。場所どこなのっ」
 『いいっていいって。話がややこしくなっても大変だろ。俺に任せておけって。じゃ、買い物頼むぞ』
 プツッ、と切れてしまう。会話終了のむなしい機械音が携帯から発生していた。
 「行ってみるか、現場」
 携帯をにらみつけていると、瞬君が意地悪そうな表情をしている。隣には、少し困ったような笑みをしている翔君の顔があった。
 「直接はいるわけにはいかねぇが、遠目なら見れるぜ」
 「さっき雅から連絡があったんだよ~」
 えーと、雅って伽糸粋(カシス)ちゃんか。そうだ、ユキを見てくれているんだっけ。
 私は即刻連れていってもらえるよう、彼らに頼んだ。
 やってきたのは人気のない小さな山。山、といってもおそらく10メートルもないかなり低いところだ。木々が茂っており、散歩コースにはちょうどよい。てっぺんより少し前の歩きづらい場所で、私たち3人は腰をおろした。
 瞬君が周囲を見渡し、ボールを下から抱えるような手の形を整えると、水色の光が現れる。中心部分がだんだんと透明になっていき、いかにも不良少年の格好をしている4人の生徒とユキが映しだされた。周囲には職員たちが7人、4人組は頭や腕、足に大怪我を負っているらしく、ユキは顔にガーゼやバンソウコウがあるだけだった。不良少年たちはひどく怖がり、弟はかなり機嫌が悪いようだ。
 そこに、鳴兄がやってきた。何やら教師たちと話をし、双方頭を下げている。彼は4人組にも話しかけお辞儀をしたあと、ユキを立たせる。ユキは不良たちを見、不良たちは肩を寄せ合うようにして縮こまった。
 ユキと鳴兄が部屋をでた直後、物音が聞こえた。全員で音のしたほうを向き、瞬君は手にあった水色の光を消す。ひょっこり姿を現したのは、現代の服をした伽糸粋ちゃんだった。
 「何だ、お前かよ」
 「ごめんごめん、気を感じたから。楓、久しぶりね」
 「うん、久しぶり。ユキがお世話になってごめんね」
 「そんなことないわ。あたしたちが無理に頼んだんだし。で、どうしたの。こんなところで」
 瞬君が事情を説明する。納得した伽糸粋、いや雅ちゃんは、ちょっと困った顔をした。というのも、霊子関係ならすぐに飛んでいくが、人間同士の喧嘩は関与しないからだそうだ。まあ、当然といえば当然なので、私もとくに思うところもない。今回の騒動はこちらが原因だし。
 「ところで、伽糸粋は何してるのー?」
 「そうそう。実はこの中学校、どこか妙なのよ。それで調べてたの」
 「妙? どこがだ」
 「わからないから調べてるのよ。加悧琳(カリン)にも手伝ってもらってるし」
 どうやら、またヘンな展開になってきたらしい。