シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

妖(あやかし)と獅子たちの伝奇の世 -第8話-

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  会ったこともない男性だ。いくぶんか誰かに似ている気がするその人の腕には、胸部が血まみれになっている加悧琳(カリン)ちゃんがいる。

 弟の存在を確認すると、姉の伽糸粋(カシス)ちゃんがすっ飛んでいく。男性は彼女と会話をしたあと、連れ立ってアタシたちのところへやってくる。
 アタシの頭ふたつ分ぐらい背が高い男性は、にっこりと笑いながら、ここだと話せないから場所を変えよう、と話した。
 「それは構いませんけど」
 「ああ、加悧琳なら心配ない。君は優しい子だね」
 「心配ないって。そんな大怪我してんじゃんかっ」
 「大丈夫、大丈夫。この程度なら死なないの、この子は。どうしてか気になるだろう? 雪祥君」
 大人の、余裕の笑みに腹が立ったのか、ユキは殴りかかりそうになる。すんでのところで加阿羅君が止めてくれたが、その彼は不機嫌そうに、
 「あんた、何してんだ」
 「ご挨拶だな、心配してきたのに。まあいい、ほら、早く移動しないと」
 舌打ちした加阿羅君は、両腕を広げ、左右の手に緑色のうずまきを創りだす。うずまきは全員を包みこむと次第に小さくなっていく。
 再び大きなうずになったとき、風景から現代の建物がなくなっていた。周囲には、昔の日本人が住んでいたと思われる、よく歴史の資料でのっている古い家と自然豊かな風景が見えた。以前見た、妖怪世界の光景である。
 「立ち話もなんだから、中へどうぞ」
 加悧琳ちゃんを抱えた男性は、伽糸粋ちゃんを連れだって先にはいり、次に加濡洲君、加阿羅君の順で歩いていく。
 残されたアタシたちは、目を見合わせたあと、ゆっくりと同じ方向に行った。
 大きな引き戸をくぐると、以前アタシとユキの家を一緒に探してくれた店員さんがいた。前と違い、昔の貴族が来ていそうな服を身につけている。たしか、春夏冬 瀧(あきなし たけし)と名乗っただろうか。にこやかに手を上げながら、いらっしゃい、と話す。
 「あれ、こないだの」
 「覚えててくれたんだ。そう、この家の主が俺なんだ。さあ案内するよ」
 促されるままついていった先は、20畳はあるんじゃないかというほどの部屋だった。部屋の中心には「いろり」があり、先に行った全員がそろっていた。見た目や服の種類も中世の日本人が着ていたそれ変わっており、加悧琳ちゃんは少し眠たそうな顔をしながら正座している。
 アタシたちも習い、用意されていた座布団に座った。
 加悧琳ちゃんを抱えていた男性と案内してくれた男性も続けて座り、この場にいる全員が腰を落ち着かせると、初対面の男性が話しはじめた。
 まずは自己紹介からだった。進行役の男性の名前は魔阿羅(マーラ)といい、彼の右隣にいるのは加具那(カグナ)という名前を持つ。そう、この前車を運転して案内してくれたのは、妖怪兄弟の祖父にあたる人物だったのである。彼がなぜ青年の姿になっているかはこの際流しておく。
 次にアタシたちと戦った妖怪たちの紹介だ。名前はともかく、彼らの正体を知ったのが今回初となるユキの反応は、あいた口がパクパクと動いている状態だ。鳴兄に限っては、まだにらみつけている。
 ふたりの様子を知ってか知らずか、魔阿羅さんは話を続けた。
 次は、アタシとユキが霧生ヶ谷にきた理由だ。それは、妖怪世界に異変が起こり解決するために人間であるアタシたちの力が必要だから、というもの。以前聞いたのと同じ内容である。
 二度聞いてもアタシには、はあ、程度しか思わなかったが、弟と義理兄は違う反応を見せる。
 「話はわかったけどさ。何もカンケーないオレたちの命も危なくなるのは納得いかないっ」
 「全くだ。俺たちが命かけてまですることじゃない。そっちで勝手にやってくれないか」
 「出来ないから頼んだんだよ。だからちゃんと護衛をつけているし、何かあったらこの子達を使えばいい」
 「冗談じゃない。今すぐ二人を東京へ帰させてもらう」
 「無理だな。ここから生きて出られないだろう」
