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 見たところ普通の中学校がある。しかし、妖怪兄妹のひとり、伽糸粋(カシス)ちゃんは、この目の前にある校舎が妙だ、といった。
 「加悧琳(カリン)はどこにー?」
 「周囲を見てもらっているわ」
 「いつ頃から妙と感じたんだよ」
 「ついさっきよ。3人が戦っているときから」
 「ねえ、話してる最中悪いんだけど」
 私は彼らの話をさえぎった。静かになった空間に、私は視線をある場所からそらさずに続ける。
 「校庭、何かヘンじゃない? 気のせいかな」
 みんなが話している間ずっと見ていたのだが、どういうわけかピリピリしているように感じる。まるで大掛かりな静電気が校庭周辺に起こっているようなのだ。
 3人も何かを感じたのか、少し前のめりで校庭に視線を注ぐ。ほんの少したったあと、ユキと鳴兄がでてきた。2人は何てことなく校庭を横切っていた。しかし、彼らは校庭の中央付近で立ち止まる。ちょっと小さくて見えづらいが、周囲を見渡しているようだった。
 突然校庭の地面が揺れる。ここではなく、彼らが建っている場所だけ揺れているらしい。
私たちがいるところから伺えたのは、弟たちの左右から、何の前触れもなく彼らにむかってヒビが襲うところだった。
 「ちょ、え、ユキ、鳴兄!」
 2人は走り出し、目の前にきたヒビを飛び越える。しかし、ヒビは獲物を捕まえようと背後からつきまとってくる。再び走り始めた弟たちだが、校門は地面から出てきた巨大な突起物によってふさがれてしまった。突起物はてっぺんの部分を砂をはきながら手の形に変えふたりを平手打ちでつぶそうとする。反射的に右と左によけたふたりだが、鳴兄が反撃を開始しようとした。服の胸内から拳銃をとりだして撃ったのだ。そしてユキに向かって何か叫んた。ユキも何かを大声でいいながら、カバンからナイフらしきものをとりだしている。
 「あいつら面白ぇモンを持ってんな」
 「感心してないで行くわよっ」
 伽糸粋(カシス)ちゃんが後頭部をどついて飛びだしていく。彼女の姿が瞬時に消えると、今度は加濡洲(カヌス)君が見えなくなった。
 「楓ちゃん、おれたちも行くよ」
 突然、足が地面を離れた。私は加阿羅(カーラ)君に抱えられたまま空を飛ぶ。例の校庭の上を横切り屋上へ降りたつと、何か見えない? と話した。
 「さっきみたいに妙なところとかない?」
 私は返事をしなかった。屋上の金網にへばりついて見ていたから。
 ひび割れた校庭から校舎に視線を動かす。そしてプールや体育館と思われる建物があった。
 ふ、と空を見上げる。空が暗かった。まだ夕方でもなく、雲の厚さにおおわれて太陽が隠れたわけでもない暗さだった。
 私は加阿羅君に向き直った。彼も異変を感じていたのだろうか、私と数秒間目をあわすと空を見上げる。直後、地面が揺れた。再度抱えられた私の体が空中へと舞い戻ると、足場の建物が壊れ、下の階が丸見えになった。
 「ちっ、思った以上に早いな」
 「加阿羅君、どうするの」
 「どうもこうも。君を抱えたまま戦うのは危ないかなぁ、今回は。空中戦と地上戦の両方得意みたいだし」
 「2体いるってこと?」
 「いや、1体だよ。カモフラージュしてるだけ」
 「じゃあそいつの急所をつけばいいじゃない」
 「それがわからないから苦労してるんだって。最近いつもそう」
 以前一緒に行動したとき、いとも簡単に相手を倒していた妖怪兄妹が苦戦? それだけ相手が手ごわいってことなのだろうか。いや、今はそんなことより敵を倒すことが優先だ。ユキや鳴兄を助けなきゃなんない。なぜか私は異変に気づくことができる。それを最大限に生かすべきだろう。
 下を見ると、校庭の真ん中あたりにさっきとは違う現象があった。地面から棒が突きたてられているのである。突起物のほうを見ると、加濡洲君が鳴兄を、伽糸粋ちゃんがユキをかばいながら戦っていた。
 再び棒に目を戻す。すると、
 『力ヲ欲シテイルノナラ、我ヲトルガヨイ。力ニナッテヤロウ』
 何だこの声は。ひどく重くて不気味でしょうがない。
