その日の夜中、もう日付が変わった頃、アタシたち、いや、私たちは家に帰ってきた。結局その後、私は爪の武器をもらって使いをの演習をし、鳴兄は銃をもらい試し撃ちさせられたのである。
ちなみにユキは、あのまま小結ちゃんにくっつかれたままだったけどね。
送ってくれた加濡洲(カヌス)君にお礼をいい、お風呂にはいってベッドへ。明日からどうなることやら、という考えを巡らせながら、眠りについた。
そして翌朝。朝日と部屋の様子は変化せずに迎えた。私はちょっと早めに起きてシャワーを浴び、弟をたたき起こして学校へ。まったく、15歳なんだから自分で起きてほしいわ。
早めに学校へとむかう途中、私は歩道にめんした水路を見た。霧生ヶ谷には水路がどこにでも走っていて、その中にはモロモロと呼ばれるドジョウが泳いでいる。あっちにもこっちにもいるので、地元の人は見慣れているらしい。しかも食用ときているのだからすごい。捕まえても警察に連れて行かれないのかしら。
そんなことを考えていると学校についた。妖怪兄弟の長兄と次男坊はまだ来ていないようだ。私は、昨日言われた通りに職員室へ。近くにいた先生に声をかけ、すぐそばの空き教室で待っているようにいわれる。教室に移動する途中、一緒に転校してきた人ならざる兄弟と合流。それぞれは、人間界にいるときは、春夏冬 翔(あきなし しょう)、春夏冬 瞬(あきなし しゅん)名乗っている。
瞬君が、
「あの後何もなかったか」
「うん。普段通りの生活」
「それはよかった~。あ、そうそう」
といって、翔君はひとつのビー玉をとりだした。すこし緑かっている、きれいなものだ。
「それでおれと通信できるからさー。何かあったら呼んでね~」
「通信? どうやってするの」
「つながるように念じればいいよー」
「わ、わかったわ。ありがとう」
「オレが渡したストラップも同じようにできるから、覚えててくれ」
いったいどういうシステムになっているのか知らないけど、いわゆる携帯の妖怪道具版と思っておこう。
8時25分のチャイムがなった。すると、ドアが開き、ひとりの男性教師とひと組の男女が入ってきた。おそらく、担任と学級委員長と副委員長とかだ。
挨拶をかわすと、鈴木先生は学級委員長の栗橋君と副委員長の野木さんを紹介してくれた。おたがい、よろしく、と話し教室へ。私たちのクラスは2-3で、珍しい時期に転校生がきたことや、同時に3人も転入してきたことで噂が持ちきりだったらしい。
ちなみに、翔君は教室にはいるとき、思いっきり頭をぶつけ、笑いの渦を生成した。個人的な感想をいうと、その背の高さがちょっとうらやましかったりする。
休み時間ごとに、双子の転校生は注目の的になった。正確には三つ子だが、この際無視である。
「全然似てねぇなあ」
「よくいわれる~」
「つうか春夏冬、どっちだっけ」
「翔だよ~」
「翔さ、お前背ぇでけーなぁ。ところでバスケ好きか?」
「えっと、瞬のほうだよな。お前、サッカー部入んねぇ?」
「んあー、考えてねぇ」
「ええー、足速そうなのに」
などなど。とにかく、男子諸君の場合、部活に入ってもらいたいよう。一方の女子諸君は、黄色い声である。
「藜御さん、だよね。最近ここに引っ越してきたの?」
「うん。つい2、3日についたばかりだから地理がわかんなくって」
「そうなんだ。でも何でこの時期に霧生ヶ谷にきたの?」
「親の都合でこっちにきたの」
「そ、そうなんだ。あ、ごめん。私、御園(みその) あかりっていうの、よろしくね」
「御園さん、ね。こちらこそよろしく。あれ、御園さんと私の苗字って、しりとりになってるね」
「そうそうっ。私もそれに気づいておかしくなってさ」
と、私のほうも、御園さんのおかげでクラスに打ち解けられそうだ。実は私、人見知りするところがあるから心配だったのよ。
そんなこんなで、4時間目の授業が終わった。クラスの人たちは、我先に教室から飛びだしていく。おそらく買出し隊だろう。
「楓、お前メシは?」
「私お弁当なのよ。ふたりは?」
「何も持ってねぇから買ってくる」
「春夏冬君、売店は1階よ。場所わかる?」