 「はぁっ? おっちゃん、漫画の読みすぎなんじゃないの」
 「残念だが、ここは漫画ではなく現実世界だよ。そして、先程の戦いで元凶は君たちの顔を覚えたはずだ。霧生ヶ谷から出ようとしても、追いかけてくるだろうね」
 「何故俺たち狙われる必要がある」
 「君たちに何かあれば、楓ちゃんはすっ飛んでくる。それが狙いさ」
 より一層微笑みを深める魔阿羅さん。それにひきかえ、ユキと鳴兄は不機嫌さを増していくよう。ふたりは顔を見合わせ、ため息をついた。
 「そこで、だ。物の怪には君たちの持つ獲物は利かないから、こちらで提供しよう。そのかわり、君たちの見て聞いたことを私たちに教えて欲しい。当然、君たちの身の保証はするし、何か欲しい情報とかあるなら合わせて提供しよう。こちらができるものに限るが、ね」
 「ちょっとちょっと、オレたち、まだ手伝うなんてひとっことも言ってないんですけどっ」
 「往生際の悪い。雪祥君なら、ここで食い止められなかったらどうなるかぐらい、わかると思ったのだがね?」
 「んぐっ」
 「話を戻して、ひとつは既に貸してある。小結(こむすび)、出て来なさい」
 人間たちにまったく有無を言わせない、まるで空気と話しているかのように淡々としている魔阿羅さん。ぼうぜんとしていると、アタシの持っていた剣が浮かび上がり、エラソーにっ、という声を発する。目を見開いていると、赤く光った獲物から、ぽんっ、と、とてつもなく小さな女の子が出てきた。サイズはおそらく350mlの缶より小さく、髪が全身と同じぐらい長く、色は灰色っぽい色。体がふわふわと浮いている。
 「あら、魔阿羅じゃないの。なあに」
 「この間頼んだ件だよ。目の前にいる女の子を守って欲しい」
 「えー、この子ー?」
 と、ものすごく不服そうにアタシの顔を見る小さな女の子。人の顔をまじまじと見つめたあと、指でユキをさし、こっちがいいっ、と元気に反論した。
 「この子可愛い、この子がいいっ」
 「あのねぇ」
 「い・や・よ。この子がいいものっ。ねえ、君、名前は?」
 「え、オレ? オレは藜御 雪祥だよ」
 「ゆきちゃんね。よろしく、ゆきちゃんっ」
 話し終わったのと同時に、弟の小さな悲鳴が聞こえる。何と小結ちゃんが人の大きさになり、彼に抱きついたのだ。よほど気に入ったらしい。
 隣でハートがたくさん飛んでいる中、魔阿羅さんは、やれやれ、といい立ち上がる。彼は、後のことを加濡洲君に任せ部屋を出てしまう。続いて、加具那じいさんも同じように退出した。どこかでもの音がした気がするので、誰かがここに来たのかもしれない。
 「ったく。おい、小結っ」
 「いいじゃないのよ別に。この子のほうがおいしそうだものっ」
 「いっ」
 「あー、安心しろユキ。お前に何か起こりそうだったら、速攻で消してやっから」
 悲鳴とも抗議ともとれなくない弟の言葉に、加濡洲君が小結ちゃんの首根っこを持ちながら言葉を返す。双方ともいささか怒っているようだが、気にしなくてもよいだろう。
 気を取り直したように、加濡洲君が、
 「っつーことだ。オレら兄妹が全面的にバックアップする。これからよろしくな」
 「……納得いかないが、しばらく様子を見させてもらう」
 「おう、ぜひそーしてくれ。んで、あんたと楓の武器だけどよ」
 「彼は銃でいーでしょ~。問題は楓ちゃん」
 「そうねぇ。楓、あなた、何か得意な武器あるかしら」
 数メートル先で鳴兄と加濡洲君が年齢の話をしている中、伽糸粋ちゃんがアタシの戦闘スタイルを聞いてくる。しかし、喧嘩こそしているが、先ほどの戦いなんてしたことがないのでわかるわけもない。
 仕方ないので、喧嘩のときはいつも素手だったことを伝えた。
 「なら爪系でいいかしらね」
 「いいんじゃなーい。一番しっくりしそ~」
 「そうね。あたしちょっと蔵見てくるわ。加悧琳、手伝ってくれる?」
 まだぼんやり気味の加悧琳ちゃんは、ゆっくりうなずくと、少々ふん張りながら立ち上がる。そして、ふたりはそのまま部屋をでた。
 残ったアタシは、人間のふたりをため息混じりで見ながら伽糸粋ちゃんたちを待つことにした。

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