シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の1)

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保健管理室。
通称「ホケカン」は名取が業務中、サボりの隠れ蓑に使っている部屋だ。ホケカンの主は昼間から湯飲みで「河童の溺れ水」を飲んでいる。言わずと知れた、九十九蔵の銘酒だ。
「そういやさ見つけたのよ」
ホケカンの主、真霧間キリコが白衣のポケットから銀色に光る鍵を取り出してみせた。
「なんです? それ」
「鍵以外に見えるのか君には」
「だからなんの鍵なんです?」
「ぬっふっふ」
あんまし、よい笑いではない。どちらかというと、悪事に巻き込もうって笑いだ。
「うちの敷地の一角にさー。どう考えても怪しい石碑があってね。『近寄るべからず。とくにキリコ:真霧間源鎧』ってあんのよ。どっふっふ」
真霧間源鎧とはキリコの祖父の名前である。キリコの性格を熟知していればそんなことを書いたら逆効果だと分かるはずだが、それでも書かずにはいられなかったのだろう。名取はまだ見ぬ源鎧氏に最敬礼した。
「で、近寄っちゃったんですね」
「そー」
なんて行動原理の分かりやすい人なのか、名取は天を仰ぐ。
「んで開けちまったわけよ、がっこんと」
キリコが言うには、石碑には小さな穴が穿っており、そこに銀の鍵がどんぴしゃりだったと。で、差して回すと石碑が後ろに倒れこんで地下通路への入り口が出来たと。
古びた石段があって、それを下っていくと次元蝦蟇が開けたような大きなホールが揺らいでいて、ちょいっと足を踏み込んだら目が回って気付くと緑濃い森のはずれに立っていたそうな。
「なんで、最初に足突っ込んだりしないでまず計器を突っ込むとかあるんじゃないですか?」
「だってさー、あたしも考えたよ。でもさ、こうマッドな血がね。ざわざわ~っと」
どうせシラフじゃなかったに決まってる。名取は断言した。
「んでさー、てけてけ歩いてったの。標識があるんだもん「エトリアまで徒歩五分」って」
「はいはい、そこが何処かも分からずにエトリアってとこに行ったわけですね」
「そーなの」
ここぞと言う時、キリコの度胸、機転で幾度助けられたことか。名取は十二分に知っている。でも何か……根本的に間違ってる気がする。
「そいでさ、酒場に行ったの。『金鹿の酒場』ってのがあってさ。店主はまぁまぁ可愛かったけど、あたしは気に入らんな。酒場の癖して酒出さないってアホかと」
まず、酒場。キリコの嗅覚恐るべしといったところか。
「で、『執政院』に行って依頼をこなして来いだの、『世界樹地図』作れだのっていちいちうるさい。
で、挙句の果てによ、一人で行ったろうって思ったら、冒険者ギルドでギルド作って来いっていうわけ」
いやな予感がしたが口にはしない。口から出たまこと?
「知らない土地で知らない人間とつるむのってさ、ご遠慮」
「で、この話の要点ってなんなんです?」
聞きたくはないが、黙っているとキリコに酒場へ連行されるのは必至だ。大抵ろくなことにはならぬので、素直に誘導尋問されてみる。こういう苦労もあるってこと知って欲しいなぁ。
「アラト君。腕の良い知り合い連れてこない?」
連れてこない? と一応の疑問系だが、一応に過ぎない。それにまず、なにをもって、「腕の良い」かすら分からない。
「そういや今日、水路掃除の日だっけ? 課長さんにぺろっとここにいること喋っちゃうかもしれんなぁ。おねーさんは」
喋られた方がマシかもと思いつつ、多少の興味も後押しし、
「何人かに声かけてみますよ」
名取はこの後に起きるあまたの災難をまだ知る由もない。


数日後。
名取とキリコとその仲間たちが真霧間屋敷に集合し、ほどなくして、エトリアの地の踏んだ。

「行きがかり上、あたしがギルドのボスね。名前は『キリコのたて』」
ぶっちゃけすぎる。名取はもはやこの流れを止めることは不可能と察知した。
「一応聞いておきますが、ヴェランドくんやテリアスさんに助っ人お願いしたら良かったんじゃ……」
「キャラがまだ分かんないの(げふげふ)」
「……(納得)」
「んじゃ自己紹介と行こうか」
キリコがメンバーを見渡す。
「アラトの従兄弟で倫太郎と言います」
従兄弟の倫太郎は常識人なのだが、他にこれという知り合いがいなかったのが、彼にとっての不幸か。
「男の子だから『ソードマン』ね」
キリコが書き記す。
「名取倫太郎くんの友人で長谷川比奈子と言います。風来の非常勤教師やってます!」
弟ラブで酒好きの比奈子さんはキリコといいコンビを組むに違いない。
「ヒナちゃんはー『レンジャー』で! ダーツとか得意っぽいよね」
比奈子さんとキリコがパーンと手を叩き合っている。
「アンジェリカと申します。アンジェーとお呼びください」
ゴシックドレスを身に纏った赤髪の少女が、キリコの膝元でかしこまっている。
「キリコさん、この娘、誰なんですか?」
「秘密」
「そういうわけにはいかないでしょう!」
「エーテリックエンジンを積んだ『霊子吸収循環体オートマター』あたしの傑作にして、妹にして友人にしてしもべ」
秘密とのことなのであまり突っ込まないが、そういう存在らしい。乞うご期待。
「アンジェーは優秀万能だから『ダークハンター』ね」
「……我輩の紹介はないのか」
ショートヘアの可愛いちんまりしたこれまた少女がキリコの袖を引っ張っている。我輩って口調、キリコから聞いたような。
「この娘はアクマロ」
「アクマロ?」
「そー。あたしのしもべにしてストラップ」
嗚呼、あの憐れなる彼か。というかなんで少女に……。
「地獄の業火も天の雷も撃てないって泣いて乞うんだもん。アクマロは『メディック』で回復でもしてなさい」
悪魔も地に落ちたら踏まれるだけ踏まれるんだなーと恐ろしく思う。というかキリコが特別なんだろうか。
「そういうキリコさんはなんなんです?」
「あたしはもちろん『アルケミスト』!」
嗚呼、この地にもマッドな悪名が轟き渡るのか……。
「そして最後にアラトくん、君に『マッパー』の称号をやろう」
「マッパーって?」
キリコがぺなぺなと紙切れを振るう。
「『世界樹地図』にマッピングする人のことよ」
思えばこれまで遊んだゲームって大抵オートマッピングだったよなぁ……名取は嘆息した。
「大丈夫大丈夫。アラトくんには『パラディン』ってかっこいい職業もやってもらうんだから」

(続く)

ギルド:キリコのたて
(一軍)
アルケミスト:キリコ
パラディン:アラト
ダークハンター:アンジェー
メディック:アクマロ
レンジャー:ヒナコ
(ベンチ)
ソードマン:リンタロウ

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