シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の3)

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タイトル:「FOE」

ねぇねぇとキリコがしつこく確認している。
なにを確認しているかというと、『シリカ商店』では生き物から剥いだり毟ったり折ったりして収穫した毛皮や牙や角なんかを買い取ってはくれるのだが、肉はそうではない。
ここで補足しておくと、キリコはこういうことは苦手ではない。解剖は得意中の得意で、きっと骨だけにした魚すら死んだことを気付かせずに水槽で泳がせられるであろう絶妙さばきテクニックを有している。が、実際にさばいているのはアンジェーだ。
「肉はいりませんよ~。不足してるのは武具や防具の材料で食料じゃないんですもん」シリカさんがくにょんと悩ましげに口唇に手をやる。健全な男子であれば殺られる仕草にドギマギするが、それはとりあえず今は関係なし。すまん。

樹海にはさまざまな、こういって差支えがなければ、モンスターと表現してもいい生物がうようよしている。霧生ヶ谷市でも見かけたことがないような連中だ。少なくとも、あの市で勤務し始めてから『二足歩行のもぐら』など一度もお目にかかったことなんぞないし。とくに見たいとも思わない。

で、キリコはというと、シリカさんに念押ししたあと、懲りずに『金鹿の飼葉桶』を大量に買い込み(その金で防具を調えたらどうかという意見はささやかに、だが速やかに却下された)、意気揚々と『キリコのたて』面々を引き連れて迷宮に突撃した。
目的は『はさみカブト』と『森ウサギ』。はさみカブトはカブトガニっぽい形態をしており、だいだい色のカニ味噌が大量に詰まっていることにキリコは気付いた。カニミソと酒はよく合う。ウサギはアンジェーに命じて炙り肉にしていた。
そうこうしながら一階層の地図が完成し、二階へ降りる許可が『執政院』から出、同時に金鹿の酒場でクエストの依頼も受けられるようになっていた。

そんなある日。
「キリコ姐さ~ん、ちょっと~」
ヒナコがキリコを呼び止める。僕が預かっている世界樹地図を覗き込んでいたのだが、不審な点に気付いたようだ。僕も気にしており、マーキングしていた。
「なに、ヒナちゃん?」
「地図の上で勝手に動き回ってる点があるんですけど、なんでしょうね」
そう、不気味な色に輝きながら光る点が地図に勝手に記載されて「動いて」いる。地図は僕が描かねば地図としての機能を有しないはずだが、ソレは勝手に現れて勝手に動いている。
「f.o.e.だよ」
キリコがこともなげに言い放つ。執政院なんかにアンジェーを連れてぶらりと通っているらしく、知識を海綿の如く習得しつつある。さすがマッドな血が年中騒いでるだけの人ではある。
「f.o.e.ってアラトくんやキリコさんが追っかけてるやつ?」
「それはFOAF。友達の友達。こっちはフィールドオブエネミー。今まで戦ってきた生き物が『潜在的脅威』だとすると、こっちは『顕在的脅威』。あからさまに敵ってやつよ。ぶっとばさないと通してやんないっていやなやつ」
「あー、ぶっとばさないといけないわけね」
ヒナコの目に剣呑なしかし楽しそうな光が宿る。嗚呼、ここにもキリコのシンパがまた一人……。
「んじゃぶっとばしますか」キリコ。
「仰せのままに、マスター」アンジェー。
「我輩、興が乗らんのだが」アクマロ。
「よ~しぶっとばすぜぃ!」僕の意見が通ろうか、否、否。

「……鹿よね」
「見た目、鹿です」
「デカイなぁ」
「我輩の主はもっと巨魁であったわ」
「どうしましょう、マスター」
赤く鳴動する「エネミーアピアランス」には『狂える角鹿』と表示されている。「狂える」と「角」に禍禍しさを感じるのは僕だけなのか。
「アラトくん、挑発!」
キリコの指示が飛ぶ。ひづめが地面を蹴り上げている。鹿の目が異様に輝く。ブォーンと鳴き声が轟く。そして……。
「アラトくん!」
誰の声が知らないが、敵意を感じる。僕はナイフを振るう。四人の人間だ。僕は赤髪の少女の腕に刃を突き立てた。
「アンジェー! 目を覚ましなさい。アラトくん! 操られているのか。まったくもうっ」
ヒナコと呼ばれる女がトリックステップという技で「我が主」の攻撃を妨げようとする。邪魔するな。僕はまたナイフを振るう。
「だから我輩は興が乗らんといったのだ」
やたらにちびっこい少女がキュアを連発する。
「このデカブツを仕留めなきゃ止まらないか。雷の術式でも喰らいなさいっ」
主の目が光る。鳴き声が轟く。
「こ、こら、ヒナちゃん。矢をこっちに向けないで! ってなに力いっぱいに弦を引き絞ってるのっ! いやー」
主の目が光る。
「アクマロー! お前悪魔なんだから対処法とか耐性とかさー。そういうのないのか~馬鹿ちんがー!」
リーダーと思われる女がキィキィヒステリーな声を上げる。
アクマロもヒナコも我が主に忠誠を誓った仲間。
ほどなくして、
アンジェーと呼ばれた少女がリーダーをかばって地に落ちた。
「こんのぉーアホ共ー! あたしがリーダーだっ!」
負け犬の遠吠えが心地好い。何故だか知らぬがとても心地好い。
ざくり。主の節くれ立ち、枝分れした雄雄しい角が僕の胸を貫いている。血の味が口内に充満し、僕は赤いソレを吐き出す。
ざくり。アクマロが宙を舞っている。角で掬い上げられたのだ。
げしげし。ヒナコが主に踏み潰されている。
なぜ……主……ある……じよ。
僕の意識は遠のいていった。

「で、結局なんだったんです?」
ここは『長鳴鶏の宿』のいつもの部屋。
死亡したが、その時の記憶だけもって、時間を死ぬ前に遡るという経験はそうするもんじゃない。おすすめもしない。
「あんのデカブツ。人の頭を混乱させる声を出せんのよ。おかげでエライ目にあった」
エライ目……なにか大変なことをしでかしたような気はするが、忘れていた方が得策かもしれない。
「いま、何があったか思い出さないでおこうとか思ったでしょうー」
鋭い。
アクマロとキリコは『タブレット』というハーフコートを買い、早速防備を固めている。ヒナコにもエナメルボウを買い与え、攻撃力の増加を狙った。
「次こそは負けないんだから」
キリコの瞳からめらめらと炎が噴出している。
もはや、彼女を止める術はなにもない。

(続く)

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