 『良イノカ? コノママデハ、ココガ崩壊スルゾ』
 だから、お前は何なんだ。
 『今ハソンナ話ヲシテイルトキデハナイダロウ? コノ戦ガ終ワッタトキニ教エテヤル』
 気にいらない。何様のつもりだこいつは。
 だが、意味不明な声のいうとおりだ。気持ち悪いが、今の状況を打破できるのなら力を借りるしかないかもしれない。
 「加阿羅君、私を校庭の真ん中におろして」
 「どうしてそんな危険なところに」
 「あの棒見えない? あの前に降ろしてほしいの」
 顔をゆがめる加阿羅君。校庭のあと私を見たが、ため息しかでてこなかったようだ。彼はゆっくりと地上に降りたつと、風で私を包みこんだ。そして、近くにいる新たにでてきた突起物を切り捨てていく。
 背中を見せた加阿羅君に、ありがとう、と伝えると、私は自分の用件にとりかかる。目の前には、緑、赤、黄色、白、黒の5色の色が入れ替わり立ち代りしている不思議な剣、があった。
 『ヤット来タカ。サア、我ヲ抜キ放チ、騒ギヲ終ワラセヨウデハナイカ』
 「その前に、あんたは誰」
 『戦ガ終ワッタラ話シテヤル』
 本当に偉そうな奴だな。礼儀ってもんを知らないのか。
 いらだちを抑えながらも、私は剣の持つところに触る。すると、剣にまとわりついていた光が一気に広がり、視界が真っ白になった。次に目を開けたときには光は止んでおり、剣は攻撃するところを見せながら、宙に浮いていた。
 『我ヲ手ニセヨ。サスレバ、終ワラセテクレヨウ』
 いわれるがままに剣を手にし、私は校門にある突起物に構える。剣から腕に、そして全身に駆けめぐる捨て去ろうとした破壊の感覚が走った。抗争時の記憶がよみがえる。あのときの高揚感、勝ったときの楽しさ、自らの強さに酔いしれる快楽。自分の怪我と倒した人数や相手によって『アタシ』を確立させていた時期を思いだした。
 扱いかたも知らないはずの獲物が、アタシを導いていく。
 校門にいる敵の足元に、右上から左下に向かって大きな切り傷をつける。手首を返し今度は左下から少し右上に切りつけた。
 この世のものではない突起物は、どこから悲鳴をだしているのかわからないが、アタシは迫りくる土の塊すべてを切り落とす。同じ場所に、右側からは水の塊が、左側からは火の塊が突起物を攻撃。最後に背後から加阿羅君が飛びだし、突起物の中央部分に獲物を突きたてた。突起物は身震いを起こし、そのまま崩れ落ちていく。
 砂の小山に刺さった赤く大きな武器が落ちた。軽く砂ぼこりをたてた武器は、ふあり、と浮かび、持ち主の元へと戻っていく。加阿羅君は手持ちの部分を手にし左上から右下に払ったあと鞘に収めた。
 静寂が支配する。
 「説明してもらおうか」
 静かな空間を破ったのは、鳴兄だった。カチリとなった機会音に目を向けると、加濡洲君が意地悪そうに笑いながら両手を挙げている。
 「なるちゃん! いくらなんでも。助けてくれたじゃんっ」
 「それとこれとは話が別だ。何の為に俺がここにいると思ってる。ユキ、お前ならわかるよな」
 「そういうこった。んで、にーちゃん。そんなんじゃオレを殺すことはできねぇぜ」
 「ふん、面白いハッタリだな」
 「よほどの馬鹿じゃなきゃわかると思うんだがなぁ。さっきの見たろ?」
 鳴兄が黙る。そうか、彼が来た理由はやっぱりそうだったのか。親父もかなりの心配性だから仕方ねぇが。
 「鳴兄、離してやってくれよ。アタシもよく助けてもらってんだ」
 まゆの間にしわがよる。かなり不服そうだが、彼は加濡洲君に突きつけていた獲物をおろした。後頭部の違和感がなくなったことに気づいた加濡洲君は、表情はそのままに鳴兄に体をむける。
 「あんたには悪いことをした。巻きこむきはなかった」
 「俺には? 他のふたりは巻き込む気だったのか」
 「ああ。りっぱに関係者、っと。いいのかよ、白昼堂々ぶっぱなして」
 「やめたほうがいい。結界はとうに壊れているからね」
 と、聞き覚えのない声がした。校門から耳にした音は、緑色の長すぎる髪をした、ちょっとセクシーな男性だった。

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