「人だかりできてるだろーからそこ目指す。翔、お前どうする」
「おれも行く~。楓ちゃん、一緒に食べようよ~。御園さん、いいよねー?」
「ええ」
「私たちここにいるね」
はいはーい、と言いながら、翔君は歩いていき、瞬君もそれに続く。私は御園さんに、ごめんね、と口にし、4人で昼食をとることにした。
そして数時間がすぎ、6時間目の終了の合図が響く。開放感あふれた教室は、これからカラオケに行こう、とか、道具を持ちながら部屋をでる人など、行動がまちまちだった。
私はというと、今日あった授業の教科書をいれて教室をでようとしていた。
御園さんと春夏冬兄弟に声をかけたあと、私は家にむかい、着いたら着替えをすましてまた外へ。私の場合、部活よりバイトをしたいから、その先を見つけようと繰りだしたのだ。
今日は、まだ行ったことのない霧生ヶ谷駅の反対出口を散策することにした。もしかしたら、よい条件のバイト先が見つかるかもしれないし。
歩いてから十数分はたったと思う。駅構内をとおり、どこを間違ったのか裏路地らしき場所へとでてしまった。おかしいな、横の階段を降りただけだったのに。
しかも悪いことに、いかにも学校サボって悪いことしてます風のにーちゃんたちと、これまたマンガにでてきそーな気の弱い丸坊主くんがいる。
ああもう、もうこのシーン飽きたんだけど、な。しかも、なんて運の悪い。目が合ってしまった。
「なんだてめぇは」
「道間違えたみたいなの。じゃあね」
「待てや、このアマ」
肩をつかまれ、体が右側にのけぞりそうになったとき、私は反射的に右足を軸に左足で蹴りをいれた。ちょうどスネの部分にあたったようで、結構もがいている。
あ、しまった。ついやってしまった。
「て、てんめぇ、ちょっとツラ貸せや」
こめかみに青筋、それに刈り上げの頭に色黒の肌。ま~なんてわかりやすい悪者ズラなのかしらね。
――仕方がねぇな。ここはひとつゴアイサツしとくか。
さらに人がこなさそうな高速道路の下に連れてこられる。不良少年は3人がかりでこちらの前に立ち、持っているものをよこせ、といった。
いわれたとおり、持っていた拳を高速でくりだし、真ん中のリーダー格と思われる刈り上げ君の背中を地につける。次にいつの間にかナイフを取りだし突っかかってくるオールバックの不良その2は、足払いをかけられコンクリートとキスをする。
髪が右半分しかない不良その3は、細身の体を回転させ、遠くへと消えていった。
私は鳴兄の「巻き込まれ体質」という言葉を思いだしながら、その辺に落ちている携帯で電話をする。連絡先はもちろん警察である。
これ以上面倒事に首を突っこみたくもないので、私とかつあげされてたのだろう彼の財布を取りあげ、その場を退散。先ほどの場所に残された少年に渡すと、早く離れるように伝える。
私はというと。そのまま何食わぬ顔で、もとの道に戻っていった。
その後、気分転換に本屋へと立ちよった。けっこう大きめな本屋さんがあり、英検とか漢検の受付もしていた。
私はバイト雑誌のある棚を探して立ち読む。とりあえず、コンビニはやったことあるから、次はウエイトレスでもやってみようかしら。キッチンに入れば料理覚えられそうだもの。
こんなことを考えながらめくっていると、突然上からしずくが落ちてきた。ここはたしか、9階建てのビルの4階。いくらなんでも水漏れはない、だろう。
だがよく見てみると、赤い水だった。少々粘り気、というか、水道の水より、どろどろしていて、したたり落ちてきている。
気がつけば、本は真っ赤な水浸しになっていた。
私が天井を見上げると、そこにはボロボロの服をまとったミイラが、逆さまになって吊るされている死体があった。な、どうして誰も気がつかないっ。
悲鳴を上げることなく速攻で本をもとの棚に戻し走りだす。先ほどの殴り合いなどより比べものにならない恐怖を取り払うように。
振り返ったビルは、オレンジ色の夕日が輝いていた。
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